PART 4 (No.61〜80) |
No | ベ ス ト 作 品 | ご 参 考 |
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「赤ひげ」 ('65) 東宝=黒澤プロ/監督:黒澤 明 リアルタイムで見た2本目の黒澤映画である。山本周五郎の原作を元に、一人の若い医学生(加山雄三)が、自分の不始末の結果送り込まれた養生所の中でさまざまな体験をし、所長の赤ひげから、医者はどうあるべきかを教えられ、やがて自ら養生所に残る事を決意するまでを描く。 |
小林さんのベスト100: (80)「クレージーの大冒険」 ('65 監督:古沢憲吾) *小林さんも推奨の「クレージーの大冒険」は、植木等がJ・P・ベルモンドばりに(企画としては「リオの男」日本版を狙ったそうだ(笑))大活躍する冒険活劇映画。円谷英二の特撮もフルに使われている。ラストでは生きていた(!)ヒットラーまで登場する。後半植木がナチスの潜水艦にしがみ付き、敵基地に潜入するシーンは、ひょっとしてスピルバーグが「レイダース・失われた聖櫃」でパクッたのではないか(笑)。 *市川崑監督「東京オリンピック」(65)も素晴らしい。オリンピック記録映画が初めて芸術となったと評判になった。 *加山雄三が大ブレイク。「エレキの若大将」(岩内克巳監督)は当時のエレキブームの凄さを物語る。ベンチャーズに夢中になっていた私は加山のエレキ・テクニックにシビれ、今でもこの作品は時々ビデオで再見してはウルウルしてしまう(笑)。大ヒット曲「君といつまでも」が登場するのもこの作品。 *山田洋次監督の珍しい松本清張ミステリー「霧の旗」も捨て難い味の佳作。兄の復讐に燃える倍賞千恵子が熱演。滝沢修、新珠三千代が共演。 *市川雷蔵主演、三隅研次監督の「剣鬼」もなかなか見応えがあった。主人公が、丹精込めた谷間に咲く花に埋もれて死ぬラストが忘れ難い。
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「明治侠客伝・三代目襲名」 ('65) 東映/監督:加藤 泰 東映任侠映画の秀作である。キネマ旬報が昭和46年に発刊した増刊号「任侠映画傑作選」の中で発表された、映画評論家による「任侠映画ベストテン」でも第1位になった(ちなみに2位以下は「次郎長三国志」(マキノ)「沓掛時次郎・遊侠一匹」「博奕打ち・総長賭博」「関の弥太ッペ」(山下耕作)とすべて納得)。 |
*山本周五郎原作「冷飯とおさんとちゃん」(田坂具隆監督)も好きな作品。3つのエピソードから成るオムニバス時代劇。すべての作品に主演する中村錦之助がいい。3話の中では最後の「ちゃん」が一番好きですね。
*鈴木清順監督の、田村泰次郎原作「春婦伝」(65)も見応えがあった。川地民夫の三上上等兵と野川由美子の慰安婦・春美との悲しい愛を描く。かつて谷口千吉監督により「暁の脱走」として映画化された作品のリメイク。こちらの方は強烈な映像美とエロティシズムが配された清順らしい力作になっている。 |
63 |
「刺青一代」 ('65) 日活/監督:鈴木 清順 こちらも、鈴木清順監督の任侠映画の傑作。特にラスト近く、それまでオーソドックスに進んで来た物語が、主人公白狐の鉄(高橋英樹)の弟(花ノ本寿)が斬られた瞬間から突然画面が真っ赤に染まり、歌舞伎風のめくるめく異次元空間が広がり、絢爛たる色彩とアクションが炸裂する名場面はこの映画最大の見もの。オールナイトでは歓声と大拍手が巻き起こったものである(私は勝手に“任侠映画版「2001年宇宙の旅」”と呼んでいる(笑))。 |
*熊井啓監督の2作目「日本列島」(65)も、この人らしい戦後日本の黒い霧を追求した問題作。芦川いずみがいい。この映画で陰謀の鍵を握る不気味な男を演じた大滝秀治が強烈な印象を残した。 |
