心理学総合案内こころの散歩道/犯罪心理学/視点論点

NHKテレビ視点論点
「犯罪心理学・心の闇」

本サイトのウェブマスター碓井真史が2002.11.13出演

 毎日テレビをつけると、殺人とか強盗とか放火といった凶悪犯罪のニュースが目に飛び込んできます。

通り魔事件のように一度に何人もの人を殺してしまう大量殺人や、売店やタクシーからわずかなお金を奪うための強盗殺人。最近は、不景気のせいもあって、中年の犯罪も増えています。

昨年(2002)起きた、消費者金融での強盗放火殺人事件も、まじめと言われてきた中年男性が、住宅ローンの返済に苦しんだ末での犯罪でした。
  しかし、それでも日本は世界的に見ればとても治安の良い国です。凶悪犯罪もこの何十年の変化を見れば、決して増えてはいません。それどころか、特に若い世代の殺人などは、ピーク時よりもずっと減っています。

「近頃の若い者は」などといっている大人たちが少年だった時のほうが、実は今の何倍もの少年凶悪事件が起きていました。
  それでは今は、犯罪について真剣に考えなくてもいいのかと言えば、そうではありません。

むしろ、私たちの心の闇は前よりも深くなっているのかもしれません。 現代の犯罪では、不景気とはいえ、昔のような生活のための犯罪は減っています。その一方で、優等生のいきなり型犯罪や、犯行動機の理解できにくい犯罪が増えています。
  犯罪者のタイプが「乱暴で攻撃的な人間」から、「依存的で甘え型の人間」に変わってきているのです。

少年非行も、生活のための「生活型非行」から、スリルを求めての「遊び型非行」に変わり、さらに、「自己確認型非行」に変わってきたと言われています。

「人を殺してみたかった」と語る少年や、「万引きしているときにだけ生きている実感を感じる」と語る少年たちです。
  ある家庭裁判所の調査官の方は、「見るからに悪そうな非行少年よりも、優等生タイプでいきなり犯罪を犯した少年のほうが、更生させるのはずっと難しいと」言っていました。このような少年の方が、心の傷が深いからかもしれません。

私は、「心理学総合案内「こころの散歩道」という自分のホームページの中で、このように犯罪者の心理について語ってきました。応援してくれる人もたくさんいましたが、ご批判もたくさん受けました。

「おまえのように犯人を甘やかすやつがいるから犯罪が増えるんだ。お前の家族も被害者と同じ目にあってみろ!」こんなふうに言われたこともあります。
  たしかに、被害者を保護することは何よりも大切です。犯人を逮捕して、刑罰を加えることも、もちろん必要です。しかし、被害者の尊い犠牲を無にしないためにも、また次の犯罪を防ぐためにも、犯人を悪者扱いしただけで終わらせてはいけないのだと思うのです。
  私たち人間はなぜ犯罪を犯すのでしょうか。もっと刑罰を厳しくすれば、犯罪は減るのでしょうか。たしかに、車の酒気帯び運転などは、刑罰を厳しくすれば、減るでしょう。
  しかし、殺人や強盗のような凶悪犯罪は違います。懲役5年が懲役10年になったからといって、犯罪は減らないでしょう。多くの凶悪犯罪者は、犯行時には刑罰の重さなど計算できないのです。

  さて、恐ろしい犯罪を犯し、マスコミをにぎわせる「凶悪犯」とは、どんな人でしょうか。
  たとえば、佐賀で起きたバスジャック事件の少年は、高校入学直後の自己紹介で失敗して、それがきっかけで学校を中退し、「自分の人生はもうおしまいだ」と思い込んでいました。
  下関で起きた通り魔事件では、仕事に失敗し、さらに営業用の自動車が災害のために使えなくなったことで、人生への希望をなくしていました。

大阪の附属小学校で起きた児童殺傷事件の男性は、職場でも家庭でも人間関係に失敗し、もう死にたいという思いで犯行に及びます。
  一般に大量殺人者は、その場で逮捕されるか、自殺しています。最初からまともな逃亡計画などたてていません。彼らは、自分の命もこの社会も、もうどうなっても良いと思っているのです。
  凶悪犯罪者の多くは、怒りや恨みのために理性を失った人であり、絶望と孤独に押しつぶされた人たちです。経済的に追い込まれていた人もいますし、人格障害を持っている人もいますが、人はそれだけでは犯罪者にはなりません。
  池袋で起きた通り魔事件では、凶器を購入した犯人は、何日も犯行を迷いながら考えていました。「こんなことをしたら世話になった兄さんに迷惑がかからないか」と。

