三菱UFJ銀登壇、大阪リージョン発表など「AWS Summit」基調講演
文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp
2017年06月01日 07時00分
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSJ)のプライベートイベント「AWS Summit Tokyo 2017」が5月30日、開幕した。31日の基調講演では、AWSJ社長の長崎忠雄氏が「大阪ローカルリージョン」開設予定などの新サービス発表を行ったほか、三菱東京UFJ銀行やセイコーエプソン、レコチョク、Sansanの各社代表が登壇し、先進的なAWS活用事例を披露した。本稿ではその模様をレポートする。
東京・品川のグランドプリンスホテル新高輪をメイン会場として開催されている同イベントでは、4日間(5月30日~6月2日)にわたって100名以上のゲストスピーカーを招き、150以上のブレイクアウトセッションが提供される。基調講演の中で長崎氏は、今回の参加登録者数は2万人を超え、世界の主要都市で開催されるAWS Summitの中でも最大規模になったことを報告している。
国内新発表:「Amazon Lightsail」東京リージョンで提供開始、月額5ドルから
初めに、31日の基調講演で長崎氏が発表した新たなサービス等についてまとめておこう。
AWSのエントリーユーザー向けに、VPS(Virtual Private Server、仮想専用サーバー)を簡単な操作で構築/利用できる「Amazon Lightsail VPS」が、同日から東京リージョンでも提供されるようになった。Lightsail VPSは、昨年11月の「re:Invent」で発表され、米国などのリージョンではすでに提供を開始していた。東京リージョンにおいても、利用料金プランは他リージョンと同じ「月額5ドルから」の設定となっている。
長崎氏は、Lightsail VPSはわずか「3ステップ」でVPSを立ち上げることができ、利用料金も「データ転送料込み」の固定額となっていることを説明。これまで、スモールスタートする際にネックとなっていた「使い方の習得」や「環境設定の手間」「利用開始後のコスト予想が難しい」といった課題を解消できるサービスだと述べた。
また、国内データセンターでのDR(災害復旧)対策を求める顧客向けに、2018年に「大阪ローカルリージョン」を新設する予定であることが発表された。詳細は後日追加発表される見込みだが、長崎氏は、この大阪ローカルリージョンは「特定の顧客に利用を限定して」提供する予定だと述べている。
同日のAWSブログ発表によると、大阪に新設されるのは、東京など他のリージョンと同等のものではない「ローカルリージョン」とされている。具体的には「耐障害性の高い単一のデータセンター」であり、あくまでも東京リージョン利用時の災害対策サイト(DRサイト)としての補完的な位置付けになる。つまり、大阪ローカルリージョンは、(少なくとも開設当初は)他リージョンのように複数のアベイラビリティゾーン(AZ)で構成されるものではなく、原則として東京リージョンを利用中の顧客だけが利用できる“オプションサービス”的なものになると推測される。
そのほかにも長崎氏は、国内企業顧客のビジネス利用をより円滑にするための取り組みを進めてきたことを紹介した。すでに発表済みだが、準拠法に日本法を選択できるオプション、日本円での請求書支払いへの対応といった国内企業向けサービスがある。また、AWSサービスコンソールの日本語化については、「まだ残っている部分もあるが、今年6月末までに100%完了させる予定」だと述べた。
三菱UFJ FG:AWSで5システムが本番稼働、さらに100以上が検討/開発中
同日の基調講演では、三菱東京UFJ銀行、セイコーエプソン、レコチョク、Sansanの4社代表が登壇し、各社におけるAWSの活用事例を紹介した。
三菱東京UFJ銀行 専務取締役の村林聡氏は、デジタルトランスフォーメーション、オープンイノベーション推進のために三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)として構築/活用している「MUFGクラウド」の中で、AWSのクラウドサービスをどのように利用しているかを説明した。