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「股旅/三人やくざ」 ('65) 東映/監督:沢島 忠 東映時代劇全盛期に、快テンポのミュージカル・タッチの時代劇の秀作を連打していた沢島忠も、任侠映画「人生劇場・飛車角」(63)を作らされた辺りからやや精彩を失い、この頃にはあまり印象に残る作品を作っていない。しかし、東映時代劇の黄昏期に登場したこの作品は、その黄金期を支えた沢島忠監督の、最後の輝き(と言っては失礼か)を見せた秀作である。 |
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「大魔神」 ('66) 大映/監督:安田 公義 珍しい大映特撮時代劇の秀作。ゴーレム伝説や日本の民話から題材を得て、日本映画界でも最高水準を誇る大映時代劇技術スタッフの力量が最良の形で発揮された、見応えのある作品である。大魔神が登場するのはラストの20分程度であるが、そこに持って行くストーリーがしっかりと作られているからこそ、クライマックスが生きる…のは前掲の「刺青一代」と同じである。当時の最新技術、ブルー・バッキング合成が見事に生かされ、名手内藤昭が担当した美術との違和感がまったくない。なぎ倒される建築物は大魔神の身長(人間の2.5倍とそれほど大きくない)に合わせてすべて実物の2.5分の1に縮小され、瓦も一枚一枚焼いたそうである。またカメラの位置も人間から見た視線という事で、ぐっとローアングルにしてある。これによって、東宝怪獣映画よりもずっと迫真性がある見事な絵になっている(この人間の目線は、後年金子修介が「ガメラ」シリーズで採用し評判になったが、原点はこの「大魔神」である)。当時東宝の怪獣映画ばかり追いかけていた私は、この作品を観て目からウロコ…の思いであった。伝統的な時代劇の面白さと、SF特撮映画のセンス・オブ・ワンダー世界とが絶妙の合体を見た、これは日本映画史上にも類を見ないファンタジーの秀作だと思う。なおこれはシリーズ化され、三隅研次、森一生という大映時代劇のベテラン監督が後を引き継いだが、あまりにも短期間(10カ月で3本!)に作られた為急速にボルテージが落ち、以後製作されていないのは残念である。 |
*中島貞夫監督が自らの企画で映画化した「893愚連隊」(66)が 面白い。松方弘樹らのチンピラ・グループが、ヤクザたちに痛めつけられながらも、ゲリラ的に反抗する姿を描く。取引現場から大金強奪に成功した…と思ったのもつかの間、パーになるあたりは大笑いした。戦中派ヤクザに扮した天知茂も存在感ある好演。「いきがったらあかん、ネチョネチョ生きるこっちゃ」というラストの名セリフが忘れ難い。 *深作欣二監督の「脅迫(おどし)」(66)が、あまり知られていないが面白かった。三国連太郎扮するサラリーマンの自宅に、二人組みの脱獄囚が侵入し、家族を人質にとって金持ちの医師の孫を誘拐した身代金の受取を三国に強要する。最初は家族を放って逃げようとしていた三国が、やがて家族を守る為の闘いを開始するあたりが小気味良い。言うまでもなくW・ワイラーの「必死の逃亡者」からのいただき。深作の緊迫感溢れるサスペンス演出がなかなか良く、見応えある佳作となっている。二人の脱獄犯を演じたのは西村晃と<新人>とクレジットされた室田日出男。 |
66 |
「なつかしい風来坊」 ('66) 松竹/監督:山田 洋次 「馬鹿シリーズ」で名をあげた山田洋次が、後に異色の傑作喜劇を監督することになる森崎東と初めて共同で脚本を書いた、人情喜劇の傑作。ハナ肇がこれでブルーリボン主演男優賞を獲得して話題を呼んだ。 |
