今年の3月頃からだろうか、森田童子さん(以下敬称は略します)の曲を聴き始めた
のは・・・。(この記事を書いている今日は、2021年の大晦日です)
 昔から、その存在は知っていた。カーリーヘアにサングラスで歌うシンガーソング
ライター。男か女かわからない服装。正直なところ、男性なのかなとも思っていた。
楽曲の中で「ぼくたちの失敗」は、過去に聴いたことがあった。

今、ネットの検索で経歴を見ると、主にライブハウスを中心に歌っている。
1975年10月に、シングルレコード「さよなら ぼくの ともだち」でメジャーデビュー
し、1983年12月の新宿ロフトでのライブを最後に、突然音楽活動を休止している。
足掛け8年ほどの活動期間。7枚のアルバム、4枚のシングルをリリースしている。
童子は、女性シンガーソングライターで、楽曲の歌詞に「ぼく」を多用しているが、
いわゆるLGBTではなかった。ライブのMCで「生身で歌うのがとても恥ずかし

くて・・・サングラスをかけている。出来ればマスクもしたかった」と語っている。

森田童子さんの写真1:ネットから

大昔の歌番組「歌のベストテン」だったろうか、登場する歌手たちとは別に、企画の

1つとして、ライブハウスで歌う森田童子が中継されたのを見た記憶がある。
当時は、岩崎ひろみ、キャンディーズ、ビンクレディなどの”メジャー歌手"の全盛

期だった。童子の”はかない感じの歌声”は、私の好みではなく「声が出ていない

なぁ・・・」などと思っていた。

そんな私が、何故、今頃になって彼女の曲を聴き、彼女を好きになってしまった

のか。ある人が「童子の曲は、必要な時に、必要なひとに降りてくる」と語って

いるが、まさに私に降りてくる必然性があったのかなと思う。
何気なく聴きはじめ、声優のような歌声(今の時代で言えば)にはまってしまった。

まずは彼女のライブ音源を聴いてみてほしい。

森田童子さん  名曲をライブで - YouTube

ここでは、6曲を歌っている。
「伝書鳩」 「ぼくと観光バスに乗ってみませんか」 「春爛漫」 「ぼくたちの失敗」

「センチメンタル通り」 「さよならぼくの友達」

曲の合間のMCと終了後のインタビューでは、高校を中退したことや、歌詞を作り

始めた経緯を語っている。この音源は、私が今、日課にしている散歩をしながら、

何度も聴いた。3月末の桜の季節に「春爛漫」を。大学時代を思い出しながら

「僕たちの失敗」「センチメンタル通り」を。この3曲を、私はとても好きになった。
当時の彼女は、24歳くらいだろうか。とても幼く感じる歌声なのだが・・・。

 

森田童子さん写真2:アルバムから

彼女は、私よりも少し年上の世代である。
大昔、大学生たちが、学生運動に駆り立てられた時代があった。学生たちは、過激な

左翼の政治運動をして世の中を変えられると思っていた。事の是非は別として、熱が

あった時代。”東大安田講堂闘争”があったのは、私が小学生の頃だった。
森田童子は、当時は高校生で、友達が亡くなったことを契機に高校を中退している。

いや、中退の原因は身体が弱かったからだとも語っている。高校生だったから、

少し上の大学生たちの学生運動の影響は、きっとあっただろう。童子の楽曲の歌詞には

その影響が見えるが、楽曲の多くは時代にとらわれない不変的なものだと思う。

童子が残したアルバム(CD化されている)を、ネット販売やブックオフなどで、少しづつ

購入しては、色々な曲を聴いた。そしてネットにある彼女のライブ音源も・・・。

聴きこんで行くなかで、その唯一無二の楽曲と存在に魅せられて行った。

同じ時代を生きて行くなかで、彼女のリアルなライブに参加出来なかったことを本当

に残念に思う。私が大学生から社会人になりたての頃に、彼女はライブハウスで歌っ

ていた。きっと今だったら、彼女の”追っかけファン”になっていただろう。

西荻窪、新宿のライブハウスで良く歌っていた。私の故郷の宇都宮のライブハウス

にも良く来ていたという。
メジャーデビュー前には、サングラスを外したこともあったようだが、メジャー

デビュー後はサングラスを外さず、素顔の写真や映像は残っていない。とても神秘性

のある歌手だった。当時のライブ参加者によると、アルバムにある男性のような写真

とは異なり、華奢な感じの美人だったという。

決してメジャーな存在ではなかったが、口コミなどで、彼女の楽曲と独特な存在でカリ

スマ的な人気は広がって行き、数千人もの動員力のあるシンガーソングライターだった。
出演したTVのドキュメンタリー番組「『青春の日本列島~森田童子 ラストワルツ~』

