ジョン・コルトレーン - インナー・マン/バードランド1962 (Vee Jay, 1977) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ジョン・コルトレーン - インナー・マン/バードランド1962 (Vee Jay, 1977)


ジョン・コルトレーン John Coltrane - インナー・マン/バードランド1962 The Inner Man (Vee Jay, 1977)
Two radio broadcasts from Birdland, NYC. "My Favourite Things", Mr. P. C." and "Miles Mode": Saturday February 9, 1962 (ca. midnight-12:45 a.m., that is Friday night after midnight)
"Body And Soul": Saturday June 2, 1962 (ca. 01:00-1:30 a.m., that is Friday night after midnight)
Originally Released by Vee Jay Records UXP-88-JY, 1977
Reissued by Vee Jay Records 22YB-2089, 1988
(Side 1)
A1. My Favorite Things (Richard Rodgers, Oscar Hammerstein II) - 18:48 :  

B1. Mr. P.C. (John Coltrane) - 11:05 :  

John Coltrane - tenor saxophone (A2, B1, B2), soprano saxophone (A1)
Eric Dolphy - alto saxophone (B1, B2), flute (A1), A2 out
McCoy Tyner - piano
Jimmy Garrison - bass
Elvin Jones - drums
John Coltrane Quintet With Eric Dolphy - The Complete 1962 Birdland Broadcasts (Gambit, 2009)
All tracks recorded at Birdland, New York. 1-3: February 9, 1962 (Friday night after midnight), 4-8: February 16, 1962 (Friday night after midnight). Previously unissued.
Released by Gambit Records 69325, 2009
(Tracklist)
1. Mr. P.C. (John Coltrane) - 11:15 :  

5. The Inchworm (Frank Loesser) - 7:12 :  

8. My Favorite Things [incomplete] (Richard Rodgers, Oscar Hammerstein II) - 13:17 :  

John Coltrane - tenor saxophone (1, 2, 6), soprano saxophone (3, 5, 8)
Eric Dolphy - alto saxophone (1, 2, 6), flute (3, 8), bass clarinet (5)
McCoy Tyner - piano
Jimmy Garrison - bass
Elvin Jones - drums

 ジョン・コルトレーン(1926-1967)はヨーロッパ公演(1961年11月11日~1961年12月4日)中にフランスの「Jazz Hot」誌の取材でベースのレジー・ワークマンは臨時メンバーであり、帰国後は新たなベーシストに交代させると発言していた通り、すでに1961年10月24日~11月5日のヴィレッジ・ヴァンガード公演でワークマンと交互、または2ベースで参加していたジミー・ギャリソンをベーシストに迎えました。以降1965年末にマッコイ・タイナー(ピアノ)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)が脱退するまで、コルトレーン、マッコイ、ギャリソン、エルヴィンのコルトレーン・カルテットはジャズ史上最高のバンドと目されることになります。以降コルトレーンは基本的にはこのカルテットで『Coltrane』(Impulse!, 1962.8、1962年4月11日, 1962年6月19日, 1962年6月20日, 1962年6月29日録音)、巨匠デューク・エリントンとの共作『Duke Ellington & John Coltrane』(Impulse!, 1963.2、1962年9月26日録音)、『Ballads』(Impulse!, 1963.3、1961年12月21日, 1962年9月18日, 1962年11月13日録音)、ヴォーカリストのジョニー・ハートマンを迎えたヴォーカル・アルバム『John Coltrane and Johnny Hartman』(Impulse!, 1963.7, 1963年3月7日録音)、ライヴとスタジオ録音が半々の『Impressions』(Impulse!, 1963.7、1961年11月5日, 1962年9月18日, 1963年4月29日録音)、『Live at Birdland』(Impulse!, 1964.4、1963年10月8日, 1963年11月18日録音)、『Crescent』(Impulse!, 1964.7、1964年4月27日, 1964年6月1日録音)と矢継ぎ早に新作を制作・リリースしていきますが、『Crescent』の次作は1964年12月9日録音の『A Love Supreme』(Impulse!, 1965.1)とインパルス!移籍後初めて半年もの間が空くことになりました。つい最近その間を埋める未発表アルバム 『Blue World』(Impulse!, 2019.9、1964年6月24日録音)が発掘されましたが、即興ブルース「Village Blues」(3テイク)、タイトルなしのため「Blue World」と名づけられた新曲を除けば全5曲8テイクのうち3曲は「Naima」(2テイク)、「Like Sonny」「Traneing In」といった旧曲で、インパルス移籍後5年間はそれ以前に契約したレーベルに録音した曲は公式再録発売できないために、映画やテレビ用に求められた時のための音源で公式な新作を意図したものではないことも判明しました。発掘された『Blue World』も1964年6月24日録音となればなおさら『A Love Supreme』までの半年近いブランクが気になりますが、スピリチュアル色とフリー・ジャズ色を一気に深めた内容からもこの間に盟友エリック・ドルフィー(1928-1964)の急逝(1964年6月29日)、ドルフィーとコルトレーンがともに「最高のテナーサックス奏者!」と注目していたアルバート・アイラーの本格的デビュー作(それまでにもヨーロッパ録音、ヨーロッパ盤のみのアルバムはありましたが)『Spiritual Unity』(ESP, 1965)の録音が1964年7月10日で、アイラーは同アルバムの全曲を録音と同一メンバー、ほとんど完成したアレンジで前月6月にはライヴで演奏し、すでにコルトレーンと親交があったことからも、ドルフィーの逝去とアイラーの本格的デビューが『Crescent』から『A Love Supreme』への作風転換のきっかけになり、そのために半年近くもの構想期間がかかったものと思われます。

