水圧管路について

 取水地点から発電機まで密閉した管路で接続し、除塵した水を充填し、落差によって生まれる水圧で水を勢いよく噴射し水車羽根車を高速で回そう、という装置が水圧管路です。
 単なる水の通り道ではなく、細長い貯水塔のようなもので、水が半分しか充填されていなければ、管路の底部分の水圧も半分になり、その水圧を利用する発電の出力もそれ相応に落ちます。

↓というわけで落差があまりない区間は、U字溝等を使った水路でも問題ありません。既存の農業用水を活用した発電所はこのタイプです。(図の右側)
 1から作る小規模発電の場合は、直径200mmの排水用塩ビパイプ(VU管)が安価なため、すべて水圧管路にするのが手っ取り早いです。(図の左側)
水圧管路と導水路の違い

↓敷設の前に、水圧管路に加わる力をざっくり説明します。(@重量、A流体の圧力、B水撃圧、C水圧)※あくまで体験談です。
@まず水を充填した水圧管路はかなりの重量になるため、適切な資材で支持する必要があります。例えば尖った岩に塩ビ管を直置きすると、重量のせいで岩が管に食い込みやがて壊れます。
 斜面を下っている管路の場合は特に深刻で、重量のせいで斜め方向にずり下がろうとしますので、下った先のカーブ部分を念入りに固定する必要があります。

Aさらに、管内を流れる水が管路のカーブにぶつかることで、カーブ部分の継手を押し出そうとする流体の圧力も発生します。
 この力は発電の損失(損失落差の一要素)になるらしいため、地形的に余裕がある限り、カーブを緩くすると良いです。
 ただし、使用水量に比べて十分大きな口径の管を使い管内の流速を抑えれば、それほど問題にならないと思いますし、重量や水圧の方が手強いです。
水圧管路に加わる力
↑Bその他、流体の圧力と同じような力で、点検等で水車発電機の弁を閉じて管路内の水の流れを止める際、流体の持っていた運動エネルギーが管路全体…主に管路のカーブ部分にぶつかる水撃圧があります。
 落差10m程しかない地点のゴム輪継手曲管がこの衝撃により徐々に外れていったこともあり、重量ほどではないですが無視できない力です。
 そのため、水圧管路末端の弁操作はとてもゆっくりやるように、そこかしこの文献で言われています。

↓C水圧については下図のように下流側ほど大きくなるため、落差50〜60m地点を境に肉厚の圧力用塩ビ管(VP管)に切り替える必要があります。
 VP管の区間が長いほど管路の寿命が伸びますが、落石が予想される区間があれば耐圧が不安でもVU管を使った方が復旧が楽です。VP管はVU管に比べ高価で非常に重いためです。
 ただし、水車発電機周辺は重要な機材が集中しているため、落差が低くてもVP管で固めた方が良いですし、可能なら鉄管にすると安心です。
VU管とVP管の切り替え
 (そもそもVU管は圧力用途の管ではありませんが、一応稼働実績はあり、何とか機能しています。)

↓前述の通り適切な管を選び管側面が水圧に耐えたとしても、行き場の無い水圧が管の前後接合部の方向へ逃げようとします。
 管路がカーブしている箇所を例にすると、水圧がカーブ外側へ接合部を押し広げていくため、足場吊りチェーンなどで適切に支持しない場合は、管が外れて水が噴き出します。
水圧による管路の変形1

↓直線に配管した箇所も、結局は左右どちらか固定・支持が弱い方向へ管路が曲がりくねります。
 落差40mくらいまでは主に重量対策の支持のみで何とかなりますが、それ以降は横方向に管が暴れて外れる力がひどくなります。
 また、地面から高い配管ほど、垂直方向の配管支持が左右へ曲がる力に耐えられず、曲がり具合がひどいです。
水圧による管路の変形2

 ようするに水圧管路には色々な力がかかり、最も弱い箇所の接合部が外れたり割れたりして水が噴き出します。
 そこで敷設中に注水試験を行い、管路に加わる力と弱い箇所を体験することで、管路の完成度を上げる必要があります。
↓下図のような蓋を接着した短い直管を、ギボルト式ジョイントという接合金具を使って水圧管路末端に取り付け、足場吊りチェーン等で蓋部分と管路をがっちり固定すれば、試験可能です。
水圧管路の耐圧試験器具

