今日の一曲!わたてん☆5「気ままな天使たち」―福音『私に天使が舞い降りた!』の音楽世界― | A Flood of Music

今日の一曲!わたてん☆5「気ままな天使たち」―福音『私に天使が舞い降りた!』の音楽世界―

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:2019年のアニソンを振り返る】の第十六弾です。【追記ここまで】

 

 

 今回の「今日の一曲!」は、わたてん☆5の「気ままな天使たち」(2019)です。TVアニメ『私に天使が舞い降りた!』OP曲。

 

 

 わたてん☆5は作品のメインキャスト陣によるユニットで、メンバーは指出毬亜・長江里加・鬼頭明里・大和田仁美・大空直美(キャラクター名に直せば白咲花・星野ひなた・姫坂乃愛・種村小依・小之森夏音)の5人です。本記事では『わたてん』の音楽を全般的に特集することとし、「今日の一曲!」としてメインに据えたOP曲だけでなくED曲にも、全曲ではありませんがキャラクターソングとサウンドトラック収録曲にも言及します。

 

 

 

 上掲画像に表示されているのは、僕のAmazonアカウントに於ける2019年3月27日付の注文履歴です。個人情報部分のマスキングが面倒で注文日ごとトリミングしてしまったので、日付の信憑性は返品期間が4月28日までになっているところに求めてください。TOKYO MXで『わたてん』の最終話が放送されたのがその日で、リアタイ視聴後即座に「CD全部ポチろう!」との衝動に駆られたことを証明したいがためにわざわざスクショを撮ってきました。笑

 

 作品をご覧になった方であれば、この個人的なエピソードだけでも何を言わんとしているかを察せたかもしれませんね。そうです、僕は最終話のミュージカル演出にやられてしまった一人です。「最終話でミュージカル」という見せ方には過去にも例があるので斬新とまでは言いませんが、ただでさえ本編の尺が貴重になるタイミングでその半分に相当するAパートを丸々ミュージカルに充てるという、チャレンジングな時間配分にまずは驚かされました。肝心の内容も非常に質が高く、作中設定としては文化祭での劇の上演;メタ的には劇中劇に過ぎないシーンを言わば集大成と位置付け、持てるリソースを最大効率で注力したとわかるアニメーションは勿論のこと、劇中世界観確立のために15分半の時間長に対して8曲もの唱歌が書き下ろされている濃密な力の入れようからも、制作陣の熱意のほどが伝わってきます。第11話まではCGDCTとしての魅力を評価していたけれども、最終話で俄に音楽面からの評価が爆上がりし、前出の衝動買いに至る(後悔はしていない)というわけです。

 

 ただ、ミュージカル自体が人を選ぶところがあるからか、最終話に対するリアクションを検索してみるとネガティブな意見もそれなりには目につきます。ミュージカルが主要素のひとつである別作品のレビューの中にかつて書いた通り、僕は元々「ミュージカルモノに苦手意識がある人」だったのですが、年齢を重ねていくうちにあまり気にならなくなったというか、音楽好きだからこそ変化球じみた音楽の取り入れを素直に許容出来ないといった、子供じみた拗らせが背景にあるがゆえの嫌悪感だったと自己分析しているくらいです。従って、最終話に対して「こういう演出嫌いだわ~」と感じた人は、ふとした気付きで評価が180度変わる可能性を有している点で、全く無関心な人よりも寧ろ見込みがあるだろうとフォローしておきます。元ネタはミュージカルとはまた違うと前置きしつつ、アンチの立場からミュージカル展開を「急に歌うよ」タグで茶化せるようであるなら、それは好きの裏返しかもしれないよということです。尤も、当該のタグは好意的な使われ方が殆どでしょうけどね。

 

 このような経緯で、第11話までの時点では「2019年のアニソン振り返り企画ではOP曲とED曲だけ紹介すればいいかな」程度だった認識が、最終話視聴後には「これ作品特集にしなきゃダメだわ」と上書きされていたのです。去年の冬クールのアニメなので今更な言及になってしまうのは重々承知のうえで、特集を書こうと決意した自分の思いに1年2ヶ月越しで応えようと思います。笑