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「東京流れ者」 ('66) 日活/監督:鈴木 清順 この年好調の鈴木清順監督による、色彩と遊び心が自在に弾ける傑作。こちらはストーリーはあんまり意味がなく、短いエピソードごとに、任侠映画風、現代アクション風、歌謡映画風ととりとめもなく物語が進み、ラストで信頼していたボスにも裏切られた渡哲也の主人公が怒りを爆発させるシークェンスでは、現代ポップアート歌舞伎…とでも名付けたいくらいのケレンとアクションと色彩の洪水に酔わされる。キザな歯の浮くようなセリフの数々にも笑わされる。「流れ者に女はいらねえ」は伝説的な名セリフ。アクション映画(一応?)でありながら、これだけ遊びまくった映画も珍しい。日活本社の重役や興行主から「清順はワケの分からない映画を作る」と文句が出だしたのもこの頃からか。しかし当時の大学映研などでは評判となり、私のいた大学ではこの年のベスト2位に選出されていたのを記憶している。ある意味、早過ぎた傑作であった。見直す度に楽しさが倍加して来る、なんとも不思議な快作(怪作?)である。 |
*今村昌平監督「エロ事師たちより・人類学入門」(66)も、小沢昭一、坂本スミ子の好演で重喜劇として面白かった記憶があるが、今ではあまり印象に残っていないのは何故だろうか? |
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「けんかえれじい」 ('66) 日活/監督:鈴木 清順 こちらも鈴木清順による、昭和初期を舞台とした青春映画の傑作。私はこれが清順の最高作だと思っている。 |
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「沓掛時次郎・遊侠一匹」 ('66) 東映/監督:加藤 泰 中村錦之助と組んで、いくつかの股旅映画の秀作を作って来た加藤泰監督による、東映最後の股旅時代劇の傑作。長谷川伸の原作から鈴木尚之と掛札昌裕が共同で脚色。冒頭に、原作にない渥美清扮する身延の朝吉を登場させ、この気のいい男を無残に殺させる事によって、やくざ稼業のむなしさ、非情さと、それらをすべて知り尽くしながらも足を洗えない時次郎という渡世人の人物像をまず浮かび上がらせているのが出色。やがて一宿一飯の義理から六ツ田の三蔵(東千代之介)を斬った時次郎は、今際のきわに三蔵から頼まれ、三蔵の妻・おきぬ(池内淳子)とその息子を守って旅をすることとなる。夫を殺した憎い男に、いつしか思いを寄せるおきぬ、三蔵への義理が、いつしかおきぬへの思いに変わる時次郎…。ここでも掟と情念の間で揺れ動く男と女のラブストーリーを情感豊かに描く加藤泰の演出が素晴らしい。旅先の宿屋でお女将に、友人の話としておきぬの事を語る時次郎を長回しで捉えたシーンがとてもいい。「人の心は手前でどうこう出来るもんじゃねえ。勝手に動き出しやがる」という時次郎の科白に、人の心の不思議さ、哀しさが表現されている。ラストシーンまで、身じろぎもせずに見てしまう…、それほど錦之助の演技、加藤泰の演出は共に素晴らしい。何度見直しても泣けて仕方がない、珠玉の名編である。 |
小林さんのベスト100: (81)「沓掛時次郎・遊侠一匹」 (左参照) *この年、加藤泰と鈴木清順が大活躍。加藤泰は「遊侠一匹」以外に、安藤昇主演の「男の顔は履歴書」、桜町弘子主演の遊郭もの「骨までしゃぶる」、もう1本安藤昇主演の戦争アクション「阿片台地・地獄部隊突撃せよ」の4本を作り、鈴木清順はベストの「東京流れ者」「けんかえれじい」の他に野川由美子主演の「河内カルメン」の計3本。いずれもプログラム・ピクチャーながら見応えのある力作。中でも終戦後の闇市を舞台に、三国人たちとの抗争を描いた「男の顔は履歴書」が、さまざまな男と女の愛をからめた加藤泰らしい作品になっていて好きである。 |
70 |
