三菱重工業株式会社 原動機事業本部会社
Google Map で、情報へのリーチが 1/10 にスピードアップ。 地図を利用した社内システムが業務の精緻化に大きく貢献。
「この星に、たしかな未来を。Our Technologies, Your Tomorrow」をステートメントに掲げ、主に社会インフラにかかわる多彩な分野の製品を手がける三菱重工。宇宙ロケットやロボットなど、最先端の技術力 を要する分野を切り拓き続ける、日本の製造業の代表的存在である。同社の原動機事業本部プラント事業部プロジェクト管理部は、2008 年 7 月に、Google Map API Premier を活用したプロジェクト管理ポータル画面「ウルトラマップ」を社内リリースした。リリース時はテストを兼ねて 100 ユーザーでスタート、1 年後には社内の主要な関係者に行き渡る 650 ユーザーまで拡大。今後は、さらに対象層を広げる考えもあるという。
パソコンに不慣れな人でも直感的に操作できる
原動機事業本部は、主に火力、太陽光、風力といった発電プラントの設計・製造から据付・運転までを手がける。世界トップレベルの発電効率とCO2を削減する技術力が評価され、その施工実績は全世界に及ぶ。原動機事業本部の火力プラントの EPC(設計 計画、調達、物流、建設)を統括管理するのがプラント事業部であり、その傘下であるプロジェクト管理部は、主に受注額 100 億円以上の大型プロジェクトを管理する本社組織。「ウルトラマップ」は、同部の担当者やプラント事業部の幹部などが進行中の各プロジェクトのスケジュールや予算などの把握・管理や過去のプロジェクトの実績データの参照をスムーズに行うために開発された。
画面中央には、Google Map API Premier を利用し、世界地図が表示され、建設中のプロジェクト所在地には旗が立てられている。その旗をクリックすれば、当該プロジェクトの管理画面に素早くたどり着けるしくみ。「パソコンに不慣れな人でも、直感的に操作することができます。ポータル画面から個別の管理画面までたどり着くのに 5 クリック、10 秒もかからないでしょう。以前に比べて、感覚値ではありますが、10 分の 1 くらいにスピードアップできていると思います。また、逆にそれだけ早く探せるから、利用率も大いに高まると見ています」と、プロジェクト管理部主席技師の西嶋晴雄氏は言う。そんな「ウルトラマップ」開発の経緯や背景は、次のとおりである。
3 事業所の一体化が大きな課題に
原動機事業本部プラント事業部は、本社機能を横浜の本社ビルに置き、本社が中心となって受注活動を行っている。受注したプロジェクトの EPC(設計 計画、調達、物流、建設)の実行は、プラントの種類や規模によって長崎造船所(長崎県)、高砂製作所(兵庫県)、横浜製作所(神奈川県)の 3 事業所に振り分けられる。三菱重工は、歴史的に各事業所の独立精神や発言力が強く、事業所間の人材や情報、技術などの交流はあまり顧みられてはこなかった。しかし、世界では新興工業国家が躍進し、今後も発電プラントの需要は驚異的に伸びると目されている。「いつまでもそういった事業所ごとの仕事のやり方を継続していては社としての総合力を発揮できないという経営判断により、2008 年 12 月に大きな組織改編があり、3 事業所(3 地区)の EPC 関連部門の一体化が図られることになったのです。3 地区の EPC 関連部門が一体化することで、品質や業務効率などのレベルを強化し、競争力を高めようというねらいがあります」
組織改編の 8 ヶ月前の 2008 年 4 月に、3 事業所が手がける複数のプロジェクトに横串を刺し、業務の統一化や情報共有をとりまとめる役割を担うプロジェクト管理部が新設された。同部には、各事業所でプロジェクトの設計・計画、物流、建設、管理等を担当していた人材が集結。西嶋氏は長崎造船所から異動した。
「どこに何があるのかよくわからない」システムの改善
