今の自分にはどんな本が必要なのか。今の自分はどんな本が読みたくなるのか。本をいつも読む人も、これから読もうとしている人も、今、自分が手に取るべきいい本が見つかる企画。ビジネス書評家の土井英司さんに、数多ある良書の中から、とっておきのビジネス書を選んでもらいました。今回は、「20代で読んでおきたいビジネス書のベストセラー11冊」です。

 今、20代の皆さんの中には「上司から下りてくる仕事をこなすのに必死」という毎日を送っている人もいるかもしれません。20代は仕事を覚える時期ですから、ひたすら仕事をこなすしかないのは事実です。でも、一定の学問のベースがあると、目の前の仕事に意味を見いだしたり、工夫して付加価値を付けたり、さらには効率的なやり方を発見できたりします。

 今回は、その学問のベースとなる「経営学」や「思考法」、仕事の基本となる「コミュニケーション」や「スキルアップ」について書かれたベストセラーを紹介します。

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ビジネスモデルからマーケティングまで 経営学を図解した1冊

■経営学
1. 『大学4年間の経営学見るだけノート』 平野敦士カール監修、宝島社

 監修者は経営コンサルタントで、NTTドコモのiモード企画部担当部長やハーバードビジネススクールの招待講師を務めた平野敦士カールさん。M&AやPDCA、プラットフォームなど「よく聞くけど、実は分かっていない」という経営の用語・コンセプトを図解した1冊です。

 この本の何がいいかというと、本当に「見るだけ」で分かるところです。「M&Aとは何か」「ホールディングスと親子会社はどう違うのか」といったことは文字で説明するよりも、図解したほうがはるかに理解しやすくなります。つらい思いをしながら活字の経営学の本を読むくらいなら、この本で経営の基本をサクサクと理解したほうがいい。そうすれば「ビジネスとは表面的なものではなく、その裏にこういう仕組みがあるのか」「経営戦略とはここまで奥深いものなのか」と直感的に分かるはずです。

 紹介されている事例もUber EatsやAmazonなど消費者目線に近い取っつきやすいものが多いので「普段は本を読まない」という人にもおすすめです。

「頭の良さ」は「話す前にどれだけ立ち止まれるか」で決まる

■思考法、コミュニケーション
2. 『頭のいい人が話す前に考えていること』 安達裕哉著、ダイヤモンド社

 2023年の単行本ビジネス書(日販・トーハン調べ)の年間1位となり、48万部売れているベストセラー。著者の安達さんが22年間のコンサル仕事を通して得た「7つの黄金法則」と「5つの思考法」を余すところなく伝え、どうすれば「頭のいい人の話し方」ができるかを教えてくれます。

 20代というのは、今の能力よりも将来の可能性を買われて会社に入ることがほとんどではないでしょうか。ただ、「こいつ、頭が悪いな」と思われたら損をしてしまうかもしれません。もちろん経験不足なので間違うことは仕方ないのですが、その根本にある思考法や振る舞いで、「ダメな人」だと判断されるのは避けたいですよね。

 コンサルタントというのは、20代のうちから上場企業の社長にアドバイスをしたり、意見を求められたりするような仕事です。どうすれば、「頭が悪い」と思われないか。コンサルタントとして活躍してきた安達さんは、「話が浅くなる3つの理由」と「話を深くする2つのコツ」を提示しています。

 例えば、話が浅くなるのは、根拠が薄く、言葉の「意味や定義」をよく考えずに使い、物事の成り立ちを知ろうとしないから。一方、話を深くするために必要なのは、自分の意見と真逆の意見や統計データを調べること、と言います。この本を読むと、「頭がいい話し方」を具体的にイメージできると思います。ぜひ、読んでみてください。

コンサルタント的な思考法を身に付ける99のスキルを紹介

■思考法
3. 『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト』 高松智史著、ソシム

 3冊目もコンサル的思考法の本です。コンサルタントが「最初の3年間で何を学ぶか」を徹底解説した1冊。コンサル的な思考を身に付けるための99のスキルが紹介されていて、一般的なビジネスパーソンにも役立ちます。

 なるほど、と思ったのは「カテゴリーで構造を示す話し方」。例えば「趣味は何ですか」と聞かれたら、「アウトドアではロッククライミング、インドアでは段ボールアートとマージャンです」といったふうに、カテゴリー分けして伝えてみようというもの。何だかこの話し方だけで頭がいい人みたいに思えてきませんか。

 このような具体的な99のスキルが紹介されていて、すぐにまねできるものばかりです。他にも「論点」「サブ論点」「タスク」「スケジュール」「作業」「アウトプット」の6ステップを踏むと仕事が進めやすくなる、自分が答えを持っていないときはディスカッションして答えを引き出す、といった社会人のお作法についても書かれています。

