思い出に残る作品というのは数多存在するが、ここまで抉り削られるほど刻みこまれた作品は珍しい。

少年少女が読む多くの漫画の中でも特に大きな衝撃を与えたであろう「未来日記」は
2006年3月から2011年2月まで少年エースで連載されていた、えすのサカエさんの作品である。サバイバルものと一言で片付けるには難しい、独特な個性を持ったキャラクターたち、考え込まれたシナリオ、次のページではどうなっているのかハラハラドキドキさせられるサスペンス感を併せ持った内容だ。

<あらすじ>
天野雪輝はごく普通の中学生。人と群れることが苦手で一人でいることが多い。趣味はダーツと日記をつけること。
この日記は自分の出来事だけでなく、周りで起った出来事でも何でもかんでも携帯に打ち込む無差別日記であり、それは寝ている時以外永遠に更新し続けられる。
ある日、目覚めた雪輝が今日の日記をつけ始めようと携帯を開くともうすでに今日の出来事が書かれていた。今日起こる全ての出来事が既に日記に書かれているのだ。
これがタイトルである「未来日記」そのものである。日頃つけていた日記が突然、未来の出来事を知ることができる最強の武器へと変わることで雪輝の身に良からぬことが起こり始める。

↑未来日記を手にしたことでテストの解答も簡単に知ることができる。当然成績も上がり浮かれる雪輝。


しかし話はそう簡単なものではない。実は未来を知ることのできる日記、未来日記を所有しているのは雪輝だけでなくこの世界に12人存在し、彼らの中で争い合い、最後に残った勝者に次の神となる権利が与えられるということが伝えられる。
雪輝は神の座など欲しくもないただの中学生、不幸にもこのサバイバルゲームに巻き込まれることとなったのだ。
恐れ慄く雪輝に手を差し伸べたのは同じ中学に通う少女、我妻由乃。彼女自身も未来日記の所有者であり「雪輝日記」と呼ばれる雪輝の行動を記録した日記を武器とする。つまり行動を共にすることで第三者を記録する「無差別日記」と雪輝自身を記録する「雪輝日記」が共有できるということになる。

↑我妻由乃は雪輝の行動を10分刻みで把握できる。その狂愛ぶりに雪輝からはストーカーだと恐れられる。

こうして雪輝と由乃はどこに潜むか分からない日記所有者を相手にサバイバルゲームを始めるのである。


本作の見どころはこの「我妻由乃」というキャラクターにある。初めは雪輝を助けるヒロイン的立ち位置にいるが、話が徐々に進行するにつれ本人の異常な行動や性格を知ることになっていく(ヤンデレを体現している)。その彼女の異常性に読者は惹かれ、衝撃を受け、思い出に刻み込まれるのだ。
雪輝の存在は彼女の全てであり、支えである。しかしなぜそうなってしまったのかと疑問を持つ読者も出てくるだろう。単純に雪輝に好意を持つだけならばここまでの狂気ぶりになることはない。
そう考えるとこの物語は単純なサバイバルゲームではなく、彼女の正体を突き止めるための推理漫画という見方になっても間違いではないだろう。
最もこのサバイバルゲームの鍵は彼女が握っていることは事実であるのだから。

(まあ、由乃も日記所有者であり、雪輝とは神の座を狙う敵同士なのだから最終的に対立することは誰でも予測できそうなものだが)

もちろん彼女だけの話以外にも、それを取り巻くキャラクターの存在も大きいものだ。キャラクターそれぞれに過去があり、物語がある。雪輝や由乃以外の日記所有者10人もそれぞれ、神になりたい動機はまた違ってくる。

↑日記所有者であるテロリストの雨流みねね。中東で家族を失ったことで神を憎むようになる。彼女がこのサバイバルゲームに参加する理由は神であるデウスを殺すためである。

少し小難しい紹介となったがこれが「未来日記」のあらましである。
アクションのグロテスクさ、ホラー部分に目が行きがちだが、内容はSFミステリー。シュタインズゲートと同じ類いの「設定さえ把握できればとことん面白い」作品であるともいえる。
私はこの作品を初めて読んだ当初、その悲惨な描写があまりに怖くて次のページをめくるたびに怯えていたものだが、その分読後はホッとした。
良かった、自分は未来日記を持っていなくて。神になんてなりたくないよ。

そして最終話を読み終えて「これもしかしてとんでもなく面白いんじゃないか?」となったのを覚えている。
正直読んでる最中は物語に入り込みすぎて恐怖とスリルのみを楽しんでいたが、一通り全体を知って改めて読み返すと、このサバイバルゲームのシナリオは本当に上手くできていると感じた。
上にも書いたが特にキャラクターの使い方が面白い。
この物語には多くのキャラクターが登場するが、それぞれ独特な個性を持っている(1番やばいのは我妻由乃だが)。
特にテロリストの雨流みねねと自称探偵の秋瀬或、そしてデウスの使い魔のムルムル。この三人は物語をより面白くしてくれる重要なキャラクターであったように思う。

当時読んだ少年少女たちの記憶に残り続ける「未来日記」。読んだことがない人は是非その恐怖とスリルを楽しんでもらいたい。

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