(出所:123RF)
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 不揮発性メモリーであるフラッシュメモリーを全ての記憶装置として構成する「オールフラッシュストレージ」の導入が、多様な用途に広がっている。フラッシュメモリーは、HDD(ハードディスクドライブ)よりも高速なアクセスが可能で、信頼性も高く、省スペースも期待できる。ただし容量単価はHDDよりも高く、その運用に高い専門知識を求められる。

 本記事ではオールフラッシュストレージとは何か、メリットとデメリット、基本的な機能、料金相場、活用のポイントを、ストレージなどに造詣が深いエンジニアの志茂吉建氏が解説する。併せて、日経クロステックActiveの記事から、代表的な事例などをまとめて紹介する。

初回公開:2021/10/18
更新:2021/10/19

目次

★知る
オールフラッシュストレージとは
オールフラッシュストレージを導入するメリットとデメリット
オールフラッシュストレージの基本的な機能
★選ぶ
オールフラッシュストレージの製品・サービス分類と価格相場
★使う
オールフラッシュストレージを活用する上でのポイント
オールフラッシュストレージの代表的な事例
注目のオールフラッシュストレージと関連サービス
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*「オールフラッシュストレージとは」「オールフラッシュストレージを導入するメリットとデメリット」「オールフラッシュストレージの基本的な機能」「オールフラッシュストレージの製品・サービス分類と価格相場」「オールフラッシュストレージを活用するうえでのポイント」は志茂吉建氏が執筆

オールフラッシュストレージとは

 オールフラッシュストレージとは、不揮発性メモリーであるフラッシュメモリーを記憶媒体として利用したストレージ装置である。全ての記憶装置をフラッシュメモリーで構成するので、大幅にアクセススピードを向上できる。

(出所:123RF)
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 従来のストレージは、記憶媒体としてHDD(ハードディスクドライブ)を使っていた。HDD単体ではアクセススピードが遅いため、複数のHDDを1台に見せるハードウエアRAID(Redundant Array of Independent Disk)を利用するなどして、パフォーマンス向上を図った。

 オールフラッシュストレージは、RAID機能などを使うことで冗長性を確保している。可用性は、コントローラーの2重化などで実現する。信頼性については、物理的に稼働する部分がないためHDDよりも高いといえる。

(出所:123RF)
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 オールフラッシュストレージは、「記憶媒体」と記憶媒体を制御する「コントローラー」で構成する。

(1)記憶媒体

 記憶媒体は、汎用的なSSD(Solid State Drive)を使う方法と、独自開発によるフラッシュメモリー装置を使う方法に分けられる。

 汎用的なSSDを使う方法では、開発コストを抑えられる。SSDのインターフェースはHDDの規格であるSAS(Serial Attached SCSI)/SATA(Serial ATA)を採用しているため、HDDとの置き換えが可能となる。アクセススピードの上限は、SASの上限である12Gbpsと等しい。

 独自開発のフラッシュメモリーには、開発コストが上乗せされるため、汎用的なSSDよりも製品価格は一般的に高くなる。コントローラーと記憶媒体の接続もメーカー独自のものとなるため、SASよりもさらに高速化が可能だ。

(2)コントローラー

 コントローラーとサーバーの接続は、Fiber ChannelまたはiSCSIが一般的である。コントローラー内部の構造はベンダーごとに特徴が出る部分である。

 メーカー製のオールフラッシュストレージは、汎用CPUと汎用OSの上に、独自ソフトウエアを利用してコントローラーを構成することが多いようだ。このようなストレージは「Software Defined Storage(以下、SDS)」といえる。SDSでは、API(Application Programming Interface)などを利用して管理の自動化なども可能だ。

 高いパフォーマンスを得るために、独自ハードウエアでコントローラーを構築することも考えられる。その際には、冗長性を確保するためにHA(High Availability)構成を取るほか、パフォーマンスを確保するために複数のコントローラーによるクラスター構成を取る場合がある。

 汎用CPUとソフトウエアを使ってオールフラッシュストレージを構成することも可能となる。LinuxをOSとするPCサーバーの記憶媒体としてSSDを使い、ZFS(Zettabyte File System)などのファイルシステムを導入することで構築できる。

オールフラッシュストレージを導入するメリットとデメリット

オールフラッシュストレージのメリット

 最大のメリットは、アクセススピードの向上である。HDDによるストレージも高速化されているが、オールフラッシュストレージにより、アプリケーション全体のパフォーマンスを高められる。

