「いいね」実装までの道のりや今後のアップデートに関してなど――小島監督が発売直後の『DEATH STRANDING』について語る
「繋がろう、繋がろうとゲームでは言っているが、実際に会うのがいちばん良い」
『DEATH STRANDING』World Strand Tour 2019 TOKYOでファンと繋がった小島秀夫監督は、イベント後にメディアの前で取材に応じて、イベントの感想やギネス世界記録認定の喜びを語り、発売されたばかりの『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』についての質問にも答えた。
――TwitterとInstagramのフォロワー数でギネス世界記録に認定されての感想は? これからどのようなことをSNSで発信したり、繋がりを深めていったりしたいと考えていますか?
正直うれしいです。以前にステルスのでももらったんですけど(「ステルス要素を完全に取り入れた最初のビデオゲーム」でギネス世界記録認定)、実感というかそんなにフォロワー数が多い方ではないのでうれしい。SNSは諸刃の剣で、繋がることは悪くはない。世界中が繋がるので。僕の場合は、本を読んだり、映画を見たりたりしてつぶやくと、間に僕のファンがいてどんどん拡散してくれて、最終的には作家や監督に届くんです。そしてDMで友達になる。そういう繋がりが可能になっている。SNSの本来持っているパワーはポジティブなので、使い方を考えなくてはいけない。今回、ギネス世界記録をいただけたので、繋がりという良さを世に拡散していただきたい。結構疲れてきたんでしんどいなあと思っていたんですが、もうちょっとがんばります。
――ワールドツアー中にゲームが発売されました。プレイされている声が届いていると思いますが、その感想は?
間接的に繋がるというコンセプトのゲーム。そう遊んでほしかったし、個人的にも世界は繋がっているのに、ヘッドショットばかりしている。それはそれで楽しいけれど良いのかという問いかけをした。緩い繋がりが良いという人がいてちょっとびっくりしました。日本の方は繋がることに興味を持っていますね。
――日本と世界とでは受け止め方が違う?
やっぱり、個の時代ですから、個人が自由に動いて、ゲームがその象徴でもありますけど、俺がいちばん強いという、そういうのとは真逆の行為をしているので、国によって印象は違うと思います。
――久しぶりの発売後のファンとのイベント。感想は。
小島監督 4年ぶりの新作で、ワールドツアーは10年ぶり。繋がろう、繋がろうとゲームでは言っているが、実際に会うのがいちばん良い。直接フォトセッションとかサイン会をすると、接触して握手してお互いの気持ちを交換する。しばらくやっていなかったことで、すごく良いなと思った。初めて会う人ばかりで言葉も違うが、握手をして体温を感じる。本来人間はそういうものが必要だ。ネットを通じても良いけれど、直接会って話をするのが良い。今回10年ぶりだったが非常に良かった。
――ノーマン・リーダスやレア・セドゥら映画界で活躍するキャストが多く出演している。小島監督は映画とゲームの垣根についてどのように考えているか?
ゲームはインタラクティブで映画とは180度違うものだった。フィルムとデジタルでもあった。今は両方がデジタルになり、将来はストリームという同じ場所で始まるようになる。映画は映画館が残るし今のゲームも残るが、間がなくなる。どちらでもないデジタルのエンターテインメントが出てくると思う。映画もゲームも途中までプロセスが一緒だ。世界観を作ったりパフォーマンスキャプチャーを行ったりして、最終出力はゲームがインタラクティブとなるだけ。同じテクノロジーを使っている。同じクリエイターやキャストがストリームの中に当然入ってくる。垣根がなくなって、すごく広い大地で繋がるというか、そういう風になる。だから僕は、映画とゲームの橋渡しをする。そういうことをしなくてはいけない世代なのでやっている。あと5年10年するとそういう議論もなくなるだろう。
――『DEATH STRANDING』をプレイすると新しいゲーム体験だと感じました。開発中も新しいことにトライしたのか? 監督にとってチャレンジだったことは何か?