厚切りジェイソンはなぜお金を稼ぐことができたのか

■思考法
4. 『ジェイソン流 お金の稼ぎ方』 厚切りジェイソン著、ぴあ

 本書は、厚切りジェイソンさんが、「そもそも投資をするお金がない人」に向け、稼ぎ方を指南した1冊。なぜ、ジェイソンさんは「お金を増やす」ための「お金を稼ぐ力」を身に付けられたのか。そもそも、なぜ日本にいるのか、どうやってキャリアを築いてきたのかが分かります。

 思えばジェイソンさんも不思議なキャリアですよね。米国ミシガン州出身だけれど日本でお笑い芸人とIT企業の役員を兼任している。実は、この彼のキャリアは、「できること」「世の中に必要とされていること」「好きなこと」という「稼げる三角形」を満たしているんです。

 「できることが人と同じレベルでは稼ぐことにつながらない」「母数の多い中で勝負すると時間も労力もかかる」と書かれていて、なるほど、ここまで戦略的にキャリアを考えていたのかと感心させられます。

 他にも「仕事内容や企業の大きさにこだわると、いい話があっても自らストップをかけてしまう」「20代の最初の5年間は稼ぐ額よりも成長するスピードを重視しよう」など、深い話がたくさん出てきます。ぜひ、20代のうちに読んでおいてほしい1冊です。

目にしたもの全てをアイデアに変える メモの極意とは

■思考法、スキルアップ
5. 『メモの魔力』 前田裕二著、幻冬舎

 続いては、「メモ」関する本を3冊紹介します。まずは、起業家・前田裕二さんの有名な『メモの魔力』。この本のメモ術の極意は「ファクトを見て、抽象化する」「抽象化した概念を他分野に転用する」ことです。

 前田さんの会社のSHOWROOMもメモから生まれました。例えば、あるアーティストが「カバー曲を歌うとオリジナル曲よりも聞いてもらえる。聞いてくれた人のリクエストに応えると仲良くなる。仲良くなった後にオリジナル曲を歌うと聞いてくれる」と気づいたのがファクト。このファクトを抽象化すると「仲良くなるには双方向性が大事」「人はうまい歌ではなく絆にお金を払う」となります。そうして、双方向性の絆が生まれるプラットフォームとなるSHOWROOMがつくられました。

 メモはただ取るものではなく、メモすることによって、そこにあるファクトを抽象化し、ビジネスモデルにまで広げるもの。それでこそ「魔力」が宿るのです。

いい仕事をするためのメモ術 3つのポイントとは

■スキルアップ
6. 『すごいメモ。』 小西利行著、かんき出版

 日産自動車「セレナ」のキャッチコピー「モノより思い出。」、サントリー「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」など、数々のCM・商品のコピーを手がけてきた小西利行さんの本。書いたメモをどうやって整理し、仕事に生かしていくかが詳しく書かれています。クリエイティブな仕事をしている人におすすめです。

 20代はよく「メモを取れ」と言われますよね。でも、「何をどう書けばいいの?」と迷う人も多いかもしれません。そういう人は、ぜひこの本を読んでください。

 小西さんはメモには情報をまとめる「まとメモ」、クリエイティブな発想をする「つくメモ」、人に伝えて心を動かす「つたメモ」があると言います。せっかくメモを取っても、整理して活用しないとただのゴミになってしまいますが、「一度のメモで○を付けるのは3つまで」「後で答えを探すメモには『?』」「重点的に考えるメモには『☆』」など、メモの整理術についても具体的に書かれていて実践的。

 20代で取ったメモが、30代で仕事に生きる場面は必ず来ます。今のうちにたくさんメモを取ってください。

「書く」ことは語彙や観察眼も養う

■思考法、コミュニケーション
7. 『さみしい夜にはペンを持て』 古賀史健著 ならの絵、ポプラ社

 『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)の共著者でもある古賀史健さんが、13歳に向けて書いた本。書くことで自分との対話を重ね、知らなかった自分を発見し、「自分との人間関係」を築く方法について説いています。

 特におすすめしたいのは、語彙と表現について書かれたページ。例えば「たくさん」という言葉も「山ほど」「ふんだんに」「大量に」「しこたま」「潤沢に」「掃いて捨てるほど」など、さまざまなバリエーションがありますよね。また、ブログを書くときなどに「アイスを食べた」と一文で終わってしまう人もいると思うのですが、行動を分解すると「暑さを感じてアイスを食べたくなる」「冷蔵庫まで歩いて行く」「袋を破ってアイスを取り出す」「アイスを口に入れる」となり、シーンごとに記述すると文章量が増えます。

