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第七話『Requiem of the golden witch』あらすじ(その2)



ここは、第七話『Requiem of the golden witch』の後半の舞台劇の開幕以降のあらすじのページです。
前半までの出来事についてはこちら。下部のリンクからも飛べます。

時系列というよりは、本編記述順に近いです。(本編中で時刻が明示される箇所は限られており、前後することもある)考察の参考程度に!
は劇中赤文字、スカイブルーは劇中青文字、ピンクは重要と思われる事項の強調、コーンフラワーブルーはその他不確定事項などの強調として使っています。

[編集]時系列

章題時刻
オープニング(章題なし)
ベアトリーチェ殺人事件1986年10月04日(土)13:00?
楼座の告白1986年10月04日(土)13:20?
右代宮金蔵1986年10月04日(土)13:40?
サロ共和国1944年
海から来た魔女1986年10月04(土)14:10?
ベアトリーチェの誕生1986年10月04日(土)14:30?
貴賓室の怪談1986年10月04日(土)14:50?
こいつが、犯人だ1986年10月04日(土)15:00?
新しき生活1976年第一章
初めての友人1976年第二章
虜になる日々1976年第三章
新しき日々1977~1979年(いずれか一年)第四章
新しき元素1980年第五章
試される日1980~1981年第六章
恋の芽、恋の根1982~1983年第七章
黄金郷への旅立ち1984年第八章
魔女の蘇る日1984年第九章
魔女幻想、散る1986年10月04日16:00?
Tea Party10月04日~10月05日10:00~26:00?
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[編集]新しき生活


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(レースのエフェクト)
舞台劇場クレル ゼパル フルフル 観客達
聞け。我こそは我にして我等なり。我が語るは我等の物語。
されど此処は聞く者なき硝子とコルクに封ぜられし小さな世界。
それは誰の目にも触れることなく、我が物語の全てを封じて、
我が心の海を揺蕩いて海の藻屑と消えていく……。

ここはどこかの舞台。そのスポットライトは輝き、幕を開ける。観客は始まりを祝い拍手を送る。
舞台上にて恋の悪魔達は姿を現し、此処が何処で僕達が誰かなど、その日までは些細な問題だと言う。運命は委ねられ、それが神の救いであることを彼女らは祈る。悪魔の救いだとしても拒むことは出来ない。
そう語るはクレル・ヴォーブ・ベルナルドゥスとゼパルとフルフル。クレルは、ベアトとそのゲームの擬人化の為の依り代であり、ベルンが生み出した朗読役。最後のゲームの案内人である。(依り代とは犯人Xを指す?その姿をベルンは直接現させず、後のヤスである白いベアトの姿を与えたのかもしれない。)
「第一章。“新しい生活”。」
1976年 六軒島
玄関ホールヤス 夏妃 紗音 使用人ルシファー 使用人達
新規の使用人達への右代宮家のルールを説明した後、夏妃は姿を消す。時は1976年、事件の十年前。四月、福音の家から新しい使用人が入る。“私”(以下、便宜上ヤスと呼称。性別もはっきり言及されていないが周囲の扱いが女性であるため“彼女”とする)は同期の中でも異例も異例、一番年下でまだ小学校すら上がっていなかった。ヤスは病弱だったので、福音の家でも隔離されていたらしい。二年前に入った先輩(容姿が使用人姿のルシファーの為、以下ルシファーと呼称)にも、目をつけられミスをしないよう凄まれる。紗音はそんな境遇のヤスにも優しく接していた。
舞台劇場クレル ゼパル フルフル 蔵臼 夏妃 紗音 観客達
福音の家よりも規則の緩い学校生活は楽なものだったらしい。朱志香と共に学校へ向かい、下校すれば使用人として働く。勤めの無い日は新島の寮で過ごす。三人で一部屋の寮だったがヤスは人数の関係か紗音との相部屋だった。
福音の家からの使用人達は一見品性方正な者だったが、裏では人生を掴み取ろうというぎらぎらとした上昇意識を持った者も大勢いた。その中でも、義務教育を終えていた他の使用人よりさらに十は幼いヤスは明らかに異例。蔵臼や夏妃は金蔵に問うたが、その頃はもうオカルトの世界に入り浸り、話も満足に通じないほどになっていた。
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 犯人?
理御は意識を取り戻していた。ヤスとは19年前、夏妃に崖から落とされたが命拾いした赤ん坊。別の世界での理御。金蔵が赤ん坊を死んだと思っていたのは、恐らく源次の配慮。機を見て金蔵に打ち明けるつもりだったのだろう。(詳しくは後述)
屋敷ヤス 紗音 使用人ルシファー レヴィアタン サタン
使用人達は、表では祝福された音の字の名前でやり取りし、裏では大切な自分達の渾名で呼び合っていた。ヤスは苗字が安田だからヤス。しかし大抵先輩の使用人はからかう時や陰口の時にしか彼女の話題を出さないため、ヤス本人としてはその名前を嫌っていた。
紗音は、特別だから幼くしてから働けたんだと彼女を励ます。
舞台劇場クレル ゼパル フルフル 源次 南條 観客達
源次は語る。あの時、崖から落ちた赤ん坊は生きていた。まだ戸籍を用意していなかったので、死なれては困る時期だったという。源次は金蔵に対し一つだけの不信感を持つ。金蔵の、九羽ベアトを孕ませた過ちがまた繰り返されるのではないか。そう思い源次は金蔵に赤ん坊は事故で無くなったと告げるが、彼はいずれ主に真実を話そうと考えていた。
当時金蔵も、嘆き苦しんでいた。九羽ベアトへの父としての愛情と、成長するほどに愛した女にそっくりになっていく娘への男女としての愛情と、理性と感情の狭間で苦しんでいた。しかし、金蔵の原罪は娘を愛人と同じ名前をつけたことから始まっているのだとクレルは詰る。
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 犯人?
金蔵が罪を悔い、夏妃も赤ん坊を受け入れ、正しく右代宮家に迎え入れた存在こそが理御。
福音の家からの使用人として、正体がばれぬよう年齢を三つ詐称させて源次は彼女を屋敷に入れる。父子としての愛情を持ってさえいれば、いつか母に似るヤスに気付き始めるだろう。その時に明かせばよいと彼は考え、黙する。
  • BGM: Golden_Nocturne(inst)(幕開け●)/far(inst)(春の匂い、新たな生活●)/おもちゃ箱(物語は1976年から始まる●)/rain(就学前の使用人)/lie-alaia(源次と理御)/おもちゃ箱(祝福されし)/fall(過去を語りし家具と医者)/l&d-circulation(理御とは)

[編集]初めての友人


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(レースのエフェクト)
礼拝堂ヤス 紗音 使用人サタン ベルフェゴール
第二章“初めての友人”。

年に一度の礼拝堂の大掃除後に、ヤスは自分担当の掃除道具を無くしていることに気付き、急いで礼拝堂の中を探す。他の使用人達は休憩もしくは雑務をこなすため、ヤス一人を置いて屋敷に戻っていった。
舞台劇場クレル ゼパル フルフル 紗音 嘉音 熊沢 郷田 観客達
ヤスはこれを、六軒島の悪霊の力を借りて生まれ変わった魔女ベアトリーチェの仕業だと察する。熊沢はよく新しい使用人に悪食島の亡霊の話やベアトリーチェの怪談をして大層怖がらせる。大勢の使用人はその怪談を胡散臭いと思いつつ職場での通過儀礼として話を合わせたり、怖がって楽しんだりはしたらしく表面上だけは魔女を信じ、空気を読んでいた。が、まだ幼いヤスはその話を鵜呑みにしていた。
礼拝堂ヤス ガァプ
日はどんどん傾き、暗くなっていく。
ヤスは見えない魔女の悪戯にいつも困らされていた。彼女にだけ纏わり付き、ふと気を緩め目を離した瞬間に物が消えて、かといって用心深く見張り続けると今度は消えない。
彼女は礼拝堂の中で魔女の嘲笑を聞き、悔し涙を零しながら、見えない魔女に怒りをぶつける。掃除道具のチビ箒を探すうちにヤスは、魔女が箒を操り、探し回っている自分を嘲笑っていると考える。
「もう、いい加減にしてよ…!!いつまで私をからかうの。今日だけじゃない、いつも、いっつも!!」
ヤスは箒を返してもらおうと、魔女の姿を見ようとする。何もないことを目で知れば、視えなくなってしまう。福音の家の園長に習った、心の眼で神の慈愛を瞳に映す方法で、“この世ならざる者”を視ようとする。彼らにとって、理解されることは辛きこと。
「ニンゲンの分際で、……我が姿を、捕らえたか……。」
ヤスはベアトリーチェの姿を捕らえる。真っ赤なドレスを着、ブロンドの髪をロールさせた悪魔的な姿をしていた。(立ち絵はガァプなので以下便宜上ガァプと呼称)
箒はヤスを遊ぶ道具。ガァプはそう言うが、どうやら心底退屈な毎日だったようで、ヤスはそこをつき、話し相手になったら悪戯をやめるようにと頼む。
こうして彼女は、この世ならざる存在と縁を持ってしまう。後に運命を大きく変える出来事だった。
(ガァプの正体はヤスのイマジナリーフレンド?悪戯はただ単に先輩使用人の嫌がらせか、自分の不注意―幼いゆえの責任転嫁か―かもしれない。赤いドレス姿は悪魔的の想像だからとして)
舞台劇場クレル 観客達
あぁ、我こそは我にして我等なり。
「しかしながら、これは本当のベアトリーチェとの出会いではない。我が、ベアトリーチェと呼ぶその魔女は、後に他の名で呼ばれることとなる。」
  • BGM: far(inst)(礼拝堂でのミスと六軒島の怪談)/witch_in_gold(cembalo)(魔女の気配)/lie-alaia(嘲笑と歯軋り)/terminal_entrance(魔女を捕らえる●)/lie-alaia(数奇で歪な運命)

[編集]虜になる日々


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(レースのエフェクト)
舞台劇場クレル ゼパル フルフル 紗音 熊沢 使用人ルシファー レヴィア サタン ベルフェ 観客達
第三章“虜になる日々”。

ヤスを詰る使用人達。熊沢と紗音はそれを庇うが、ルシファーらは、エリートの仕事に何故あんな要領の悪いヤスが選ばれるのかと、当時は不満だらけだった。
厨房ヤス ガァプ 熊沢
またしても物を魔女に隠され、今度は夏妃に叱られたヤスは、色々と面倒見がいい熊沢に相談をする。熊沢は、魔女の悪戯に対抗するために、なくしやすい鍵に糸(魔女が恐れる蜘蛛の糸に見立てた凧糸)を括り付けたり、そう出来ない物を“お家に帰す”おまじない(片付ける習慣といったところか)等の方法を彼女に授ける。
ガァプはそれから容易に物を盗れなくなり、そんな方法を身に付けさせたのは自分だと胸を張る。失敗を恐れるから気をつけようと努力する。努力が実り成功するようになれば向上心がつきまた努力する。ガァプはそれを一罰百戒だとヤスに教える。
舞台劇場クレル ゼパル フルフル 紗音 熊沢 観客達
運命的にも、ベアトリーチェの子供がベアトリーチェに悪戯をされると言って来た時は、母親が魔女になって物を片付けるように教えているのではと思ったと、熊沢は言う。あれから目に見えて失敗は減り、ヤスの笑顔も多くなっていった。
屋敷ヤス ガァプ 源次 紗音 使用人ルシファー レヴィアタン サタン
一つの鍵束が落とし物として現れる。ルシファー達はヤスの顔を睨むが、彼女は誇らしげに糸を引く鍵束を高らかに上げる。
その落とし物は結局ルシファーの物だった。源次に軽く誡められた彼女は真っ赤になって俯く。
舞台劇場クレル ゼパル フルフル 紗音 熊沢 観客達
失敗をなくし余裕を持てれば人間を豊かにするとガァプは言う。要領よく仕事をこなし、余った時間で適度に休む。熊沢はそれを信条にし過ぎだが、あの源次でも酒をくすねたりして休息を取っているのだとか。
ヤスもそういったことを覚え、熊沢との交流をするようになる。彼女は意外にも推理小説を愛読し、その影響でヤスも学校の図書室に置いてあるような簡単な本からミステリーを極めるようになる。推理の談義が、ヤスにとって非常に楽しい一時なのであった。
新島・夜ヤス ガァプ 紗音
寮でミステリー本を読んでいるヤス。紗音はそんな彼女を微笑ましく眺めながら、入浴するために部屋を出て行く。その後ガァプが現れ、ヤスに語りかける。
十人しかいない島に存在する犯人。十一人目を疑うとお約束が崩れてしまうと返すヤスに、犯行は魔女の仕業かもしれないとガァプは言う。
犯人の告白であるメッセージボトルが流れ着いたら、人間の推理小説。本の最後の数ページを破いてしまえば、それは魔女が犯人の幻想小説。
つまりミステリーとファンタジーは紙一重。答え無き推理小説の犯人は魔女だと語る魔女は、ヤスが犯人が誰か分かるかどうか賭けをしようと提案する。
「魔女と人間の戦いでもあるぞ。妾の密室殺人という名の魔法を許すか、否定するかの、ミステリーという名のチェスである!」
495年の魔女・オーエン卿を応援するガァプ。結局この戦いは、ヤスが最後まで犯人を名指しできなかったため、魔女の勝利に終わった。
舞台劇場クレル 観客達
あぁ、我こそは我にして我等なり。
我を虜にする、楽しき知的ゲームに、乾杯……。
  • BGM: おもちゃ箱(音の使用人シスターズ)/le4-octobre(魔女の友人の教え)/far(inst)(成長、学び)/le4-octobre(ニンゲンと魔女のチェス)