 蓋に水圧計や発電機のノズル口径と同じくらいの小さい弁を取り付けると、より実践的です。
↓下図(断面図)のように塩ビ管にねじ継手より僅かに小さめの穴をホールソーであけ、継手を配管内側からねじ込みます。
 ねじ継手のネジ山が少し配管の外側に飛び出るので、そこにねじ込み式弁を取り付ければ、試験中でも水圧計などの脱着が容易です。
水圧管路への弁取り付け

↓次に、水圧管路の口径の選定についてですが、管の太さは流速と摩擦(損失落差の一要素)の大きさに関わります。流速が上がるとA流体の圧力による損失も大きくなります。
 下図の通り管が太いほど、発電使用水量が一定時間内に短い距離しか流れないため、流速と摩擦を抑えられます。聞いた話では毎秒2m以内が良いらしいです。
 (水圧管路終端の弁を全開放して、無圧の管内を水が早い速度で流れる分には、管路に害はありません。)
水圧管と流速について
 人力で敷設する小規模発電の場合、200mmより大きな口径の塩ビ管は一人で扱うのが困難な上に、価格もかなり高くなりますので、200mm管以外ほぼ選択肢はありません。
 口径150mm管を敷設するなら多少重くても断面積が2倍弱広い200mm管を敷設すべきですし、150mm管でちょうど良い水量しか確保できない立地は高出力が期待できないため、売電目的の場合は計画を見直すべきです。
 水量が毎秒100リットル以上使えるような好立地がもしあれば、4mVU管で約39kgある250mm管を2人で敷設するか、200mm管を上下に2本並べて敷設する手法が考えられます。

 具体的に水圧管路の設備を上流から見ていきます。水圧管路の始点に設ける弁については除塵についての頁で紹介した通りです。
 この弁は水圧管路に水が充填された状態で完全に締めると、水の抜けた上流部の管路が真空状態になり、管が潰れてしまいます。
↓それを防ぐために、弁の直後の水圧管路上部に穴を開け、空気の通り道を作ります。そして異物が入らないよう細工します。
 200oの水圧管路に対して50mmの空気弁で問題ないようです。材料費をケチらずもっと大きくしたほうが、注水時に管内の空気が抜けやすくなったかなと思います
水圧管路の空気抜き弁

↓水圧管の支持方法ですが、支持金具に全ねじを組み合わせると、管路上を滑らせるように塩ビ管を運べるので楽です。管路が道路沿いに敷設できる場合は不要です。
 下図では運搬や加工が楽な直径25.4oのメッキパイプを使っていますが、耐久性や耐荷重を考えると、48.6mmの単管パイプを使うべきです。
水圧管路の支持1

↓こちらは直径48.6mmの単管パイプを使う最新の案で、塩ビ管に蝶番式または組式立バンドを巻き、垂木クランプで単管パイプに固定する方法です。
 第2発電所の管路で導入していますが、稼働実績はありませんし、いずれも圧力配管を支持する用途の金具ではありません。とは言え25.4oのメッキパイプ+全ねじより確実にマシです。
水圧管路の支持2
 また、塩ビ管は2mごとに支持するよう推奨されています。2mごとに左右入れ替えて片側一本のパイプ支持でも意外と大丈夫ですが、重要な個所は左右2本セットで支持します。

↓単管パイプの打ち込みは安全ハンマー(9kg)で行うのがベストです。詳しくはwebで。
 また、単管パイプの余剰部分はレシプロソーでカットするのが手っ取り早いです。
撮影予定

↓水圧管路の勾配について、管路への水の充填は内部の空気を上水槽方向へ逃がす必要があるため、下っている途中の配管が昇り勾配になるのは避けます。
 なるべくまっすぐ斜めに配管すれば、流体の圧力(損失)が減り、注水時に管内の空気がスムーズに抜けるようになります。
 基本的に地面近くを配管する方が安定しますが、進路上に大きな岩や治山ダムがある場合は、その高さを下回らないよう長い鉄パイプで支持して配管します。
 下図は上水槽から水平に配管した直後の地点だったため、やむを得ず溝を掘り埋設しました。山中を人力で掘るのは大変なため、基本は露出配管です。
水圧管路の勾配
 (パイプの直径一本分くらいの上り勾配は大丈夫なようです。水圧が上がると管内に残った空気が水に溶けやすくなる。からかもしれません。)

