「自分、岩手県の浄土ヶ浜ってところに行きたいんですよ」
「入水自殺は捜索が大変だからやめとけよ~」
「あっそういうところじゃないです」
マジでそういうところじゃないです。
・宇宙のステルヴィア #1~26
西暦2167年。地球は超新星爆発によって大きな被害に見舞われました。
でも、世界中の人たちが協力して立ち向かいました。
むかしの皆さん、ありがとう。地球は元気です。
私もなんとか元気です。
今は、西暦2356年……。
(1話アバンより)
2003年、深夜アニメ黎明期の作品。絵のタッチはどことなく、ロックマンエグゼをほうふつとさせます。
そう言えば制作会社は同じXEBECでした。まあ偶然の一致だと思いますけど。
このアニメの存在を知ったのは、1年半くらい前のことでした。あらすじを読んで引き込まれ、また、angelaのデビュー曲である主題歌「明日へのbririant load」を聴いて、雷に打たれたような衝撃を覚えました。今回ようやく観ることが出来ました。
人類が太陽系全土まで進出した300年以上先の未来。宇宙パイロット等養成機関・ファウンデーションの1つ、ステルヴィアで、「しーぽん」こと、落ちこぼれの少女・片瀬志麻が奮闘する様を描きます。
様々な出来事の巡りあわせの中で、次第に潜在能力を覚醒させていくしーぽん。当初は189年前に太陽系を襲う衝撃波「ファーストウェーブ」の再来「セカンドウェーブ」に備え、ステルヴィアの人々が奮闘する様を描いていたのですが、それは10話であっさりと解決。この後どうするんだろう……と思っていたら、そこからが本番だったのです。賑やかな学園ドラマと同時進行で、不穏な展開が次第に忍び寄ってくる様が2クールかけて丁寧に描かれていました。この辺のバランスは文句なしでしょう。
群像劇としても良く出来ていて、どのキャラクターにも深みがありました。町田先輩が「しーぽんみたいな天才に生まれれば努力しなくて良かった」と話している生徒を叱った直後にしーぽんをガチで潰しに行ったり、終盤で自らを追い詰めて孤立していくしーぽんに対して、彼女の気がつかないところで周りが支援したり、と言った立体的な構成がなされたシーンが強く印象に残りました。大人たちも学生たちを動員しないといけない状況に対する申し訳なさとか、それでも最善を尽くすべく奮闘する様とかが、丁寧に描かれていましたし。
そんな中で、栢山晶(かやまあきら)というヒロインに心を奪われました。
背が高くて、クールで、めちゃくちゃ声が低い。
かっこよくて、それでいて可愛さも兼ね備えている。素晴らしい。
彼女は途中ジョイ・ジョーンズ(ジョジョ)という同級生と付き合うことになるのですが、こやつが対照的にホームラン級のバカ。
しかし彼に振り回されて照れたり怒ったりと、彼女が普段は見せない表情を見せるようになるのがなんともたまりませんでした。
顕著な例が21話Bパートでしょう。
終盤、しーぽんは恋人であり、複座式ロボット「インフィ」の相棒である音山光太と次第にすれ違っていくわけですが、これを見かねた予科生の男性陣が、光太にアドバイスをすることに。
女性陣は隣の部屋で紙コップ使って、こっそり聞き耳を立てていたわけですが……。
「ジョジョ……君、いま栢山さんと付き合ってんだよね?」
「え……あ、ああ。それがどうした?」
「仮にさ、仮に栢山さんが、なんだか良く分からない理由で突然君に怒り出したら、君はどうする?」
「うぅ~ん……」
「どうなの?」
「あやまる!」
「えっ」
「とにかく、謝って、謝り倒す!まずはそれだって」
「だって、なんで怒ってるのかも分かんないんだよ?」
「そこで理屈こねてどうすんの~。仲直りしたいんだろ?」
(栢山晶、思いっきり表情を曇らせる)
「そりゃそうだけど……」
「女は、感情の生き物なの!とにかく、ヤバいと思ったら、自分が正しかろうが謝って謝って、謝り倒さなきゃ!」
グシャ!(晶、紙コップを握りつぶす)
「そんな……理屈が通らないよ」
「だ、か、らぁ……ガールには理屈は通用しないんだって。正義とか真実とか、そういう言葉を忘れるところから恋愛は始まるんだよ!」
ズシン!ズシン!(晶、隣の部屋から怒った人間特有の足取りで出てくる)
「うん?」
(ジョジョ、振り向いて青ざめる)
「へぇ~……自分が正しいと思っていても君はとりあえず謝っちゃうんだ……」
「いやあ……それは言葉のアヤというか……」
「アヤ?……女を舐めんな!」
ばしっ!(ジョジョ、思いっきり頬を引っぱたかれる)
「見ただろ。理屈は通用しないんだ……ふっ」
(21話Aパートより)
ここだけ抽出すると「なんでこんな奴と付き合ってるんだ?」という感じですけども、逆に、15話で周りからジョジョってバカだよな、って話題になったときに「いや結構本とか読んでるし……そりゃ成績悪いけど」と素で言ってから、我に返って赤面するというシーンもありました。最高でした。
振り返って思うのは、型にはまってない作劇が特徴だったな、ということ。良くも悪くもキャラクターの身に降りかかった出来事が、心境の変化や成長とあまりシンクロしていません。
例えば18~19話にかけてヒロイン4人がケンカをするのですが、そのときお互いの立場や進路の変化について、激しい言い合いになったにも関わらず、なんとなくで仲直りして終わり。ストーリーにまるで影響を及ぼさない。凡人の晶はメキメキ頭角を現しつつあったしーぽんに対して、やっかみの言葉をぶつけてしまうのですが、和解してもただ単に関係が元に戻っただけ。普通に考えたら自分に出来ること、向いていることを考え直して、自分なりの役割を見出していくという展開があってもいいと思うのですが。その辺はある意味リアルっちゃあリアル。
及第点を与えられるのは間違いないんですけど、ものすごく良く出来ているところがある一方、終盤にかけては盛り上がり不足というか、若干練りこみが足りなかったというか……物足りなさを感じられました。地球外生命体の存在も唐突に明かされたかと思いきや、掘り下げられないままでしたし。
続編があれば一層化けたかもしれないとは思うのですが……15年間冷温停止状態というのが悲しいなあ。