Technology to FIX your challenges.

「このコーポレートスローガンは、社名の由来であるFIX(成就)の左右に、“テクノロジー”と“チャレンジ”を並列させているところに意味があって。お客さまや社員などあらゆるステークホルダーのチャレンジを、テクノロジーで成就させるのが、私たちの役目なんです」

技術について話を向けると、FIXER代表取締役社長 松岡清一は、熱を帯びながらこう語った。確かに同社の立ち上げは、松岡の“新たな技術とビジネス”へのチャレンジ、そのものだった。

まだクラウドサービスが一般的でなかった2009年に、専業ベンダーとして創業。市場の拡大と共に、確かな技術力と実績を積み重ね、今では米国マイクロソフトより最高位のパートナープログラム「Azure Expert MSP」にも認定される、国内トップクラスのベンダーへと成長した。

まさに、“チャレンジを成就”させた彼が、会社経営における生命線として挙げるのが、「高等専門学校(以下、高専)卒業者の採用」である。かねてより積極的な取り組みを続けており、過去3年間では、“新卒社員のおよそ7割を高専生が占めるまで”になった。

さらに活動を拡げたい一心で、新たに協力を仰いだのが「高専生を、もっと挑戦者に」というミッションを掲げ、キャリア教育事業を展開する高専キャリア教育研究所(以下、高専キャリア)だ。

今回は高専生が持つ「可能性の芽」とそれを花咲かせる「土壌づくり」について、松岡、そして高専キャリアで代表を務める菅野流飛に話を聞いた。

エンジニア時代、高専卒に“だけ”、勝てなかった


「起業前のことです。エンジニアとして、プロジェクトマネージャーとして、それなりの自信があった私が、どうやっても歯が立たない腕の立つエンジニアが1人いて。

ある日、本人に直接、『どうしてそんなに凄い技術をお持ちなんですか?』と聞いたんです。そうしたら、『自分は高専卒だから。在学中からなんども実践を繰り返してきたわけだから、普通の大学を卒業した松岡さんに現段階で負けるわけがない』と一言で返された(笑)。それからですね、高専出身者と意識的に接点を持つようになったのは」

高専に興味を持ったきっかけについて、松岡はこう振り返った。出会う人数が増えれば増えるほど、高専出身者の優秀さを確信した彼は、やがて「自分が会社を起こした暁には、ぜひ社員として迎えたい」という思いを抱くようになった。

時は経ち、2015年。創業6年目のタイミングで、松岡は「FIXERクラウドセンター」を三重県津市に開設する。この地に初の開発拠点を設けた理由は、“高専生が採用しやすい土地柄だから”。

「進出を決める前に三重県で開催されたセミナーに登壇した際、鈴木英敬知事から直々に『ITに力を入れている高専が県内には3つある』とお聞きして、即進出を決めました。いざ地方に拠点を構えようとした時に必ずネックになるのが人材採用なんですが、高専も大学もある土地であれば事欠かないだろう、と。

2019年には四日市市にオフィスを移転するなど拡大を続け、2021年3月現在、同センターでは総勢80名のエンジニアが在籍していますが、その大半が高専出身者です」


FIXER 代表取締役社長 松岡清一

一定数採用してみて、改めて高専生の持つ“現場対応力”に舌を巻いたという松岡。

「当社の行動原則の1つに『自分で考える』というのがあるんですが、これを最も体現しているのが、高専出身者なんです。

考える前の段階の『調べる』も非常に徹底している。例えば、他社の開発調査をする時。しかるべき論文を見つけて、内容を読み解き、きちっと論理立てて説明する──当たり前のように見えて、完璧にこなすのが難しいこの一連のプロセスを、彼らは見事にやってのける。その上、創意工夫する力も持っている。

完成教育の成果なのか、高専出身者のほとんどが驚くような力を現場で発揮するんですよね」

“若手実力者”が力を発揮できる、理想的な開発環境を追求


0→1ベース、現場裁量制が基本。手段やプラットフォーム、言語は個人が自由に選択──他に類を見ない、FIXERの自由闊達な開発環境は、松岡自身が「もし自分が20代のエンジニアだったら、こういう企業に勤めたい」というイメージを基に、築き上げてきた。