 次に管自体についてですが、塩ビ管の接合方法は接着とゴム輪接合の大きく2種類あります。
 接着接合はほぼまっすぐに挿入しないと管の端で接着剤を削り、それが水漏れの原因となるため、地面がデコボコの山中で行うのは至難の技です。
 また、塩ビ管は気温によって伸縮するのですが、ゴム輪の場合は伸縮を接合部が受け止めてくれます。

 というわけで1人で整地もせず適当に管路を敷設する場合は、片側にゴム輪受口がついた4mの塩ビ直管を繋げていくのが現実的です。
↓下図のゴム輪部分に潤滑剤を塗り、塩ビ管挿入機で接合する流れです。また、ゴム輪接合は1〜2度挿入角が曲がっていても案外入りますし、失敗しても簡単にやり直せます。
ゴム輪

↓そしてゴム輪受口は角度が3度ほど余裕があり、下図のように直管だけでも割とカーブさせられるため、管路を曲げる継手が節約できます。
カーブを描く直管と塩ビ管挿入機
↑塩ビ管挿入機は上図左下のような鉄の塊の他、チェーンとラチェット機構を組み合わせたものがあり、テコの原理でパイプを挿入します。
 以上、配管作業の大まかな流れは、敷設済みの管路から2m先にあらかじめ支持用のパイプを打ち込み、適切な高さに支持金具をネジ緩めでセット。新しい直管を運んできて支持金具に差し入れ、管路と受口を合わせて、挿入機で接合し、支持金具のネジを締める。という具合です。

↓直管の長さ調整は。支持金具でも使う蝶番式または組式立バンドをきつく巻き、バンドに沿ってレシプロソーで慎重に切断するのがお手軽です。
 切断後は、MCC「BV-250」等の工具で面取りを行います。(ゴム輪受口片受直管や曲管は最初から面取りされています。)
撮影予定

 管路の向きを変える継手・・・曲管については、低落差の箇所は自在曲管を使うといろいろと楽です。
↓自在曲管は最大15度の角度調整が全方向に可能な継手で、元から15度の曲がり角がついた15度自在曲管の場合、最大30度まで角度調整が可能です。
 15度自在曲管と30度自在曲管を常に数個手元に用意しておけば、ある程度大雑把に配管作業を進めることができます。
 (45度自在接手を用意しないのは、45度以上の急角度で管路を曲げるのは好ましくないためです。)
15度自在曲管
↑上図の自在曲管は接着継手ですが、ゴム輪受口のものもあります。自在曲管は低落差でしか使わないため多少いい加減な接着でも大丈夫ですし、4m直管と違ってまっすぐ差し込むのも楽です。

↓自在曲管の自在部分は大きなゴムのパッキンで自在稼働とある程度の水漏れを防いでいるだけで、圧力配管用ではありません。
 落差30m以上で使用すると水圧に負けて水漏れし、固定が甘いと外れます。30m以下でも、斜面の下で重量がかかる個所では固定が甘いと簡単に外れます。
自在曲管の水漏れ
 (外れた自在継手は元の状態に嵌めるのが困難なため、一か所縦に切れ込みを入れてから嵌め込み、除塵間の角度調整用の自在継手と入れ替えると良いです。)

↓落差30mを超える地点のカーブでは、ゴム輪受口曲管を使用します。同じく角度15度と30度を数個用意しておけば何とかなると思います。
 (管路の上に敷いてあるものは、気休めですが紫外線による劣化防止の畔(あぜ)シートです。)
ゴム輪受口曲管
↑ちなみに上図右から左へ排水用VU管から肉厚で内径が少し狭くなる圧力用VP管へ切り替わりますが、ゴム輪受口の寸法が同じなため変換継手は不要です。

↓ここで、管路の固定作業に使う資材についてですが、主に足場吊りチェーンとターンバックルを使います。
 チェーンは文字通り建設現場の足場吊りチェーンの流用で、入手しやすく安価且つ頑丈で、フックも付いており使い勝手が良いです。
 ターンバックルは中央部の金具を回転させることで両端のフックを同時に締めあげることができる金具で、足場吊りチェーンの締め調整に使います。
 頑丈に見える足場吊りチェーンですが、管路に注水して重量をかけると一度若干伸びるため、ターンバックルで締め上げる必要があります。
ターンバックルと足場吊りチェーン
↑落差40m以降は接合部の抜け防止のため、管路と並行して足場吊りチェーンを張り巡らせましたが、もっと良い方法を模索中です。

