建部巣兆(1761〜1814)

『曽波可理(そばかり)』(麒麟選)
梅折やこれも雀の宝もの
山吹に蛙のたゝく扉かな
宿かりて又見ん花なあらし山
藤咲てゆらつく橋のすがたかな
蓮根の穴から寒し彼岸すぎ
畠打や穴のきつねに餅居(すゑ)て
つばくらに残す築地(ついぢ)や撞木町
かたむきて田螺も聞や初かわ(は)づ
しら魚やしらぬ葉に盛(もる)舟の上
佐保姫の野道に建る小旗かな
山姫の動かす松に春深し
遠山やところかはればほとゝぎす
新しき橋のにほひやほとゝぎす
早乙女が横転ぶ庵やほとゝぎす
浴室に苔がはへたり閑古鳥
盃が出ればはや来るほたるかな
芒から蚊の出る宿に泊りけり
蠅追ふてひやうたん(瓢簞)町に入りにけり
傘(からかさ)のちいさく見ゆる若葉かな
あぢさゐや煮てかためたる花でなし
夜をこめて打や浅黄の夏衣
こそ/\と夜舟にほどくちまき哉
憂人の鮓にもすこし初がつを
ひや/\と田にはしりこむ清水哉
駒の出んひさごをひたす清水哉
猫のかぐはしらもひかれ今朝の
七夕に星の入たる色紙かな
朝貌の花に澄けり諏訪の湖
かはほりも里のやつれや秋のかぜ
盂蘭盆やたまに呼込鏡磨(とぎ)
蜻蛉や銭百つけし杖のさき
日ぐらし(蜩)も啼ねば淋し初もみぢ
みよ/\と夕貌つたふ露の玉
急がねば初雪のふる旅路かな
こがらしや口もきかずに草の庵
越後からふたつ連てや浮寝鴨
葱の香や浮世をわたる其中に