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旧石器時代の出現

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 地球をとりまいている気候の変化は、銀河系宇宙の中で独立を果たしていく一つの星、地球独自の歴史のなかで、何万年、何千年という長い周期をもって変化してきた。
 太陽のまわりを公転しつつ、自らも自転する地球。それによっておこるさまざまな大気の渦。燃えつづける地球の核と、冷えかたまる地球の皮。これらの動きの中で、生命が生まれ、死滅し、再生を繰り返している。そのとてつもなく長い歴史のなかで、人類が誕生したのは、わずか四〇万年前のことであった(図1・2)。

図1 旧石器時代人(原人・旧人・新人)
(小学館『図説日本文化の歴史1』先史・原史より)


図2 第四紀の時代区分


 地球の表面において起こる自然の変化の最大のものに氷河期がある。地球全体が冷涼な気候に包まれて、地表は氷河によって覆われてしまう。何万年の周期で氷河期と間氷期が繰り返された。過去における最後の氷河期を地質年代では洪積世と呼ぶ。現在は沖積世と呼ばれ、洪積世につづく地質時代を迎えている。
 洪積世は、常に極寒な気候にうちすぎたわけではなかった。わずかに暖たかさが戻った時期=間氷期と呼ばれる時期が三回訪れている。第二回目の間氷期は今から約四〇万年前のミンデル=リス間氷期である。この間氷期に地球上に他のどの生物よりも進歩した能力をもった人類が誕生したのである。北京原人・ジャワ原人などいわゆる原人と呼んでいる人類の祖先たちである。彼らの生息地は主としてアジアとアフリカ大陸であったことが、現在までの発見例から知られている。
 ミンデル=リス間氷期の次に訪れた第三間氷期(リス=ヴュルム間氷期、約一五万年前)には、さらに現世人類に近い旧人と呼ばれる人類がヨーロッパ大陸にも誕生した。
 有名なネアンデルタール人がそれである。
 第三回目の間氷期が過ぎると、再び地球は寒冷になりヴュルム氷期、旧人たちはしだいに影をひそめていく。そしてこの寒冷な気候により適応する力をもった新しい人類(新人)が登場する。ホモ・サピエンスと呼ばれる、現在の私たち人類の直接の祖先である。今から約六万年程前のことであった。
 ヴュルム氷期には、氷河は再び拡大し、北極や南極の氷が巨大となり、そのために海水の水位は低くなって、朝鮮海峡も、瀬戸内海も海水が退いて陸化し、日本列島は大陸と陸つづきとなっていた。大陸からやってきたナウマン象やアオモリ象など今は絶滅してしまった動物や、虎やオオヤマネコ、オオツノ鹿、そして今なお生きている鹿や猪が棲み、寒地性植物が繁っていた。新人たちの住むヴェルム氷期の自然環境が形成されていたことは、瀬戸内海の海底の地質調査の結果分かっているのである(図3)。

図3 約2万年前の日本
(新人物往来社『図説発掘が語る日本史』5 1986, 近藤喬一編より)

 旧人たちよりもより進んだ知能と、自然への対応能力を有し、よりすぐれた生産技術をもっていた新人たちは、発達した石の道具(石器)をつくり使用していた。
 豊富な種類の石器類-ナイフ・尖頭器・彫刀・搔器・穿孔器-などとともに、骨器・牙器・貝器も巧みにつくり、洞窟の中で暖をとりながら極寒の時代をのりきっていくのである。この時代はすでに人間の歴史の時代に入っている。考古学では旧石器時代と呼び、原人・旧人・新人の生きたそれぞれの時代を、より詳しく「前期旧石器時代」、「中期旧石器時代・後期旧石器時代」と細分している。しかしこの各時代の間隔は、時間の長さに置きかえれば、それぞれが数十万年もの長きにわたっていて、私たちには年代的実感がはかりしれない。