本文へスキップ

昆虫シリーズ65 タマムシ、シデムシ、ハサミムシ

  • 「どくとるマンボウ昆虫記」・・・玉虫厨子の複製
     タマムシ・・・は殆どが華やかな金属光沢を放つ美麗種ばかりで、日本内地にも普通にいるヤマトタマムシは、法隆寺の玉虫厨子の材料となった・・・最近この玉虫厨子の複製をつくる運動が起こった。1960年の秋、関西で日本昆虫学会の昆虫展覧会が行われた際の記念事業として、日本鱗翅学会が中心となって全国からタマムシを蒐集したが、原型の厨子に使用されているタマムシは2,563匹と推定され、タマムシは珍種ではないものの群れをなしている種類でもないから、果たして数が集まるかどうかが危惧されていた。ところが小学校児童の集団採集から、なかにはタンスの奥にしまってあった一匹のタマムシを寄贈するおばあさんまで現れ、1万5千余のタマムシを集めることができ、そのうち5,348匹の翅を使用した見事な複製が誕生した由である。玉虫は死して厨子を残す。われわれはミイラにしてもらっても気味が悪いだけだ。 
  • 玉虫厨子・・・奈良の法隆寺には、仏像などを納める国宝の玉虫厨子がある。木で作った箪笥のような箱に、タマムシのハネをたくさん張り付けてある。その上から、透かし彫りを施した薄い金銅の板で押さえてある。1400年も前に作られたから、今ではハネがほとんど剥がれ落ちているが、完成当初は、華やかに輝いていたであろうことは想像に難くない。
  • 玉虫厨子のレプリカ・・・1960年、2008年の2回、玉虫厨子のレプリカがつくられている。「どくとるマンボウ昆虫記」に記されている複製は、1960年のもの。2008年のものは、3300匹のヤマトタマムシのハネが使われ、法隆寺に寄贈されているという。 
  • 名前の由来・・・地色が金色がかった緑色で、虹のように青や赤の縦筋が入っている。その色合から、玉(宝石)のような虫でタマムシと呼ばれる。 本種はそのうち、日本全土(北海道を除く)で 一般的に見られることから、ヤマトタマムシと呼ばれている。 
  • 体長 25~40mm。 
  • 成虫は、エノキやケヤキ、サクラ類の樹冠を飛び回り、それらの葉を食べる。幼虫は広葉樹の朽木を食べる。 
  • 真夏の日中、特に日差しの強い日によく活動し、成虫のエサであるエノキやケヤキなどニレ科の広葉樹の樹上をキラキラ光りながら旋回する。プロは、5m以上もある捕虫網を持ち、木の梢を飛び回るタマムシを捕獲する。  
  • タマムシの交尾
  • タマムシを探すには・・・7月下旬~8月、日差しの強い日中、エノキやケヤキ、サクラ、コナラなどの切り株、倒木、部分的に枯れた幹、シイタケのホダ木などを注意深く探すのがコツ。
  • 玉虫色・・・「どのようにも解釈ができ、はっきりとしないもの」の例えを「玉虫色」というのは、見る角度で色が変わるタマムシに由来する。 
  • 害虫・・・♀は、エノキやリンゴなどの樹皮の割れ目や傷跡に産卵する。幼虫は幹の奧深く楕円形の穴を幹に沿って開けて食害する。風雨で幹が折れたり、木が倒れたりする事故の原因となる害虫で、果樹園経営者や庭師などには忌み嫌われている。 
  • 吉兆虫・・・かつては「吉兆虫」とも呼ばれ、女性がタンスに入れておくと着物が増える、あるいは幸せになるとか、鏡と一緒に入れておくと好きな男性に巡り会えるなど縁起を担ぐ虫と言われてきた。韓国でも、古代の遺跡からタマムシのハネで装飾された馬具が見つかっている。
  • 参考動画:ハデルリニシキタマムシ(マレーシア)/海野和男 - YouTube・・・世界にはこんな美しいタマムシもいる
  • ウバタマムシ・・・銅色の鈍い金属光沢があり、黄灰色の粉をまとう。前ハネは、縦隆条があり、頭部と前胸背に皺状の隆起がある。マツ類に集まり食害する。成虫は6~8月に現れる。
  • 体長 24~40mm。 本州から九州、南西諸島に分布。
  • アオマダラタマムシ・・・青緑色で金属光沢がある。サクラ類やウメ、ツゲなどの枯れ木に集まる。6~7月頃に現れるが、数は少ない。本州以南に分布。体長16~29mm。
  • マスダクロホシタマムシ・・・金色~赤橙色で緑色の金属光沢があり美しい。成虫は4~6月に現れ、ヒノキの葉や枝を摂食後、ヒノキやスギの粗皮割れ目に産卵する。体長7~13mm。材内で幼虫越冬し、4月ころ蛹化する。本州から屋久島まで生息。