MUFGでは、ICTを活用したデジタルトランスフォーメーションを推進すべく、社外のさまざまな主体とのコラボレーションを実践していくオープンイノベーションを推進している。具体的な取り組みの領域としては、フィンテックスタートアップなどとの協業を可能にする「オープンAPI」、新決済システムの構築や海外送金の効率化などを目指す「ブロックチェーン」、顧客利便性の劇的な向上と業務効率化を目標とする「AI(Deep Learning)」などがある。加えて、スタートアップ/ベンチャーへのアクセラレータープログラム提供や、協業も推進してきた。
「こういうサービスをいち早く提供するためには、AWSのようなクラウドが必須であることは言うまでもない。そのため、われわれも積極的にクラウドサービスを活用するようになったのだが、クラウドはかなり(のスピードで)進化してきている。そこで、さらに既存の事業や既存のシステムについても、コスト削減やスピードアップという観点からAWSクラウドを使うことにした」(村林氏)
現在では、AWSをMUFGクラウドのコアプラットフォームのひとつと位置付け、AWSの基本サービスをMUFGクラウドのサービスカタログにラインアップし、業務アプリケーションにおける活用を進めているという。
村林氏によると、MUFGクラウドでは現在のところ、EC2やS3、RDS、ELB、VPC、Lambdaなど、10以上のAWSサービスをラインアップしており、実際にこれらを利用して本番稼働しているシステムが5つ、さらに現在開発中または検討中のシステムは「100以上」に及ぶという。そしてこのクラウドサービスは、基盤(インフラ)エンジニアだけでなく、アプリケーション開発者やユーザー部門にも開放していくべく、人材育成も進めている。
「われわれもまだまだクラウド活用を始めたばかり」と語る村林氏は、今後もさらに提供するサービス、スキル要員、クラウド移行対象システムの拡大を図り、MUFGクラウドを「自律的なインフラサービス」に進化させていきたいと語った。
「わたしは10数年前、オープンソースソフトウェアを推進する際に『みんなで使って良くしていきましょう』と呼びかけたことがある。AWSは“IT業界のシェアリングエコノミー”だと思っているので、AWSについてもみんなで、AWSとユーザー全員で進化させていけたらと考える」(村林氏)
レコチョク:AWSへの全面移行、Oracle RACはAuroraに置き換え可能か?
レコチョク 執行役員 CTOの稲荷幹夫氏は、同社が2014年から取り組んできた「オンプレミスからAWSへのシステム全面移行」において、特に懸念されていたという「データベースの移行」について紹介した。
同社では「レコチョク」や「dヒッツ」などのスマートフォン向け音楽配信サービスを提供しているが、オンプレミス時代には、それらの会員システムや決済システムなど高トラフィックなシステムのデータベースには「Oracle RAC」を、その他のデータベースにはPostgreSQLを採用していた。
「(AWSへ移行するには)これを何とかしなければいけないと、データベースについては慎重に検討していた。そこに登場したのがAWSのAurora。当時(のAurora)はMySQLしか動いていなかったので、全面的にMySQLを採用すると決めて移行を行った」(稲荷氏)
Auroraへの移行においては「オペレーション」と「可用性」の2つが懸念点だったという。オンプレミス時代には、細かなSQLチューニングやスキーマ変更でデータベース処理の最適化を図ってきたが、このオペレーションをどうするか。また、Auroraの可用性についても、利用する前は「本当に止まらないのか」という不安があったという。
そのため、オペレーションに関しては、数名のDBA(データベース管理者)を開発チームにマージしてDevOpsの体制を敷き、開発段階からチーム内でデータベースのチューニングができるようにした。一方で、可用性の懸念については「実際にやってみないとわからない」という結論に達した。
結果、データベース運用にかかる工数、ライセンスコスト、パフォーマンス障害のいずれも「ほぼなくなった」になったという。「(Auroraへの移行は)非常にメリットがあった」(稲荷氏)。
セイコーエプソン:「モノづくり」企業がサーバーレスに取り組む理由
セイコーエプソン IT推進本部 本部長の熊倉一徳氏は、現在取り組んでいるサーバーレスアーキテクチャでのアプリケーション開発について紹介した。
熊倉氏は、セイコーエプソンは1942年、時計という精密製品の「モノづくり」からスタートした会社であり、「今後もモノづくりの会社であり続ける」という確固たるビジョンを持っていると語る。ただしこれからの時代、製品を通じて顧客に驚きや感動を提供するためには、モノづくりに「サイバー空間との連携」という要素も必要になると考えており、2025年に向けた長期ビジョンにおいても、ICTやクラウドが必須の存在であることを明記している。
