『陽暉楼』 (1983) 五社英雄監督 | FLICKS FREAK

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いやぁ、映画って本当にいいもんですね~

 

先頃、『226』を観て案外だった五社英雄監督。この作品を観て、やはり五社監督は女を描く方がいいと思った。

 

時代は昭和初期。土佐随一の料亭、陽暉楼を舞台に、女衒の太田勝造(緒形拳)、その娘の芸妓・桃若(池上季実子)、勝造の愛人の珠子(浅野温子)、陽暉楼の女将お袖(倍賞美津子)らを中心とした人間模様を描いた作品。

 

登場する女性でも中心となるのは桃若。幼くして母親を失い、芸妓になるべく陽暉楼に預けられる。そして「100年に一人の素質」とお袖に見込まれ手塩に掛けられた。豪奢な花柳界のイメージとは裏腹な、彼女の薄幸な人生がこの作品の大きなテーマ。そして自分が興味深いと思ったのは、桃若の母性。その生い立ちから、母親の愛をまともに受けたとは言えない彼女が、相思相愛でもない男の子供を宿して、自分の将来を棒に振ってもその父の子供として産むことを選択する。その母性に、男の自分は驚かざるを得ない。そしてその母性は、後天的なものではなく、女性のDNAに内在するものだろう。

 

桃若に対する珠子だが、彼女が女郎になる動機が弱いように感じた。桃若に対抗するライバル心からのようにも伺えるが、それだけのことで女性が体を売ることを決意するのだろうか。浅野温子の脱ぎっぷりは見事だったが。

 

この作品で見ものとされるのが、桃若と珠子の15分にもわたる喧嘩。自分にとってはあまり興を引かれなかった。女優が真剣に取っ組み合いをするというギミックで評価されても、監督もうれしくないのでは(うれしいかな)。むしろ、そこまでいがみ合った二人が脈絡なく姉妹のように仲良くなるというのも不自然に感じた。

 

二人の主役格の脇を固めるのが女将役の倍賞美津子。さすがの貫禄。土佐随一の料亭を、夫を差し置いて、女の自分が支えていくんだという覚悟が伝わってきた。しかも誰よりも、土佐という土地のつながりを意識させた。吉原でもなく、祇園でもない舞台がこの作品の大きなポイントだから。

 

そして緒形拳。当初、『鬼龍院花子の生涯』にも出演した仲代達矢がキャスティングされる予定だった役。大阪のやくざの組を相手に、一人で一歩も引かない「いごっそう」の役は、仲代の方が凄みはあったかもしれない。しかし、やくざとの立ち回りで、なぜ土佐には極道がいつかないかを飄々と語る「穏やかに見えて実はいっちゃってる」感は緒形の味だろう。悪くなかった。

 

花柳界を題材にした秀作の一つと言える作品。

 

★★★★★ (5/10)

 

『陽暉楼』予告編