[編集]新しき日々


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(ガラスの割れるエフェクト)
舞台劇場クレル
第四章“新しき日々”。

そして月日は降り積もる。春夏秋冬が過ぎ去り、環境も変わっていく。ルシファーら使用人が一気に辞めて行ったのだ。
1977~1979年 六軒島
玄関ホールヤス 紗音 使用人ルシファー レヴィア サタン ベルフェ ベルゼブブ(鐘音) アスモデウス(明日音)
ヤスだけを残し、仲の良い使用人達は同時に社会へと羽ばたいて行く。研修のような扱いである音の使用人達はだいたい2~3年を目安として働いていた。その頃ならば給金もしっかり得られ、社会では高校卒業程度の歳になるためだ。ヤスは、幼いながらも一番の古参になった。
最後まで半人前扱いされていた彼女は、自分を虐めた先輩達をすっかり忘れて次の後輩達の見本となるように決意する。
そして新しい使用人がやってくる。明日音(あすね)(容姿はアスモデウス)と鐘音(べるね)(容姿はベルゼブブ)と名乗る二人。
舞台劇場クレル ゼパル フルフル 紗音
福音からの使用人は、理事による面接と、日々の素行等で派遣されるかどうかが決まる。とどのつまり表面上だけの者でも合格する可能性もあった。明日音と鐘音もそういった二人で、ヤスは年下だが先輩としてしっかり導こうとしたのだが…。
屋敷ヤス 紗音 使用人ベルゼ アスモ
ヤスと紗音の忠告を真面目に聞かない明日音と鐘音。ヤスは魔女が悪戯すると脅すが、蛙の面に水。
「魔女なんてそんなのー!」
「いるわけないすィ~!」
舞台劇場クレル ゼパル フルフル 紗音 使用人ベルゼ アスモ
「いるわけないです。……魔女なんて。」
「悪戯だと思ってました。いや、……そう思っていられるうちが気楽だった気がします。」
魔女の存在の有無を尋ねるゼパルとフルフル。明日音は魔女を完全に否定していたが、鐘音は何かが“い”たと話す。
悪戯にしては執拗で難儀なことが鐘音の身には度々あった。明日音はヤスの日頃の仕返しだと言うが、鐘音はそれに食って掛かる。
不可解で執拗で繰り返される“誰か”の悪戯。怪談の話は、笑い話ではなくもっと迂闊に口にしてはいけない物だと二人は考え始める。鐘音は最初こそヤスを問い質したが、だんだん恐ろしくなり、ついにはヤスにその事を打ち明けるようになった。そして貴賓室の人形や鎮守の社に御参りに行ったとたん、ピタリと悪戯は止まったらしい。もし魔女の話を馬鹿にし続けていたら明日音も絶対に祟られていたと繰り返す鐘音。
客室ヤス ガァプ 紗音 使用人ベルゼ アスモ
客室の掃除中、鐘音はヤスの忠告を無視し、鍵束をベッドに放り出し、明日音と喋りながら仕事をこなす。現れたガァプはそれを狙う。
「我が魔法を見せてやるッ!!我が友の忠告に耳を貸さなかったこと、後悔させてくれるッ!借りるぞ、そなたの体ッ!!わずかのひと時、再び、我が身を現世にッ!」
ヤスが止めようとするが時既に遅し。ガァプはヤスの体に潜り込み、支配する。
ヤスからしてみれば細胞中が粟立つ感触。未知でいて、それは甘美なる体感。彼女の中のガァプは魔法を使う。指先が震え、力が放たれる。鐘音の鍵束から、音も無く一本の鍵だけを家出させ、鐘音のロッカーへと黄金の蝶々が飛んで行く。(ヤスの見解では、金蔵に黄金を授け、蜘蛛の糸を嫌うから黄金の蝶らしい)ガァプはそれを終えると彼女の中から消えていく。
ヤスは今の体験が白昼夢かどうか確かめる為に、鐘音に部屋の施錠を頼む。掃除を終えた彼女はベッドの上の自分の鍵束を掴むが、この部屋を閉ざせるマスターキーだけが消えていた。
鐘音はこの部屋を自分の鍵で開き、自分の鍵で閉めようとした。しかし鍵束を放っていたとはいえ、消えたのはこの部屋の中でのこと。鍵をまとめるリングは硬く、音がすれば彼女らはすぐ気付く。マスターキーの姿を求め、ヤスと明日音を連れて探し回ったところ、それは鐘音のロッカーの中に置いてあった…。
新島・夜ヤス 紗音
ヤスは寮のベッドの上で、自らの手を見つめる。恐らくそれは知ってはいけない感情で、未知でいて新たなる麻薬のような物。魔法を使った指は、興奮で眠ることは出来なかった。
紗音はヤスにとって、皆から愛されて明るく立派で模範的な憧れの使用人。しかし、今となっては友達はもはやヤスのみ。そんな彼女にヤスは使用人を止めると告げ、指に残る感触を頼りに黄金の蝶という奇跡を残し、紗音の前から姿を消す。彼女は呆然とその姿を見送った。
カケラ世界ヤス ガァプ
ここは、私と私達だけ。そう呟くヤスの姿は、自分のカケラ世界にあった。
「使用人ごっこは、もうやめる。………世界を、変更。」
「………うむ。了解したぞ。それでは、如何様にしたものか。」
そしてヤスとガァプは設定を変更し始める。
妾という一人称をガァプから貰い受け、ヤスはベアトリーチェになる。蜘蛛の糸と、霊鏡・または鏡自体を苦手とし、黄金の蝶々を魔法の媒体にする。
ベアトリーチェだったガァプは、“ベアト”の友人の魔女。まだ名前が無く、話し方を変えることが設定された。
紗音からヤスの記憶をなくし、相部屋は一人部屋に。
ヤスの容姿は、貴賓室を彷徨う亡霊をイメージした、白く清楚な魔女…。
舞台劇場ヤスベアト ゼパル フルフル ガァプ
「………このような姿ではどうか。」
ゼパル達はそれを可愛がる。(容姿はクレル。以下、便宜上ヤスベアトと呼称。)魔女となったヤスベアトとガァプは、前々から魔女の部屋と噂される貴賓室に留まることに決める。ヤスベアトは、遥か下の寮の屋根越しで静止している紗音に、ヤスとしての最後の別れを告げる。
(この場所は舞台劇場だが、“我”の一人称が“妾”になっていたり、物語を俯瞰してはいない。ここはヤスの心象世界で、クレルと観客達のいる方の劇場はこれを再現したもの?)
新島・夜紗音
紗音は自分の行動に違和感を覚える。誰かが這い出たようなベッドがある。しかし、その部屋には自分のベッドしかない。そが自分のベッドと思えない。疲れて寝ぼけたのかもしれないと思い、熊沢との推理談義を楽しみにして彼女は眠りにつく。
私は、紗音。ひとりぼっちの使用人。時々失敗もしちゃうけど、……誰からも愛されるやさしい使用人になりたい……。
舞台劇場ヤスベアト
新たなる魔女の決意。

あぁ、我こそは我にして我等なり。これより我は、千年を経た黄金の魔女、ベアトリーチェであるぞ!
さぁ、我等の世界にて全てを飲み込もう!それはまるで波濤のように!
今宵もニンゲンの書物を肴に神秘の月を飲み干そう!これがミステリー?これが密室?笑わせる!その程度がニンゲンには不可解な犯罪とな!
ミステリーに飽きれば、蝶に姿を変えて島を屋敷を!広大な森を!自由気ままに散歩しようではないか。臆病なる夜回りの使用人の後を、つけて回り、そのガラスに姿を映して肩越しに笑ってくれようぞ!
妾の想像力こそが、我が魔法の源なのだ!それを無限大に広げてやろうぞ!島の夜は全て妾のものなり!!
あぁ、我こそは我にして我等なり!愉快なる魔女の世界に、乾杯ッ!!
  • BGM: おもちゃ箱(自分だけを残し)/人形劇(やっぱり新しい使用人も●)/terminal_entrance(怪談を信じた鐘音)/goldenslaughterer(それでも改めない)/継接キメラ(甘美なる魔女の世界)/l&d-circulation(陰鬱なる人間の世界)/apathy(決意)/l&d-circulation(紗音への置き土産)/terminal_entrance(世界の更新、魔女の目覚め)/Loreley(紗音は眠りにつく)/Golden_Nocturne(inst)(開眼)

[編集]新しき元素


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(レースのエフェクト)
1980年 六軒島
玄関ホール夏妃 源次 紗音 使用人マモン
第五章“新しき元素”。

年に一度の親族会議の最終確認に慌てる六軒島。源次や紗音、マモン達は夏妃の指示のもと準備に勤しんでいた。
新島・夜紗音
紗音は既に年季の入った使用人であるため、かなりの重労働を強いられていた。その為彼女は寮で深い眠りにつく。
メタ・薔薇庭園ヤスベアト ガァプ 紗音
「―やれやれ。相も変わらず、使用人の仕事とは退屈であるな。もういい加減、飽きもせぬか。その生活に。」
その言葉に紗音は目を覚ますと、一面に広がるは黄金の薔薇庭園。黄金の蝶々が舞い、荒涼な風が吹く。驚きを隠せない紗音の前にヤスベアトが現れる。
紗音の記憶からはヤスという存在はない。ヤスベアトは人間から魔女になる際に、そう自分で消去した。ヤスベアトは紗音を認識しているが、対する紗音は彼女とは初対面になる。(紗音にとってベアトリーチェは金蔵の恩人であるベアト、夜の屋敷のもう一人の主としてのみの記憶しかない。)
彼女達二人は黄金郷でささやかな茶会を楽しむ。そうした時間が過ぎ、紗音はそろそろ帰らないとと切り出す。ヤスベアトは、何故使用人のようなみすぼらしく労いのない世界に戻るのかと問い、この世界は無限の時間だからと彼女を引きとめようとする。紗音を迎えに来たつもりだった。使用人の仕事など放り、魔女の世界でいつまでも愉快な日々を送ろうと。しかし紗音は、ニンゲンの世界にはここにはない楽しみがあると語る。
「あなたはもう、それをご存知だと思います。だから、私をここへ招いてくれたのではないですか…?」
魔女は拗ね、紗音を眠りの世界へと追放した。
満たされた黄金郷に、一つだけ満たないなにかを知りたいと望むヤスベアトだったが、紗音は柔らかに微笑んでいた。現れたガァプは気にすることはないと慰め、改めて茶会をしようと言うが、彼女は憮然としていた。
屋敷朱志香 絵羽 秀吉 譲治 留弗夫 明日夢 戦人 楼座 真里亞 源次 川畑船長
親族会議当日。島に到着した一同を迎える源次。
六年前はまだ縁寿も生まれていなく、明日夢も右代宮家に名を連ねていた。
舞台劇場ヤスベアト(クレル?) ゼパル フルフル 朱志香 譲治 戦人 紗音 観客達
“ニンゲン世界にしかない楽しみ”の答えを求めて、ヤスベアトは紗音の近くで俯瞰する。
当時のいとこ組は中学生そこそこ。また紗音も歳が近いことから、四人で遊びまわっていた。朱志香にとって六軒島で最も歳が近い唯一の女の子が紗音だった為、交流を深めていったことが始まり。ヤスベアトはいつの間にかの交流に驚きを隠せなかった。
夜に親に聞かれたくないような話をし合ったり、四人は青春を謳歌していた。そのなかで、恋も。
六軒島戦人 紗音
推理小説を紗音に手渡す戦人。ひょんなことから互いにミステリーマニアであることを知り、それからはいとこ組四人とは別に、推理を語らう関係を持っていた戦人と紗音。しかし二人でいる時間を重ねるごとに、いつの間にか互いにほんのりと恋を意識し始めていた。
ホワイダニットの大事さを語る戦人。動機を推理出来なければそれはアンフェアな物語ではないか。殺人に至るまで人は心で動き、即ち人を殺すのは結局心なのではないか。
紗音に熱弁した後戦人は、もしいつか使用人を辞める日が来たらと続ける。
「その日が来たら………、俺が白馬に跨って、迎えに来てやるぜ。」
突然のことに紗音は恥じらいながらも、決心を一年後に出すことを言う。その時まで互いが想い合っていれば、私の人生を貴方に捧げると。
「絶対ですよ。来年、来て下さいね。」
(ガラスの割れるエフェクト)
メタ・薔薇庭園ヤスベアト
魔女は、自分に欠ける元素を理解する。知ったらもう戻れない感情だと呟き、一人ぼっちの黄金郷で、紗音にもっとそれを見せるように求める。
  • BGM: far(inst)(年に一度の親族会議)/one(金色の夢)/praise(友人達の茶会)/apathy(不思議の国のアリスは現実へ)/witch_in_gold(cembalo)(追放)/hope(親族達がやってくる)/HANE(青い春)/Praise(恋心)/なまえのないうた_ver.2007(果たせぬ約束)/soul_of_soul(クレルの嘆き)