彼は、逮捕後の刑罰を心配していたのではないのです。もう少し、このお兄さんへの思いが強かったら、犯行は起きなかったでしょう。

犯罪心理学の研究によれば、犯罪防止の大きな力となるのは、「社会とのきずな」です。大切な仕事がある。愛する家族がいる。親友や恋人がいる。大好きな趣味がある。このような思いが、犯罪へのブレーキとなるのです。

「殺意を持っている人に実際に殺人を犯させるにはどうしたらよいか。それは彼に誰も話しかけないことだ。」と、こんなふうに言っている犯罪心理学者もいます。
  和歌山で起きたカレー毒物事件では、犯人とされる女性がやって来たとたんに、それまでのにぎやかなおしゃべりが止まり、誰一人彼女にあいさつさえしなかったといいます。検察側の主張が正しければ、そのあと彼女は激しく怒って毒をいれたということです。
  どの犯人も人間関係が悪くなるだけの事をしてきましたので、決して周りの人が悪いというわけではありません。しかし、もしも誰かと心の交流が保たれていれば、結果は違ったものになっていたでしょう。
  犯罪心理学者の中には、死刑に犯罪抑止力があることを主張しながらも、殺人の最大の抑止力になるのは宗教だと述べている人もいます。

私は思うのですが、犯罪を止められるのは、バチを当てるようなただ怖いだけの神様でなく、悪に厳しいのと同時に、「神は愛なり」と表現されるような深い愛を持った神だと思うのです。
  人は、誰かに愛されていると確信できるとき、簡単に犯罪者になることはできません。

ある非行少年は、大きな犯罪を犯そうとしているときに、母親の顔が浮かんだといいます。「こんなことをしたらおふくろ悲しむだろうな」そう思ったとき、彼には悪いことができませんでした。
  人は誰もが問題を持ち、弱さを持っています。そのこと自体が悪いわけではありません。

ありのままの自分を出すことを恐れ、問題や弱さを正しく表現できないことが、問題を大きくするのです。

殺人事件を起こす前の晩に、一家団欒の楽しい夕飯風景といった「ふつうの 家庭」を演じている家がたくさんあります。問題を隠しすぎることが問題を深刻化させているのです。
  私たち人間の心には、恐ろしい犯罪者になってしまう深い心の闇があります。犯罪被害者を好奇心で見てしまう冷たい心もあるでしょう。けれどもそれと同時に、私たちには心の闇を照らす光もあるはずです。

互いに問題を共有し、きずなを深めあうことができれば、犯罪被害者の心を癒し、犯罪予備軍を社会に引き戻す力になれるはずです。
  犯罪予備軍の人たちに訴えるべきことは、刑罰の厳しさだけではなく、

「あなたも一人ではないし、あなたも愛されているのですから

というメッセージなのです。
2003.4.5掲載
心理学総合案内・こころの散歩道」から5冊の本ができました。
2008年9月緊急発行
碓井真史著『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』
誰でもいいから殺したかった! 追い詰められた青少年の心理』
2008年8月発行
碓井真史著『嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在に操る心理法則』
人間関係がうまくいく図解嘘の正しい使い方:ホンネとタテマエを自在にあやつる!心理法則
2000年

なぜ少年は犯罪に走ったのか
 
2001年
「ふつうの家庭から生まれる犯罪者」
ふつうの家庭から生まれる犯罪者
 
2000年

なぜ少女は逃げなかったのか続出する特異事件の心理学
「誰でもいいから殺したかった青年は、誰でもいいから愛してほしかったのかもしれない。」
☆愛される親になるための処方箋  本書について(目次等)
『ブクログ』書評「〜この逆説的かつ現実的な取り上げ方が非常に面白い。」
・追い詰めない叱り方。上手な愛の伝え方 本書について(目次等)
bk1書評「本書は,犯罪に走った子ども達の内面に迫り,心理学的観点で綴っていること,しかも冷静に分析している点で異色であり,注目に値する。」  本書について 「あなたは、子どもを体当たりで愛していますか?力いっぱい、抱きしめていますか?」 本書について 「少女は逃げなかったのではなく、逃げられなかった。それでも少女は勇気と希望を失わなかった。」 本書について


少年犯罪の心理(少年事件、非行の犯罪心理学)

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