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流飛燕編

 1936年 南京。集められた国民党軍の重鎮達は、羅将軍を殺した閻王への報復の方法について話し合っていた。拳法には拳法で応ずるのが中国人の誇り―――。その蒋介石の一言を受け、党の組織部長・陳立夫は、ある一人の男の名前を挙げた。彼の名は流飛燕。普段は物資輸送を生業とするその男の正体は、馬賊たちから"死鳥鬼"と呼ばれ恐れられる、極十字聖拳の使い手であった。

 その頃、ギーズ達は、ある物の到着を待ち続けていた。「希望の目録」と呼ばれるそれは、ユダヤ人がナチスの強奪から逃れるために隠した美術品の在り処を示す書のことであった。それを託されたのは、幼い一人の少女―――。彼女をヒトラーの刺客から守り、中国にまで送り届けたその男こそ、死鳥鬼・流飛燕であった。

 目録を持つ少女・エリカをハルピンに送り届けた事で、飛燕の仕事は終わった。だがこのままでは、エリカは必ずナチスによって殺される……。彼女の"友達"として、飛燕はそれを見逃す事はできなかった。両親を失いながらも気丈に振舞おうとする彼女に、飛燕は深い情を抱いていたのだった。

 その頃、上海では、一人の男が拳志郎に勝負を挑んできていた。男の名は彪白鳳。流飛燕が閻王抹殺の指令を受けなかったため、その代役として放たれた、飛燕の兄弟子であった。野次馬達が見守る中、路上喧嘩とは呼べぬ程の凄まじい攻防を繰り広げる二人。だが決着を待たずして、白鳳はその場を後にした。己の拳を避けようともせず、倒れてきた街灯から子供を庇った拳志郎の姿に、白鳳の仁義はそれ以上の攻撃を許さなかったのであった。



 エリカが持っていた希望の目録は、偽物であった。飛燕が守り続けてきた真の希望の目録、それはエリカ自身だったのである。直観像記憶―――。目にしたものを全て記憶する能力を持つエリカは、目録の内容を全て暗記していたのだった。だがそれは、彼女の身が常に危険に晒されているということ……。彼女を預かるというギーズ大佐は、本当に信頼に足る人物なのか。飛燕は、自らの目でそれを確かめる必要があった。

 闇に乗じて勝負を挑んできた流飛燕を、北斗孫家拳で迎え撃つギーズ。だがギーズの力では、飛燕の鋭い拳を躱す事は出来なかった。致命の傷を受けたギーズは、最期に飛燕にこう告げた。お前が安心してエリカを託す事のできる男は、霞拳志郎を置いて他にない―――と。その後、駆けつけた拳志郎に全ての事情を話したギーズは、朋友達に見守られながら、静かにその生涯を終えたのであった。




 拳志郎と闘う意思を固めた飛燕であったが、その優先権を主張したのは、兄弟子の彪白鳳であった。北斗神拳を超え、極十字聖拳を最強の拳にすること―――。それは彼らの師父である魏瑞鷹から受け継がれる、極十字の悲願だったのである。だが、その白鳳の思いは、突如飛来した無数の銃弾によって閉ざされた。彼らが潜むアジトは、既に希望の目録を狙うナチス軍に包囲されていたのである。しかし、そんな飛燕たちの危機を救ったのは、突如壁を破って現れた拳志郎であった。ギーズの死を無駄にしないためにも、拳志郎は今ここで飛燕とエリカを死なせるわけにはいかなかったのだった。

 自分ではエリカの心を守ってやることは出来ない。そう思った飛燕は、エリカを玉玲に預けることを決めた。エリカのために、そして己が冷酷な「死鳥鬼」へと戻るために……。そして、日本軍の激しい攻撃が行われるまさにその最中、拳志郎と流飛燕の宿命の対決は、遂に幕を上げたのだった。