[編集]試される日


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(レースのエフェクト)
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 クレル・ヴォーブ・ベルナルドゥス(犯人?)
ベルンは礼拝堂に訪れた犯人に、仮の姿と名前を与える。
それが純白のドレスを身に纏うクレル・ヴォーブ・ベルナルドゥス。異なる理御の物語であり、ベアトリーチェを演じる者の仮の姿。
理御は、異なる自分の恐ろしき事件と、異なる自らが語る物語を聞いてなお理解できないと叫ぶ。クレルですら、その当時はまだ事件を起こす力も考えもなかった。不幸は碑文の謎を解いたこと。
「事件毎に異なる共犯者を得るシステム。導き出される推理は、犯人が莫大なカネを持っていたという可能性。そして、全てを黄金郷に招き、全ての恋を成就させる、もう一つのシステム。」
それこそ第四のゲームの最後の謎。(爆弾で六軒島を猫箱に閉ざし、全ての者が結ばれる可能性を残すこと?)
碑文を解き、黄金の魔力を得た。そして罪を犯した戦人が“1986年に”帰ってきた。一つ一つが独立した出来事だったら。もし戦人がいっそ永遠に帰ってこなければ。あれほど大きな事件にはならなかっただろうとクレルは語る。その二つが結びついて、動機は目覚め、1986年の全てを壊す事件は引き起こされる。

「では……。……引き続き、語りましょう。私が、事件を決意する、六年前から。第六章。“試される日”。」
屋敷蔵臼 夏妃 留弗夫 源次 紗音 熊沢 マモン
戦人が右代宮家の籍を抜けたことを(恐らく給仕の際に)立ち聞きしたマモンは、紗音にそれを話す。
客間で話し込む蔵臼夫妻と留弗夫。夏妃は、霧江との不倫を咎め留弗夫を詰っていた。
明日夢の存命時に霧江と子供を作ったことは事実。戦人は激怒し、自分から家を飛び出た。金蔵もそれにカンカン(蔵臼談)らしい。明日夢が亡くなったのはあくまで偶然だと慰める蔵臼だったが、留弗夫は泣きながら、まるで明日夢は、不倫相手との子供が出来たのをきっかけに幕を降りたようだと言い、自分の地獄行きは決定だと皮肉る。(明日夢は霧江との関係を知っていた?それに絶望して何らかの死因で息を引き取った?)

戦人が籍を抜けたという一報は、右代宮家を駆け巡った。熊沢は戦人に同情しつつも、源次は仕方ないことだと言い、霧江の顔を覚えることが大事だと諭す。
メタ・薔薇庭園ヤスベアト ガァプ
ならば戦人は六軒島には来ないのではと考える魔女達。
新島・夜紗音
紗音は自分のベッドの上で一人涙する。戦人の事情も分かるが、約束は果たしてくれるだろうかと不安になる彼女。そこに夢の中で遠く近く呼びかける声があった。
メタ・薔薇庭園ヤスベアト ガァプ 紗音
家出程度に尾ひれがついただけだと紗音を慰めるヤスベアト。気持ちこそ僅かに和らいだが、来年の親族会議に戦人の元気な顔を見られるまでどうしても胸が痛む彼女。
ガァプは唐突に訊ねる。迎えに来るとは言ったが、実質戦人と共に人生を歩み出すことと同意。その覚悟の有無をガァプは問いかけるが、紗音は慌ててその将来について考え始める。ささやかながらも素敵な人生を夢見た彼女に魔女達はこれは“試練”だと告げる。戦人を信じて待つがいいと言う二人に、紗音は少しの心の安定を覚えた。
1981年 六軒島
六軒島蔵臼 夏妃 朱志香 絵羽 秀吉 譲治 留弗夫 霧江 縁寿 楼座 真里亞? 紗音
一年後の親族会議。または事件の五年前、1981年。
戦人の替わりに、霧江は縁寿と共に親族会議に出席していた。客間にて親組は戦人について話すが、留弗夫達の家庭の事情を察し、話を避けることにする。
ところかわって薔薇庭園。いとこ組は戦人が抜けて物足りない様子だった。男の巣立ちでは、もう戻ってこないかもしれないと呟く譲治。
メタ・薔薇庭園ヤスベアト ガァプ 紗音
戦人が来なかったことに―去年の励ましのせいもあるのか―少し罪悪感を感じるヤスベアト。紗音は心中こそ不安でいっぱいだったものの、“試練”を心棒としてとりあえず表面上は落ち着いた様子に見えた。自分の決意が整った日に戦人は来ると彼女は考えるようになる。
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 クレル
しかし戦人が帰ってくるのはその五年後・1986年のことである。軽率な言葉は人を殺すかもしれないとウィルは言うが、クレルは複雑な表情を浮かべる。
  • BGM: fall(偽り)/透百合(籍を抜けた戦人)/rain(信じ続ける君に)/hope(ささやかな励まし)/月夜(空いた席は埋まって行く)/白い影(戦人へ募る想い)/l&d-circulation(果たせないと知っているからこそ)

[編集]恋の芽、恋の根


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(レースのエフェクト)
1982年 六軒島
朱志香の部屋朱志香 紗音 マモン
第七章“恋の芽、恋の根”。

ある日曜日。朱志香の部屋で、恋愛話に花を咲かせる朱志香と使用人達。蔵臼夫妻は新島での会合で遅くなるらしく、この日ばかりは使用人達との交流を咎められることなく、無遠慮に女同士で語り合っていた。
喧騒から少し離れ、窓の外を見上げ感傷に浸っていた紗音。戦人との約束について考えていたところに、いつからかそんな話になっていたのかマモンと朱志香は男との約束はアテにならないと話しているのが耳に入る。(もちろんマモンは紗音の心を読んだわけでなく)紗音は驚きつつも、意識を向ける。男からしてみたら軽い一言でも、女はいちいち何かを感じてしまうらしい。男女の価値観の違いは大変だなと呟き、痛い女だけにはなりたくないと放る朱志香。
六軒島蔵臼 夏妃 朱志香 絵羽 秀吉 譲治 留弗夫 霧江 縁寿 楼座 真里亞 源次 熊沢 紗音
今年も戦人は親族会議には欠席し、もはや誰の話題にも彼はいないことにショックを受ける紗音。彼女はいとこ組の中でそれとなく話を切り出すが、朱志香と譲治は、向こうでもうまくやっているだろうと返し、右代宮を忘れているくらいがちょうどいいと紗音に微笑みかける。
新島・夜紗音
朱志香と譲治の話を心の中で否定する紗音。
新しい生活になじんだ戦人の夢を見、泣き腫らして朝を迎える。それでも信じ続けようとするが、鏡の前の自分が、あれは本当に“約束”だったのかと囁き掛ける。
しかし、それら全てを神様からの試練だと心を一本の線で支える彼女。
1983年 六軒島
六軒島絵羽 秀吉 譲治 留弗夫 霧江 縁寿 楼座 真里亞 紗音
今年も去年と変わらない親族会議。屋敷までの道を先導する紗音は、その途中に霧江達が戦人の話をしていることに気付く。
霧江が言うところ、戦人と留弗夫は互いに喧嘩を引きずっているだけで、謝るタイミングを掴めていないらしい。戦人というより明日夢の両親が腹を立てているようで、仲直りこそすれ、右代宮家に帰ってくるつもりは戦人にはもうないと霧江は朱志香と譲治に話す。また彼女は戦人にいとこ組への手紙を書かせたため、それが入った茶封筒を取り出し譲治に渡す。一通一通宛先が違うらしく、譲治・朱志香・真里亞・縁寿にそれぞれ配る。
「……あの、……それで、全部ですか…?」
「うん。これで全部みたいだね。ありがとう。」
ゴミを回収しようとしたと思われたのか、紗音は譲治に空の茶封筒を渡される。彼女宛ての手紙はなかった。
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 クレル
その後、彼らの文面にも六軒島には帰るつもりはないことや、向こうでも元気でやっている件等、紗音の望む文字は出てこなかった。
恋は錯覚。戦人の罪は約束を覚えてさえもいなかったことだとウィルは言う。忘れられた約束は問い詰めることすら出来ないと理御に説明するクレル。ただ、もともと約束なんてなかっただけの滑稽な物語だと自虐的に。
新島・夜紗音
紗音は深く傷つき、ベッドで泣いた。互いに想いあっていると信じていた紗音は、自分の傲慢が許せなかった。
メタ・薔薇庭園ヤスベアト 紗音
ヤスベアトは、無神経な発言で彼女を傷つけたと自分を責める。紗音を苦しめる恋の根は自分が水を蒔いて(囃し立てて)しまった。自らの咎だと考えた魔女は、捨てることも枯らすことも出来ないその根を預かると言い出す。自分には唯一欠けた元素を、紗音は心の安定を。両方の利得になると語る魔女。
「そなたは、恋の芽という宇宙を、戦人と二人で生み出した。……その片方が欠けたから、そなたの宇宙が壊れたのだ。」
その片方を新しく満たそうと、紗音に(福音の家で実の弟のように可愛がっていたという設定で)弟を与える。
カケラ世界ヤスベアト 紗音
世界を再び変更する。(紗音はここをどこかで見た気がしていた)
恋の芽を、紗音からベアトリーチェに。
容姿は戦人の好みにあわせ、夜に君臨する魔女に恋心を移植させる。
紗音には寡黙な男の子が新しい使用人としてやって来る。源次と同じく、金蔵直属の特別な使用人として。
さぁ、世界を、変更。あぁ、我こそは我にして我等なり。
目覚めなさい、我等たち。そして新しい世界に羽ばたきなさい……。
新島・朝紗音
そして彼女は新しい朝を迎える。顔は泣き腫らした酷いものだったが、心は清清しく透明であった。
新しい使用人が来る旨を源次から伝えられていた彼女は、急いで身支度をし始める。
  • BGM: 月夜(女子会)/fall(恋の根、恋の芽)/久遠(忘れられない)/cage(懐かしき人の話題)/hope(望み)/dead_angle(六軒島には帰らない)/Fortitude(失意、朽ち果てる錯覚の恋)/s/he-end(恋を預かるクレル●)/le4-octobre(新しい朝)


