野生ランに魅了される(キンラン・ギンラン・エビネ) | 首都圏生きものめぐり ~関東の動植物に会いにいくぶらっと散歩~

首都圏生きものめぐり ~関東の動植物に会いにいくぶらっと散歩~

雑誌編集者である著者が自ら首都圏の公園や自然地に足を運び、そこで出合った生きものの情報をお届けします。
都会の印象が強い東京にも、カワセミやタカ、多くの昆虫が暮らしています。「首都圏ってこんなに生きものが多いのか」と驚かされる情報が満載です。

ラン(蘭)といえば切り花や園芸植物として人気の花ですが、

フラワーショップなどに売られているものと違い、日本の山野に自生するランがあることは

意外と知られていなかったりします。知っていても見たことがない……という方も多いことでしょう。


野生ランが見ごろを迎えるのは晩春から初夏にかけて。
基本的には、クヌギやコナラなどの多い雑木林に生えるそうです。

今日はいつもの生きものめぐりから趣向を変えて、全編植物のみでお送りいたします。






~4/25 神奈川県藤沢市内で撮影~

深い雑木林を散策していると、まれに小さな黄色い花が複数固まって咲いた植物株を見かけます。

クローズアップするとこんな感じ(光が足りなかったのでフラッシュを使っています)。

これが野生ランの一種・キンラン(金蘭)です。写真のように、花は最盛期でも基本的に半開き。

華やかさはあまりないかもしれませんが、野生に生える花らしい独特の品格があります。






~4/29 神奈川県大和市内で撮影~
黄色いキンランと違い、こちらは白色のラン。キンランよりもサイズは小さめです。

もうお分かりと思いますが、ギンラン(銀蘭)といいます。

サイズが小さく花が白とあって、キンランよりも遥かに目立ちません。

余程目を凝らして林床を探していないと、慣れた方でも見落としてしまうかも……?


ちなみにドウラン(銅蘭)は存在しない。余談ですみません。






~4/29 神奈川県大和市内で撮影~

上記のギンランと同じ場所で確認しました。エビネ(海老根)といい、これもまたラン科の植物。

花の咲き方がキンラン・ギンランとは明らかに異なります。ヒヤシンスとかに近いかも?






上記のエビネは、なんとキンランと一緒に生えていました。
エビネが少々目立ちにくいですが、隣り合っているのがわかりますでしょうか?


Wikiなどでも書かれていますが、こうした野生ランは一昔前まではありふれた存在でしたが

近年はかなり数が少なくなっており、自生のものを見る機会はめっきり減ってしまいました。

原因は開発による自生地の減少もありますが、もう1つ問題になっているのがマニアによる採掘

皮肉にも自然志向の高まりから「山野草」の人気が高まるのに合わせ、

野山や自然公園から勝手に持ち去ってしまう厄介な輩が増えたそうです。

写真のように野生ランが並んで生えるようなシーンは、今ではなかなかお目にかかれません。


が、その割には首都圏から出ることのない(できない)K.Nakamuraが、

ここ1ヶ月の間に、複数の箇所で複数の株を確認しています。

意識して探さない間は気が付かなかっただけで、

実は里山公園や林道ではまだ結構残っているみたいなんですよね。

ただ、上記の通り盗掘の恐れがあるので、具体的な撮影場所は伏せさせていただきました。






~4/29 神奈川県大和市内で撮影~

キンランを至近距離で。写真右奥に人が歩いているのがわかりますでしょうか?

要するにココ、人の立ち入れないような人外魔境なんかではなく、あくまで公園の中なんです。


「じゃあ植栽されたもんなんじゃねーの?」と思われる方も多いでしょうし

実際私も最初はそう思っていたのですが、公園の管理事務所に直接聞いてみたところ

間髪入れずに「自生です」と返されました。無論、ギンランとエビネも自生だそうです。

ちなみにキンランに関しては、

健全な雑木林環境で地中の菌類との共生があって初めて成長できる種なので

そもそも「植栽」「栽培」自体がほぼ不可能だとか。要するに、山野草ブームに便乗して

キンランを盗掘した連中は、その大半が馬鹿を見たということ。

鉢植えなんかじゃもちろんのこと、自宅の庭に植えたってほとんど育ちやしません。

花の咲いたものを植えたところで、そもそも花期が短い(4月末~5月前半が見頃)し、

翌年また花を咲かせてくれることはほぼ望めない……つまり盗掘するだけ無駄なんです。

もっと早くそのことが周知されていれば、絶滅危惧種に指定されることもなかったかもしんない。

(キンランは国のレッドデータで絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。つまりハヤブサと同じ)