「紅の流れ星」 ('67) 日活/監督:舛田 利雄 東映で「十三人の刺客」をはじめ、数本の集団時代劇の傑作脚本を書いた池上金男が日活に移り、舛田利雄監督と組んでいくつかの佳作をものしたが、これはその中でも最高傑作である。これは、舛田利雄自身が'58年に監督した、石原裕次郎主演の「赤い波止場」のリメイクであり、あれもなかなか面白かった。お話はと言うと、これが実はジャン・ギャバン主演の名作「望郷」をそのままいただいたもので、しかもラストのシークェンスではジャン・P・ベルモンド主演のJ・L・ゴダール作品「勝手にしやがれ」からもいただくという厚かましさ(笑)。まあ日活映画といえば、「シェーン」やら「カサブランカ」やら「第三の男」やら、洋画の名作を片っ端からいただく(悪く言えばパクリ)のが得意で、しかしそれでいて結構上手に翻案していて楽しませてもらった。本作も、東京で人を殺し、神戸に流れ着いて、いつか東京に帰る日を待ち続ける男・五郎(渡哲也)の望郷の念と、東京から来た女(浅丘ルリ子)への思い、そしてライバルの殺し屋(宍戸錠)との対決…と、日活ムードアクションの流れを継承しつつも、ベルモンドさながらに女に「寝ようよ」とせがむ主人公のあっけらかんとしたユーモアが絶妙にトッピングされた、日本映画らしからぬスマートさとダンディズムに満ちた、極めてユニークなアクション映画に仕上がっていた。清順映画でお馴染みの木村威夫によるカラフルかつファッショナブルな美術も見もの。渡哲也主演作品の中でも、何度観ても楽しい、これは最高作ではないかと思う。 |
小林さんのベスト100: (82)「拳銃は俺のパスポート」 ('67 監督:野村 孝) *この年67年は、なぜか和製ハードボイルドが大当たりした(くわしくは「落ちこぼれベストテン」を参照のこと)。題名だけ挙げると「拳銃は俺のパスポート」、「みな殺しの拳銃」(長谷部安春)「殺しの烙印」(鈴木清順)の宍戸錠主演作、岡本喜八監督の「殺人狂時代」、市川雷蔵主演の「ある殺し屋」、続編の「ある殺し屋の鍵」、東映では佐藤純弥監督の秀作「組織暴力」、そしてピンク映画からも大和屋竺監督「荒野のダッチワイフ」…等である。どうしてこんなに続出したのかよく分からない。いずれも水準以上の秀作であった。 その他では、スペースがないので面白かった作品の題名だけ挙げておく。 |
71 |
「博奕打ち・総長賭博」 ('68) 東映/監督:山下 耕作 東映任侠映画が、爛熟のピークにあった'68年に登場した傑作。笠原和夫が書いた脚本がまず完璧に構成されており、それを山下耕作監督が端正に、格調高く演出した。公開当時は無数に作られた任侠映画の1本として、それほど話題にならなかったが、一部任侠映画ファンの間で人気が高まり、1年後には三島由紀夫が「映画芸術」誌で絶賛し、評価が定着した。 |
小林さんのベスト100: (83)「博奕打ち・総長賭博」 (左参照) (84)「縄張(シマ)はもらった」 ('68 監督:長谷部安春)
双葉さんのベスト100:
*前田陽一監督「進め!ジャガーズ・敵前上陸」が楽しい。中原弓彦(小林信彦)の書いた脚本はビートルズ「HELP」から007までパロディにして映画ファンなら抱腹絶倒の楽しさ。ラストにはなんとゴダールの「気狂いピエロ」のパロディまで登場しますよ(笑)。 *加藤泰監督「みな殺しの霊歌」(68)も力のこもった秀作。陰影を強調したカメラも出色(撮影・丸山恵司)。 *アニメ「太陽の王子・ホルスの大冒険」(68)は宮崎駿ファンなら必見。高畑勲監督デビュー作であり、宮崎駿がメインスタッフとして大活躍した力作である。 |
72 |
「ひとり狼」 ('68) 大映/監督:池広 一夫 市川雷蔵の、最後の傑作だと思う。原作は「次郎長三国志」で知られる村上元三。人斬りの伊三蔵と怖れられる渡世人(雷蔵)の虚無的な生きざまを、一人の中年ヤクザ(長門勇)の語りを通して描くという手法が面白い。同じ雷蔵主演で、何本も佳作(「沓掛時次郎」他)を作って来た池広一夫による演出は、東映の錦之助ものと異なり、クールで乾いたタッチであり、かつ、裏切られた暗い過去を背負い、寡黙に生きる主人公の設定も含めて、これはいかにも雷蔵にピッタリの映画である。原作に惚れこんだ雷蔵が、脚本の直居欽哉に何度も書き直させたというエピソードも興味深い。渡世人のしきたりは、前述の「股旅/三人やくざ」よりもさらに事細かく丁寧であり、余計スタイリッシュな味わいがある。最後、手傷を負いながら、自分の子供に「坊主、よく見ておけよ」と言い、誰の助けも借りず足を引きずりながら去って行くラストまで、見応え十分の力作であり、池広一夫作品中でもベストに入る秀作である。個人的には雷蔵映画ベスト3は、「薄桜記」「斬る」と、この作品と決めており、これは何年も前から変わっていない。 |