[編集]黄金郷への旅立ち


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(レースのエフェクト)
1984年 六軒島
玄関ホール金蔵 蔵臼 夏妃 源次 施工業者の社長 業者さん達 作業員
第八章“魔女の蘇る日”。
そうして魔女の肖像画が屋敷の顔である玄関ホールに置かれる。源次は傷つけぬようにと業者達に念を押し、蔵臼と夏妃はそれに立会っていた。夏妃は渋い顔をするが、当主の気紛れだから仕方ないと溜息をつく蔵臼。そこに金蔵が様子を見に来る。右代宮家の復興のきっかけであるベアトリーチェの姿をここに飾るのは当然だと言う金蔵。長男夫妻は肩を竦めて再び肖像画を仰ぎ見ると、あるプレートを見つけ、それを金蔵に訊ねる。
「懐かしき、……故郷を貫く、鮎の川……?」
「ふ。好きに読み、好きに解釈するが良い。」
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 クレル
それこそ碑文の誕生。“誰にも解けない謎”を解くという奇跡が、自分が最も欲する人間を導くのではと金蔵は恐らく考えた。ただし理御の世界にはそれがないことから、碑文の存在はやはり後継者を決定する為のものだったのかと理御は問う。
「十三人の生贄を捧げれば、魔女が蘇ると読み取れる、謎の儀式。……しかし本当の儀式はそれではない。……奇跡的に解ける誰かを待つ。そちらこそが、本当の儀式。」
源次は、その金蔵が欲する者の正体と生きていることを知り黙していた。金蔵はそれさえも考慮して、わざと碑文を与えたのかもしれない。運命は偶然か、意図的な物かはもはや知りようもないが、後に魔女ベアトリーチェは本当の意味で復活することとなる。
六軒島ヤスベアト 絵羽 秀吉 源次 紗音 嘉音 熊沢 郷田
(ヤスベアトは戦人の好みに容姿を合わせた為、クレルの姿から姉ベアトの姿になっていた。)
金蔵の知るベアトリーチェの姿を初めて肖像画より知ったヤスベアト。プレートの内容を見て、今まで彼女が“理想郷”と呼んでいた世界(メタ化の薔薇庭園)を“黄金郷”と呼称することに合わせた魔女。更に碑文を読み進めると黄金郷の章あたりで目が止まる。
「ニンゲンが至れば、莫大な黄金を手に入れるであろう。………しかし、妾が至れば、自らの復活を得る…。」

場面変わって使用人達の会話。碑文が10tの黄金の在り処を示しているとの噂に花を咲かせる熊沢と郷田。紗音と嘉音はそれに加わり話し込んでいた。

訪れた絵羽達は巨大な肖像画に驚き、碑文のプレートを見て源次に問い質す。“謎”は全ての者に公平に与えられているようだと答える源次に、次期当主はこの謎を解いた者にあると解釈した絵羽は笑い出す。
とある店留弗夫 霧江
碑文について考える次男夫婦。やはり、碑文により次期当主の座と10tの黄金を得ることはほぼ確実だという論に達するが、簡単には解かせては貰えないだろうと霧江は呟く。
楼座宅楼座 真里亞
碑文を書き写したメモで謎に挑むが金蔵が懐かしむ故郷以外全く分からず、楼座は馬鹿馬鹿しいと投げ出す。真里亞は碑文を見るなり、ベアトリーチェが復活すると狂喜する。
書斎金蔵 源次
場所は当主の書斎。親族達が謎に挑んでいると金蔵は知ると、奇跡に祝福された者以外解けはしないと嘲笑う。難解だからこそ、解けた者が現れたその時ベアトリ-チェ復活の奇跡が訪れる。それは金蔵の魔法体系そのものだった。彼の人生は、唯一の元素で人間を構成するものだと知る旅だったのかもしれない。
源次は、もしもと口にする。
「お館様は、すでに一度、ベアトリーチェさまが生まれ変わるという奇跡を、ご経験なされております。その奇跡が、再び起こったなら。…如何なさいますか。」
「…私との日々など、何も覚えてなくて構わん。ベアトリーチェでさえあったなら、誰でも構わぬ!…私はただッ、…謝りたいのだ…!」
金蔵は若き日の過ちを深く悔いていた。老いたからこそ咎を感じ、謝罪だけを求めた。
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 クレル
この碑文の謎は金蔵と源次にしか悟れぬ意味を持っていた。私は全てを準備されたシンデレラに過ぎないと運命を否定し、必然を挙げるクレル。
意図の読めない理御に、探偵と犯人はこう説明する。碑文は、解かされたものだと。恐らく金蔵の謝罪の機会を作ろうとして、源次がその者に答えを与えたのみの話。結局、クレルには岐路の選択の権利は与えられていなかった。
舞台劇場クレル 観客達
あぁ、我こそは我にして我等なり。
なれど我等、運命に抗えたるためしはただの一度もなし。我等など、所詮は渦に舞う木の葉に同じ。どのように舞おうとも、渦に飲み込まれて消えるのみ……。
メタ・薔薇庭園ヤスベアト マリア さくたろう ワルギリア ロノウェ ガァプ
マリアは名も無き悪魔達に(七十二柱の悪魔の能力に応じ)名前を与える。(ワルギリア、ロノウェ、ガァプ)形が依り代となるように、名前も強力な依り代・または命だと語る彼女に、ヤスベアトは礼として、いつもの様にマリアの友達の絵を描いてやる。さくたろうによると彼女は絵心があるようで、今回はウサギの友達に姿を与えてやることにするヤスベアト。描きながら会話する彼女に原初の魔女は、名前だけでなく色々と特徴を決めてやると良いと教えられ、無限の魔女は眷属を更に深く広く広げてやることを思案する。ロノウェは、ゴールドスミスの倉庫整理の折に見つけた物騒な道具(煉獄の七杭?)を新しき眷属達の依り代にしてはと提案する。
そうして、どんどん原初の海から仲間が生まれていく。それが真里亞の魔法だと自身は胸を張り、ベアトはお友達に姿を与えて育てることが出来るとマリアは言う。
東屋ヤスベアト 真里亞 さくたろう(人形)
しかし時折そんな楽しいひと時にも、空虚な気持ちになる時がある。ヤスベアトは戦人のことを想う。真里亞とは、仮の世界を作るもう一人でしかなく、本当の世界のもう一人は四年も帰ってこない。もちろん真里亞がいてくれたからこそ自分は生き延びているのだと彼女に感謝しているが、ヤスベアトは満たないのだと呟いてしまう。戦人への恋心故のその言葉だとはもちろん知る由もない真里亞は、満たない魔力が復活する碑文を解くべきだと勧める。
玄関ホールヤスベアト 源次 紗音 嘉音
肖像画の前で、乗り気ではないながらも進められたとおり謎に挑むヤスベアト。そんな彼女に近づく足音があった。源次、紗音、嘉音が碑文について話をしながら歩いて来たのだった。
10tの黄金にはあまり興味が無く、穏やかな日々が続けばいいと言う紗音に、嘉音は譲治といい雰囲気だからとからかう。源次は肖像画の前で足を止め、何を思ったか呟く。懐かしき、故郷。
「台湾だ。」
嘉音は金蔵が何故ビンロウを好むのかが繋がったと納得する。源次は、お前も謎に挑んでみろと紗音に告げ、去って行った。紗音と嘉音もその後について行く。
ゲストハウス書庫ヤスベアト
ヤスベアトはそのヒントに馬鹿馬鹿しいと思いつつもゲストハウスの書庫に足を伸ばす。黄金の蝶達に地図帳を探させ、台湾について調べ始める。…が、百を超える河川に眩暈を覚え、本を投げ出す。そもそも淡水魚である鮎は余程のことが無い限り何処の川にだって存在し得る。
その時開いたページに蝶が止まる。放った蔵書の偶然に開いたページに賢人達は神託を見つけ出すのを知っていた彼女はそこに目を止め本を手に取る。
“台湾の主要な河川は以下の六本。濁水渓。高屏渓。淡水河。大甲渓。曽文渓。大肚渓。”
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 クレル
使用人達はこの謎解きゲームに夢中だった。これといった読み物も読み終えてしまったクレルもそんなうちの一人程度になろうと、その本を持ち帰って毎晩眺めていた。“淡水河”が謎の鍵だと考えた彼女は、ひたすらその川について調べていた。結局その川は深い関係は無かったが、発想を柔軟にさせるウォーミングアップにはなった。理御に“川ではない流れるもの”をウィルは問うが、ベルンが焦らさずに教えればと促す。
もの。物。物流。上り下り。
「そうだ。鉄道だ。」

台北から淡水港までを結ぶ鉄道・淡水線。1901年に開通し、台北の大きな動脈となった。始点台北駅より終点の淡水へ下る途中に石碑駅(旧名・唭里岸駅)という駅がある。(※文字化け注。旧名は[口其][里岸駅]でキリガン駅)
川を下れば、やがて里あり。その里にて、二人が口にし岸を探れ。唭里岸駅の名は周辺の地名からとられた。その地名は唭哩岸という。
 ⇒口偏が二つあり、岸まであるそのキリガン(唭哩岸)が鍵。
第一の晩に、鍵の選びし六人を生贄に捧げよ。
 ⇒キリガンの本場での読みは英語だと“Qilian”と発音する。生贄に捧げる文字はその“六”文字。
第十の晩に、旅は終わり黄金の郷に至るだろう。
 ⇒楼座はこれを黄金の“京”と読み、故郷から京都への十分の一の地点に何かがあると疑った。しかしここでは“京”は数字の単位を意味する。一京の十分の一は千兆。英語表記だと“Quadrillion”。
  • BGM: 透百合(肖像画と碑文)/lie-alaia(碑文に挑む者達)/witch_in_gold(cembalo)(犯した罪)/terminal_entrance(岐路なき定められし人生)/hope(ようやく名前が決まった悪魔達)/soul_of_soul(傷)/久遠(世界が満たせない)/lie-alaia(懐かしき故郷)/terminal_entrance(悩ましい碑文の答え)/rhythm-changer(解き明かされる最初の謎)

[編集]魔女の蘇る日


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(レースのエフェクト)
礼拝堂前ヤスベアト
This door is opened only at probability of a quadrillion to one. You will be blessed only at a probability of a quadrillion to one.
この扉は千兆分の一の確率でしか開かれない。あなたは千兆分の一の確率でしか祝福されない。
(アニメ第23話より。このうちどちらの“quadrillion”から文字を取ったかは不明。)
前々から黄金の隠し場所として礼拝堂は疑われていた。ヤスベアトはその礼拝堂のレリーフを源次が直々に掃除していたことを思い出す。仕掛けがあったのだ。
梯子を魔法で生み出し、礼拝堂のレリーフを弄る。文字は引き抜くことが出来、一つ一つの文字盤には鍵が付いていた。(抜けた後の文字盤は鍵穴)

①鍵の選びし六人を生贄に捧げよ。“Quadrillion”から“Qilian”の文字盤を引き抜く。
【_u_dr_l__o_】
(“Quadrillion”にはエルが二つ。“Qilian”にエルは一つしかない。しかし寄り添う二人は【_u_dr_l__o_】で隣り合った“dr”と考えると、引き裂けとはアールをずらせという意味。等間隔にする為に引き抜くのは左のエルが正解。それに気付いた彼女はその通りにする。)
【_u_dr__l_o_】
②寄り添う二人を引き裂け。前述したとおりアールを右にずらす。
【_u_d_r_l_o_】
③我が名を讃えよ。右代宮金蔵→右代宮卿→卿は英語で“lord”、右代宮は略して“u”。
【_l_o_r_d_u_】
④抉りて殺せ。③の状態で順に鍵を回して引き抜く。頭はエル、胸はオー、腹はアール、膝はディー、足はユー。頭から順番に第四~第八までを実行。
⑤第九の晩に魔女は蘇り、誰も生き残れはしない。
【___________】

そして最後のユーを回し引き抜いた途端に何かの仕掛けが作動する。礼拝堂入り口と四隅に鎮座しているライオン像が向きを変えていた。ライオンの目線の先にはまたライオンが。それに導かれて魔女は礼拝堂の裏手へと消えて行った。
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 クレル
そうしてヤスベアトは辿り着いた。