 日々こうした語彙と表現に気を付けていると、仕事相手を観察して得られる気づきも増えるものです。漫然と状況を見ている人にアイデアは生まれません。観察して書く、という意味では、社会人にも役に立つメモ術にも通じる1冊です。

すぐに行動できる人には「方程式」がある

■スキルアップ
8. 『「すぐやる人」と「やれない人」の習慣』 塚本亮著、明日香出版社

 ビジネスで成功する人、仕事が早い人に共通しているのは、「すぐやる」こと。一方で、「ついダラダラしてしまう」「失敗が怖くて一歩を踏み出せない」──と悩んでいる人は、この本を読んで「すぐやる人」の習慣を取り入れてみてください。

 「すぐやる人」と「やれない人」の差は、何だと思いますか。すぐやる人は「仕組み」で自分を動かし、やれない人は「意志の力」でやろうとするから挫折するのだそうです。では、「仕組み」とは何かというと、「意志×環境×感情」の方程式。すぐやるための環境に身を置き、すぐやるための感情をつくり出しているんですね。他にも、すぐやる人は「頭の中を空っぽにすることで脳への負荷を減らす」「即座に明確に決める」といったヒントが紹介されています。

 そういえば昔、かんき出版の元社長の境健一郎さんと売れている洋書について話していたら、境さんはその場で電話をして日本での版権を取りました。「できる人は行動に移すのが早いな!」と実感した出来事でした。

付加価値をつくり出すキーエンス流のノウハウとは

■思考法
9. 『付加価値のつくりかた』 田尻望著、かんき出版

 日本においてトップクラスの生産性を誇り、平均年収が2000万円を超えることでも知られる企業・キーエンス。競合他社と差別化し、利益を上げるには「付加価値」が重要。その付加価値をどうつくればいいのか。キーエンス流のノウハウがまとめられています。

 著者の田尻望さんは、大阪大学卒業後、キーエンスに入社し、コンサルティングエンジニアとして技術支援や重要顧客を担当した人。ビジネスに必須となる「付加価値」のつくりかたを具体的に教えてくれます。

 付加価値には「置換価値」「リスク軽減価値」「感動価値」の3つがあり、法人顧客が感じる価値には「生産性のアップ」「財務の改善」「コストダウン」「リスクの回避・軽減」「CSRの向上」「付加価値のアップ」の6つがあると書かれていて、よくまとまっています。付加価値のつくり方を図解したページもあるので、そこを読むだけでも学びになるはずです。

サイゼリヤの創業者が実践した理系的経営思考とは

■経営学、思考法
10. 『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』 正垣泰彦著、日本経済新聞出版

 創業50年となるサイゼリヤ。僕が大学生のときにも人気でしたが、今も若者に支持され続けているってすごいですよね。そのサイゼリヤの創業者で、経営基盤をつくったのが、著者の正垣泰彦さん。正垣さんは東京理科大学卒ですが、その理系的な経営思考が紹介されています。

 タイトルのように、今までの常識では考えられない独特の経営思考に驚かされます。例えば、「7割引で売る」「原価率が40%を超えても、おいしければ顧客の評判を呼ぶ」などと、それまで飲食業界ではタブーとされていたことに次々と挑んでいきます。

 文系的思考の人には「そういうアイデアは思いつかなかった!」と目からうろこが落ちる、刺激にも勉強にもなる1冊です。

不朽の名作 カーネギーの『人を動かす 改訂文庫版』

■コミュニケーション
11. 『人を動かす 改訂文庫版』 デール・カーネギー著、山口博訳、創元社

 1936年初版、邦訳500万部突破という不朽の名作。時代、業種を超えて必要となるコミュニケーションを学ぶには、やはり「教科書的な古典」が最適ですね。カーネギーのこの本と、ロバート・B・チャルディーニの 『影響力の武器』(誠信書房) を押さえておくことをおすすめします。

 どんな仕事をするにしろ、コミュニケーションは、基本中の基本。やはりこうした名著で「相手が動く」「ちゃんと伝わる」といった「人間関係の基礎」を学んでおくのが大事です。そうすれば人間関係が構築しやすくなり、余計なトラブルも減らせます。

 ただ、この本のタイトルは「人を動かす」ですが、実は他人が人を動かすことはできないのかもしれません。人は自分で動くものですから、動くように仕向けることが肝心です。本書はそのための方法論が書かれている1冊ともいえます。

取材・文/三浦香代子 編集協力/山崎綾 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部)