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湘南理工学舎
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2022/11/17   
2020/06/30

 楽しく学ぶ…線形代数

 置 換   (permutation)

 --目 次--

1.置換
2.恒等置換
3.互換
4.巡回置換
5.置換の積
6.互換の積
7.置換の積と結合法則
8.巡回置換と互換の積

 置換はこれから学ぶ行列式、余因子、逆行列などをはじめ、いろんな場面で使われています。
また置換に関係した用語が多くあります。混乱しないようにして下さい。

1.置 換 

 まずは置換 σ の例を示します。
\(σ=\begin{pmatrix} 1 & \underline{2} & \underline{3} & \underline{4} \\ 1 & \underline{3} & \underline{4} & \underline{2} \end{pmatrix}\) \(=(2\ 3\ 4)\)
注:行列と同じように書いていますが行列ではありません。

集合の概念でいうと:
・上段:\((\{1,\ \ 2,\ \ 3,\ \ 4\ \})\)
写 像 \(\quad \downarrow \searrow \)\(\ \swarrow \downarrow\)
・下段:\((\{a_1,a_2,a_3,a_4\})\)
\(a_1,a_2,a_3,a_4\)は\(1,2,3,4\)に置換される。

具体的にいうと:
上段の1 から4 までの自然数に対して下段に置き換えた(並び換えた)ものを置換という。
置き換えの操作のことも置換という。

上の例は「1➝1」、「2➝3」、「3➝4」、「4→2」という置き換わりです。
・「1➝1」は置換がないから、明記しなくてもよい、上記では\((2\ 3\ 4)\)で表している。(これは後述する巡回置換です。)
重複は許さないので、置き換り方は(並び替え方)は順列になる。
(上の例 n = 4, 置き換り方はn! = 4! = 24通りです)

置換σ によりi がk に置き換えられるとき
置換を記号 \(σ(i)=k\) で表わす
 \(i:\)上段の数 \(k:\)下段の数

次の3列目の置換(3➝1)は: \(σ(i)=k\)\(\ \Rightarrow\ \)\(\color{blue}{σ(3)=1}\)

具体的に書くと:
\(σ=\) \(\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & \\ \color{blue}{σ(1)} & \color{blue}{σ(2)} & \color{blue}{σ(3)}  \end{pmatrix}\) \(=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & \\ \color{blue}{3} & \color{blue}{2} & \color{blue}{1} \end{pmatrix}\) の置換だから

\( \quad \quad \quad \downarrow\)
 \(\underline{ \color{blue}{σ(1)=3,\ σ(2)=2,\ σ(3)=1} }\)  と書ける。

また以下の置換は等しい
\(\begin{pmatrix} 2 & 1 & 3 \\ 3 & 2 & 1 \end{pmatrix}\) \(=\begin{pmatrix} 1 & 3 & 2 \\ 2 & 1 & 3 \end{pmatrix}\)

置換は上段と下段の数の対応なので列を入れ換えても同じである。
上段は左に向かって昇順(1,2…n)が見易い。

2.恒等置換I(identity permutation) 

一般的な表記で表すと:

\(\begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ c_1 & c_2 & \cdots & c_n \end{pmatrix}\) に対し \(\begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ 1 & 2 & \cdots & n \end{pmatrix}=I\)

のように数の入れ替えのないものを恒等置換という。(単位置換ともいう)

すなわち 1,2…n の任意の数 i について:
\(\color{blue}{σ(i)=i}\) である置換が恒等置換である。

3.互 換 
次のように2つだけを置き換えた置換のことを互換という。(他の数はそのまま)

\( σ= \underbrace{ \begin{pmatrix} \underline{1} & 2 & 3 & \underline{4} \\ \underline{4} & 3 & 2 & \underline{1} \end{pmatrix} }_{全置換表記} \) \(=\underbrace{\color{red}{(1,4)}=\color{red}{(4,1)}}_{簡易表記}\)

この互換は単に(1,4)と書く。((4,1)でも同じ)
ここでは左側の表記を「全置換表記」、右側を「簡易表記」ということにします。

4.巡回置換(cyclic permutation) 

\( σ=\begin{pmatrix} 1 & \underline{2} & \underline{3} & \underline{4} \\ 1 & \underline{3} & \underline{4} & \underline{2} \end{pmatrix}\) \(=(2,3,4)\)

「2→3」、「3→4」、「4→2」の最後「4→2」は「2」に戻っている。
上記を置換記号で表すと:
\(σ(2)=3, σ(3)=4, σ(4)=2 \)