※by碑文台湾説
これがFAでない(or裏の意味もある)可能性を考えようという説も出てきています。
地下貴賓室ベアトリーチェ(ヤスベアト) 源次
彼女は黄金を前に禁忌の場所に入ってしまったような居心地の悪さを感じる。
そこに源次が現れる。彼はヤスベアトの姿を見るなり自力で辿り着いたのかと訊ね、肯定した彼女に拍手を送る。そして室内のクローゼットを開くと、そこにはあの魔女の黒いドレスがあった。
ヤスベアトは今までの自分を、金蔵の幻想に登場する魔女の名を騙った別の魔女だと評し、今こそ本当のベアトリーチェを継承したのだと考える。
書斎ベアトリーチェ(ヤスベアト) 金蔵 源次 熊沢 南條
源次に導かれ、ヤスベアトは屋敷の階段を上がり金蔵の部屋の前に立つ。(妹ベアトの立ち絵)
そこには熊沢がいた。彼女らは最敬礼で迎え、ベアトは部屋に入る。室内には南條と金蔵が。金蔵はよろよろとベアトリーチェのもとに這い、涙を零しながら謝った。熊沢はベアトを九羽ベアトに良く似ていると言い、真実を彼女に告げる。
「あなた様は今日まで、両親のいない子として育てられてまいりました。しかし、本当のお父上はお館様。そして本当のお母上は、…ベアトリーチェさまなのでございます。」
「そなたにつけようと思っていた名だ。…理御。今こそ、そなたにベアトリーチェより与えられた全てを返そう。…黄金も、それによって生み出された、右代宮家の全ても。」
最後に、父と呼んでくれと頼んだ金蔵に、ベアトリーチェ、いや理御はその言葉を言う。
彼は天に両手を掲げ笑い終えると、糸が切れたように倒れる。大往生だった。熊沢は、既に死んでいた金蔵は執念により魔法で永らえ続けて贖罪の機会を得たのだろうと口にする。
「……安らかに、……お眠り下さい。……あなたは罪を、償われたと信じます。」

全ては、神様の奇跡。約束された運命が彼女をあるべき日へ誘ったのだ。彼女らは再び地下貴賓室にいた。源次はベアトに地下貴賓室の直接の鍵と、全てを知る権利を授ける。六軒島の主であると認められた彼女は、慌てて次期当主は蔵臼のままで良いと遠慮する。そして今日のことは内密にするように命じる。
「ご命令に従いこれからもこれまでと同じように振舞いますが、いつでもご用命下さい。」

11月29日。
私は本当の魔女に、なりました。

舞台劇場クレル 観客達
あぁ、我こそは我にして我等なり。我は、黄金の魔女ベアトリーチェ。
この六軒島の真の支配者にして、………無限の黄金の所有者。でも何も満たされず。…たった一人の想い人が帰ってきてくれる日を、待っています……。
  • BGM: 透百合(礼拝堂のレリーフ)/7-weights(仕掛け)/dead_angle(地下貴賓室へ)/Voiceless(源次が現れる)/Bring_The_Fate(導かれた運命、贖罪の瞬間)/ なまえのないうた_full-inst(黄金卿への旅立ち●)

[編集]魔女幻想、散る


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
EP7終了。タイトルに戻る。
メタ・礼拝堂ベルン ウィル 理御 クレル
「……これで。…私の話は、おしまいです。」
ベルンはそれに微笑みながらそこからの二年間が面白いのではと言うが、ウィルはそれを止める。どれだけ悩んだか、葛藤したか。決闘はして、決着もつきかけていたと語るクレルだったが、1986年は余りに無慈悲。彼女は戦人がその年に帰ってきた運命を何よりも呪った。あと一年前後していれば、あの事件は起きなかっただろう。
そして、彼女は運命を全てルーレットに委ねる決断をした。人の運命は無限だというが、無限の魔女は本当は有限であることを知った。だからその有限に無限を見出そうと、彼女は、誰かが報われあるいは全員が結ばれさもなくば誰かが愚行を止めてくれると信じ、賽を振った。しかし、それは運命の放棄ではなく、示されたルーレットに“絶対”に従うという決断をした。1986年の二日間は絶対の意志で封じられる。
そして理御という存在はクレルにとっては、遥かな希望。妬ましく眩しく、最後の救い。最後に理御の幸せを願うと、ウィルとベルンに感謝をする。
「私の心臓を、……名も無き素晴らしき傍観者のあなたに、捧げます。土は土に。灰は灰に、塵は塵に。幻は幻に。そして、夢は夢に。………それでは、始めましょう。………私の、埋葬を。」

探偵はミステリーに終止符を打つ。ウィルは真実と虚構を斬り分ける一振りの黒刀を顕現させ、クレルもそれに倣い白銀のそれを持つ。
「第1のゲーム、第一の晩。園芸倉庫に、6人の死体。」
「幻は幻に。……土には帰れぬ骸が、幻に帰る。」

そしてベアトリーチェの全てのゲームの解答が紡がれていく。斬られたクレルの体からは黄金の花びらが舞い、礼拝堂を美しい雪で染める。
そして彼女は最後の謎を再び出し、今度こそ解を貰って、散った。

「私は、だぁれ……?」
「幻は、幻に。……約束された死神は、魔女の意思を問わずに、物語に幕を下ろす。」
舞台劇場クレル 観客達
長い物語を語り終えたクレルは、舞台でやわらかに会釈した。劇場内に拍手がいつまでも木霊していた。ゆっくりと、舞台は忘却の闇で閉ざされた。
人は罪と共に生まれ、誰かに許してもらうために生きて行く。誰かに自分という世界で最も難解な謎を誰かに解いてもらいたいと思いながら生きている。自分という謎に誰かに向かい合って欲しい。そしてそれを解いて欲しい。彼女のそれは今、叶えられた。

猫箱の棺で、永遠に安らかに眠れ………。

1986年 六軒島
礼拝堂ベルン ウィル 金蔵 蔵臼 夏妃 理御 朱志香 絵羽 秀吉 譲治 留弗夫 霧江 楼座 真里亞 南條 源次 紗音? 嘉音? 熊沢 郷田
1986年10月4日。雨は既に止んでいた。憂いの表情を浮かべる理御を、ウィルはぶっきらぼうに励ます。
ベルンはその様子を見て笑う。ウィルや理御は葬儀を執り行った魔女に感謝の意を述べるが、ベルンは謙遜をした。一人の少女に絶対の魔女が微笑み、彼女は二日間だけの無限の魔女になった。しかし奇跡の魔女は祝福しない。奇跡が起こらないことも“あの子”は望んでいたこと。
「彼女が生きて、そして死んだ島そのものが、黄金郷だったのかもしれませんね。」
「猫箱を黄金郷と呼ぶならね。そして、その猫箱の中で考え得る、最も楽しい物語を、戦人は書いたわ。」
それでも彼女には、理御という存在がどれほどの救いだったか。今となってはもう計り知れない。
ベルンは結界を解き、いる筈の無い探偵が去れば物語は動き出すと言う。
礼拝堂の外には美しい雨上がりの空が広がっていた。真っ直ぐな陽光が雲間から地面に刺さり、雨溜りに反射して輝く。ウィルは振り返らずに手を振り、去っていった。
ベルンは理御から最後に感謝を受けて、宙に浮かび、フェザリーヌに向けてこれで充分だろうと投げ掛け、理御と観劇の魔女たちに別れを告げ、消えた。理御は降って来た一枚の黄金の花びらを拾う。その時、親族達がやってくる。金蔵の葬式ごっこも疲れたと悪態をつく留弗夫に、霧江と楼座はそんなことないと笑い、一同は礼拝堂を後にする。
  • BGM:The_End_Of_The_World(運命のルーレットと絶対の意思●)/ goddess-gardena(“ミステリー”への引導●)/Golden_Nocturne(inst)(全ての謎の解答)/goddess-gardena(舞台の終わり)/thanks_for_all_people(雨上がりの空)

[編集]Tea Party


場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
アイキャッチ(ガラスの割れるエフェクト)
舞台劇場理御 縁寿 クレル
理御はゆっくりと目を覚ます。広大で薄暗く静寂な空間・舞台劇場。その客席に鎖で繋がれていた理御は場所を把握できない。記憶を回想するものの、礼拝堂を出、親族達で屋敷に戻るあたりで記憶が霞んでしまう。
その同列席には縁寿がいた。彼女もまた鎖に繋がれ同じように目を覚まし、見慣れぬ場所と状況に動揺するのだった。理御と縁寿は互いの存在に驚きつつも、自己紹介をする。理御は1986年の存在の為、18歳の縁寿とは初対面。縁寿もまた理御とは初対面だが、彼女は理御が魔女ベアトリーチェであった世界の縁寿。理御はそれを察すると、自己の存在の概略を説明する。
縁寿はこの状況を魔女の仕業だと悟り、未だ姿を見せない魔女に呼びかける。その声に、誰かが演目の始まりを告げるような芝居がかった言葉で答える。
「あの日に何があったかって?教えてなんてあげないわ。ヘソでも噛んで死んじゃえばぁ?!」
瞬間、スポットライトが点き、舞台に現れたクレルを照らす。世界は光と音の洪水に飲み込まれた。
1986年10月4日 六軒島 最後の親族会議
薔薇庭園朱志香 絵羽 秀吉 譲治 留弗夫 霧江 戦人 楼座 真里亞 嘉音 郷田
薔薇庭園で花を愛でる親族達。戦人は朱志香に嘉音を紹介され、後で紗音とも会うと良いと譲治に言われる。真里亞は紗音は譲治と仲良しと叫ぶ。その後郷田が親族達をゲストハウスへと案内していった。
食堂蔵臼 夏妃 朱志香 絵羽 秀吉 譲治 留弗夫 霧江 戦人 楼座 真里亞 紗音
紗音は夏妃の命令を受け、子供達をゲストハウスへと先導して行った。それを見届け、真里亞がベアトリーチェに貰ったという封蝋付きの手紙に議論を交わす大人達。それはゲーム開始の宣告と、疑心暗鬼が交錯する晩餐を意味していた。
舞台劇場理御 縁寿 クレル
縁寿は俯瞰しているそれを過去のゲームの再演か、さもなくば新たなゲームではないかと察する。恐らく新しいゲームだと結論した彼女は、それのゲームマスターを問う。それに対し理御は、クレルはゲームマスターとは思えないと言う。
縁寿は事件の真相に仮定は出している。自分はウィルと共に物語の深部に触れ、真実を理解している。そんな理御は考察の末、自分の役目は、観劇者である縁寿に解説者として真実を導くことかもしれないと考える。
食堂蔵臼 夏妃 絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 楼座
謎の手紙を結託を崩す悪戯だと結する蔵臼達。仕掛け人は使用人の誰かか、もしくは楼座あたりだろうと食いかかる絵羽を納め、話を黄金にずらす秀吉。霧江は碑文の謎への挑戦を切り出すと、一同は余興程度として謎解きを始める。
「お茶とお菓子と。……あと、台湾の地図でも持って来させる?」
東屋譲治 紗音
婚約指輪を紗音に渡す譲治。彼は、紗音を幸せにする絶対の覚悟と自身を持つと語る。
ゲストハウス朱志香 戦人 真里亞
朱志香から譲治と紗音の関係を聞き戦人は驚く。譲治の成長と、六年間の大きさを改めて思い知った彼は、紗音への初恋を忘れていた自分は妬く価値もないなと軽く自虐する。
食堂蔵臼 夏妃 絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 楼座
金蔵の故郷、台湾の大正町を起点として推理し合う一同。霧江はその後に続く“鮎の川”を何かの比喩ではないかと考える。(ちなみに絵羽が旅行で行ったところは淡水という港町らしい。)
分担しようと、生贄の章から考え始める留弗夫、霧江、楼座。そんな時絵羽が唐突に声を上げる。閃いたようだった。
東屋譲治 紗音
昔、紗音と仲の良かった戦人にコンプレックスを感じていた譲治は、六年経って彼が帰ってきたことに少しだけ不安を持った。しかし紗音は薬指を見せ、これは何かと問う。譲治は意味を理解し謝ると、自分も譲治が自分以外に心を奪われないか怯えていた時もあった紗音は、それだけ愛してくれていることが嬉しいと話す。
「私は、確かに仰る通り。六年前、戦人さまのことが、好きでした。多分、譲治さんより。でも。それは六年前の話です。」
その気持ちと決別した今の私は、譲治を愛する為だけに存在すると彼女は語る。
譲治は、紗音と同じように六年前の弱気な自分と決別する。
  • BGM: 夏の扉(1986年10月4日)/witch_in_gold(cembalo)(いつも通りの泥沼)/金色の嘲笑(最期の晩餐)/hope(六年間という月日)/金色の嘲笑(謎解きに興じる親組)/lie-alaia(閃く絵羽)/dead_angle(譲治の決意)