 飛燕が放った最初の一撃は、拳志郎の背に大きな十字傷を刻み込んだ。それは、かつて師・魏瑞鷹が、先代北斗神拳伝承者・霞鉄心に刻んだのと同じものであった。魏瑞鷹はかつて北斗劉家拳の天才と言われた男であった。しかし師から北斗神拳と闘うことを許されなかった瑞鷹は、新たなる拳、極十字聖拳を作り、拳志郎の父・霞鉄心との闘いに臨んだのである。勝負は五分であったが、鉄心はあえてこの闘いに勝敗をつけようとはしなかった。決着は次の世代に―――。あの日持ち越された決着が、今、互いの弟子達の手によって果たされようとしていた。

 極十字聖拳の真の強さ……それは完璧なる受け技にあった。千に及ぶ飛燕の手は、拳志郎の連続拳を全て防いでしまうほどの完璧な防御を誇っていたのである。だが全ての拳を止めたと思った次の瞬間、飛燕の左肩が音を立てて爆ぜた。北斗神拳奥義 天破活殺―――。指先に闘気を込め、触れずして秘孔を突くその奥義の前には、鉄壁の防御も通用しなかったのであった。

 だが飛燕には、もう一つの秘策があった。相手の突きを、あえて自らの体を貫通させることで、秘孔への攻撃を無効化する―――。それは、かつて霞鉄心が、魏瑞鷹に使った戦法であった。命の見切りで機先を制すれば、必ず極十字聖拳が勝つ……。そう考えた飛燕は、かつてと立場を入れ替えることで、極十字聖拳に勝利を齎そうと考えたのである。しかしそれは、完全なる読み違いであった。闘気ををもって内部から心臓を打つ―――。無防備な心臓を直接攻撃するというその技は、この戦いを決するほどのダメージを飛燕の体に刻み込んだのであった。

 エリカを頼む。そう拳志郎に告げ、自らの致命の秘孔を突こうとする飛燕。だがその指は、エリカの悲痛な叫びによって止められた。もはやエリカにとって飛燕は、実の父親以上に大切な存在となっていたのである。己ではエリカを幸せにする事はできない……そう思いながらも、飛燕には駆け寄ってくるエリカを抱きしめずにはいられなかった。それを見た拳志郎は、飛燕に突いた致命の秘孔を解除した。死鳥鬼と呼ばれた男が選んだ道…それはエリカと共に歩む新たな道。飛燕はまだ死ぬべき男ではない。拳志郎には、そんな天からのギーズの声が聞こえていた。



