■ 梔子の実や面影は見えねども
( くちなしの みや おもかげは みえねども )
梔子(くちなし)が、純白の清楚な花をつけ、芳ばしい香りを放っていたのは7月頃だったと思う。それから、4か月ほど経過した今、その果実が大きく膨らみ、鮮やかな橙黄色に色づいてきている。
本日の掲句は、その様子を見て詠んだものである。この果実からは、とてもあの花を思い浮かべることはできず、そのことを「面影は見えない」と表現した。「梔子の実」は、秋の季語なので、秋の句とする。
ところで、「くちなし」の名前は、この梔子の実に口がないことからつけられたとよく言われるが、調べてみると、有力な説として以下の二つの説があるようだ。
一つは、既述の果実が熟しても口を開かない(開裂しない)ので「口無(くちなし)」となったとする説。もう一つは、萼片(がくへん)」を鳥の嘴(くちばし)に見立て、嘴のある「梨(なし)」、すなわち「嘴梨(くちばしなし)」から来たという説。
実をじっくり見ていると、どうも後の説の方が正しいのではないかと思えてくる。そんなこともあり、かつて以下の句を詠んだことがある。
くちなしの実には耳あり口もあり
だからどうなのと言われればそれまでの句だが。
梔子は、アカネ科クチナシ属の常緑低木。原産地は、日本、台湾、中国など。花は純白で、六弁の一重咲きのものと八重咲きものがあり、甘い香りがする。花期は6~7月で、一重咲きのものは、10月~11月ごろに橙黄色の果実をつける。華やかな八重咲きの方は結実しないそうだ。
尚、梔子の実の色は、キャラメルの色にも見えるが、「黄丹」と言って高貴な色らしく、古くは染色に使われていたそうだ。最近でも栗きんとんやたくあんの着色材として使われているとのこと。
梔子は、山梔子とも書く。単に山梔子と書けば、俳句では実のことをさす。また、生薬名として、「さんしし」と読むとのこと。
【梔子(山梔子)の実の参考句】
山梔子の実の色にある日の詰り (永井龍男)
梔子の実のみ華ぐ坊の垣 (貞弘衛)
口閉ぢて梔子の実の赤らみし (高場ナツノ)
山梔子の実のつややかに妻の空 (庄司圭吾)
梔子の実より始まる立ち話 (乙武佳子)