 

 

 

 

■ 気ままな天使たち / わたてん☆5

 

 リリース順に紹介していきたいので、わたてん☆5によるOP曲「気ままな天使たち」を初手にレビューします。楽曲のクレジットは【作詞:ZAI-ON、作曲:Eternal Truth、編曲:伊賀拓郎/WEST GROUND】で、この組み合わせはED曲も同様です。いかにも変名っぽい気がするうえに個人名なのかチーム名なのかも判然としないEternal Truthさんについては、「誰?」という疑問しか情報が拾えないほどに存在が謎でこれ以上掘り下げられません。WEST GROUNDさんとZAI-ONさんについては、共にお名前を出している記事が過去に二本()、WEST~単独では更に二本の記事()が存在し、その作家性を明らかにしようと私見を述べたことがあります(後述)。加えて、③の記事には伊賀拓郎さんのお名前も出していて、正体不明のEternal~も含めてフライングドッグ関連のワークスで共作となることが多い面々とまとめられそうです。伊賀さんは『わたてん』の音楽担当でもあり、氏が手掛けた劇伴や劇中歌に関しては後のサントラの項でふれます。

 

 過去記事からWEST~の作家性に纏わる部分を引用するなら、④に書いた『アレンジ面では「バックの疾走感」を、メロディ面では「Cメロの高揚感」を大切にしているトラックメーカー像が浮かび』が端的であるとの認識です。…と言いつつ、このクリエイター評は本曲およびED曲に対してはあまり適切に機能しないと見ています。なぜなら、クレジット上で伊賀さんとの共編曲になっているところからもわかるように、『わたてん』の音楽に於ける鍵盤の領分は伊賀さんが手ずから演奏するピアノであるため、作家性を一人だけに求められないのです。それでも両者の役割を分離させて考えてみますと、消去法でWEST~はバンド隊【drums:田中陽、bass:中村圭、guitar:城石真臣】のアレンジを纏め上げたのではないかと推測します。本曲のリズム隊、特にベースはセクション毎に多彩な表情を見せていて、Aメロではボーカルラインの隙間を埋めるように、サビ終盤("ドキドキを"~)では主旋律に沿って歌うようにそれぞれ振舞っている一方、Bメロやサビではリズムに徹してトラックを牽引していくグルーヴィーな働きぶりで、この臨機応変で生じた乙張が後者のリズミカルなプレイを際立たせていると聴き解けば、それがWEST~らしい「バックの疾走感」の表れと言えるかもしれないとの論拠です。無論、プレイヤーである中村さんのセンスと技量があってこその話だとも補足しておきます。

 

 勝手に両編曲者の分野を規定したので誤解があるかもしれないのはともかく、鍵盤とバンド隊のバランスの良さこそが本曲の美点であるのは聴いたままの事実です。そのことはイントロを聴くだけでも明らかで、ABBAの「Dancing Queen」(1976)よろしくワクワク感が半端ないピアノのグリッサンドで幕を開け、多幸感に満ちたギターリフに引き寄せられた天使たちの"La la la"コーラスが音像を豊かにし、本格的な歌入り前にピアノが今度はメロディアスなフレーズを奏で出すという冒頭の20秒に、まさに福音のサウンドスケープを感じました。これを受けてひなた乃愛花の順で歌われる最初の一節が、"さあ今夜も元気に 始めましょう!/天使が舞い降りる時間"なのは、ここまでの音色に鑑みると意外に思えます。イントロの明るさには寧ろ日の出らしい趣があって、一番手で溌溂に歌い始めるのは名前に「日向」を擁する子で、OP映像では当該部に登校時の模様が描かれていても、歌詞の時間軸は夜にフォーカスしているんですよね。サビの結びも"お星様キラキラ笑顔で/明日は晴れ模様"なので、"天使が舞い降りる時間"は間違いなく夜なのでしょう。後ほどまたふれますが、劇中劇「天使のまなざし」で天使アネモネと人間デイジーが出逢うシーンが夜ですし、視聴者目線でも『わたてん』は最速でAT-Xの22時・最遅でTVQ九州放送の3時からのスタートだったため、夜からが本番なのは音作りとして意外でも文脈的には得心がいきます。

