法律の条文を読んでいて疑問に思うことが多いのが、「配慮義務」と「努力義務」ですね。
次の2つの文末表現を比べてください。

①…必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
②…必要な措置を講ずるよう配慮しなければならない。

努力義務」は、実施することが望ましいものの、現実に実施した結果までは要求されるものではありません。

一方、「配慮義務」は、ある程度の裁量が認められるものの、実施に向けた行動を行うなど「何らかの配慮を行った結果」を出す必要がある点で、より「義務規定」に近い強制力を有するものと解されています。
つまり、一般的に、努力義務よりも配慮義務のほうが強制力が強いと解されています。

義務規定 > 配慮義務規定 > 努力義務規定

★労働法では「安全配慮義務」とか「健康配慮義務」などとよく使われます。
特に、労働者の生命、身体、健康又は生活などに関係するようなところで「配慮義務」が出てきますから、これからの受験勉強でよく注意していてくださいね。
具体例をひとつ見てみましょう。

【パートタイム労働法12条】
事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設であって、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるものについては、その雇用する短時間労働者に対しても、利用の機会を与えるように配慮しなければならない

どうですか。短時間労働者の健康の保持に資する福利厚生施設の利用に関するものですから、「配慮義務」がふさわしいですね。
※ ただし、いわゆるパートタイム労働法は、平成32年4月1日(令和2年4月1日)から題名が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」と改められ、上記の条文も「…利用の機会を与えなければならない」と「義務規定」に改正されますので気をつけてください。

ところが、です!

配慮義務と努力義務とは、文脈に依存することがあり(これを「文脈依存」といいます)、配慮義務より努力義務のほうが強制力が強いことがあります。

例えば、あと5か月後に実施される平成31年度〔第51回〕社労士試験に向けての法改正事項として、「確定拠出年金法」をみてみましょう。

○企業型確定拠出年金を導入した事業主は、「導入時投資教育」を実施する「努力義務」があります。
この導入時投資教育については、ほぼ100%実施されています。

○また、事業主は、導入時投資教育を実施するだけではなく、「継続投資教育」を実施する「配慮義務」がありました。
しかし、導入後に繰り返し実施される継続投資教育については、その実施率が70%程度にとどまっていました。

そこで、平成30年5月1日施行の法改正により、「継続投資教育」を実施する努力義務格上げすることにしたのです

これだけを見ると、不思議ですよね。
配慮義務のほうが強制力が強いはずなのに、この場面では、努力義務のほうが強制力が強いと解釈されているのです(配慮義務から努力義務に「格上げ」するというのですから)。

実は、ここにはちょっとしたカラクリがあるのです。
法改正前は「…配慮するものとする」という条文の書きぶりだったのです。
これは「…配慮しなければならない」よりも弱いニュアンスがあります。

★そこで、平成30年5月1日から、継続投資教育を実施するよう「…努めなければならない」という努力義務に法改正したのです。

※たまに「…努めるものとする」という条文規定を見ることがあるでしょう。
これもまた「…努めなければならない」よりも弱いニュアンスがあります。

*だったら、この条文を「義務規定」にすればよいではないか、というツッコミがあるかもしれませんね。

でも、よく思い出してください。確定拠出年金というのは、運用指図者による自己責任私的年金の一種です。投資教育を受けて勉強しなければならないのは、確定拠出年金に加入して運用指図を行っている加入者自身なのです。

事業主が拠出した金額は損金扱いですし、退職金代わりに掛金を拠出しているにすぎないようなものです。
ですから、事業主に投資教育を実施させるような「義務規定」にまでは、できませんよね。

以上のように、条文が読めるようになると、社労士試験の問題文も容易に読めるようになりますよ!

【追記】
法律の条文の中には「…配慮するよう努めなければならない」という「配慮努力義務」とでも呼ぶべきものもあります。
例えば、労働時間等設定改善法を読んでいれば、すぐに出てきますよ😉
このような文例を見ても分かるように、「配慮義務」と「努力義務」とは文脈に依存するものであり、法令等の趣旨・目的等によって、「配慮義務」のほうが強い義務であったり、場合によっては「努力義務」のほうが強い義務になることもあるのです。
法律って、厳格なようでいて、でも、いい加減であったりもします😣