  • アオムネスジタマムシ・・・金緑色の美しいタマムシ。奄美大島以南の南西諸島の海岸付近に生息。成虫は5~8月に現れる。モモタマナ(沖縄名:コバテイシ)の葉を食べる。体長21~31mm。
  • 死骸を片付ける虫(ファーブル昆虫記要約)
     モグラの死骸、ぺしゃんこになったトカゲ、道の脇に死んだヘビ、死んだ小鳥のあかちゃん・・・これらの動物は、やがて腐り始める。そして嫌な臭いをプンプンさせる。こういうものを片付けるのは大変だが、動物の死骸は小さな昆虫たちが片付けてくれる。
     一番先にアリがやってきて、死骸に噛みつき、一かけらずつ食いちぎっていく。ハエは、死骸に卵を産みつける。卵から気味の悪いウジが生まれてきて死骸を食べる。その他、いろんな昆虫がやってくる。
     モグラの死骸には、ヒラタシデムシやエンマムシ、カツオブシムシたちがやってきて、少しずつ噛み切っては食べている。中でも死骸をそっくりそのまま消してしまうのは、モンシデムシだ。この虫は、死骸を丸ごと土の中に埋めてしまう。だから地面は綺麗に掃除されたような状態になる。 
  • モグラの埋葬(ファーブル昆虫記要約)
     近所の農家の人から30匹ほどのモグラの死体をもらい、庭のあちこちに置いた。すると、匂いを嗅ぎつけてシデムシたちがやってきた。植木鉢に砂を敷き、モグラの死体とシデムシ4匹(オス3匹、メス1匹)を入れて、上から金網を被せて観察。シデムシたちは、モグラの下に潜り込み、穴を掘る。ときたまオスのシデムシは、地下から出てきて、モグラの周りを点検し、また土の中に潜っていく。モグラは、前よりも激しく揺さぶり、土をかき出す。モグラは自分の重みで少しずつ沈んでいく。そして、とうとうモグラは完全に埋葬された。 
  • 地下の部屋(ファーブル昆虫記要約)
     数日経ってから土を掘ってみた。モグラは、元の毛が全部抜かれ、丸い肉の塊みたいになっていた。地下に広い部屋を作り、その中に置いていた。塊の横には、オス、メス一匹ずついる。メスは、みんなで作った黒い肉の塊に卵を産み、孵化した幼虫のエサとして用意した貯蔵食料だった。(写真:マエモンシデムシ)  
  • 困ったときにどうするか実験(ファーブル昆虫記要約)
     ファーブルは、ある本に、シデムシは死体の下の地面が硬すぎる時、仲間の助けを呼びに行く、と書いてあった。それを確かめる実験・・・ハツカネズミを固い煉瓦の上に置いたり、土すれすれに網を埋めて邪魔をしたり、モグラを横の棒と縦の棒にしばって地面に沈まない実験を繰り返している。シデムシは、困った時に仲間の助けを呼ぶことはなかった。邪魔なヒモを見つけて、本能でかじって何とか死体を埋めることに成功した。それは偶然の結果であった。 
  • ヨツボシモンシデムシ
     ネズミなどの死骸を見つけると、すぐ下の地面に穴を掘り、死骸を埋めた場所を巣にする。巣の大きさは、獲物の大きさによって変わる。その巣の中で死骸を肉団子にして、そばに卵を産み付ける。他の後の数は数個から10数個。孵化した幼虫は、親に食べ物をねだる。親は肉の汁を口移しで幼虫に与え世話をする。 
  • 体長 13~21mm。北海道から九州まで分布。
  • オオヒラタシデムシ・・・体色は少し青みがある黒色。体は扁平で、触覚先端の4節は膨らむ。動物の死体や腐った植物などを食べる。
  • 体長 18~23mm。北海道から九州まで分布。
  • しばしば道路にも現れてミミズ類などを食べる。
  • ベッコウヒラタシデムシ
     前胸背が鮮やかな赤色で、体長17mm以上の大形のシデムシ。林床やその周辺で見られ、動物の死体、腐った野菜などに集まる。本州、四国、南西諸島に分布。
  • ヨツボシヒラタシムシ・・・茶褐色に黒色の点が4つあるのが特徴。4~7月、様々な木の上で見られ、チョウ類などの幼虫を食べる。北海道から九州まで分布。体長10~15mm。 (写真出典:ウィキメディア・コモンズ)
  • ハサミムシの仲間
     日本のハサミムシの仲間は、40種余りが知られている。お尻にクワガタのようなハサミをもっているのが特徴で、ほかの小昆虫を捕まえて食べる。いつもは石の下や落ち葉の下などに潜んでいる。子育ての時期は、石の下などに巣をつくり、母親が卵やふ化した幼虫の世話をし、最後は子供に食べられることで有名。 