 

 

■ ハッピー・ハッピー・フレンズ / わたてん☆5

 

 お次はわたてん☆5によるED曲「ハッピー・ハッピー・フレンズ」(2019)をレビューします。敢えて対存在を持ち出して「悪魔級にキュート」だったと形容したい神EDの内容から視覚的にも明らかなように、ビッグバンドが織り成す期待通りのハッピーサウンドを味わうにはうってつけのナンバーです。そりゃ"デュワデュワ"も"シュビドゥバ"も出てきますよね。笑 この短評だけで本曲の魅力は過不足なく伝えられた気がしますし、あれこれと解説するよりも聴いてハッピーな気持ちになったならそれが正解なタイプの楽曲です。

 

 制作のクレジットはOP曲と同じなのでプレイヤーを紹介しますと、リズム隊とピアノはOP曲から引き続き田中中村伊賀の3名で、本曲から参加しているのは【guitar:香取真人、trumpet:辻本憲一, 伊藤駿、trombone:鳥塚心輔, 住川佳祐】の5名で、都合8プレイヤー+5ボーカリストの編成になります。新たに加わったブラスセクションがサウンドの中核を担っているのは間違いありませんが、OP曲では主張が控えめだった田中さんのドラムスがこちらでは生き生きとしている点もバイタルな音作りの肝だと感じ、目立たせるリズム隊をOP曲とED曲で対ににしているのかもと思いました。まあベースはベースで、冒頭のカウント出しを任されているくらいには美味しい扱いですけどね。

 

 

 

 

 続いてはディスクが変わりまして、キャラクターソングアルバム『天使のうたごえ』(2019)からいちばんのお気に入り楽曲を紹介します。主題歌シングルとサントラを購入するならキャラソン集も揃えるかというコンプリート欲だけで手を出した一枚でしたが、全体的にクオリティが高くて満足です。

 

 

■ やっぱりみゃー姉なんばーわん / 星野ひなた

 

 「みゃー姉」。この響きには何処かミーマチックな向きがあって、何はなくとも口にしてみたくなる魔力があります。それをアッパーな音楽にのせたなら、高い中毒性を誇るのは必定といった感じの電波ソングです。トラック制作を手掛けたのはTOKYO LOGIC Ltd.の面々【作詞・作曲・編曲:篠崎あやと, 橘亮祐|Sound products managed:ムラタユーサク】で、更新予定のネタバレになりますが近々特集しようと思案中の音楽制作プロダクションでもあります。当ブログ上にはこれまでお名前こそ出していなかったものの、篠崎さんのワークスを扱った記事は過去に4本()あり、このうち①と③は橘さんも参加している作品にふれたものです。レビュー済みの楽曲の中から個人的なフェイバリットを挙げるなら、篠崎さんには「ビビビーチ♡ビビビビーチ!」(2016)を、橘さんには「おやすみパラレル」(2016)を生み出してくれてありがとうと伝えます。曲調はそれぞれ違えど、両者ともに抜群のポップセンスを持っていることは疑いようのないラインナップです。

 