    場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
    アイキャッチ(レースのエフェクト)
    礼拝堂前蔵臼 夏妃 絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 楼座
    蔵臼達一同は謎を解く。代表して留弗夫が礼拝堂のレリーフの全文字を抉りて殺し、仕掛けを作動させた。秀吉と絵羽がライオン像の変化に気付くと、その目線が導く先へと真っ先に絵羽が駆けていった。
    秘密の地下道等、仕掛けに感嘆しつつ地下へと降りて行く。もしかしたら愛人を匿っていたという秘密の屋敷に通じるかもしれないという噂話をしているうちに、扉に辿り着く。
    第十の晩に、旅は終わり、黄金の郷に至るだろう……。
    地下貴賓室蔵臼 夏妃 絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 楼座
    絵羽がその扉を開く。あたりは束の間の沈黙に包まれ、やがてそれは驚愕と狂喜の喧騒によって打ち破られる。
    「………み、濫りに触れてはなりませんっ!お父様の黄金ですよ?!」
    「じゃあ、お父様を今すぐ呼んで来てちょうだい!茶番はとっくに終わってんのよッ!!幸いにも私たちは今、とても上機嫌で寛大だわ。大人しく引っ込んでなさい!」
    舞台劇場理御 縁寿 クレル
    今までにない展開に憮然とする二人。碑文を解き明かしたら事件は止まるということを疑う縁寿だったが理御はさきの動機を理解していた為、事件は起こらないはずだと断言する。彼女は納得もいかず、理御は最後にクレルが殺人のない、幸せなゲームを置いて行ったのかと信じようとするが、冷えきった鎖で縛られた二人には、それを信じることは難しかった。
    地下貴賓室蔵臼 夏妃 絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 楼座 ベアトリーチェ
    歳も忘れ子供のようにはしゃぎまわっていた場で楼座がいきなり叫ぶ。彼女は人影を見たのだった。
    現れた人影に、彼らはこの部屋の真の主を理解する。肖像画のドレスを身に纏った女は自らをベアトリーチェと名乗り、親兄弟の浴びせ掛ける質問に光の宿らぬ瞳で淡々と答えた。(肖像画の女に酷似等という表現ではなくドレスのみの判断)
    碑文が暴かれなかった場合何をするつもりだったかと問う絵羽と留弗夫に、ベットサイドのテーブルの上の四丁の銃と銃弾のケースを弄りながら、碑文に従い十三人の命と島の全てを奪い自らも死ぬつもりだったと言い、解かれた今は自分をどう扱おうとも好きにするよう魔女は答えた。無表情で語る彼女はさらに部屋の隅に置かれた大きなアンティーク時計に歩み寄り、それの上部にあったスイッチを左に傾がせた。これは金蔵の狂気の魔力と繋がっていたと語る彼女。
    六軒島は旧日本軍の地下秘匿基地があり、そこには九十九里浜に上陸した米軍を迎える切り札・900tもの爆薬を極秘裏に六軒島は備蓄していた。米軍にそれを見破られた際、島ごと自決できるような仕掛けも施していた。あろうことか金蔵はそれを時計のからくりに仕込み、スイッチがオンの状態で24時を迎えると作動するようにした。恐らくは商業の大博打で全てを失う、もしくは24時までに名案が浮かばなかった際、金蔵はこの島の全てを吹き飛ばせるように仕込んだのではないか。それが狂人の魔法体系であるハイリスクな賭け、魔力だろう。

    いつでも父親次第で何も分からぬままに生を終えていたかもしれない。そのことに冷や汗を垂らす彼等。
    魔女は続けて、インゴットの一部を現金化し十億以上が入ったカードも渡すが、誰も受け取ろうとはしなかった。絵羽は気に入らないと呟き、上手すぎる話に懐疑心を顕わにしていた。先ほど弄った時計のスイッチは逆ではないか。スイッチが左の状態はオフではなく、実はオンではないのか。皆が慌てて押し止めるも、疑心暗鬼に駆られた絵羽はスイッチを右にしようともがく。
    1986年10月5日
    地下貴賓室蔵臼 夏妃 絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 楼座 ベアトリーチェ
    スイッチは左の状態で24時を迎える。ベアトリーチェの言う通り、爆発は起こらない。
    苛立つ絵羽は魔女からカードを引ったくり、八桁の暗証番号(07151129?)を聞き出してそれをメモ書きする。楼座と霧江もそれを書き写した。
    そうして彼女は全てを語り終え、ベッドに腰掛け物言わぬ人形と成り果てた。彼女の心中はそこにいた誰にも観測も推測も出来ないだろう。
    息こそしている。しかしベアトリーチェは結局自分達にしか理解できずに生を終えた。
  • BGM: dead_angle(親組は辿り着く)/happiness_of_marionette(inst)(黄金と対面)/7-weights(900tの爆薬、10tの黄金、4丁の銃)

    場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
    地下貴賓室蔵臼 絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 楼座 ベアトリーチェ
    黄金には人の心を惑わす魔力があり、銃には人を凶暴にさせる魔力がある。
    黄金の分配方法について鍔競り合いする親兄弟達。黄金が見つかった際には次期当主に半分、もう半分をさらに四等分するという親兄弟の話し合いを反故にした長女以下は、蔵臼が金蔵の死を隠していたことを引き合いに出し追求する。彼は、父親の死を隠匿していたのは認めるが、絵羽達に黄金を波風立たずに換金出来るかどうかを問う。蔵臼はそういったアンダーグラウンドに精通した人間とコネクションを持っていたが、絵羽達にはそれはない。黄金の換金次第は蔵臼に懸かっているのだった。
    頭に血が昇った絵羽は銃を持ち、蔵臼と取っ組み合いになる。留弗夫達も夏妃と言い争いを始める。
    舞台劇場理御 縁寿 クレル
    「…みんな、あの黄金の山に、冷静さを失ってしまってる。……これは、大人の口論じゃない。……ただの子供の喧嘩だ。」
    理御と縁寿は自らの両親が口汚く罵り合うのを見て表情を歪める。
    唯一換金可能な蔵臼は確かに有利。しかし表沙汰に出来ないカネは全員が秘匿しなければならない。その協力を経てこそ彼らは最大利益を享受出来る。そもそも火急な支出には10億入ったキャッシュカードがある。年内にそれで借金等を返済した後にゆっくり黄金の分配方法を友好的に話し合えば良いではないかと考える理御。
    縁寿は悪意の篭ったそのゲームに憤慨する。
    地下貴賓室蔵臼 絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 楼座 ベアトリーチェ
    風音と喧騒に銃声が木霊す。銃弾は夏妃の右目から後頭部へ向けて貫いていた。絵羽の持った銃を夏妃が奪おうとしたのか、二人は銃を間に挟み揉みくちゃになっていた。その際の発砲音だったのだ。場は一気に地獄へと放り込まれる。妻を殺した絵羽に、蔵臼は激昂して、銃を持ったまま掴み掛かる。慌てて蔵臼と絵羽の間に入った秀吉は、蔵臼の持つ銃を同じように間に挟み、彼を押し止めようとしていた。
    夏妃を奪った死神は夫にも微笑み、鎌を振るう。銃はこの部屋に二回目の声を轟かす。
    地下貴賓室絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 楼座 ベアトリーチェ
    「わしは何もしてないッ!!蔵臼兄さんの指が引き金に掛かっとったんや…!事故や、事故や…!!」
    「そ、そうよ、これは事故よ……!!」
    事故と泣き喚きながら楼座や留弗夫に理解を求める長女夫婦。しかし彼等は淡白に、偶然の暴発か故意かは分からないと告げる。

    ぴたりと、絵羽が叫びを止める。事故に見せかければ良いと彼女は提案する。銃創を吹き飛ばす程の。
    「爆発事故よ。死体が跡形も残らない事故が起こればいいのよ。」
    仕掛け時計のスイッチを持て繰りながら狂気に満ちた表情で一同を振り返る彼女に、秀吉は残る良心でそれを否定しようとしたが反論は見当たらなかった。
    蔵臼と夏妃を残して絵羽達は隠し屋敷にいた為に、900tもの火薬の偶発を逃れた。その筋書きのおかしさに楼座は姉を問い詰めるが、それは今から考えると叫ぶ彼女。
    絵羽達は、捕まるのは会社と信頼の為にも避けたい。取り分がカードの三億程度に減るのは好ましくないがそれでも社会的信頼を失うよりかはマシだと考えている。
    一方楼座は黄金を癒着したから絵羽の黄金を吹き飛ばす提案は回避したい。(黄金の存在を隠す為に)薔薇庭園かどこかで銃の暴発事故が起こったと姉達に正直に自首してもらい、自身の取り分を守りたいのだった。
    銃を向ける絵羽に楼座も銃を手に取り言う。
    「いいじゃない、刑務所。仮に十年食らうとしても、釈放されれば五十億が待ってる。それって年収五億のお仕事ってことでしょう?」
    キャッシュカードの取り分だけでは嫌だと淡々と言う妹に、絵羽は初めて恐怖を覚える。
    地下貴賓室絵羽 秀吉 留弗夫 霧江 ベアトリーチェ
    そして楼座を貫く三度目の銃弾。発砲したのは霧江だった。彼女は慣れた手つきで薬莢を排出する。
    金蔵が見せ金に使った程度で伝説が出来てしまうような黄金と、長男夫婦の死。これで世間に騒がれない方が無理だと語りながら霧江は絵羽に微笑みかける。二人は多少呆然としながら、カードに入っている現金だけで充分と同意する絵羽。しかし秀吉は楼座も話せば分かってくれたのではと問う。
    「撃つ必要は、あったのよ。あなたたちの足元に落ちている、蔵臼兄さんの銃と、絵羽姉さんの銃。どちらも発砲済みだわ。でも、楼座さんの銃は引き金を引くだけで弾が撃ててしまう。……レバーアクションは慣れないとリロード、難しいのよ。素人じゃなかなか出来ないわ。」
    楼座はまだ撃てる銃を持っていたから真っ先に撃った。意味することは一つ。絵羽は慌てて銃を構えるも、銃の再装填を上手く出来ない。銃を取ろうとした秀吉が胸を撃たれ、発砲音の後、絵羽もまた糸が切れたように倒れる。
    地下貴賓室留弗夫 霧江 ベアトリーチェ
    父親の影響で西部劇の銃に興味を持っていた留弗夫は、同型の散弾銃を所持していた。霧江もまたそれに精通しており、銃身の長さから装弾数は五発であると見抜いていた。この部屋に自分達以外にいるのは六人。一度に襲うには足りない銃弾を満たしたのは、最初の夏妃の暴発事故だった。
    地下貴賓室留弗夫 霧江
    最後に、惨劇に動じもしなかった魔女を霧江が撃ち、この部屋の大量殺人が完成する。彼らの狙いは10億の現金を持って、爆発事故で上塗りされた島から“命からがら”抜け出すこと。
    新しい弾を装填し、留弗夫達はこれからを話し合う。自らも銃を拾い、戦人はどうすると問う留弗夫に、自分の子供ではないからとぴしゃりと霧江は遮る。あなたと私はそれぞれ自分の子供について考えるから、彼を丸め込む言い訳も自分で考えてと告げ、戦人が納得できない時はそれまでだと霧江は銃を(恐らく試し撃ちの目的で)撃つ。
    時計のスイッチを入れ、再装填された二丁の銃とカードを持ち、部屋を後にしようとする二人。
    「せいぜい、しっかりね。……戦人くんが事故で亡くなったと聞いたら、きっと縁寿も悲しむわ。」
  • BGM: 孤独な深海魚(狂気)/miragecoordinater(惨劇の幕開け)/継接キメラ(全てを吹き飛ばす)/ridicule(殺意ある銃声音●)/孤独な深海魚(霧江と留弗夫)

    場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
    EP7お茶会終了。タイトルに戻る。
    ゲストハウス譲治 朱志香 戦人 真里亞
    日付が変わってもまだ夜更かしをしていたいとこ達。その部屋で電話が鳴る。
    「……テストぉ? 何をする気だよ。この時間に? 今から?」
    電話の相手の留弗夫は譲治に代わるように言う。そして以下のことを告げる。
    金蔵が親族会議の場にいきなり現れたこと。
    次期当主の座は四兄弟を飛び越し、孫達に譲ると言ったこと。親達もそれで揉めていること。
    その為にテストを一人ずつ行うこと。朱志香は屋敷の客間、譲治は礼拝堂前となる。