↓足場吊りチェーンは下図のように管の受口に引っ掛けることができます。横方向に引っ張る場合は、塩ビ管の切れ端を管にはめ込み、その上からチェーンを巻くことで、管本体を保護します。
足場吊りチェーンの掛け方

↓管路の固定作業等で強力な味方となるのがラチェット式荷締めベルトです。人力で管の向きを変えたり支えたりするのが大変な際に、周りの木や岩に引っ掛けて使用します。
 ラチェット式荷締めベルトで締め上げて管を引き寄せてから足場吊りチェーンを取り付ければ、ターンバックルの調整幅を広く確保できますし、重量があまりかからない個所はターンバックルを省けます。
ラチェット式荷締めベルト

 水圧管路の終端部分は重要な設備が集まっている上、壊れたら復旧が大変な圧力配管用接着継手を多数使用するため、資材と労力を注ぎ込み完全に固定する必要があります。
 最終のカーブ部分とその前後の管の両脇に単管杭(単管パイプの先端が杭の製品)を多数打ち込み、それぞれを単管パイプとクランプで連結します。コンクリートで全体を固めると改修が困難なため、代わりに単管パイプで全体を一体化させて強固にするイメージです。
管路終端の固定

↓そしてカーブ部分にはコンクリートを流し込み、曲管をがっちり固定します。さらにカーブの重量がかかる方向へ単管パイプを伸ばし、単管杭を多数打ち込みコンクリートで固めれば、十分な重しになるはずです。
 ようするに確実に固定できれば何でもいいですが、足場吊りチェーンに頼るのはだめです。また、塩ビ管は伸縮するので本気でガチガチに固定するのは最終のカーブ部分のみにすると良いです。
管路最後のカーブの固定
 コンクリートは、ホームセンターでモルタルと砂を買い、水と共にでかい容器に入れてスコップで混ぜセメントにしたものに、川や山で集めた小石を混ぜたものです。詳しくはwebで。
 (モルタル+砂+水=セメント+小石=コンクリート+鉄筋=鉄筋コンクリート・・・余りはフェンスの基礎などに使うと良いです。)

↓肝心の水車発電機への分岐は、異形チーズ継手(T字型の継手)を使います。分岐する管のサイズは水車発電機の受入れ口に合わせます。短距離なら口径を絞って流速が上がっても問題ありません。
水圧管路から発電機へ分岐

 水車発電機と分岐管の接続はステンレスフレキブル管を使うと位置調整がとても楽です。ついでに発電機の振動や管路の伸縮も吸収してくれます。
↓下図はトーフレ社製のフランジ型タフオメガチューブTF-2000で、量産されておりサイズが豊富で入手しやすいです。
ステンレスフレキシブルチューブ
↑分岐管の進入角度をミスしましたが、横方向はかなり曲げても問題ないので事なきを得ました。ただし縦方向にはあまり潰れないので、適当にやると分岐管に負担がかかります。
 縦方向(発電機と分岐管との間)の調整は、フレキシブルチューブのサイズ選定を慎重に行い、水車発電機の位置をずらせるように余裕を残し、分岐管の切断とフランジ接着を最後に行えば、正確にできるはずです。
 あと、発電機手前には弁を取り付けます。これは必須装備です。

↓水圧管路の本管は終端にフランジ2個で緊急時や点検時用の弁を取り付け、排水管を河川まで伸ばします。
 弁は上水槽と同じアルミ製バタフライ弁で、弁の先は排水用のVU管です。
水圧管路の点検用排水路
↑何となく排水路までずっと200mmで敷設しましたが、150oあるいは100oでも弁を全開放すれば問題なく排水できるのではないかと思います。
 もし今改造するのであれば、水圧管路200o→200-150異形ソケット→150mm鉄管→150-100チーズ鉄管(発電機へ)→100o鉄管→100mm弁→100mm塩ビ管(排水)とします。
 よく調べていませんが、鉄管は溶接式ではなくねじ込み式で揃えたいので、正確な寸法が必要で、ハードルが高いかもしれません。