  • 子どもに食べられてしまう母親(写真:卵を守るハサミムシ)
     ハサミムシの母親は、保育の期間、何も食べずに世話をする。卵からガラス細工のような幼虫がたくさんふ化する。最初のうちは幼虫の世話をしているが、幼虫が背中に登り始める。体を動かして振り払おうとするが、やがて力尽きる。最後は、自らハネをもち上げ、噛みつきやすい部分を幼虫に見せる。やがて幼虫たちは、母親の体を食べ尽くし、新しい世界へと旅立っていく。
  • ハマベハサミムシ・・・体色は黒色~暗褐色。腹端のハサミの形は雌雄で異なり、♂のハサミは左右非対称。石の下や湿った物陰に多い。浜辺に打ち上げられた漂着物の下などでも見られる。
  • オオハサミムシ・・・頭やハサミは赤褐色。♂のハサミは♀より長く、内側中央部にコブ状の突起がある。平地のほか、浜辺や河川敷にも多い。
  • アオバアリガタハネカクシ(ハネカクシ科)・・・細長く、頭部と腹部末端が黒く、その他の体節は橙赤色。体液が猛毒で、皮膚につくとかぶれる。日本ではほぼ全土の山里付近や、畑、水田などで見られる。ウンカやヨコバイという農業害虫を好んで捕食することから、農業では益虫とされる。
  • 参考動画:コブハサミムシの子育て/海野和男 - YouTube
  • キンボシマルズオオハネカクシ(ハネカクシ科)・・・美しいハネカクシの仲間。林や川原に棲み、地表を歩き回る。北海道から九州、対馬に生息。体長16~19mm。
  • 「循環の外」社会に懸念・・・探検家の関根吉春さん「ほどほどに」抜粋
     アフリカで誕生し、世界中に拡散した人類。その足跡を逆ルートでたどった「グレートジャーニー」で知られる探検家で医師の関根吉春さん(72)が今、見つめるのは意外にも足元の世界だ・・・
     学生時代に出会った南米ペルーのアマゾンでつつましく暮らす先住民マチゲンガの一家の生き方を、いつも胸にとどめてきた。狩猟採集民である彼らは「ため込むこと」をせず、平等であることを重視する。そして、常に「今」を生きている・・・「ほどほどに」は自制のためだけではなく、社会に向けても伝えたいメッセージだと関根さん。
     グレートジャーニーで感じたのは、人類の拡張は「もっともっと」の繰り返しだということ。人類はどんな環境も文化の力で「住めば都」に変え、全世界に広がった。一方それは、より弱い者を端へ端へと追いやった結果でもある・・・
     マチゲンカは必要なものは全て自然から素材を取り、自らの手で作る。出たごみや排せつ物は森へ捨て、やがて動物に運ばれ、微生物に分解され、土に返る。そこから植物が育ち、それを動物が食べ、人間が捕り-。「彼らは意識せずとも循環の輪の中にあり、決して自然を壊さない
     一方関根さんの目には日本社会はその循環の外にあると映る。プラスチックごみはもちろん、水洗トイレに流したものも海に行かず、固めて燃やされる。死体もそうだ。「文明の恩恵を受ける限り、循環の輪に入れない。それどころか、知らないうちに自然から奪い取り、破壊し続ける
     そのことを懸念し、地球環境について再認識しようと始めたのが「地球永住計画」だ。東京・玉川上水で動物のふんや死骸を食べる昆虫などを調べ、足元から生き物同士のつながりを見つめ直す。「役に立とうと生きているわけではないが、大切な役割を果たす生き物がいる。そんな存在について知ってほしい」
参 考 文 献
  • 「ファーブル先生の昆虫教室」(奥本大三郎、ポプラ社)
  • 「ポケット図鑑 日本の昆虫1400」(槐真史、文一総合出版)
  • 「身近な昆虫のふしぎ」(海野和男、サイエンス・アイ新書)
  • 「里山・雑木林の昆虫図鑑」(今井初太郎、メイツ出版)
  • 「読む植物図鑑vol.4」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「ずかん 虫の巣」(監修・岡島秀治、技術評論社)
  • 「昆虫観察図鑑」(築地琢郎、誠文堂新光社)
  • 「どくとるマンボウ昆虫記」(北杜夫、新潮文庫) 
  • 「昆虫たちのやばい生き方図鑑」(日本文芸社)