紫の物語的解釈

漫画・ゲーム・アニメ等、さまざまなメディアにひそむ「物語」を抽出して解釈を加えてみようというブログです。

【るろうに剣心】弥彦の物語を追う[第一幕]

2011-03-19 16:56:08 | ○○の物語を追う
明神弥彦(みょうじんやひこ)は、【るろうに剣心】に登場する少年剣士である。
るろ剣の主人公・緋村剣心に憧れ、その背中を追う少年として描かれる弥彦。
無敵の殺人剣・飛天御剣流をふるう剣心に対して、弥彦は神谷活心流という「活人剣」で
強くなる道を歩む。

るろ剣の物語の中で、主人公・剣心が自らの「過去」に対して向き合っていくのに対し、
弥彦は「未来」を象徴するキャラクターとして描かれる。

今回は、そんな弥彦の物語を追ってみる。


  東京府士族・明神弥彦



弥彦は明治元年、士族の家に生まれた。
士族といっても父親は三十石ばかりの貧乏御家人で、弥彦が生まれて間もなく彰義隊に加わって戦死。
母親は弥彦を育てるために遊郭で働いたが、やがて病で亡くなってしまった。
孤児となった弥彦は東京のヤクザに拾われ、スリとして働かされることになる。

スリとしてヤクザの小間使いにされる現状を情けなく思っていた弥彦は、
ついにスリをやめ、ヤクザとも手を切ることを決意する。

「自分は士族だ」という誇りが弥彦をかろうじてささえていたが、
時代は明治十一年。維新後最大の士族反乱である西南戦争の終結以来、
士族の没落は留まるところを知らなかった。



ヤクザの親分も、「スリをやめてどうやって生きるつもりだ?」と弥彦を諭す。
"誇り"などいくらあっても一文にもなりはしない。
むしろ、"誇り"なんてものを持ち続けるからこそ、士族なんてものはみるみる落ちぶれていくのだという。

しかし、それでも弥彦はヤクザの子分としてスリを続ける自分を良しとしなかった。



幕府を裏切ることを潔しとせず義に殉じた父。
自分を育てるために命を削るように働いて病に倒れた母。

誇りを持って気高く生きた両親のように、自分も生きるのだ!

ヤクザに逆らったことで粛清されそうになる弥彦。
そんな弥彦を救った男がいた。



流浪人・緋村剣心である。
剣心はひたすらに強く、たった一人で何人ものヤクザを打ち倒してしまった。
弥彦は剣心の強さにただ驚き、次に自分の非力さをくやんだ。

強くなりたかった。
両親の誇りを自分の力で守りきれるくらいに。



剣心は弥彦を「神谷活心流」の道場へ案内し、ここで剣術を習うように勧める。
これより、師範代・神谷薫が弥彦の師となる。



東京府士族・明神弥彦の神谷活心流の剣士としての人生がはじまった!
明治十一年。弥彦、齢十歳の時であった。


  緋村剣心という男



神谷道場でやっかいになるようになってほどなくして、弥彦は自分をヤクザたちから救ってくれた男
緋村剣心の正体を知ることになる。

その正体は、幕末の動乱期に「人斬り抜刀斎」の志士名で京都の町に血の雨を降らせた
伝説の人斬りだった。
剣心は人斬りであった過去の自分の罪を精算するために、現在は流浪人として
日本全国を渡り歩きながら、手にした「逆刃刀」をふるって目に映る人々を助けて
まわっているとのことだった。

弥彦は剣心が人斬りだったとわかった後も、特に剣心に恐れを抱いたりはせず、
むしろその鬼のような強さに合点がいった。
そんなことよりも、弥彦は剣心が人々のために刀をふるう姿をみて、
「士族とはかくあるべき」という、現在において急速に失われつつある
"士族の誇り"を剣心の背中にみていた。

この先、弥彦は剣心の戦いの多くを目撃する。



古流剣術・飛天御剣流の圧倒的な"力"。



相手の技を見極め、策を以って対抗する一瞬に光る"智"。



満身創痍の状態においても相手の攻撃の隙を見逃さない"心"の強さ。



緋村剣心の戦いを、弥彦は誰よりも間近で目に焼き付けるのだった。


  剣心組の一員



弥彦は剣心の生き方を、剣心のもとに集まってくる人たちを見ることで、
剣心の周りの人々を「剣心組」ととらえた。
その上で、「剣心組」の一員として自分になにができるのかを考える。