 さらに、HDDベースに比べてストレージ装置の容積と重量が小さくなるというメリットもある。ラックのユニット数も減らせるため、データセンター利用時にランニングコストを抑えられる。

オールフラッシュストレージのデメリット

 デメリットとしては、フラッシュメモリーの単価がHDDと比べて高額になることが挙げられる。当然、同容量のHDDベースのストレージ装置よりも導入総額が高くなってしまう。

 さらに運用面では、高い専門知識を求められる。「シンプロビジョニング」などに加え、データ圧縮や重複排除などの機能が加わるため、ストレージ構成に対する十分な理解がないと、思わぬトラブルに遭遇する可能性がある。

オールフラッシュストレージの基本的な機能

 オールフラッシュストレージ装置は、従来のストレージの機能であるRAIDやシンプロビジョニング、スナップショット、データ転送などに加えて、データ圧縮と重複排除という機能が追加されている。それぞれの機能を以下に示す。

  • RAID: 複数の記憶デバイスをまとめて管理することで冗長性や拡張性などを確保する機能
  • シンプロビジョニング: OSから見えるディスク容量よりも、ストレージ装置内での確保するディスク容量が少ないディスク提供方式
  • スナップショット: ある時点で、ディスクのデータ更新を凍結する機能。スナップショット取得後も、ディスク全体でのデータ更新は行える。スナップショットを戻すと、ディスクはスナップショットを取得した時点の状態に戻る
  • データ転送: OSを経由せずに他のストレージ装置にデータを転送する機能。一般的には、同じ種類のストレージ装置間でしかデータ転送はできない
  • データ圧縮: 記憶装置への書き込み時にデータを圧縮する機能。読み込み時は展開されたデータが読み込まれる
  • 重複排除: 記憶装置の容量を効率化する機能。書き込むデータに以前に書き込んだものと同じデータがあれば、以前のデータの参照情報だけを書き込み、実データの容量を抑える

     オールフラッシュストレージは、搭載するフラッシュメモリーのアクセススピードがHDDよりも圧倒的に速く、コントローラーには高速なCPU/メモリーを採用している。このためデータ圧縮や重複排除の処理を実行しても、パフォーマンスが低下することはない。

     データ圧縮や重複排除を利用できることで、アプリケーションが必要とする容量を抑えられ、実際に搭載する記憶媒体の容量を少なくできる。ストレージ装置にもよるが、圧縮・重複排除の機能により、従来のストレージが必要とする容量の4分の1程度で賄える。

    (出所:123RF)
    (出所:123RF)

     メーカー独自のコントローラーを使うものもあるが、多くのベンダーでは、汎用的な機材を利用してオールフラッシュストレージを構成している。汎用的なCPU、OSにソフトウエアを組み合わせたオールフラッシュストレージでは、柔軟なハードウエア追加やデータ移行などが可能な構成となっている。

     その特徴を生かし、保守・メンテナンスにとどまらないサービスを付加しているベンダーもある。例えば、サブスクリプション形式でソフトウエアのアップデートに加えてハードウエアも提供するものだ。これなら、毎月の料金が一定で、数年ごとに新しいハードウエアに置き換えられる。

    (出所:123RF)
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    オールフラッシュストレージの製品・サービス分類と価格相場

     エンタープライズ向けであれば、容量30T(テラ)バイトで2000万円以上となる。5年間の保守料を含めると、その金額の8割程度をプラスした3500万~4000万円程度になると推測される。

    (出所:123RF)
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     フラッシュメモリーはHDDに比べて、信頼性をが高いので、運用要件に依存するが、例えば24時間365日の保守を平日9:00~17:00の時間帯にすることにより、運用コストを削減できる余地があるだろう。

     オールフラッシュストレージを試したいという場合は、OSS(Open Source Software)であるNAS用OS「TrueNAS」やNASソフト「OpenFiler」などを利用して構成することが可能となる。この構成なら、容量4Tバイト程度を20万円程度で構築できるのではないか。

     記憶媒体を全てフラッシュメモリーとしたものをオールフラッシュストレージと定義するならば、HDDベースのストレージ装置をSSDベースに置き換えたものもオールフラッシュストレージといえる。

     この場合、実容量が30Tバイト程度、5年間の保守料込みのものが500万円前後で実現できるのではないだろうか。ただしHDDをSSDに置き換えただけなので、圧縮・重複排除などは利用できない場合が多くなる。

