1989年のその日、北京中心部の天安門広場およびその周辺で何があったにせよ、それは中国において絶対に語られるべきものではなく、毎年その前後の日はネット上のあらゆるものに対する規制が厳しくなる。例えばSNS(交流サイト)やゲームなどではプロフィル画像やハンドルネームなどが変更不能になるし、事件を思わせるような数字や文字はすべて検索不能になる。中国のネット検閲には様々なレベルがあるが、この時期の警戒は毎年間違いなく最大・最高規模だ。特に今年はいまだ続く新型コロナウイルスとの闘いにおいて様々な不満がたまっていることから規制も厳しく、「学生」といった当たり障りのない言葉や「16:40」(6と4の数字がつながっている)開始の会議招集が出せないといった噂も流れた。64元の送金ができないなどというのは毎年定番のネタだ。

有名な天安門事件の「タンクマン」(写真:AP/アフロ)
有名な天安門事件の「タンクマン」(写真:AP/アフロ)
李佳琦の6月3日の配信で問題になったシーン
李佳琦の6月3日の配信で問題になったシーン

 事件にまつわる様々な逸話の中でも、戦車の隊列に立ち向かう「タンクマン」は中国国外では抵抗の象徴としてもっとも有名だろう。当然「戦車」は禁句中の禁句だ。しかし今年の「6・4」の前日にあたる6月3日夜、こともあろうに中国のライブコマースの超人気ライバー、李佳琦(リー・ジャーチー)が配信の中で戦車の形をしたアイスケーキを出してしまった。これは中国有数の大規模な電子商取引(EC)サイトのセール日「618」の前哨戦としての配信で、英ユニリーバ傘下の「Wall’s」というアイスクリームのプロモーションだった。当然(?)配信は途中で「設備の故障」を理由に中止され、それから2週間たっても新しい配信は行われていない。数年前「365日で389回配信を行った」と報じられているほど頻繁に配信を行うことで有名な彼がこれほど長く休むことは、間違いなく異常事態といえる。

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