足手まといになってもいい。
剣心のように、「目に映る人々を助ける」生き方がしたい。

「ここは命懸けでも助けに行く! それが出来ねーで何が活人剣の神谷活心流だ!」

弥彦のこの言葉に、師である薫は「この子いつの間にか いっぱしの剣士になってたのね」と感心する。



剣心がやられた時も、決して消沈したりせずに相手を圧倒する気迫をみせた。
その気迫を敵である四乃森蒼紫も評価した。



力はまだなくとも、十歳の弥彦の心の強さは周囲の者たちをうならせる程には
強くなっていたのである。


  弥彦の闘い



剣術の稽古の合間に牛鍋屋「赤べこ」で働き始めた弥彦。
弥彦にはどうしてもお金を稼いで手に入れたいものがあった。



しかし、同じ赤べこの従業員「三条 燕(さんじょう つばめ)」が元主家の男に脅され、
赤べこに強盗に入る手伝いをさせられているところを偶然目撃してしまう。

「目に映る人々を助ける」
という剣心の生き方を目に焼き付けている弥彦は、当然、燕を助けるため動く。
それに、強盗をはたらこうとしている男たちを、同じ士族として黙って見過ごすわけにはいかなかった。
強盗決行の夜、弥彦は男たちを止めるための闘いにのぞむ。



これは弥彦一人の闘いではない。
活人剣は「人を守るためにふるう剣」である。
一本の剣に自分と守ろうとする者の二つの命運をかけることとなる。
負ければ自分はもちろん、守ろうとした者の命運も尽きてしまう。

 ゆえに、活人剣をふるう者はいかなる敗北も許されない。

神谷活心流・明神弥彦の負けられない闘いが始まる。




この闘いに、弥彦は勝利した。
弥彦が初めて、神谷活心流によって自分一人の力でつかんだ勝利である。

弥彦に勇気づけられた燕は、「もうビクビク オドオドしないから」と語った。
弥彦の活人剣が、人を活かした瞬間であった。



結局、弥彦が赤べこで働き始めた理由は「逆刃刀」を買うためだった。
左之助は大爆笑したが、剣心は優しく微笑んだ。

いつか、弥彦が逆刃刀をふるって人々を助けてまわる日が来るかもしれない。


  ライバル・塚山由太郎



神谷活心流・門下生として剣術の腕を上げる弥彦に、ライバルとでも言うべき存在が現れる。
真古流・石動雷十太の一番弟子、塚山由太郎(つかやまゆたろう)である。

といっても、由太郎は剣術に関してはほぼ素人であった。
師である雷十太が稽古をつけてくれないというのが理由であったが、
試しに神谷活心流で薫が十日ほどの稽古をつけた結果、
驚くほど剣術の腕をのばしたのだった。

由太郎の生意気な態度を、最初は煙たく思っていた弥彦だったが、
十日の稽古で剣の腕を飛躍的に上げた由太郎の才能を、渋々認めることとなる。



しかし、悲劇は訪れる。
由太郎の師の雷十太の技によって、由太郎の腕は深い傷を負ってしまったのだった。
その上、雷十太は由太郎にとって衝撃的な言葉を口にする。
雷十太は由太郎のことを出資者の息子としか見ておらず、師のふりをしていただけだったのだ。



心にも身体にも深い傷を負ってしまった由太郎。
腕の傷の深さは二度と剣術ができないだろうと言われるほどであった。
由太郎の剣術の才能を認めていた弥彦は激しく憤る。

結局、由太郎は父親とともに独逸(ドイツ)に渡り、腕の治療を受けることになった。
しかし、心の傷からか目には精気がなく、まるで死んでいるようであった。



そんな由太郎に、弥彦は喝を浴びせる。

「てめえはこのまま…いじけたままで終わっちまう気かよ!」
「雷十太に裏切られたのがそんなに辛えんだったら、雷十太より強くなってフッ切っちまえばいーだろうが!」
「雷十太っても本物(カス)の雷十太なんかじゃねェ、てめえが夢に描いた理想(ホンモノ)の雷十太よりだ!」

「出来ねえって言うならてめえは 一生ただの負け犬だ!!」

弥彦の激しい喝を浴びながら、しだいに瞳に光を蘇らせていく由太郎。



「俺は絶対に剣術はやめねェ、やめてたまるか!!」

由太郎の心はここに復活した。

明神弥彦。
独逸で腕を治して帰って来たら、真っ先にブッ倒す。
由太郎に目標ができた。



そんな二人をみて、剣心は思う。
この時代。剣術の未来を悲観する者も多いが、弥彦と由太郎を見ていると、
あまり心配はなさそうである。

剣心には、未来の日本で人々のために神谷活心流をふるう二人の青年の姿が
みえたような気がした。


 次回へ続く

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2011-03-21 13:09:19
蒼紫や雷十太相手でも全く怯まずに啖呵切れるのが好きだったなぁ 

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