小林さんのベスト100: (85)「絞死刑」 ('68 監督:大島 渚) *「絞死刑」。ATG(日本アートシアターギルド)が、製作費を監督と半々づつ出資し、計1千万円という低予算で自由に作らせた、いわゆる“ATG1千万円映画”の中の代表作。“死刑囚の処刑が失敗したらどうなる”という基本アイデアが秀逸。もう一度処刑する為には、この死刑囚“R”に自分が犯罪を犯した事を認識させなければならない…という所から、刑務所長(佐藤慶)、教育部長(渡辺文雄)、教誨師(石堂淑朗)、保安課長(足立正生)、医務官(戸浦六宏)、検事(小松方正)、検察事務官(松田政男)といった面々が侃々諤々のディスカッションをしているうちに、事態はどんどん混乱して行く…といった展開がブラックユーモアじみて笑える。そこに、死刑制度の是非、在日朝鮮人問題、国家と個人とは…といった大島お得意のテーマも盛り込まれ、笑いながらもいろいろ考えさせられる力作になっている。ベストに入れようかどうか、最後まで悩んだ。…それにしても、この出演者の顔ぶれ、よく考えるとすごいメンバーですね(笑)。 |
73 |
「緋牡丹博徒・一宿一飯」 ('68) 東映/監督:鈴木 則文 これは、私にとっては特別な作品である。実を言うと、この作品をリアルタイムで見るまでは、任侠映画は何となく嫌いでほとんど見ていなかったのである。たまたまそれまでに見た任侠映画が、凄惨でしかも指詰めシーンなどがあり、正視に耐えられなくて敬遠していたのである。…ところが、何かのついでにこの作品を見て、私の価値観は一気に逆転した。“こんなに情感を揺さぶり、心に訴えかけて来る日本映画があったのか”…以後、すっかり私は東映任侠映画の虜になってしまったのである。私の映画に対する見方を変えてくれた、これは運命的な出会いでもあった。 |
*この年(68年)は他にも、羽仁進監督による青春映画「初恋・地獄編」、岡本喜八監督の戦中派としての心情に溢れた「肉弾」(大谷直子が素敵)と、ATG1千万円映画の秀作が続出した。低予算の代りに、作家が作りたい映画を自由に作らせるこのラインから、以後も日本映画の傑作が次々誕生し、ATG映画は日本映画の一つの潮流として確実に定着して行くこととなる。 *ピンク映画はあまり見ている方ではないが、大学のホールで上映された、若松孝二監督の「犯された白衣」(68)が面白かった。劇団状況劇場を主宰する唐十郎が主演。ある看護婦寮に侵入した少年(唐)が次々女たちを犯して行くうち、最後の少女に母のイメージを見て心の安らぎを得る…というストーリー。ピンク映画なのに映像、演出とも斬新で社会性も持った力作であった。
*長谷部安春監督「縄張(シマ)はもらった」(68)が面白い。小林旭と宍戸錠が悪辣な組織に反逆し殴り込むラストが圧巻。後に登場する日活ニューアクションの先駆けともなった点でも記憶に留めたい。 *「神々の深き欲望」(68)は、今村昌平監督作の中では好きな方。 その他で記憶に残った作品。 |
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「私が棄てた女」 ('69) 日活/監督:浦山 桐郎 浦山桐郎監督の作品は、どれも爽やかで秀作が多いが、この作品はその中でも最良である。遠藤周作の原作も良いが、それをさらに映画的に見事にまとめていて見応えがあった。 |
小林さんのベスト100: (86)「心中天網島」 ('69 監督:篠田 正浩) 双葉さんのベスト100:
*「心中天網島」(69)は篠田正浩監督の近松もの。浄瑠璃の黒子を使った演出が斬新でこの年のキネ旬ベストワン。いい作品だったが、なぜか時と共に印象は薄くなってしまった。 |