 ぷにっとしたキャラデザのせいもあって、時々「この子たちの設定は本当に小学5年生でいいのだろうか」と思うことも正直あったのですが、本曲の歌詞内容を受けると殊更に幼く感じられます。小学5年生どころか5歳児と言われても違和感がないほどに、ひなたの天真爛漫さが強調されたワードチョイスが印象的です。"となりのおばさんこんにちわ/ボウズの頭はつんつるてん/トラック発車だブンブンブン/走るぞきょうそうだ!/さいしょはグー、おなかがぐー!/おつぎはチョキ、かにさんだー!/さいごはパー、ぱんぱかぱーん!/勝負だみゃー姉、じゃんけんぽん!"と、漢字が少なくエクスクラメーションが多い字面からも無邪気さを読み取れます。電波ソングの歌詞はIQが低いほどに魅力が増す面もあるので、トラックメイキングの方向性としては実に正しい作詞と作編曲の連携と言えるでしょう。とはいえ、サビの"わんわんわーん"のマルチミーニングには確かな知性が窺え、トップを指す"なんばーわん"であり、"泣いてるとき"のオノマトペであり、[わ]の頭韻で"我が家はワンダーランド"を導き出すフレーズであり、おそらく犬の鳴き声に擬えて"楽しいとき"の表明でもあるという、能天気なだけではない言葉繰りに感心します。2番サビ後のべた褒めパートを経てからの"引きこもりで人見知り友達居ない/そんなみゃー姉も一番さ"にも、欠点ごと愛すひなたのみゃー姉ガチ勢っぷりが表れていて尊みが凄い。

 

 アレンジ面でとりわけ好みなのは、1番Bメロ("GoGo!"~)裏の小気味好いシンセです。同じフレーズは1番後の間奏に再び登場するものの、ボーカルに対するバックトラックとしてはこのパートに一度きりしか出て来ないプレミア感を評価しています。その後Aメロに戻る展開("となりのおばさん"~)を経ても、今度はBメロの繰り返しではなく新たなメロディ("さいしょはグー"~)が登場するので編曲が異なりますし、2番の同位置は"イエーイ!イエーイ!"のノリに合わせたロックテイスト重視でシンセの出る幕がありません。それとは対照的に1番の"さいしょはグー"~裏のアレンジは、2番の同位置("もういいかい"~)にも前出のべた褒めパート("みゃー姉は"~)にも出て来ます。都合二対三で不均等なので僕ならアウトロにもう一度当該のシンセを登場させたくなるのですが、フック("MYK、MYK、"~)で始めてフックで終わらせるという楽想を崩したくない心理もわかるので、色々考えて結果的にアンバランスにしたとの分析です。

 

 

 

 

 最後はBGM39曲と挿入歌8曲が収められた同作の『サウンドコレクション』(2019)をレビューします。先の「気ままな天使たち」の項では「劇伴や劇中歌」という書き方をしていて、BGMはそのまま劇伴とイコールで結んで他の作品と同様の理解をしていただければ問題ありませんが、挿入歌はアニメの本筋に対して使われた楽曲という意味ではなく、劇中劇「天使のまなざし」のために書き下ろされた唱歌のことです。既にふれてあった通り、同盤の収録曲は全て作品の音楽担当である伊賀拓郎さんによるもので、きちんと演奏者を招いてレコーディングされています。全員のお名前を出すのは紙幅の都合上控えますが、伊賀さんを含めて総勢30名のプレイヤーが参加しているとわかるクレジットです。

 

 

 前置きのところに「去年の冬クールのアニメなので今更な言及になってしまう」と述べたように、レビューとしての旬を意識するなら本記事はもっと早くに更新するべきだったと思います。しかし、つい先月にアップされたばかりの上掲動画をYouTubeで見付けてからは、怪我の功名的な意味合いで「遅くなって良かった!」と思い直しました。まさか伊賀さんご本人のチャンネルが存在するとは露知らず、しかも『わたてん』の音楽をセルフで演奏する動画を上げているなんて、このタイミングで遅蒔きながらのレビューを書いている自分にはこの上ない好機です。作品音楽の魅力が更に伝わりやすくなる楽しい動画なので、是非ともご覧ください。埋め込み先で演奏されているのは07.「いっくぞー!」で、他に【13.「トラブルメーカー」 → 07.「いっくぞー!」 → 37.「ご満悦」】のメドレー動画もあります。僕としても劇伴からオススメを一曲紹介しておきますと、「ハッピー・ハッピー・フレンズ」がインストにアレンジされた14.「想う気持ち」を聴くと、ゆったりさせても心地の好い旋律なんだなと新たな発見があるのと同時に、メロを書いたEternal Truthさんへの興味が益々深まること必至です。笑

 

 