 この置換を巡回置換といい、(2,3,4)= (3,4,2) と書いてもよい。

・巡回置換から右まわりで読む/書く。
・置換の数が3個以上で元に戻る置換を巡回置換
(別表現:巡回する数が3個以上)

互換は置換の数が2個で元に戻る巡回置換でもある

5.置換の積(product of permutation) 
 一般の「掛け算の操作」ではなく、2つの置換の積とは「置換を2回行う操作」である。
先に置換の積の性質を述べておきます。
置換の積 \(σ_2 \color{red}{σ_1}\) の場合
(1)積の操作は右側の\(σ_1\)を先に置換し、次に左側の\(σ_2\)の置換を行う。
この逆、すなわち交換法則は成り立たない。
\(σ_2 σ_1 \ne σ_1 σ_2\)

(2)結合法則は成り立ちます。
\(σ_3 (σ_2 σ_1)\)=\((σ_3 σ_2) σ_1\)

【例題】置換の積
積の演習も兼ねて \(σ_2 σ_1\)と\(σ_1 σ_2\)の2通りを求め、交換法則がきかないことを確認しましょう。

\(σ_2=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 4 & 1 & 2 & 3 \end{pmatrix}\)   \(σ_1=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 2 & 4 & 3 & 1 \end{pmatrix}\)

1)積\( \underline{ σ_2 σ_1 = σ_2 (σ_1)} \):

次の1行目だけ説明すると:
\(σ_1\)の1 が2 に置き換り、2 は\(σ_2\)によって1に置き換わる。
\(\color{red}{1 -σ_1\to 2 -σ_2\to 1}\)

\(2 -σ_1\to 4 -σ_2\to 3\)

\(3 -σ_1\to 3 -σ_2\to 2\)

\(4 -σ_1\to 1 -σ_2\to 4\)

\(σ_2 σ_1\)=\(σ_2 (σ_1) \) \(=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 1 & 3 & 2 & 4 \end{pmatrix}\)\(=(2,3)\)

1)の別解:積の記号 \(σ(i)=k\) により求める
\(\color{blue}{σ_2 (σ_1(1))}\)を説明しよう
・まず\(σ_1(1):\)\(-σ_1 \to\)\(σ_1(1)=2\)
\(\quad σ_2 (σ_1(1))=σ_2(2)\)
・積\(σ_2(2):\)\(-σ_2 \to σ_2(2)=1\)
\(\therefore \color{blue}{σ_2 (σ_1(\u{1)})=\u{1} }\)
同様にして:
・\(σ_2 (σ_1(\u{2}))=σ_2 (4)=\u{3}\) ・\(σ_2 (σ_1(\u{3}))=σ_2 (3)=\u{2}\) ・\(σ_2 (σ_1(\u{4}))=σ_2 (1)=\u{4}\)
これらをまとめて書けば、同じ結果が得られる。

2)積\( \underline{ σ_1 σ_2 = σ_1 (σ_2)} \):
\(1 -σ_2\to 4 -σ_1\to 1\)

\(2 -σ_2\to 1 -σ_1\to 2\)

\(3 -σ_2\to 2 -σ_1\to 4\)

\(4 -σ_2\to 3 -σ_1\to 3\)

\(σ_1 σ_2\)=\(σ_1 (σ_2) \) \(=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 1 & 2 & 4 & 3 \end{pmatrix}\)\(=(3,4)\)

従って \( σ_2 σ_1 = σ_2 (σ_1) \neq σ_1 σ_2 = σ_1 (σ_2) \)
となり
•置換の積に交換法則は成り立ちません。

6.互換の積
  さっそく、(2,3)(2,5)の互換の積を求めてみましょう
互換の積では「簡易表記」して計算操作するのが一般的です。
どんな操作するか説明します。
まず、この互換にない数はそのまま(置換なし)、また今回は最大値が5 なので5次の置換です。

\(σ_2=(2,3), \quad σ_1=(\underline{2},5)\)とおくと:
初めに右側の\(σ_1\)の「2」から始める
❶\(2 \xrightarrow{σ_1 により} 5 \xrightarrow{σ_2 により}5\)

❷\(5 \xrightarrow{σ_1 により} 2 \xrightarrow{σ_2 により}3\)

❸\(3 \xrightarrow{σ_1 により} 3 \xrightarrow{σ_2 により}2\)
  置換のない数は省略しています、
詳細は下記(※1)を参照

この結果をまとめると:
\( σ=\begin{pmatrix} 1 & \u{2} & \u{3} & 4 & \u{5} \\ 1 & \u{5} & \u{2} & 4 & \u{3} \end{pmatrix} \) \(=(2,5,3)\) 巡回置換