それまで、プロジェクト管理ツールは各事業所においてまちまちの状態。長崎はグループウェア、高砂はイントラネットを利用した管理システムがつくられていた(横浜は準備中)。それら管理システムでは、プロジェクトの体制表(担当者名や連絡先)、契約文書、リスク管理文書、スケジュールおよびコスト管理ツール、設計図面の情報などがアップされている。同部が新設された段階では、個別のプロジェクトの状況を確認する際には、当該プロジェクトを担当する事業所から来た部内メンバーに、管理ツールの“在り処”を尋ねてまわるという状況であった。つまり、同じ社内の人であっても、違う事業所の担当するプロジェクトに関する情報は「どこに何があるのかよくわからない」状態であったのである。
一方、「フルターンキー」契約(設計、製作、調達、物流、建設、据付、運転指導、保証責任までの作業一式を請け負う契約)のプロジェクトについてだけは、3 事業所を集約した管理システムが別に存在していた。「 8 年前にいくつかのプロジェクト管理の必要に迫られて急ごしらえしたもの。プルダウン方式でプロジェクト名を選択する方法でしたが、プロジェクトが増えるとともに探し難くなった上に、違うプロジェクトの画面を見るためには手数の多い遷移を辿らなければならず、極めて使いづらいものとなっていました」
プロジェクト管理担当者にとっては、個別の管理ツールのチェックや入力・更新などの作業を行う上で個別の画面にスムーズに移行できる必要性がある。一方、上層部は「スケジュール」や「収益」といった集約された情報が掴めればよいが、何か問題があった場合は個別の管理ツールまで分け入る必要性が生じる。「パソコンの扱いに慣れている世代ならまだしも、上層部には『いちいち操作方法を聞いて調べるのはややこしくて大変』と不評で、改善を要望されました」
Google Map API Premierはコスト、パフォーマンスともベスト
そこで、西嶋氏は原動機事業本部の情報インフラの構築管理を担う業務プロセス開発部主席技師の小島真理子氏と、その SIer として同部に詰めている(株)菱友システムズ神奈川支社 IT サービス一 G 主事の野田徹雄氏に相談を持ちかけた。野田氏は、それ以前からユーザーが使いやすいインターフェースを研究していたこともあり、すぐに「ウルトラマップ」の原案となる画面イメージを作成。西嶋氏の了解を得ると、小島氏とともに画面づくりのツール選定に取り掛かった。「既存の管理システムのメニュー画面は、クリッカブルマップを用いて地図上に各プロジェクト画面へのリンクを張るというものでした。地図を使うというアイデアは悪くないものの、プロジェクトの増減ごとのメンテナンスが大変な上に、違う部門の人がそれを閲覧するには面倒な手続きが必要で、それがネックになると、採用は見送ることにしました」と小島氏。そこで、小島氏と野田氏は、当時あるベンダーから発表された製品とともに、Google Map API Premier を検討。「海外からもアクセスするので、スピードなどのパフォーマンスの良さを重視していました。操作性やコストなどを比較検討しましたが、もう1つの製品は反応スピードが遅い上に料金が Google Map API Premier の倍。迷うことなく Google Map API Premier の採用を決めました」と野田氏は言う。
初めて使った全員が驚きの声を挙げる
「ウルトラマップ」は、たちどころにプロジェクトの建設現場を地図や航空写真で見ることもできる。「例えば、現場は港からどんなルートを通って行くのか、どんな環境かをある程度把握できることにより、輸送はどうするか、現場に派遣される社員の生活施設はどうすればいいかといった検討の参考にでき、それを見積もりなどに生かすことができます。もちろん、営業担当などからの文書ベースの情報はありますが、航空写真や地図があるとないでは理解度に大きな違いが生じますね」と西嶋氏は Google Map の効用を語る。「『ウルトラマップ』を初めて使ったほぼ全員が、この写真を見て驚きの声を上げます(笑)。プロジェクト管理部の他のメンバーから『こんな遊び心のあるシステムをつくってほしい』と要望されるようになりました」と小島氏は笑う。「各プロジェクトの情報が更新されないと、画面上に赤や黄色の信号を点灯させるなどの追加の工夫をしています。今後の目標は、プロジェクト管理部の壁面に大型のプロジェクターを設置して全員が常にプロジェクトの状況をウォッチできるようにすることです」と野田氏は締め括った。