 一曲あたりの文章量は少なくなりますが、ここからは劇中歌の全8曲に言及していきます。劇中劇「天使のまなざし」の役名に沿って歌い手の表記を改めると、花がアネモネ・ひなたがデイジー・乃愛がカルミアとカルムとマリーの三役・小依がレン・夏音がスイを演じて歌唱していることになり、紡がれるのは"天使と人の物語"です。進行と共に立場が変わる登場人物も居て…とネタバレを厭わずに書き進めていきますが、純粋に劇として内容を評価したネット上の談話は検索をすれば良質なものをいくつも拾えるため、本記事では主に音楽的な要素を取り立てるとしましょう。

 

■ 天使の眼差し Prologue / デイジー・カルミア・レン・スイ

 

 劇の名前を冠した表題曲。本曲の役割はまさにプロローグで、"大きな空に/天使と人の世界/人は大地に天使は空に"と、世界観の提示に重きが置かれています。"新しい花が 咲き巡る世界"も、劇中に於いて天使が如何に誕生するかを示唆するフレーズです。歌詞は僅か6行で演奏時間は1分とちょっとの小品でありながら、次第に多層的になっていくサウンドが天地のビッグスケールと世界の奥行を演出しています。

 

■ 私を呼ぶ声 / アネモネ・レン・スイ

 

 天使アネモネの誕生を祝福する楽曲。舞台袖からではなく客席側から登場していきなりのソロパートを任される花ちゃんマジ主役。ドラスティックに変化するわけではないけれども二部構成になっていて、前半のインビテーションの段階では未だ旋律にも歌声にも不安が滲んでいる感じがしますが、後半でいざ天使としての生を受けてからは膨らむ期待のほうが優勢となったのか、メロディの輪郭がはっきりとしてきます。"わたしを呼んでいる/穏やかな愛に溢れている/素晴らしい世界"のイメージを、見事音楽に起こしきったと言える清廉さです。

 

■ ようこそ天使の国へ / レン・スイ

 

 天使の国のテーマ曲。基本的には歌の力が楽曲を引っ張っていた前二曲とは異なり、オーケストラがしっかりと楽曲を導いている点で新鮮です。観客のひとりとして作中に自分が居たとしたなら、この時点で楽器による表現力の豊かさに引き込まれたことでしょう。後の「受け継ぐ心」への布石とも言える歌詞が耳に残る、"初めて香る風/初めて瞳に映る色/初めて芽吹いた気持ちは/世界をうめつくす愛"の部分は、メロディの雄大さを演奏が一層引き立てていて素敵です。最終スタンザもストーリー上重要で、"天使の仕事/それはたったひとつ/愛を人に届けるの/この弓矢で"は、プロローグの"天使たちは 人を愛で結びつなぐ"を具体的にしています。

 

■ 恋するお菓子屋さん / デイジー・カルミア

 

 曲名通りのスイートソング。実にミュージカルらしい構成の楽曲で、台詞インサートの多さが好きな人には堪らない仕上がりです。地に足のついた人の世界を描いているだけはあって、ここまでの三曲が有していたような神聖性は何処へやらの、人間味に溢れたグルーヴとサウンドに親しみを覚えます。アネモネとデイジーに接点が生まれるきっかけのシーンを彩る音楽でもあり、それをして「恋するお菓子屋さん」なのでしょうけれど、カルミアからデイジーへの矢印を想うと切なくもある曲名です。CPとしてはひなノアが好きなので余計に。

 

■ あの子に会いたい / アネモネ・デイジー

 

 立場を超えたい愛の歌。「私を呼ぶ声」の前半にあった未知の世界に対するドキドキとは、また別種の不安を抱えてしまったとわかる物悲しい立ち上がりが特徴的です。音源ではイントロ部分に台詞がないため劇中から引用してきますと、アネモネの独白「天使の心にも愛は芽吹くものなの?私は天使、愛を届けなくては。」は、自己矛盾に陥って存在意義を揺るがしかねない感情の発現に根差しているので、サウンドが感傷的になるのも已むなしでしょう。しかし、幸か不幸かデイジーもアネモネのことを想っていたので、二人は人の世界での逢瀬を得て互いの気持ちを確かめ合えたのです。ゆえにボーカルパート自体は明るく閉じられるのですが、アウトロはその余韻を許さず徐々に暗雲が立ち込めていくように展開していき、劇中ではデイジーの「私は人間、天使のあなたと結ばれても先に死んでしまう。ごめんなさい。」を最後に、失意に沈むアネモネのカットでシーンは終わります。

