ウラディミール・ホロヴィッツ
Vladimir Samoilovich Horowitz(1903-1989)
誰よりも美しく、誰よりも激しくピアノを奏でたピアニスト
ウクライナのキエフ生まれ(当時ソ連)。ソ連国内で育ち、その後はアメリカを中心に世界中で活躍した。
私は、ルービンシュタイン、リヒテル、そしてホロヴィッツを「三大ピアニスト」(ピアニストの三大巨匠)と呼んでいる。彼らと並ぶほどの偉大なピアニストは他にもいても、常軌を逸する悪魔(神)的な力を感じるとなるとこの3人のピアニストとなる
ホロヴィッツのピアノはまるで魔力を含んでいるかのごとく、ひとたびその音色を聴けば、まるで人魚の歌を聴いたかのように我を失い渦に惹き込まれてしまう。美しい音色だけでなく、ホロヴィッツ唯一の独特の歌いまわし、激情的かつ強烈な強弱とインパクト、そしてラストのエネルギーの大爆発は(たとえCDで聴いていても)誰でもオワー!ブラボー!と叫びたくなってしまう
ホロヴィッツの演奏活動期間は長いが、他のピアニストとはちょっと違う点がある。普通は晩年になると、演奏スタイルは落ち着いていくもののだけれど、ホロヴィッツは逆。鉄壁の超絶技巧が持ち味だった若い時代から、本来であれば全盛期にあたるだろう1953-1965年の12年にもわたるコンサート休止期間を経て、それから復帰した後半の晩年時代は、若い頃よりもその音楽はより劇的に、より激しくなる。
強烈で鋭いリズムとテンポは「その時」がやってきたら劇的に動かす。過剰なまでの動かしは聴く側に狂気感を与え、音楽に圧倒的な迫力と壮絶さ、そして興奮と恍惚もたらす。こんな神技が出来るのは、私の知る限り、ホロヴィッツ以外にはフルトヴェングラーくらいだろう
レパートリーは、分野は広いが曲は少なく絞られており、自分の音楽をより表現できる曲をあえて選んでいる(このタイプは他にミケランジェリがいる)。例えばラフマニノフの協奏曲は第3番しか弾いていないし、ラフマニノフやリストなどではホロヴィッツ版といわれる独自のアレンジ版の楽譜を使い、より劇的な演奏効果を求めている。
CDは録音状況も良い晩年の1965年以降に録音されたものをおすすめしたい。ラフマニノフは必聴で、ピアノ協奏曲 第3番、ピアノソナタ 第2番、他小品もことごとく素晴らしい。リストもメフィスト・ワルツなどヤバいのがある。ホロヴィッツはレパートリーも広げず、室内楽もやらないが、異次元の能力を持っていたのが分かるのがある。例えば現代曲の初演、バーバーのピアノソナタは今だ誰にも影すら踏ませないほどの圧倒的名演。
ショパンはあえてマイナーな曲を選び名演に仕立て上げたり、舟歌などの超名演もあるが、どちらかというと個性的な部類に入るだろう。モーツァルトやベートーヴェンは他のピアニストに任せたい。
それではランキング
★★★★★(5/5)
リズム・ビート・グルーブ感 ★★★★★
構成・展開力 ★★★★★
ダイナミクス・インパクト ★★★★★+
美しさ・歌・センス ★★★★★
緻密・繊細さ ★★★★
ヴィルトゥオーゾ的要素・技巧 ★★★★★+
魔力・音色 ★★★★★+
カリスマ性 ★★★★
万能さ ★★★
人気・ユーモア ★★★★★+
ホロヴィッツの十八番。ラフマニノフ3番
スクリャービンのエチュード。たぶんアンコールでの演奏。