    戦人と真里亞は追って連絡があるらしい。二人別々の場所に呼び出す段取りの悪さに譲治はわずかの違和感を持つが、金蔵の気紛れならと納得した。
    一人だけ寝ていた真里亞はテストという言葉に反応し、当主になりたいとすっかりはしゃいでいた。譲治は以上の話を皆に伝える。そして、朱志香と譲治はいとこ部屋を後にする。
    使用人室留弗夫 霧江
    留弗夫は電話を切り立ち上がる。その傍らに郷田が仰向けで倒れていた。顔をクロスワードパズルの本で覆われているが、そのページは血が滲んでいた。
    玄関ホール留弗夫 霧江
    霧江はいい脚本だったでしょうと留弗夫に笑いかける。金蔵の仕業にすれば誰も疑わない、手のひらの上で踊ってくれる。
    留弗夫は礼拝堂で譲治を、霧江は客間で朱志香を始末するつもりだった。本来なら手際の悪い方法だったが、霧江は留弗夫の覚悟を図る為、自らの手を汚させようとして二人を別々の場所に呼んだのだった。彼女はそういった心の駆け引きを誰よりも理解していた。留弗夫は彼女から眼を逸らし肩を竦める。
    「……10億のカネが手に入るかどうかの瀬戸際にいるんだ。俺も男だぜ。人生に二度とないチャンスを、棒に振るつもりはねぇさ。」
    「それでこそ留弗夫さんよ。私は、ここ一番のチャンスを逃さない人が好き。そんなあなただから、私は好きになったのよ。」
    戦人が大事なら礼拝堂の前で譲治を殺してはいけないと念を押し、郷田を撃った弾の薬莢を排莢しようとレバーハンドルに手を掛けた。
    地下貴賓室絵羽
    絵羽は泣いていた。部屋には蔵臼夫妻、楼座、そして自分の夫の亡骸。そこには自分も加えられる筈だったが、絵羽自身撃たれたと感じ(実際には頭を掠めた程度で済んだが)貧血のような眩暈を覚え気を失っただけだった。彼女は留弗夫と霧江の思惑を理解し、自分の息子の身の危険を防ごうと銃を掴む。絵羽の銃は先程のまま弾詰まりを起こしているようだった。彼女は秀吉が取ろうとした蔵臼の銃を手に取り、力を貸すように夫に祈る。恐る恐る動かすと、上手く行ったようで弾は装填された。
    銃弾の箱から銃弾がいくつか無くなっていて、部屋の時計のスイッチも起爆する右方向に傾がされていた。絵羽はそれを左に戻そうと手を掛けるが、やめる。
    これは一夜の幻。これから何が起ころうとも、この爆発がある事で全てを有耶無耶に塗り潰せる幻夜。
    舞台劇場理御 縁寿 クレル
    奇跡は、絶対に、起きない。惨劇が起こる前に碑文を解くという最高の結果を得たのに、結局は同じ展開という皮肉。理御はベルンがゲームマスターだと断定し、何故こんなゲームを見せるのかと呟くように問う。
    縁寿は、自分にとって最悪なその展開に憤怒していた。
    「はッ! 好きに最悪のゲームを繰り広げればいい! 猫箱の中の無限の可能性の中の一つだと言いたいんでしょう?! 私はこんなことでは挫けない!! 1986年10月5日の真実を、いつか必ず暴いてやるんだからッ!!」
    食堂朱志香 霧江
    客間で霧江に迎え入れられた朱志香は食堂に案内され、彼女はそわそわと椅子に座る。霧江は普段通りの落ち着きで扉を閉める。背になった朱志香には霧江が隠し持つ銃には気付けない。彼女は悪態を吐きながら振り向くと、鼻先に金属がぶつかる。
    礼拝堂前譲治 留弗夫
    留弗夫は慌てる譲治に銃口を向け、撃つ。一撃にして息の根を止めようと頭を狙ったが、銃弾は脇腹に当たる。狙いより下に外れる銃の照準を悠々と見る留弗夫。譲治は助けを求めて雨の中を彷徨うも、痛みに負けて木の幹に寄り掛かり蹲る。
    譲治は電話時の違和感を思い出していた。疑える筈もない。尊敬する叔父の言うことをなお信じられぬ心は譲治には無かった。
    譲治は最後の力を振り絞り回し蹴りを繰り出すも、胸板を貫かれ、倒れる。金で人を殺せるような人間にはなるなと留弗夫は言い、こめかみに銃を当てて引き金を引く。譲治は起こることを最後まで信じられずに息絶える。
    留弗夫はずっと腹に溜めていた息を吐き出す。良心の呵責は僅かにあった。しかし、彼は人殺しという転機を経て覚醒する。今まで自分に騙された者達は破産したり首を括ったりした。それを直接行っただけだと考え、甘えを断ち切ってくれたことに霧江に感謝する。留弗夫は天に向かって、純粋で邪悪な笑いを響かす。
    食堂留弗夫 霧江
    先程から同じテンポで繰り返される音により、朱志香の顔はぐちゃぐちゃになっていた。霧江は銃で女の顔を殴るのに飽きると、テーブルクロスで血に塗れた顔を拭くが血は取れずに広がるだけだった。彼女は立ち上がり電話で戦人を礼拝堂に呼び出す。そこに留弗夫がやってくる。
    一撃を払い退けた朱志香に霧江はプライドでも傷つけられたのか。それにより原形を留めない顔をした朱志香を留弗夫は気の毒に思う。
    「これで日当が10億出るなら、ちょろい仕事じゃねぇか。……親父がよく言ってたぜ。男は人生で一度、人を殺す覚悟を以って望む日が訪れるってな。」
    次は戦人を説得する番だった。もし納得がいかずに騒ぎ出したのなら、自分が戦人を始末すると言う霧江。留弗夫は彼女に、もし三人で島を出られたのならと続ける。
    「……戦人のことを二度と、私の子供じゃないみたいなことを言うな。……お前は、……母なんだから。……頼む。」
    「……いいわ、約束してあげる。」
    薔薇庭園霧江 戦人
    戦人は金蔵に悪態を吐きながら、のんびりと礼拝堂に向かう。それを見計らい、霧江は銃に傘、郷田から奪ったマスターキー、予備の銃弾に厨房より調達したナイフと、準備万端な様子でゲストハウスの前に着く。ひさしの下で傘を畳みながら彼女は誰にともなく、ただいまと呟いた。
    礼拝堂前絵羽 留弗夫
    留弗夫は煙草を吹かしながら、戦人を土下座までして右代宮家に連れ戻したことを後悔する。未練を吐き終えると、彼は悪党を貫く覚悟を決める。
    その時、屋敷とは違う方向から絵羽が現われる。彼女は銃を向け、既に留弗夫に狙いを定めていた。彼は戦人を説得する為に物陰に銃を隠していた。後退り、それを取ろうと譲治がやって来たふりをして絵羽の目線を逸らそうとする。隙が出来たところに留弗夫は銃を撃つ。
    が、彼の放った銃弾は、狙いより下にずれて足元に刺さる。絵羽は弟の嘘を見破り、目線をそらしたふりをして留弗夫の胸に弾を撃ちこんだ。
    彼の銃を蹴り飛ばし、譲治の居場所を詰問する絵羽。既に自分が殺したと聞いた彼女は激昂して瀕死の留弗夫の眉間を撃つ。絵羽は茂みの中に譲治の屍を見つけ絶叫し、号泣した。
    舞台劇場ラムダ ベルン 理御 縁寿 クレル
    縁寿もまた父の最悪の死に涙を流していた。理御はベルンを呼び求め、ゲームを止めさせるように叫ぶ。
    それに答えるように、数個前の席に姿を見せたベルンカステルとラムダデルタ。自分と縁寿はもうゲームに秘められた解を理解している。だからもうこれ以上新たなゲームは必要ないと言うが、魔女達はさも退屈そうに振り返り、静かにするように言う。ゲームマスターは自分では無いとだけ告げ、再び舞台上に視線を戻すベルン。
    「もう惨劇もクライマックスだわ。生き残るのはどっちかしら。うっふふふふふふ……。」
    ゲストハウス霧江
    ゲストハウスには、もう生きている者は一人しかいない。玄関扉の前で血に染まったナイフを放る霧江は振り返り微笑む。
    「ごめんね、みんな。……でも安心してね。あなたたちは、事故の瞬間まで、何も知らずに楽しく過ごしていたに違いないと、新聞もニュースも、噂する人々も言うでしょうね。……それはつまり、10月5日の24時まで、楽しく過ごしていたということ。こうしていると、いとこ部屋での大はしゃぎが聞こえてくるようだわ。……………くす。」
    薔薇庭園絵羽 霧江
    傘を取ろうとした手が止まり、霧江は雨に打たれるがままに歩き出す。そしてふと何かを思い付いたように足を止める彼女に投げかける声があった。
    絵羽は彼女に銃を向ける。霧江は地下貴賓室からここまで戻ってくるには礼拝堂を通ることを考え、留弗夫はもう彼女に殺されたことを悟る。淡々とした表情で眼を瞑り、開けた時には悠然とした笑みを浮かべていた。霧江は絵羽に金を独り占めできることを感謝した。
    絵羽は彼女の服の汚れを見て、ゲストハウスで殺人を犯したことに気付く。騒ぎになるまで生かしておく理由が無いと語る彼女に、人殺しと罵る絵羽。霧江はあなたも殺人鬼だったかもしれないと言う。もしも霧江が行動を起こさなかったなら、もしも暴発が起こらなかったなら、絵羽は今霧江の役をしているかもしれない。異なる未来の真実では。絵羽も心の奥底では、あのままだったら蔵臼達に殺意を覚え、一連の流れを自分が行っていたかもと分かっていた。彼女が殺人鬼成り得た世界もあった。それを断言する非観劇者の彼女は非凡なのかもしれない…。
    沈黙の末、絵羽は母親なら命の尊さを知っている筈だと叫ぶが霧江は、命なんて寝れば出来ると応える。
    子はかすがい。彼女にとって子供とは男を繋ぎ止める役割程度にしか思っていない。その男が死んだ今、自分は右代宮ですらない。島から出たら縁寿の前から消えて好きに生きて行く。
    「縁寿なんて、留弗夫さんを縛り付けるための、ただの鎖。私にとって縁寿は、留弗夫さんの前で良き母を演じる時に必要な駒なだけよ。あんな、クソガキ。可愛いと思ったことなんて、一度だってないわよ。……謳歌しましょうよ、女の自由を。感謝してほしいわ、譲治くんも殺してあげたんだから。あっはっはははハっはヒャっはハぁあぁあああああああぁああぁあッ!!!」
    「こッ、……この、………人でなしがぁああぁああぁあぁ!!」
    薔薇庭園絵羽
    この島の最後の銃声と共に、絵羽と霧江は倒れる。霧江は喉から赤黒い薔薇を散らしながら。絵羽は雷鳴に呻き、起き上がる。再び弾は掠めただけで逸れていた。彼女は自分の強運が夫と息子を救わなかったことを呪う。
    「…………縁寿ちゃんのためにも、……そこで死になさい。………あんたは、爆発事故で死ぬ。死ぬ直前の瞬間まで、置いてきた娘のことを心配していた。……そう、刻むわ。猫箱の蓋の上にね………。」
    霧江は笑い、何かを言い返すも、喉に開いた穴で消え言葉にはならなかった。
    舞台劇場ラムダ? ベルン 理御 縁寿 クレル
    縁寿は母親に傷つけられ、激しく泣いた。理御はゲームマスターが駒に喋らせているだけだと慰める。そしてこのゲームを止めさせるよう再び叫ぶと、舞台は暗転する。
    一本の明かりが舞台上に点き、クレルを照らしていた。理御達以外に姿が見えない観客席からの拍手を浴びて、ベルンはもう一本の明かりの中に立っていた。理御の叫びを聞き流す彼女の右手に、大きな黒い死神の鎌が顕現する。魔女は縁寿に語り出す。
    「縁寿。あなたは、わずかな奇跡に全てを賭けて、身を投げ出して見せたわ。……私はその勇気に敬意を表して、1986年10月4日からの二日間の世界に招いてあげた。」
    魔女は縁寿を駒に使ったゲームを充分楽しんだ。その礼に、家族を連れ戻す他の、縁寿のもう一つの願い―二日間の真相を知ること―を叶える。