 

■ 決意 / アネモネ・レン・スイ

 

 立場を超える愛の歌。本曲が歌われるまでの間に、劇伴の39.「神殿にて」をバックにアネモネが天使長カルムから「人間と愛を結ぶ唯一の道」を教わるシーンが入ります。それは「人間となり、時の峠を越えること」で、しかもその愛が受け容れなければ自身は消滅するというペナルティ付きです。ネックである寿命の差を乗り越えられれば或いはと(+スイレンの後押しもあって)、アネモネはこの試練に挑みます。今まで通りに飛んで行こうとして転んで羽根がないことに気付くモーションに少しうるっときて、"踏みしめる冷たい雪/足から伝わる痛み 「これが寒さね」"と初めての感覚を知るフレーズで、観ていて本格的に感極まった当時の記憶が蘇ってきました。鼓笛隊然としたドラムスと最高潮のオーケストレーションによる盛り上がりで、俗っぽく形容すれば「勝ち確BGM」らしさが次第に強まっていくので、このまま素直なハッピーエンドに向かうルートを予想するのも無理からぬことと思います。

 

■ 受け継ぐ心 / アネモネ・デイジー・マリー

 

 立場と世代を超えた愛の歌。ボロボロになりながらも峠越えを果たしたアネモネが辿り着いたお菓子屋さんにデイジーの姿はなく、代わりにその孫にあたるマリーの口から既にデイジーが亡くなっていることを知らされます。ウラシマ効果的な悲劇に見舞われつつも、人魚姫的なエンディングを迎えていないことを訝しむアネモネのもとに、マリーが「うちの看板商品」であるところのケーキを持って来て、自身の羽根がモチーフとなっているそれを見てデイジーからの愛を知った彼女は、同時に人には「受け継ぐ」という強さがあることをも理解したのです。マリーもデイジーからアネモネのことは聞かされていたのでコンテクストはばっちり把握済み、"今二人巡り合った/わたしたち このケーキを受け継いでいくの/いのち尽きるまで"の大役を担えて本望だったことでしょう。楽曲の後半ではシンフォニックなアレンジに導かれてカメラが天使の世界へと移動し、アネモネとデイジーとマリーが皆仲良く天使となって愛を謳う様子が映し出されます。同じ時間の流れの上で生きられる結末を得たことは、遠回りですがハッピーエンドに相違ないでしょう。本曲に関しては過度な音楽的解説は無粋と断じ、「心で聴いてくれ」と感性に丸投げします。

 

■ 天使の眼差し Epilogue / アネモネ・デイジー・マリー・レン・スイ

 

 表題曲のエピローグ版。プロローグには居なかったアネモネが加わり、乃愛はカルミアではなくマリーとしての参加で、つまりは天使たちの合唱曲です。プロローグでは天使と人の世界が舞台美術でもわかりやすく別たれていたため、「天地のビッグスケールと世界の奥行を演出」という表現を用いましたが、エピローグでは天使の世界に天使と人が共存している見せ方になっているので、「愛による調和が行き届いた理想郷に鳴り響く音楽」と表現しておきます。

 

 

 

 

 以上、『私に天使が舞い降りた!』の音楽特集でした。「アニソン+」に分類している作品は別として、リリースされている関連CDを全て現物で購入したのは(昨年3月の時点で)久々だったかもしれません。詳細なクレジットがすぐにわかることもあって執筆のし甲斐があり、特にサントラに関してはこうしてレビューするとなると隅々まで注意して聴く必要に迫られるので、自身の音楽的理解深化のためにも有意義でした。本記事を通じて、『わたてん』の音楽世界の素晴らしさが伝わっていれば幸いと結びます。