朝日新聞デジタル：菱田春草の「落葉」＠福井 - 福井

北陸たからもの

菱田春草の「落葉」＠福井

「落葉」（左隻）＝福井県立美術館提供

「落葉」（右隻）＝福井県立美術館提供

「落葉」のレプリカで出前授業に取り組む牧井正人さん＝２０１６年１１月、福井市内

　明治期、福井ゆかりの思想家で日本美術院を創設した岡倉天心の下で活躍した菱田春草（ひしだしゅんそう）（１８７４～１９１１）。彼の代表作「落葉（おちば）」を福井県立美術館が所蔵している。４２年前に県が約１億円で購入。学校の授業にも役立てられている福井の「宝」の一つだ。
　長野県飯田市出身の春草は、東京美術学校（現・東京芸術大学）で学んだ。盟友の横山大観らとインドや米国、欧州を巡り、日本美術院の中核を担った。３６歳で亡くなったが、近代美術史に大きな足跡を残した。
　「落葉」は春草が東京・代々木での闘病生活中、自宅近くの雑木林をモチーフにしたという。未完を含めて計５点あり、六曲一双の屛風（びょうぶ）に描かれた大作（完成品）は福井県立美術館蔵と永青文庫（東京）蔵の２点がある。
　制作時期は論争となっていたが、２０１４年、遺族宅で「製作扣帳（ひかえちょう）（控え帳）」が見つかった。同美術館の作品の受注は１９０９（明治４２）年１１月で、永青文庫より後と判明。福井の作品は連作の中で、装飾性を追求した到達点と言える重要作品だと分かった。
　写実的な構成の永青文庫に対し、無限の空間のうちに豊かな奥行きと広がりが描かれた福井の「落葉」。同美術館の佐々木美帆学芸員は「永青文庫は写実の到達点であり、福井は写実を極めた人にしか到達し得ない境地」と指摘。「鑑賞者を受け入れてくれる懐の深い作品。全てを描くのではなく、空間や余白によって考えさせる東洋の哲学的な部分がある」とみる。
　「落葉」の実寸大レプリカを使い、福井県内の小中学校で出前授業をしてきたのが、同県あわら市細呂木小学校長で美術教師の牧井正人さん（５６）だ。同県文化振興課（当時）にいた２０１４年度から５年間、約２８０回の授業を行った。
　解説型ではなく、子どもたちが感じたことを自由に対話する授業だ。子どもたちは想像力を生かしながら、絵の中に入っていく。
　絵中央に杉とカシワの若木が描かれ、奥は霧に包まれたような空間が広がる。周囲に老木のような樹木も。「病と闘いながら描いていたから、自分は死んでいくんだなという寂しい気持ちと、まだまだ生きたいという気持ちの二つを表したのではないか」。そんな中学生の感想もあった。
　牧井さんはいう。「死ぬ前に何かを伝えたかったのではないかと、この絵を通して子どもたちは生と死、命のことも考えるようになる。深い作品なんです」（堀川敬部）

　◆菱田春草「落葉」　１９０９（明治４２）～１０年に制作された。滋賀県立近代美術館蔵（二曲一隻）、個人蔵（六曲一双＝未完）、永青文庫蔵（六曲一双＝熊本県立美術館寄託）、茨城県近代美術館蔵（二曲一双）、福井県立美術館蔵（六曲一双）の５点がある。永青文庫蔵は重要文化財に指定されている。

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