亡き父に成功を誓う山本武白志がクリケットのプロ目指してオーストラリアへ

スポーツ報知
クリケットのプロリーグがあるオーストラリアに向けて出発した山本武白志

 クリケット選手としてプロを目指す、元DeNAの山本武白志(21)が26日、同競技のプロリーグがあるオーストラリアに向けて成田から離日した。

 プロ野球DeNAで育成選手として3年プレーしたが18年限りで戦力外になった山本。今年5月にクリケット選手への転向を表明し、これまで「佐野クリケットクラブ」に所属してプレーしていた。

 「もともと、本場でやった方がチャンスがあると思ってたんで」。

 この言葉通り、オーストラリアにはチャンスををつかみに行く。現時点で何の保証も、ない。決まっているのは、知り合いの紹介でブリスベンを拠点とするクラブチームに入ることだけだ。

 「ワーキングホリデー(ワーホリ)」制度でビザを取得して旅立っていくという。とりあえずそれで1年間は滞在可能となるが、その先は何も確定していない。

 「でも日本には戻ってくるつもりはありません」と頑なだ。滞在延長に関するワーホリ制度の条件も調べており「農場で働くことで延ばせることもできそうなので」と、今後現地で働く農場探しも視野に入れている。

 5月から本格的に始めたクリケット。プレーによる収入はゼロでやってきた。所属するチームの本拠地である栃木・佐野に居を移し、近所のラーメン店で週6日、接客や掃除などを担当するアルバイトをしながら生計を立ててきた。オーストラリアでも生活スタイルは当面、変わらない。クラブチームでの競技では無収入のため、バイト生活は続く。

 出発前に、亡き父の偉大さを改めて感じた。目にしたのは、今季限りで現役引退するロッテ・福浦和也選手(43)の記事。福浦が、元ロッテ監督で3年前に他界した父・功児氏のことを「恩師」として語っていた。「福浦さんは節目節目でいつも父の名前を出してくれる。息子として、本当にうれしいんです」。

 まだ就学前だった武白志少年は、山本ロッテの試合を球場に観戦に訪れていたこともあった。福浦についてもさぞ記憶があると思いきや「僕、球場で会った着ぐるみのマスコットにビックリして気絶してましたから。はっきり言って、父親が監督時代のロッテのことはあまり覚えてないです。幼少の頃の影響で、いまだに着ぐるみは苦手ですし」。

 そんなことを聞くと、なんだか頼りない。さらに「英語も相手が言っていることはわかるようにはなってきましたが…」とのこと。先行きの不安は否めない。だが、母である美砂子さんは空港の出発ゲートに進んでいった息子の姿に、目を細めていた。

 「功児さんは大好きだったハワイに移住したいと言っていたけど、行動力がなかったですからね。息子が海外を拠点に動いたことに天国から『武白志、よくやった。まだまだこれから。好きなことを楽しんでやっていけ』と満面の笑みで喜んでいると思います」。

 プロ選手になれば年俸数十億も夢ではないクリケットの世界。次に帰ってくる時は、成功の報告を父の墓前でする時―。武白志が旅立った。(記者コラム・柳田 寧子)

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