(東京12チャンネル=現:テレビ東京)」の映像が残っているので、観てほしい。


夜行①:夜行① - YouTube
 

夜行②:夜行② - YouTube

夜行③:夜行③ - YouTube
 

これは、1980年11月の池袋三越裏の空き地の黒テント劇場のドキュメンタリーだが、

この夜行②では、ライブ前のリハーサルで演奏を指示する彼女や、「今回のテント

劇場は、私たちのコンサート活動の終末かもしれません。ひとつの終わりの時代に

向けて、私たちの最後のせつない夢を見てほしいと思います」と静かに語りかける

彼女の姿が印象深い。

 

森田童子さんの写真3:動画より


森田童子は、2018年4月24日未明、心不全の為自宅で逝去されている。享年66歳

だった。遺族から日本音楽著作権協会(JASRAC)に連絡があり、会報に訃報が掲載

されたことで逝去が明らかになった。60代で、まだまだ亡くなるような年齢では

なかったのだが・・・。

今年、彼女の曲を聴き始めた私は、森田童子の”没後ファン”ということになる。

1983年12月に活動を休止してからは、マネージャーだった前田亜土さんと結婚

して、普通の主婦として暮らしていた。
それから、10年が経った1993年1月にテレビドラマ『高校教師』の主題歌として、

1976年発売のシングル「ぼくたちの失敗」が使われ、シングルCDは100万枚に迫る

大ヒットとなった。オリジナル・アルバム7枚(初CD化3枚を含む)がCDで再発売

され、活動当時を知らない若い世代を含めて新たに多くのファンを獲得した。

同年11月、映画版『高校教師』の主題歌として「たとえばぼくが死んだら」が使わ

れ、シングルカットされて発売された。しかし、童子本人は、決してマスコミの取材

には応じず沈黙を守った。

それからまた10年が経ち、2003年1月にドラマ『高校教師』の新作が放送された。

再び「ぼくたちの失敗」が主題歌として使用された。これに伴い発売された2003年版の

ベスト盤『ぼくたちの失敗森田童子ベストコレクション』に、「海が死んでもいい

ョって鳴いている」の歌詞を一部変更し、当時50歳位の童子が自宅で新たに歌って

録音された「ひとり遊び」が収録され、それが彼女の最後の作品となった。

この曲だけが、童子が後年に歌った唯一のものだが、歌声には、往年の面影はない。

ただ、「父や母に捧げるためにどうしても歌いたかった」のではないかと想像している。
ひとり遊び 森田童子 2003年版『ぼくたちの失敗 森田童子ベストコレクション』 - YouTube

森田童子の終焉の地は、東京の国分寺市だった。自宅と所属事務所(「海底劇場」

という名称)は、同じ住所だった。彼女が逝去されて間もなく、ファンだったある人が

訪ねたという記事のブログがネットにある。(ここでは省略する)


国分寺市は、私が大学時代に下宿生活を送った地だった。私のアメブロの記事→
【詩の世界へ (8)】 国分寺の下宿 | 横須賀のオジサンのブログ (ameblo.jp)

森田童子を知ってから、どうしても彼女が住んでいたという場所を訪ねてみたくなり、

今年5月、何十年かぶりに国分寺市を訪ねた。彼女が住んでいたという家はなく

なり、別の人の新しい家が建っていた。

大学時代の下宿は、そこからほんの先だった。下宿だったNさん宅兼マンションは

残っていた。童子の家すぐ近くには「OKストア」がある。主婦だった彼女はここで

買い物していたであろう。そこは、私が大学時代に利用していた店だった。
決して交わることのなかった私と童子。互いの人生の軌跡に、ニアミスはあった

だった。

 


亡くなられた直後の森田童子さんの家 (ネットから)

 

森田童子さんの家の跡、新築の別の人の家が建っていた (2021年5月撮影)

 

主婦として買い物をしたであろう、近くのOKストア (2021年5月撮影)


夫の前田亜土さんは2010年に、そして森田童子は、2018年4月24日に没している。
童子の命日は、ファンたちによって「夜想忌」と名付けられた。

ネットに「夜想忌」追悼掲示板がある。森田童子 夜想忌 (yasoki.net)

今年、最も影響を受けたシンガーソングライター森田童子さんのご冥福を改めてお祈りしたい。

いつもここでは、私の詩を紹介しているが、前回同様、今回は森田童子さんの歌詞を紹介したい。
これからの人生、満開の「菜の花畑」を見たら、きっと彼女のことを思い出すだろう。
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たとえば ぼくが死んだら          森田童子

たとえば ぼくが死んだら
そっと忘れてほしい
淋しい時は ぼくの好きな
菜の花畑で泣いてくれ

 
たとえば 眠れぬ夜は
暗い海辺の窓から
ぼくの名前を 風にのせて
そっと呼んでくれ

 
たとえば 雨にうたれて
杏子の花が散っている
故郷をすてた ぼくが上着の
衿を立てて歩いている

たとえば マッチをすっては
悲しみをもやす この ぼくの
涙もろい 想いは 何だろう

たとえば ぼくが死んだら
そっと忘れてほしい
淋しい時は ぼくの好きな
菜の花畑で泣いてくれ


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