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「少 年」 ('69) 創造社=ATG/監督:大島 渚 親子で全国を渡り歩き、子供に当り屋(わざと車に当り示談金を騙し取る)をさせて金を稼いでいた家族の実話に基づき、田村孟が脚本を書き、大島渚が監督した問題作。大島作品にしては非常に判り易い内容である。傷痍軍人である故に働くことが出来ない父は、生活費の為に一家で当り屋稼業を始め、捕まらない為に全国を放浪するようになる。主人公である少年は最初、嫌がっていたが、やがて進んで当り屋を買って出るようになる。何も言わないが、心に深い悲しみを秘めた少年の姿が痛々しい。自分で作った雪ダルマに体当たりし、壊すシーンは感動的である。少年を演じた安部哲夫少年の演技が素晴らしい。最後、警察に捕まっても一切犯行を否認していた少年が、連行される車中で、ホロリと一条の涙を流しながら、「行った…。北海道には行ったよ…」とつぶやくシーンには泣けた。少年の繊細な心の揺れ動きを凝視する大島渚のやさしい眼差しにはいつも泣かされる。これは「愛と希望の街」に次いで2番目に私が好きな大島渚作品である。 |
*出目昌伸監督「俺たちの荒野」(69)。これも大好きな作品である。基地の町で働く哲也(黒沢年男)と純(東山敬司)の男の友情と、彼らの前に現れた少女(酒井和歌子)との三角関係を描く。3人は共同で小さな荒地を所有する夢を抱くが、わずかな心の行き違いから純は自殺し、哲也は純の遺骨を握り締め慟哭する。フランス映画「突然炎のごとく」にも似た、男二人と一人の女の友情のもろさ、青春のはかなさをリリシズム豊かに描いた秀作である。これもベストに入れたかったが…。しかし出目昌伸監督、期待したのにその後の作品がさっぱりだったのはどうしたわけでしょうかね。 *長谷部安春監督「野獣を消せ」(69)。基地の町、不良少年たち…日活ニューアクションの最初の傑作である。必見。 |
76 |
「男はつらいよ」(シリーズ) ('69) 松竹/監督:山田 洋次 言うまでもない、48作も続いたギネス級最多シリーズ数を誇る、山田洋次原作・脚本・監督による傑作シリーズである。最初はテレビシリーズとして作られ、評判となって映画化されたものである。秀作「吹けば飛ぶよな男だが」が興行的にコケて、社内でも評判が悪く、もうこれで松竹で仕事は出来ないな…と思っていたという山田洋次が、背水の陣で作った1作目が大ヒットして、以後山田洋次は松竹のドル箱エース監督になって行くのだから運命というものは分からない。 |
小林さんのベスト100: (87)「男はつらいよ」 (左参照) 双葉さんのベスト100:
*石井輝男監督の性愛路線「徳川いれずみ師・責め地獄」(69)。いかにも石井監督らしい、いかがわしさとデカダンスに満ちた怪作。最初に観た時にはついて行けない…と思ったものだが、時間が経つと共にその退廃的かつ耽美的な映像が忘れられなくなる。まさにカルトの傑作である。 *アニメ「長靴をはいた猫」(69)は、脚本・井上ひさし、ギャグ監修・中原弓彦、場面設定・一部アクション作画・宮崎駿というスタッフが凄い顔ぶれ。ギャグ満載のスカッと楽しい快作である。 |
77 |
「緋牡丹博徒・お竜参上」 ('70) 東映/監督:加藤 泰 「緋牡丹」シリーズ中、「一宿一飯」に次いで好きな作品である。浅草を舞台に、かつて「花札勝負」で助けた少女の消息を探し求めるという、任侠映画には珍しい展開。やっと探し当て、自分を捨てたとなじる少女(山岸映子)に詫び、心を通わせるまでを7分間にも及ぶ長回し据置きワンカットで捉えたシーンが印象的。折り目正しい流れ者・常次郎(菅原文太)との交流も味わい深い。雪降る今戸橋上で、お竜が常次郎に渡しそこねたミカンがコロコロとコロがるシーンも忘れ難い。映像的にも、対角線の構図を多用するなど優れたシーンが多い。物語としては、少女と、彼女を愛する男(長谷川明男)との薄幸の愛、そしてお竜と常次郎とのストイックな愛が交差し、そこに壮絶なアクションがほどよく配置された、ウエルメイドな任侠映画の佳編として記憶に残る名作である。 |