こうしたビジョンのもと、まず2013年度からは、既存システムのクラウド移行に取り組んで来た。当初は、クラウドに対して経営層や社内スタッフからの理解を得ることすら非常に困難だったが、IT推進本部として「信念をもって」(熊倉氏)クラウドファーストの取り組みを推し進めたという。
その結果、「データセンター/サーバー費用の20%削減」や「サーバー環境構築期間の1週間以内への短縮」といった当初目標が達成できた。熊倉氏は、こうした成果を出せたことで、「今では社内にも当たり前のようにクラウドが受け入れられるようになった」と語る。
ただし、これまでの取り組みは、あくまでも従来のデザインパターンを踏襲したままデータセンター/サーバーをAWS上に移すというものだった。そのため「お客様への新しい製品/サービスの提供や、ビジネスのスピードアップにはつながっていない」(熊倉氏)という課題がある。
これまでの「ITトランスフォーメーション」から、次の段階である「デジタルイノベーション」へと歩を進めるため、セイコーエプソンでは、AWS Lambdaを主軸に据えたマイクロサービスアーキテクチャの採用に取り組んでいる。ここではオープンAPIを通じたパートナーとのコラボレーション、マシンラーニング活用といった新たな要素も取り込んでいる。
「お客様へのアプリケーション提供のスピードを上げていくためには、これまでのように『全部を作る』ことにこだわらず、使えるサービスは積極的に利用していくべき。そうして『エプソンとしての(独自性のある)価値』を高めることに専念しようと考えている」(熊倉氏)
Sansan:名刺管理アプリ「Eight」のグローバル展開に
Sansan Co-founder Eight事業部 事業部長の塩見賢治氏は、個人向け名刺管理アプリ「Eight」のバックエンドとして採用しているAWSサービス群と、今後の展開について語った。
Eightは、出会った相手の名刺データを取り込み、それを軸としてビジネスパーソン同士をつなぐビジネスプラットフォームである。単に名刺情報を管理するだけでなく、人事情報の変化通知、関連する企業ニュース、メッセージ機能なども備える。
「現在は150万のユーザーがおり、年間で1億枚の名刺が追加される。これは、日本国内で行われる名刺交換の10%に相当する」(塩見氏)
SansanがEightをリリースしたのは2012年のことだが、実はリリースの2カ月前までは、AWSではなく別のクラウドサービスをバックエンドインフラとして利用していたという。
「Eightのリリース直前になって、AWSの東京リージョンが出来た。プロジェクトマネージャーとして非常に悩んだが、AWSがとても優れたサービスであることも理解していた。リリース2カ月前にAWSに切り替え、Eightをスタートした」(塩見氏)
塩見氏は、このときに「非常に良い判断をした、AWSに切り替えておいて本当に良かった」と語る。AWS採用のメリットは多数あるが、あえて3つを挙げるならば「セキュリティ」「可用性」「拡張性」だという。
「名刺データを扱うため、セキュリティ要件は非常に厳しい。AWSならば、その要件をクリアできるシステム構成を作ることができる。また、Eightのサービスを開始して5年が経つが、AWSの障害による大規模なサービス停止は一度もない。さらに、ゼロからスタートして150万ユーザーまで拡大してきたが、その間にシステムの入れ替えは一度も発生していない。インスタンスを増強するだけで、シームレスにスケールアップしてきた」(塩見氏)
加えて、Eightの機能強化は、AWSの新サービス追加に支えられてきたという。たとえば最近では、名刺交換した相手(企業)に関係のありそうなニュースを表示するレコメンデーション機能を、Lambdaを利用して構築したという。
「Eightのバックエンドは、ほとんどAWSのサービスを利用して構築されている。30サービス以上を使っており、AWSのサービスなしには、Eightは今のようにはなっていなかったと言っても過言ではない」(塩見氏)
そのほかに法人向けSansanサービスの一部、Eightのデータ入力システム、同社研究開発部門でも、AWSを活用していると、塩見氏は説明した。
Eightでは今年、海外市場への展開を図っていく計画だという。そのうえで、グローバルにクラウド基盤を持つAWSの存在は「パートナーとして心強い」と述べ、夢の実現に向けて今後もAWSを活用していきたいと締めくくった。
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