 コルトレーンはヨーロッパ公演からの帰国後にギャリソンの加入でレギュラー・メンバーを固定したことからワンホーン+ピアノ・トリオのカルテット編成に集中し、それに伴いドルフィーの客演を迎えなくなりますが、LP時代に早くからレコード化されていたラジオ放送音源が『バードランドのコルトレーンとドルフィー (Inner Man)』(Vee Jay, 1977)で、Vee Jayはアメリカの黒人音楽レーベルですが、おそらく版権の関係からか日本盤が先行して発売されました。オリジナルLPに収録されているうちドルフィーの加わった1962年2月9日のバードランドでの演奏はA1「My Favorite Things」、B1「Mr. P.C. 」、B2「Miles' Mode」で、A2「Body And Soul」は1962年6月2日のジョン・コルトレーン・カルテットのみの演奏です。この「Body And Soul」は1960年10月24日録音のアルバム『Coltrane's Sound』(Atlantic, 1964.6)の収録曲ですが(メンバーはマッコイ、エルヴィン、ベースはスティーヴ・デイヴィス)、1962年の時点では契約期間の録音分を年1作ペースで発売していたアトランティック・レコーズがまだ未発表にしていました。1960年のスタジオ録音版と聴き較べれば一目瞭然ですが、このバードランドでの演奏は、基本的なアレンジは同じでベーシストがギャリソンに代わっただけながら、バンドとしての一体感とダイナミズム、リズム・セクション3人のボトムの低さと太さがまるで違う、スタジオ録音から1年半でここまで見違えるようなカルテットになったかと感嘆するしかないほどの、素晴らしいライヴ・ヴァージョンです。 ラジオ放送エアチェックの音質の悪さも吹き飛ぶ、コルトレーン生涯の名演のひとつでしょう。ワンホーン・カルテットでここまで達成すれば、以降ドルフィーを迎えずカルテットに専念したのもうなずける演奏です。

 また本作はCD時代になってやはりバードランドでのドルフィー参加の2月16日の演奏が3曲分見つかり、今ではドルフィー抜きで4か月後の「Body And Soul」をカットして、2月9日分の3曲とカップリングしたCDになっています。2月16日分は「The Inchworm」「Mr. P.C. (2nd version)」「My Favorite Things (2nd version, incomplete)」の3曲で、こちらはエアチェック音源か音質は9日分より劣り、「Mr. P.C.」も短めなら「My Favorite Things」は後半で切れてしまいますが、カルテット第一弾アルバム『Coltrane』に収録される「The Inchworm」がドルフィーのバス・クラリネット入りで聴けるのが16日分の目玉でしょう。コルトレーンとしてもソプラノサックス用の新レパートリーで張りきっており、ソプラノサックスとバス・クラリネットの対照とドルフィーの好調な演奏が楽しめます。

 従来からの9日分の3曲はCD化によって演奏順に戻されましたが、「Mr. P.C.」(ポール・チェンバースに捧げられた曲)、「Miles' Mode」(やはり『Coltrane』でスタジオ録音される曲で、ドルフィー作の「Red Planet」をコルトレーンが改題し、作者クレジットとも譲り受けたものと判明しています)、「My Favorite Things」のいずれもこの日のコルトレーンは不調だったか、リード・トラブルに起因すると思われるアドリブのたどたどしさやミストーンが目立ちます。それに対してドルフィーの演奏はコルトレーンをカヴァーするようにアグレッシヴで、「Mr. P.C.」「Miles' Mode」とも先発ソロのコルトレーンのアドリブの終わりをもぎ取るようにドルフィーのアドリブが炸裂し、コルトレーンのソプラノサックスの不調が目立つ「My Favorite Things」はドルフィーのフルートでどうにかさまになっています。『Inner Man』はコルトレーンというよりドルフィーのアルバムじゃないか、という感想を抱くリスナーも多く、コルトレーンは4か月後のカルテットの名演「Body And Soul」1曲だけで面目を保っている格好です。『The Complete 1961 Village Vanguard Recordings』(Impulse!, 1997)でもコルトレーン没後発表になった曲ではドルフィーがコルトレーンを食った曲が目立ちましたが、本作は全編それがはなはだしく、コルトレーンには失礼ですがコルトレーンの不調のせいでドルフィーの熱演が際立って聴けるアルバムです。またワンホーン・カルテット編成を確立した1962年以降のコルトレーンは、すでに音楽的にもドルフィーの参加の余地のない方向に進んでいったように思えます。