いろいろな要素で、何百というメカニズムでバランスを取りながらできているのがゲーム。ステルスのときもそうだったが、新しいものは形がないとわからない。言葉で説明したり絵を描いてみたりしても、僕の頭の中を見せるわけにはいかない。最初はスタッフがわからない。そこが大変で、とにかく信じてくださいと作りだした。ある程度まで来るとわかってくれる。ひとつ挙げれば「いいね」があるじゃないですか。ポジティブはあるがネガティブはない。何でないんですかと言われた。あと、お金にならないということに同意してもらえなかった。アイテムとかにもならない。ゲームは自分の有利にならないとそういうことはしないとスタッフに言われた。それをやると普通のゲームじゃないかと言った。ポジティブは無償の愛、それをやりましょうと言って、話半分で作り出して、1年半くらいたってようやく行けるぞとなりました。
――ゲームをプレイしていて、エジプトの死生観が出てきた。エジプトを例にしたのは?
エジプトだけではない。東洋と西洋の死生観は違う。エジプトもそう。全世界の人に対応しているため、あらゆる死生観を入れるようにしている。そもそも生命が生まれて進化していって、ある時点で死を確認し宗教とか生まれる。死んだ者が帰ってくるためにピラミッドを作る。生と死という概念が生まれたのが、人類の起こりだと思っているので、そこの部分にフォーカスを当てている。そういう要素を入れています。インカ帝国のことも。それを知りたい人だけに知られるアーカイブに入れています。ヒッグスのコスチュームもそうだが、わかる人にはわかる構造にはなっている。
――月面に関して取り上げられている。トレーラーでも月が印象的なセリフとして使われている。月が関係あるのか?
僕は不可能の7割は可能と思っている。絶対不可能なことはあって、人類は空を飛べないが、飛行機で空を飛べる。人生でできないことはあって、それを諦めると評価はされない。超えるためにどうするか? まともに超えなくても良い。壁があっても横から行ければ良い。これがゲームデザインです。子どものときに宇宙飛行士に憧れていて、50年前にアメリカ人が3人、9日間で月に生きたまま帰ってきた。50年前に人類は月に言って帰ってきた。それを考えたら何でもできるような気がする。クリフのセリフも人類は月に行けたというセリフもそういう意味です。
――ゲームをプレイして、オープンワールド的だがナラティブでもある。広げれば広がりすぎる。自分の物語にするにはナラティブにしなくてはいけない。そこの案配で苦労したのか?
ゲームとストーリーテリングはすごく相性が良くない。マルチエンディングというものがあって、好きだがあれはストーリーではない。ストーリーは1本の運命があって、がんばっても彼氏と彼女が別れるのがストーリー。ゲームでは、右へ行くと別れないというのがあるが、僕のゲームではああいうのはない。1本のストーリーが進んでいくことになる。『DEATH STRANDING』はオープンワールドなので自由度がないと意味がないが、AからB、BからCに繋いでいく。そのルートは自由だが、AからB、BからCという時間があるからストーリーが流れる。そのときに山を行っても良いし川を渡っても良い。そこがオープンワールドの醍醐味。すごいストーリーテリングではないです。
――人を殺すゲームはたくさんあるが『DEATH STRANDING』で人を殺すことにペナルティがある。これはなぜ?
人間は猿のときに4本足だった。直立歩行から自由になり、棒を持った。これが最初の武器。道具。嫌なものを遠ざける。そして縄を発明して好きなものをつなぎ止める。この2つで今の世界がある。握手すると縄。握るとグーになりパンチすると棒になる。両面を持っている。これが人間の持って生まれた宿命だ。どう使うかを僕らは任されている。縄をテーマにしたいとき、棒も使えるが、殺傷をポジティブにするとゲーム性としては……。物語のテーマもそうなので。
――BTが出てくるところで、途中からか最初からか、赤ん坊のBTがいた。あれは違いがあるのか?
違いというか、結構強いです。BTにも本当はいろいろなバリエーションを作りたかったが、今の形になった。赤ちゃんのまま死んだ人もいるから、BBとの対比という意味もありメタファーとして入れている。
――ゲームをクリア後、任務を続けたりほかのプレイヤーと繋がりたい人に向けたアップデートはあったりするのか?
今のところ予定はない。終わると、ストーリーは一応終わるが配達任務はずっと続く。プレッパーも隠れているし、全部のミッションも残っているものがある。プレイヤーどうしのミッションもある。ストーリーはなくなっても結構遊べるようになっています。