*野村芳太郎監督の松本清張ミステリー「影の車」(70)は傑作。妻子がありながら、偶然出会った幼馴染の子連れの女(岩下志麻)と密会するうち、女の連れ子に殺されるのではないかという幻想に囚われて行く男(加藤剛)の物語。平凡な日常性の奥に潜む恐怖…という清張ミステリーお得意のテーマを斬新な映像で切り取る野村演出が快調。ラストはコワいですよ。
*熊井啓監督「地の群れ」(70)。ATG1千万円映画の1本。社会派の熊井監督らしい、さまざまの社会問題が提起された力作。当時観た時には感動したはずだが、今ではほとんど思い出せない(苦笑)。 |
78 |
「家 族」 ('70) 松竹/監督:山田 洋次 「男はつらいよ」のヒットである程度企画が通り易くなった山田洋次が、念願の企画を実現させ、その年のキネマ旬報ベストワンを獲得した傑作である。 |
*黒澤明監督の5年ぶりの新作「どですかでん」(70)。久しぶりに出逢えて嬉しかったけれど、三船敏郎も志村喬も仲代達矢も出ない黒澤作品なんてクリープのない…(古い(笑))ですねえ。まあ初めての強烈なカラー映像には堪能しましたが…。 *東映任侠映画では、マキノ雅弘監督「昭和残侠伝・死んで貰います」(70)、山下耕作監督「日本侠客伝・昇り龍」(70)がそれぞれの監督らしい味が出ていて堪能した。どちらも高倉健、藤純子が絶妙の好演。泣けます。
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79 |
「野良猫ロック」(シリーズ5作) ('70) 日活/監督:長谷部安春+藤田敏八 一応一括りにしたが、本来このシリーズは、舞台も設定も異なり、監督も二人(長谷部安春と藤田敏八)が交互に担当するなど、一貫したシリーズとしての体裁を持ったものではなく、1本ごとに独立した作品として観た方が正しい。それにも係らず一括りにしたのは、ベスト100に出来るだけ多くの作品を載せたい…という理由と、もう一つは、この5本を通して観ることによって、これらの作品が作られた
'70年という時代の空気が敏感に伝わって来るからである。 |
*この年は、左にも書いているが、日活の若手監督による新タイプのアクション映画が台頭し、夢中になって追いかけた。 *藤田敏八も3年ぶりに登場。「非行少年・若者の砦」(70)はまさに藤田敏八ならではの非行少年青春映画の秀作。 *その他では、武田一成監督「ネオン警察・ジャックの刺青」、江崎実生監督「女子学園・悪い遊び」などが楽しめた。 *東宝も日活に刺激されたかこちらも新感覚のアクションの快作を連発。西村潔監督「白昼の襲撃」(70)、福田純監督「野獣都市」(70)はいずれもシャープな映像と音楽センスの良さで楽しめた。前者では日野晧正のモダンジャズ、後者はブルーベル・シンガーズの「疎外者の子守唄」(「反逆のメロディー」にも登場)が絶妙にフィーチャーされていた。
その他、当時は感動したが今はそれほどでもない?作品。 |
80 |
「八月の濡れた砂」 ('71) 日活/監督:藤田 敏八 前項のように、末期の日活映画から、新鮮で躍動感溢れる青春映画の傑作群が連打され、私も含めた当時の若い映画ファンは歓喜雀躍したものだった。私たちは、それらを敬意を込めて“日活ニューアクション”と呼んだ。映画会社の特定ジャンルを会社でなくファンが命名したのは、多分映画史上初めてではないだろうか。 |
日活ニューアクションはこの年も好調。 あと、時間とスペースの関係で詳しく書き込みできないのが残念だが、とりあえず面白かった'71年作品の題名だけ挙げておきます。
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