    ゲームマスターは、ベルンでもクレルでも誰でもない。そもそも舞台上に立つクレルは死体である。
    「これが、真実なのよ。1986年10月4日からの二日間の、猫箱の中身よ。この後、絵羽は九羽鳥庵で爆発を逃れて生き残るわ。……そして、猫箱の中身を欲するあなたに、最後の瞬間まで沈黙を貫くことで、この真実を、永遠に猫箱に閉ざした。」
    絵羽は殺人事件を爆発事故だと言い張った。世間は彼女に疑いの目を向け、脚色された報道や噂を流す。更に追い討ちを掛けたのがメッセージボトルだった。殺人事件があったことを示唆する文章が届き、ますますに事故は事件であると騒がれ、唯一の肉親にすら犯人だと疑われた。それでも絵羽は無言を貫き、真実の錠前を猫箱に葬った。その鍵は、カケラの海を渡れる魔女でしか、手に出来ない。
    「言ってあげるわ、赤き真実で。“これは全て真実「嫌ぁあああああああああぁああああああぁああああああああああああああああぁああぁあああぁぁッ!!!」
    舞台劇場ラムダ? ベルン 理御 クレル
    縁寿の体は崩れていき、やがてぐずぐずの肉塊に成り果てる。
    縁寿を苦しめ、クレルを辱めた。クレルがいくつものメッセージボトルを書いてまで隠したかった真実を暴き、真実を知ることで苦しむであろう者を救いたいという心を、笑い転げながら引き裂き、台無しにした。そんなベルンに理御は激怒する。
    彼女は、真実の世界をもう少しだけ見せてあげると、霧江が死んだ頃の屋敷の客間に理御を招待する。
    客間ベルン 理御
    先程の物語で、客間は特別な意味を持たかった。朱志香は客間に呼び出されはしたが、すぐに食堂に連れて行かれ殺された。いぶかしむ理御に部屋の隅を見るよう促す。そこには何もなかった。しかし、彼女が隣り合うカケラを理御に見せると、部屋の隅には理御の死体があった。
    混乱する理御にベルンは甘く優しく説明し始める。
    礼拝堂を親族一同で出た後、屋敷でいとこ同士ではしゃいだり、晩餐を過ごしたりした。その夜は親族会議。理御が当主継承するのを、親族達は快く思ってはいなかった。それを黙らす為に、金蔵が解けない謎だと出題したのが、魔女の碑文。金蔵は屋敷を建てた当初からその謎を温存していた。以下は先程の物語の通り。謎は兄弟達にあっさり解かれ、黄金を巡って事件が起こる。いとこ筆頭の理御は一番に霧江に呼び出され、殺される。
    ならば霧江が殺人を犯す確率だってゼロに近い筈で、惨劇が起こらない世界だってある筈だと問う理御。だがベルンは確率など無いと応える。奇跡の魔女ですら、見つけられない奇跡は探せない。
    「257万8917分の257万8916の確率で。あなたはクレルとしての世界に生き、気の毒な最期を遂げる。そして、257万8917分の1の確率で右代宮理御として生き。今夜、霧江に殺されるの。………つまりあなたたちの運命は、如何なる奇跡も許されない絶対の運命で運命の牢獄に囚われているということなのよ!」
    舞台劇場ラムダ? ベルン 理御 クレル
    辺りは真っ白に染まり、場は劇場に戻る。ベルンはクレルの下腹を鎌でなぞり、開腹する。
    「ベアトリーチェ。閉ざされた二日間に閉じ込められたあなたは、その猫箱の中で無限を生み出せる魔女となったわ。……絶対に救われないことと引き換えにね。しかしあなたは夢を見たわ。理御という夢。理御を見つけるのは本当に苦労したわよ。その存在は本当に奇跡だったんだから。そして、葬儀の最後に見せ付けてやりたかったのよ。………その奇跡をもってしても、あんたは惨劇を逃れられやしないってね!!」
    クレルの下腹部から、赤黒い臓物が流れ出し、世界は赤く染まる。
    六軒島金蔵? 山本?
    「イ、イタリア人の黄金を奪うだと? 卑怯者め、右代宮、貴様、それでも帝国軍人かぁあああぁ?!」
    九羽鳥庵金蔵? 九羽ベアト?
    「………お、お父様……? わ、私はお父様のことを敬愛いたしております……。で、でも、……そのお父様の気持ちには、その……。」
    書斎ヤスベアト? 源次 南條
    「どうして…!! どうしてあなたたちは私を助けたんですか?! どうして死なせてくれなかったんですか?! 私はあの時の大怪我で、……こんな体で生きさせられている!! こんな体で、生きていたくなんかなかった!! こんな、恋をすることも出来ない体で……!! そんなの、そんなの、生きる価値がないんじゃないですか?! そんなのニンゲンじゃない…!! 家具じゃないですか!! そう、私は、家具……!! 家具なんだ…!! どうして、………私をあの時に死なせてくれなかったんですかッ!! ぅわぁああああぁあああああぁああぁああ……!!!」
    客間理御 霧江
    「………………え、」
    我に返ると、そこはあの客間だった。理御は後ろを振り向くと、霧江が銃口を向けて立っていた。悪く思わないでと彼女は言い、引き金を引いた。
    鋭利な風を受け、眼を瞑り死を覚悟する。
    舞台劇場ラムダ? ベルン ウィル 理御
    そして再び眼を開けると、霧江が背景と共に、世界が切断されていた。切り裂いたその漆黒の刀を持つウィルは、魔女に刃を向ける。前回の敗北の屈辱を晴らそうとしている魔女をウィルは根が暗い奴だと一蹴し、理御を席に拘束する鎖を破壊する。
    じわじわと、霧江に撃たれる筈だった胸に痛みを感じ始める理御。体が強固な運命を受け入れ掛かっているのだった。理御は胸の激痛をと戦いながら、弱音を吐く。
    「……お前はクレルの、257万8917分の1の希望だろうが。お前が諦めたら、お前は無数の世界のお前たちを裏切るんだ……!! だから挫けるんじゃねぇ、足掻いて足掻くんだよ…!! 奇跡を探すんじゃねぇ、お前が奇跡になるんだッ!!」
    「この奇跡の魔女の前で、奇跡になれとよくも言えたものだわ…! 奇跡など所詮はファンタジー! ミステリーで断罪されたこの世界で這いつくばって、無慈悲に虫けらのように死になさいッ!」
    会場全体から彼等を睨む宝石が二つずつ集まっていく。千を越える猫の目はウィルに襲い掛かるが、瞬間猫は爆ぜる。彼は理御をその隙に逃がす。
    ウィルは黒い渦の中でベルンと対峙し、留弗夫と霧江が犯人と言う“真実”はファンタジーだと、真実すらも猫箱に閉じ込めようとする。
    「霧江と留弗夫が犯人だとする、お前の“ミステリー”を、認めない。第1則、手掛り全ての揃わぬ事件を禁ず。……霧江たちが犯人であることを示す手掛りは、何れのゲーム中にも存在しない。」
    「あるわけないじゃない。あったとしても島は丸ごと吹っ飛んだんだし。」
    「手掛りなしってわけだな。ならばそれはミステリーじゃねぇ。ファンタジーだ。」
    「あっははははははははははッ!! 真実を猫箱に閉じ込めようというの? くすくすくす、それがミステリーの戦い方なの? 戦うのさえも馬鹿らしい。おいで、ゲロカス。好きなだけ、私を斬ってご覧なさい。あんたの言い分、全部、聞いてあげるわ。」
    「………貴様の、心を蔑ろにしたミステリーを全て貫く、二十の楔。くれてやらぁ。」
    「二十の楔で私を倒せなかった時は、………覚悟することね? くすくす、さぁ、おいで。遊んであげるわ、……二十の楔とやら!」
    「はぁああああああああああぁああああぁああッ!!!」
    キャストロール
    カケラ世界ベルン ウィル 理御
    理御はひたすら走り続け、あの場所から少しでも遠ざかるように走る。いつのまにか星を散らした深海のような場所にいた。
    ベアトリーチェが夢見た幸せな世界に辿り着けるのは自分しかいない、最後の希望。しかし奇跡の魔女に突き付けられた“真実”に理御は屈し、とうとう膝を突いてしまう。その時後ろから乱暴に担ぎ上げられる。ウィルは左肘から先をなくし、満身創痍だった。
    星はいつのまにかこちらを睨むようになる。猫達と共に現われたベルンは、理御を下ろせばウィルは見逃してやると告げる。慌てて自分を下ろしてくれと頼もうとした理御に、何故自分がSSDVを辞めるのかをウィルは聞かせる。
    「クソッタレな、お涙頂戴のミステリーばっかりに飽きたからだよ。ハッピーエンド上等、逃げ延びてやるぜ。バッドエンドしかないと絶望して死んだベアトリーチェに、ハッピーエンドもありえるんだって教えてやるんだ。だから絶対にお前を、下ろさねェ。」
    にやにやと笑いながら、ウィルに自分を置いていくように頼めと命じるベルン。理御は躊躇いながらも懇願する。
    「…………ウィル…。……私を、…………放さないで下さい……ッ。……逃げ延びます、絶対に! そして、あなたも…!!」
    億、兆、京にも届く無数の猫たちが、一斉に牙を剥く。猫の目の星空が一斉に、肉色の口腔を開いて牙を並べる。
    ……世界は、肉と血と牙で、包まれた。
  • BGM: witch_in_gold(cembalo)(当主テスト)/ridicule(皆殺し)/dead_angle(嘆き悲しむ絵羽)/黄泉津比良坂Corruption(真夜中の殺戮●)/ridicule(霧江の狂気)/dead_angle(絵羽と霧江、互いの子供のかたち)/嬰児クインビー(ハラワタ)/継接キメラ(檻の先は檻)/the_executioner(Requiem_of_the_golden_witch●キャストロール・繰り返しあり)/resurrectedreplayer(最後の希望)

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場所登場キャラ(オレンジ色)と主な内容
スタッフロール。EP7????終了。タイトルに戻る。
メタ・書庫フェザリーヌ ベルン
チェス盤に残る、多くの黒い駒に囲まれた白い二つの駒を指で倒す。答え合わせを終えたベルンは、満足したフェザリーヌに巫女の任を解かれる。観劇の魔女は感謝の意を述べると、物語を吟味しながら眠りについた。
残された彼女はゲーム盤を持って暗くなった部屋を出る。
魔女の喫煙室ラムダ ベルン
仕舞ったゲーム盤は再び開かれる。今度こそ、奇跡の魔女の手により紡がれる、最後のゲーム。
「私、まだ全然ゲームマスターをやっていないのよ? ベアトの葬儀をやっただけ。さぁ、ベアトのゲーム盤の駒たち……? 最高に残虐な物語を紡がせてあげるわ。慄きなさい、約束された絶対の運命を。……奇跡の魔女、ベルンカステルの名において。ベアトのゲームの、最後のゲームマスターとして宣言するわ。」
ラムダが現われ、その言葉を促す。
「言ってやりなさいよ。甘い夢みてる魔女どもに。」
「最後のゲームを宣言するわ。そして約束する。」

           このゲームに、ハッピーエンドは与えない。

礼拝堂バトラ 縁寿
礼拝堂に静かに泣き声が響く。それは1986年の二日間に、島にいられなかったことをこれから12年にもわたって嘆く、悲しみの少女。
縁寿のもとに戦人が歩み寄り、その肩を抱いた。縁寿は、母親は“悪い人達”と繋がりがあったからお前の両親が犯人だとクラスメートにいじめられたと話す。戦人は魔法で椅子を作り、そこに腰掛けるように優しく言う。
縁寿はあの日に何が起きたかを戦人に問う。彼は語り始める。

「あの日、お兄ちゃんたちは六軒島へ行ったんだよ。とても大勢でね。大事な親族会議があることになってたんだ。………まずは、どこから話したものかな。

 これが。
 縁寿に捧げる、最後のゲーム。
 お聞き、縁寿。
 あの日、六軒島で、何があったのか。
 これは、辛い話でも、悲しい話でもないんだよ………。