    オールフラッシュストレージを活用する上でのポイント

     オールフラッシュストレージを効果的に活用するためには、(1)最適と考えられる利用用途や、(2)コストメリットを考慮すべき利用用途、(3)不向きと考えられる利用用途を意識することが重要になる。

     以下では、オールフラッシュストレージの一般的な利用用途を述べる。ベンダーやSIerといった企業の立場や、営業やSEといった担当者の職制によって意見が異なる可能性があることをご承知おきいただきたい。

    (1)最適と考えられる利用用途

     オールフラッシュストレージが最適と考えられる用途の1つとして、VDI(仮想デスクトップ)用のストレージが挙げられる。これはストレージのパフォーマンスがVDIユーザの操作感覚に直結するためだ。

     しかもVDIは、同じOSイメージを大量に複製する。このためフラッシュストレージの重複排除機能が有効に働くなる確率も高いといえるだろう。

     次に考えられる用途が、仮想環境用の共有ストレージである。仮想環境ではストレージのパフォーマンスが、システム全体のパフォーマンスに直結する。速ければ速いほど、システムを有効活用できるのではないか。VDIほどではないにしても、仮想環境でも同一OSを展開する場合が多くある。ここでも重複排除の機能が有効となってくる。

    (2)コストメリットを考慮すべき利用用途

     オールフラッシュストレージは、通常のオフィスで使うファイルサーバーとしても使える。その場合、圧縮・重複排除はある程度有効になるだろう。パフォーマンス面でも有利であることは間違いない。

     しかし、一般的なオフィスのファイルには、長期間アクセスされない「コールドデータ」が多数存在する。コールドデータも圧縮・重複排除の対象になるので、容量のメリットはあるかもしれない。しかしアクセスされない可能性が高いので、パフォーマンス面でのメリットはあまり期待できない。

     この場合は、記憶装置としてHDDとフラッシュメモリーで構成された「ハイブリッドストレージ」が有効になると考えられている。アクセス頻度が高いホットデータはフラッシュメモリーに、コールドデータはHDDに保存先を分けられるので、これにより双方のメリットを生かす構成となる。

    (3)不向きと考えられる利用用途

     一方でオールフラッシュストレージはバックアップストレージとしては、不向きと考えられる。ストレージとしてのパフォーマンスは十分あり、バックアップの所要時間が短く済むというメリットはある。しかし、バックアップのパフォーマンスはネットワークにも依存する。

     また、バックアップデータに対する重複排除、圧縮機能を提供しているバックアップソフトウエアがある。この場合、ストレージとバックアップソフトウエアで機構が重複してしまう。

     バックアップの初回はフルバックアップとなり、パフォーマンスのメリットは出るかもしれない。しかし2回目以降は増分バックアップとなり、高パフォーマンスのメリットは半減する。

    (出所:123RF)
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     オールフラッシュストレージの最大のメリットは圧倒的なパフォーマンスだが、価格も圧倒的、つまり高くつくことを意識しなくてはならない。

     コンピュータシステムはストレージが肝になると考えられるが、バランスの取れたパフォーマンスも必要となる。そのため、どこに投資するかという議論は欠かせない。

     今回はオールフラッシュストレージの記事ではあるが、個人的にはシステムのコストは「ネットワーク、サーバー、ストレージ」の順に割り振るのが合理的ではないかと考えている。

     例えばiSCSIを利用するシステムにネットワークの帯域が1Gbpsしかないと、オールフラッシュストレージのパフォーマンスは十分に引き出せない。パフォーマンスを引き出すにはネットワーク帯域は10Gbps以上が必要になる。

    オールフラッシュストレージの代表的な事例

    注目のオールフラッシュストレージ関連製品とサービス

     オールフラッシュストレージを導入して現場で活用するには、様々な手助けをしてくれる製品やサービスを利用するとよりスムーズに進む。以下では、注目のオールフラッシュストレージ関連製品とサービスを紹介する。

    デル・テクノロジーズ

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    志茂 吉建(しも・よしたけ)
    未来科学応用研究所
    志茂 吉建(しも・よしたけ) 1996年にシーティーシー・テクノロジーに入社。プラットフォーム、ストレージ、ミドルウェア関連のサポートやプロフェッショナルサービスに従事。2007年下半期から、VMware仮想化関連のサービス開発やコンサルティングなどを担当。2011年に仮想化関連書籍などを共同執筆。2013年4月から未来科学応用研究所を設立し、仮想化/OSSコンサルタントとして活動中。