菅野美穂さん主演の90年代の人気ドラマ「イグアナの娘」を観たので感想を書いてみたいと思います。結論から言うと、個人的にはけっこう楽しめた作品でした。萩尾望都さんの同名の漫画作品が原作ですので、萩尾望都さんの作品が好きな方は特にオススメです。

あらすじ


高校生の青島リカは鏡で自分の姿を見るとそれがどうしてもイグアナに見えてしまう。また、リカの母親、ゆりこも、リカを生んだときから彼女がイグアナにしか見えない。そのせいでリカは幼少時より母親から冷たくあしらわれ、自分に自身の持てない少女になってしまった。

同級生で幼馴染の岡崎登に密かに想いを寄せるも、遠くから彼を見ているだけのリカ。そんなリカの前に恋のライバル橋本かおりが現れる。

かおりはリカを激しく憎む。そこには嫉妬もあるが、理由はそれだけではなかった。

子供の頃、リカは自身の醜い姿と母親との関係に苦しみ、一度は海で自殺を試みたことがあった。そこを偶然通りかかった登のおかげでリカは一命をとりとめたのであった。

弟を交通事故で亡くしたかおりは、自殺で命を軽んじようとしたリカが許せない。なにより、登にそんな女は相応しくない。

一方、リカは転校生で、過去にトラウマを克服した経験を持つ三上伸子と意気投合し、二人は友情を誓い合う。

登への想い、かおりからのイジメ、伸子との友情、母との関係、そして鏡に映る醜いイグアナの姿...

葛藤しながらも、リカは「自分の力で幸せになること」と決意する。(そこには、伸子の存在が大きいのであるが。)

刻々と近づく卒業の日。それぞれが進路を決めるなか、登は幼い頃からの夢だったアメリカ留学のチャンスを得る。

「登君と一緒にアメリカに行きたい!」

かつてのリカでは考えられないような大胆な意思が彼女の中に湧き上がっていた。しかし、ゆりこがそれを許すことは絶対にないだろう...

近づく旅立ちの日。そしてついに、何故リカとゆりこはリカがイグアナに見えてしまうのか、その秘密が明らかにされる。

イグアナの娘と毒親


自己愛が強く、そのために子供に悪影響を及ぼす親を指す「毒親」という言葉がありますが、イグアナの娘では「毒親」が一つの主題になっているようです。

ただし、母ゆりこが娘リカをどうしても愛せないのは単にリカの外見が醜いからではありません。(実際のリカは美少女ですが、ゆりことリカ自身からはイグアナに見えてしまいます。)

それもあるのですが、実ある理由によってゆりこ自身の幸福を失ってしまうかもしれないという恐怖が本当の原因なのです。そして、ゆりこが恐れているのは夫からの愛情を失うことなのです。

「母親は娘を夫の愛情を自分から奪い去る存在として嫉妬する(父親は息子を同様の理由で嫉妬する)」、という心理学の主張がどれほど正しいか私には分かりませんが、「イグアナの娘」では、母ゆりこのリカに対する冷遇には、「夫の愛情を娘のために失うかもしれない」という恐怖心が絡んでいます。

ゆりこはリカの登への想いを知りながらも、「お前には恋なんて無理、不幸になるだけだから止めておきなさい」と忠告し、嫌がるリカに無理やり鏡をのぞかせ、イグアナの姿を見せつけます。

何故、ゆりこは恋愛や自立に挑み、自己の可能性を開花させようとする娘を閉じ込めておこうとするのか。

繰り返しになりますが、そこには夫の愛情を失うかもしれないという、ゆりこの恐怖心があったのでした。もっと言うと、リカと自分が夫には知られたくないある「アイデンティティ」を共有しているために、リカを閉じ込めておく必要があったのです。

最後にリカはその「アイデンティティ」を知り、全てを理解し許すのですが、その時にはゆりこは既に...

一応物語はハッピーエンドなのですが、ちょっとゆりこが可愛そうでした。;^^

最後に


萩尾望都さんの作品は単なる面白さを超えた「神話的要素」が含まれていると評されます。人類普遍の問題を扱うのが神話なら、イグアナの娘にも確かにいつの時代にも共通している「親子関係」という普遍的なテーマが内包されています。

親子関係ばかり言及して来ましたが、本作のテーマはそれだけではありません。

それは、運命を受動的に受け入れるのではなく、どんな境遇にあろうと自分の力で幸福を掴もうとするリカの決意です。そして自らの力で幸福を掴みとろうとするリカの姿には素直に感動しました。

興味があれば、TUTAYAにもあると思いますので是非観てみて下さい。