「新卒メンバーも含め、新入社員研修は必要最小限にしています。入社直後から実務に就いてもらいます。とりわけ若いメンバーには、脳みそが柔らかいうちにさまざまな技術に触れてもらい、どんどんイノベーションを起こしていってほしいんです」

社内では、若手社員に雑用を押し付けることも厳禁。松岡自身、新卒入社した会社で半年間コピー取りをやった経験から「技術力向上に役立たないことは一切やらせない」と決めたという。

アイデアが生まれやすい土壌をつくり、“日本初”や“世界初”など、前例のない取り組みを形にしてきたFIXER。松岡は「ググって、ソースコードをコピペして開発する」などありえない、自身の力が試される環境に、高専生の思考や実力がマッチしているかもしれない、と分析する。

一方の菅野は、このような先鋭的なITベンダーに、高専生が評価されていること自体が喜ばしいと話す。なぜなら、彼は「彼らの“可能性の芽”が摘まれている現状を打破したい」という理由で高専キャリアを起業したからだ。

「大手メーカーへの求人が山ほど用意されている高専生は、その過半数が他の選択肢を知らぬまま就職先を決めてしまいます。しかし、スタートアップやベンチャー企業などでも彼らはきっと活躍できる。なぜなら、高専で長く工学を学び、著しく論理的思考能力が鍛えられているから。

実際に私自身がそうでした。リクルートやリブセンスなど、大手メーカー以外のキャリアパスを歩みましたが、これまで仕事で苦労することは一度もありませんでした。関わる学生たちにはよく『微分・積分よりも難解なビジネスはない』と話しています」


高専キャリア教育研究所 代表 菅野流飛


技術のみならず、組織にもイノベーションを


菅野はさらに、話を続ける。

「技術力を磨くマッチョさはあるものの、ビジネス視点で技術を活かす“セクシーさ”がないのが、高専生全体の課題だと考えていて。現場で顧客の課題を見つけて、お金をいただける価値を提供する。『そのプロセスを経験する=社会人としてのスタートラインに立った証し』だと私自身は捉えているんです。

ですから高専キャリアでは、キャリア教育のみならず、アルバイトとして実務経験を積みながらビジネス視点を培う実践型の人材育成にも力を入れているんです」

それに対して松岡は、同社の新しい取り組みの話を交えながら、こう返した。

「FIXERに関して言えば、チャレンジは今後さらに大きなものとなり、その分、技術力が試される局面も多くなります。ですから高専出身者を含むエンジニアには『もっとマッチョになってほしい』のが正直なところです。

一方で、当社では2021年3月1日よりJTBからの出向社員を受け入れています。狭き門を潜り抜けて人気企業に就職し、社会人経験を積んできた人たちが、FIXERで何を学ぶのか。また、当社社員は彼らから何を学べるのか。もしかしたら、菅野さんのいう“セクシーさ”を学べるかもしれない」

さらに「つまずいたメンバーにうまく手を差し伸べながら、みんなで課題解決していく高専生の『協働する力』にはいつも惚れ惚れされる。“オープンソース”のマインドに触発されて育った世代なのでなおさら」と付け加えた松岡。異業種からの出向者を受け入れることで、チームの結束はさらに高まるであろう。

技術だけなく、組織にもイノベーションを起こそうとしているFIXER、そしてその伴走者として人材紹介やインターン設計を担う高専キャリア。菅野の手腕が今後ますます活かされることに期待したい。

文・福嶋聡美 写真・小田駿一


【編集後記】

負けた相手に興味を持つ

普通であれば、そんな柔軟な選択はできないだろう。実に起業家らしい感覚である。2021年3月からはJTBの社員を受け入れ、FIXERの社員との化学反応も狙っている。

そして去る4月7日、JTB、Fun Japan Communicationsと共にXR技術を駆使して仮想空間上にバーチャルな日本をつくりあげる「バーチャル・ジャパン・プラットフォーム」事業を開始した。

もはやベンダーの枠を超えている同社。その根幹に高専生がいるわけだ。技術を磨きながら、同時にビジネスも構築する。

菅野のいうセクシーさ、これを体現しているのが、まさにFIXERなのかもしれない。そしてその裏にいる高専キャリアもまた、セクシーさを体現し続けている。

編集・後藤亮輔(Forbes JAPAN CAREER 編集長)

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