 
~5/6 神奈川県藤沢市内で撮影~

自生とはいえ、やはり野生ランはどれも希少種。

万全とはいえないかもしれませんが、写真のように目印や囲いを立てて

「傷つけないでください」という意思を伝え、守っているところもあります。

これだけでも「きれいな花だから摘んでみよう」という程度の悪意のない方は

手を出さなくなりますから、それなりに保全の効果は見込めるみたいです。

(一番厄介な、悪意のある盗掘者相手ではそうもいかないでしょうが)





 

~5/4 神奈川県横浜市内で撮影~

こちらはギンラン。斜め上方&下方からの2アングルで撮影。
園路沿いに点々と生えていました。光の当たり具合によっては確かに銀色に見える……か?






~5/6 神奈川県藤沢市内で撮影~

ちょっと珍しい、花弁の開いたキンラン。

開いた状態だと、なるほど確かに市販の園芸用ランに近い形状です。

ちなみにこちらもフラッシュを使いましたが、なんか色が飛んでしまいました(汗)





 

~5/10 東京港野鳥公園で撮影~

ここだけ敢えて園名を出しているのは、公園管理者の皆さまが既にブログなどで

何年も前から開花報告をされており、もはや場所名を伏せる意味がないからです。


東京港野鳥公園といえばその名の通り野鳥の楽園で、干潟環境が整っているため

毎年シギ・チドリが旅の中継地として立ち寄ることで有名ですね。(実際、私の目的も大半がコレ)

恐らく本ブログにおいて、舞岡公園と境川遊水地公園に次ぐくらい登場頻度の高いスポット。

シギ・チドリなり冬のカモなり、お手軽にバードウォッチングを楽しめます。

が、実際のところは昆虫や山野草の数・種類も多い総合自然公園としての側面が強く、

とりわけ新緑の美しいこの時期は、バードウォッチャー以外にも多くの人が訪れます。


ちなみにこの公園、元々は人工的につくられた埋め立て地であり

スタッフさんの話だと、上写真の雑木林の土も他の県から運んできたものだそうです。

「じゃあ今度こそ植栽じゃん?」と私も最初思ったのですが、これもまた自生だとのこと。

どうやら運んできた土壌の中に種が混じっており、雑木林の環境(日照など)を整えている内に

いつしか自然と生えてくるようになったそうです。

地中で眠っていた種子が、環境の改善を感じて芽を出した……ということなんでしょうか?




同じく野鳥公園内にて。

看板にも自生である旨が明記されています。


となると、雑木林の環境さえ整えば、今後全国的にキンランが増えるかもしれないということか?

元々数十年前までは普通種だったこともありますし、可能性は低くないかもしれません。

かといって乱獲していいわけじゃありませんので、今後も保全体制はキープしていただきたいところ。

オオタカのようにレッドデータのカテゴリが下がったりしなければいいんですが……。


いずれにしても、マトモにキンラン・ギンラン・エビネの写真が撮れたのは今年の春が初めて。

それも、視点を変えれば意外なほど近くに生えていた……というのが驚きです。
今年はもう花のピークが過ぎつつありますが、今ならまだ見られるはず。

近くに雑木林のある方は、ぜひ散策しながらよ~く目を凝らしてみてくださいませ。m(_ _)m






おまけとして1枚。こちらも大和市内の公園で撮影しました。

どう見てもタンポポですが、これはカントウタンポポ。要するに純国産のタンポポです。

セイヨウタンポポに追い出された感があるものの、郊外ではまだ見られる所が多いみたい。


2015年は、こういう植物に従来以上に目を向けることで

生きものめぐりの幅が随分広がりつつあるように感じます。

仕事でガーデン雑誌の編集をしているのが、良い方向に働いているようですね。