・北平漂局を生業とする男、流飛燕。極十字聖拳の使い手であり、手の甲にはその証である南十字星の刺青がある。
あんだけ手刀でスパスパ切って、手にサザンクロスなんかあったら、そりゃ南斗と関係あるんじゃないかと疑われもしますわなあ。魏瑞鷹が極十字聖拳の創始者っていう設定がなかったら、私だって南斗だと思いますもん。でも瑞鷹が南斗を融合させて作り出したという可能性もあるよね。何も無いところからいきなり南十字星が出てくるのもおかしな話ですし。
・国民党、閻王の首に10万元をかける
ケチくさいな〜。紅華会なんて200万元やで!200万元!20倍でっせ!
・彪白鳳、閻王に勝負を申し込む。戦いの最中に子供を助けた拳志郎を見て、自らの仁義に従ってその場は退く。
初登場シーンでの白鳳さんて、すげえデカいんですよね。3〜4mはゆうにありそうな感じ。次の回では2m弱くらいになっちゃって残念。
・エリカは直観像記憶の持ち主。希望の目録は彼女の頭の中に全て記憶として残されている。
この能力の持ち主ってロクな境遇にないよね。中坊の虹野さん然り・・・
・飛燕、ギーズのサーベルを気付かぬうちに根元から断ち切る
張太炎が出てきたとき、拳志郎がグラスに穴を開けるのに失敗したのに対し、張太炎はマルローのメガネに綺麗な穴を開けました。そうする事によって、今度の敵は拳志郎より強いんじゃないか!?というのを読者に印象付けたわけですね。今回のこのシーンも、それと同じなのでしょう。拳志郎が共産党員の曼の剣を折ったのに対し、飛燕はそれより遥かに格上のギーズの剣を同様に折って見せたわけです。・・・いや、まあ想像ですけど。
・ギーズ、その程度の力ではエリカを守れないとして飛燕に殺される。
いや別に殺さんでも・・・・。フランス公董局としては「希望の目録の中身」が欲しいんだから、エリカが写本作ればよかったんだよ。それをギーズに渡して、エリカは飛燕が守ればいいじゃない。
・拳志郎、銃を抜こうとするナチス親衛隊の腕を暗器を投げて止める
これは珍しいですよ。拳志郎唯一の暗器使用シーンですよ。やっぱり飛燕や白鳳や共産党員やナチやフランス軍までいる現場に行くとなると、流石の拳さんも多少は武装するってことなんでしょうかね。
・拳志郎、雷暴神脚でナチス軍の狙撃をかわしてみせる
きっと飛燕はこの時の雷暴神脚を目にして、その動きを見切ったんでしょうね。だから後の戦いで雷暴神脚を使った拳志郎の背後をとり、舞裂爪破弾を炸裂させることができたんでしょう。そうとでも考えないと、目で追えなかったってお手上げ状態だった太炎が雑魚すぎることになっちゃう。
・拳志郎「白鳳は俺との戦いの最中…少年の命を救った」
・・・・・そうだっけ?
・ナチス親衛隊、橋の上で飛燕たちを待ち伏せするが、空振りに終わる
史実によると武装SSってイケメンしか入隊できなかったらしいんだけど、この「ダッハ」とか「コビッチ」とか言ってる人、もうイケメンとかブサメンとかじゃなくて人間の顔ですらないよね。
・流飛燕、血化粧の為に杜流陽湖拳道場の者達を皆殺しにする
北斗とか極十字とか西斗とかの超人拳法を除く、唯一の蒼天の拳オリジナル拳法。それがこの杜流陽湖拳です。他の八極拳とか南派洪家門五形拳とかは全部実在しますからね。そういう意味で個人的に興味津々なんですが、作中ではどんな拳法なのかサッパリわかりませんでした。もうちょいがんばれよハゲ。
・拳志郎、飛燕に舞裂爪破弾を喰らい、背中に父鉄心と同じ十字傷をつけられる
天授の儀の時にハダカになった拳さんには、この傷ないんですが・・・鉄心が食らったのより傷が浅かったのかしら?やっぱり飛燕は魏瑞鷹を越える事が出来なかったって証か。
・魏瑞鷹、霞鉄心と戦い秘孔を突かれるが、決着は次代に持ち越される。
この時の鉄心の容姿って、もう現代と大差ないくらいの白髪おじいちゃんなんですよね。でも寧波を去るときの鉄心はまだ黒髪で、顔も若い感じ。普通に考えたら20年くらい前と判断するのが妥当でしょう。イコール、この時点で拳志郎はもう二十歳前後になってなきゃおかしいってことです。でも魏瑞鷹は、鉄心との対決のあとに飛燕と白鳳を弟子にとるんですよね。この時の二人はおよそ5歳前後。つまり、飛燕は拳志郎より15歳くらい年下ということになってしまうのです。アチャー。
・拳志郎、闘気で秘孔を突く奥義、天破活殺で飛燕の防御を破る。北斗孫家拳の芒狂雲との戦いで会得した。
つまり2年前くらいまでは天破活殺は使えなかったってことかぁ。伝承者になったら誰でも使えるってことではないんだね。流石は秘奥義。ケンシロウが使えたのは、拳志郎→リュウケン→ケンシロウ、と伝えられたからなのかしら。
・飛燕、拳志郎の突きをあえて深く打ち込ませ、自らの身体に貫通させることにより、秘孔突きを防ぐ。しかし闘気で直接心臓を撃たれ敗北。魏瑞鷹は鉄心の技を見極めたがゆえにこの方法をとらなかった。
この意味がいまひとつ理解できないんですよねえ。
要するに「魏瑞鷹のじっちゃんも同じ戦法を考え付いてたけど、鉄心がこの技(闘気心臓打ち)を使えると見極めていたから使わなかった」ってことなんですかね。逆に鉄心が使ったのは、魏瑞鷹にはコレは使えないだろうという確信があったってことか。まあ・・・・どっちにしろ、瑞鷹さんもその事を見極めてたんなら、飛燕に教えてやれよな。使ったらアカンで!って。


≪章烈山編 劉宗武編