すなわち、互換の積が巡回置換になる。
\(σ_2 σ_1=(2,3)(2,5)=(2,5,3)\)

これを一般化すると:
\((a_1,a_2,a_3)=(a_1,a_3)(a_1,a_2)\)\(\ :❶\)


(※1)詳細説明
\(σ_1\)と\(σ_2\)に表記がない数は置換がないからそのままである。

①「1」は\(σ_1\)により,そのまま「1」、その「1」は\(σ_2\)により,そのまま「1」。
②「2」は\(σ_1\)により,「5」、「5」は\(σ_2\)により,そのまま「5」。
③「3」は\(σ_1\)により,そのまま「3」、その「3」は\(σ_2\)により,「2」。
④「4」は\(σ_1\)により,そのまま「4」、その「4」は\(σ_2\)により,そのまま「4」。
⑤「5」は\(σ_1\)により,「2」に、「2」は\(σ_2\)により,「3」。

➁と④は置換のない数だから、上では省略してます。

7.置換の積と結合法則
 置換の積には交換法則は成り立たないが、結合法則は成り立ちます
まず計算して確認しましょう。
次の互換の積を求める。
\(σ_3 σ_2 σ_1=(1,2)(1,4)(1,5)\)とする。
\(σ_3(σ_2 σ_1)\) と \((σ_3σ_2)σ_1\) の2通りで求める。
注:括弧()が異なるが、右側の置換からはじまるのは変わらない。
この2つが等しければ結合法則が適用できることになる。
(結合法則とは \(a \x (b \x c)=(a \x b) \x c\) のこと。)

1)\( σ_3(σ_2 σ_1)=(1,2)\color{red}{ ((1,4)(1,5))} \)
\( \color{red}{(1,4)(1,5)=(1,5,4)}\) \( =\begin{pmatrix} \u{1} & 2 & 3 & \u{4} & \u{5} \\ \u{5} & 2 & 3 & \u{1} & \u{4} \end{pmatrix} \)

\((1,2)\color{red}{(1,5,4)}\) \(=(1,2) \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ 5 & 2 & 3 & 1 & 4 \end{pmatrix} \) \( =\begin{pmatrix} \u{1} & \u{2} & 3 & \u{4} & \u{5} \\ \u{5} & \u{1} & 3 & \u{2} & \u{4} \end{pmatrix} \) \(=(1,5,4,2)\)

\((1,5,4,2)=(1,2)(1,5,4)\)\(=(1,2)(1,4)(1,5)\) \( ⓐ \)


2)\( (σ_3σ_2)σ_1=\color{red}{(1,2)(1,4))}(1,5)\)
\( \color{red}{(1,2)(1,4)=(1,4,2)}\) \( =\begin{pmatrix} \u{1} & \u{2} & 3 & \u{4} & 5 \\ \u{4} & \u{1} & 3 & \u{2} & 5 \end{pmatrix} \)

\(\color{red}{(1,4,2)}(1,5)\) \(= \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ 4 & 1 & 3 & 2 & 5 \end{pmatrix} \) \((1,5)\) \( =\begin{pmatrix} \u{1} & \u{2} & 3 & \u{4} & \u{5} \\ \u{5} & \u{1} & 3 & \u{2} & \u{4} \end{pmatrix} \) \(=(1,5,4,2)\)

\((1,5,4,2)=(1,4,2)(1,5)=(1,2)(1,4)(1,5)\)

1)と2)の結果より
•置換の積に結合法則が成り立ちます。

8.巡回置換と互換の積
  以下に\(n\)個の数の巡回置換は\(n-1\)個の互換の積になることを説明します。
上記で求めた式:
\((1,5,4,2)=(1,2)(1,5,4)=(1,2)(1,4)(1,5)\) \(\ ⓐ \)
この式を一般化すると、4個の巡回置換は:
\((a_1,a_2,a_3,a_4)=(a_1,a_4)(a_1,a_2,a_3)=(a_1,a_4)(a_1,a_3)(a_1,a_2)\) \(\ ❷ \)

また前記の式❶:
\((a_1,a_2,a_3)=(a_1,a_3)(a_1,a_2)\)\(\ :❶\)


式❶❷より
\(n\)個の巡回置換は\(n-1\)個の互換の積になる
\((a_1,a_2,\cdots,a_n)=(a_1,a_4)(a_1,a_2,a_3)=(a_1,a_n)(a_1,a_{n-1}) \cdots (a_1,a_2)\) \(\ ❸ \)

また、
任意の置換はいくつかの互換の積に書き換えられる

次回は置換の続きとして符号について学びます。

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[コーヒーブレイク/閑話]…お疲れさまでした