化学工学基礎 F 理想気体・実在気体のPVT


7.1 理想気体の法則

 理想気体とは「理想気体法則」

に従う仮想的な気体である。あら ゆる温度,圧力の範囲で理想気体法則が成り立つ実在気体はない。 しかし,軽い気体や,低圧,高温での重い気体,蒸気では実用上理想気体法則からの誤差は数%である。

いろいろな気体の容量的特性 を比較するために標準状態が選ばれる。

以下では記号 で全容積[m3]を,^(またはVm )でmolあたり の容積[cm3/mol](=V /n ) をあらわすこととする。

図は 理想気体法則 pVmRT を図示したもの。気体の「状態」はm のうち2つの条件で定まることを示している。


【例題7.1】(気体密度の計算)
27℃,100kPaにおける N2の密度はいくらか.


[参考リンク>JAVAによる気体分子運動シミュレ−ション 物質の状態 (加藤徳善氏作

7.2 理想気体の混合物に適用される3つの理想気体法則

【Daltonの法則】・分圧 1  ,2,・・・の和は全圧に等しい
・気体では分圧 i/全圧 ,体積分率(vol%) とモル分率 i が等しい。

【Amagatの法則】・気体混合物の全容積は同一温度,圧力における 各成分気体の容積の和に等しい。すなわち加成性が成り立つ.さら に混合気体の流れでは各成分の流量の和が全流量に等しい。

7.3 実在気体の関係式

 気体の非理想的挙動を調べるひとつの方法が圧縮係数 z:


を圧力の関数として図示することである。(理想気体では常に   =1)下図は実在気体の pV ^の値が圧力が上昇するにつれて理想気 体法則から複雑にずれてくる様子を示す。


 
 

上右はCO2PVT  関係を^ で示す. C点が臨界点(critical point)で,臨界温度c 臨界圧力c  臨界分子容^cを表わす。「蒸気」とは臨界温度c より低温にある気体として定義される。 また,「超臨界(流体・物質)」とは臨界点以上の温度および圧力状態(下の物質)である。

このような気体の非理想的挙動を表わすのに@状態式による方法と A圧縮係数による方法とがある。

(a)van der Waals 式
 1893年提案されたvan der Waals式:

   
は実用的には満足できるものではないが,分子間力や液体・気体の 状態を物理化学的に考察するためには重要な意義を持っている。

この式は理想気体法則における圧力と体積を以下のように実在気体向けに補正したものである。
@体積におよぼす排除体積の効果(分子自身の体積の効果) 分子の体積が0でない ことは分子の詰まっている空間の体積がではなくnb に減っ ていることに相当する。
A圧力におよぼす分子間引力の効果 圧力とは分子が容器壁に衝突する力である。 分子間の引力が大きくなると壁に向かう分子の運動が内部の分子の引力で抑制されて圧力がΔp 弱められるていると考える。 この分子間引力と分子密度(n/V )および圧力減少Δp との関係は,(1) 分子間引力が増加するとV が減少すなわち密度(n/V )が増加する,(2)密度が増加すると壁に衝突する分子に対する他の分子からの引力が比例して増加してΔp が増加する,という2重の効果により Δp (n/V )2 である。よって,理想気体の圧力(nRT/(V-nb))からΔp を引いて

となる。

(注:ここの説明法は以下のように教科書毎に種々ある。
「分子間の引力は運動している分子が接近して互いの勢力圏内に入ったときに生じる。任意の分子の近くにある分子数は (n /V ) に比例する。一方,近くにある分子のそれぞれもその近傍分子を引きつける”任意の”分子として働く。これらの結果,分子が相互に引き合う力の合計は (n /V ) 2に比例する。」(この説明法が大多数)
「分子間力は分子同士が"接近"する頻度に依存する。このような接近は単位体積あたりの分子数の2乗で増加する。(( (n /V ) 2)なぜなら,ある領域中の2個の分子の存在が (n /V ) に比例するからである。」(R. Chang "Chemistry")
「実在気体における圧力の減少は(1)内部への引力の大きさと,(2)分子が壁に衝突する頻度の両方に依存する。どちらも単位体積あたりの分子数 (n /V ) に比例するので全体で (n /V ) 2 に比例する。」
「圧力は壁との衝突の頻度と,おのおのの衝突の力に依存する。衝突頻度とその力は引力があると減少する。この引力は試料中の分子のモル濃度 (n /V ) に比例する強さで働く。したがって,衝突の頻度と力が引力で減殺されるから,圧力はこの濃度の2乗に比例して減少する。」(アトキンス物理化学)
いずれにしても,この補正を(1/V 2)としたことで,状態方程式がV の3次式になり,それゆえに臨界点(変曲点)を表現できた,ということが重要であろう。

van der Waals式は臨界点c以上で1根実数,2根虚数 臨界点以 下で3根実数を持つ。よって
 については陽 (explicit)
 ^ については陰 (implicit) (非線形方程式)
となっている。

 
(データはNISTの熱力学データより)

定数は各分子の臨界点の値で決められる。 臨界点は3次曲線であるvan der Waals式の水平な変曲点となるので,


 下表に気体のvan der Waals定数を示す。定数b はどの気体も 20 〜40 cm3/molにある.水1 molの体積が18 cm3であるから,定数b の意味(気体分子自身の体積)からすると妥当な値である。一方,気体分子間の引力の大きさを表す定数a の値は気体により大きく異なる。 凝縮とは気体分子の運動エネルギー(温度に比例)より分子間引力 が大きい状態である。気体分子の運動エネルギーは温度が一定なら ば気体の種類に関係なく一定であるから,分子間引力を表すa の小さい気体ほど凝縮する温度は低いと予想される。すなわち定数a は臨界温度に関係あるであろう 。 実際a の値の順序は各分子の臨界温度に対応している。

(b)その他の状態式
 状態式は実用的にも,物理化学的にも重要なのでその開発に多大 の努力が払われている。Redlich-Kwong式,Benedict-Webb-Rubin式 がよく使われる。しかし,正確になるほど理論的根拠が不明確とな り,実測値から決められる物質毎のパラメータが多くなる。


(データはNISTの熱力学データより)

7.5 対応状態の原理,圧縮係数による一般化

・対応状態の原理(principle of corresponding state)
対臨界温度(reduced temperature)r/c
対臨界圧力(reduced pressure) r/c
を用いると圧縮係数; pV^=zRT , ψrr
がどの気体にもよらない一般化した圧縮係数線図として描ける。


・実用的には圧縮係数線図を定式化したものを使う.一例を挙げて おく。


【演習レポートF】 実在気体の分子容 
指定気体の100℃ ,(200+(学籍番号下2桁)) atm での 1 molにつ いての容積^ [cm3/mol]を,次の3つの方法で計算する.
@理想気体法則:  pV ^=RT   (= 82.06 cm3・atm/(K・ mol))で計算する。
Aこの値を^の初期値として,下表の定数 ,を用いて,van der Waals 式(次式)による反復法で求める。

B対臨界温度r/c , 対臨界圧力 r/ cを計算し て,圧縮係数線図より圧縮係数を求め,   pV^ =zRT で計 算する。


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