Itit Games 2020/05/14 18:54

元エロゲ屋がフルプライスエロゲについて思うこと

さっきエロゲの衰退についてのツイートを見た

 見出しの通りで、ついさっきエロゲの衰退についてのツイートを見た。その人はエロゲ業界では有名な人で、代表作なんかもあるから外野からああだこうだと言ってる人たちとは少し違う。けれどもツイートを削除してしまったので、ここでの紹介は省く。

 要点だけかいつまんでみると、「ボリュームの多い(シナリオの量が多い)エロゲが増えたけど、その娯楽に時間を割けない人が増えてきちゃったね。そりゃエロゲも衰退するよ。もっとテンポ良くスピーディーな展開にしなきゃ、今のまったり路線じゃおしまいだ」みたいな感じだった。だいぶ要約というか意訳になっててごめんね。

果たしてエロゲは衰退しているのかどうか

 ツイートの内容からしても、主題はこっちだろうね。でも本当にエロゲって衰退してるの? もう終わコンなの? って気になってる人も多いだろうと思う。個人的な見解を言わせて貰うと、それは半分当たりで半分外れなんじゃないかなあ。件のツイートでも言及されてる通りで、フルプライスのエロゲが衰退してる。それだけじゃない?

 もう今はエロゲ業界どころかゲーム業界自体から離れてる身だけど、仕事でエロゲを作ってる時は加盟団体からの情報共有もあったのね。詳しく書くのは色々とアウトだから、ユーザー目線でも実感できて団体としても共有してた事実を書くよ。業界自体もエロゲの売り上げが落ち込んでることくらい分かってる。分かってて何とかしようとはしてた。

 フルプライスの売り上げが落ちていく一方で、ロープライスやミドルプライスが売れてることも分かってたんだね。それでもフルプライスを売るのは、それがエロゲの主流であったり流通とメーカーの力関係だったり……まあ、とにかく簡単に止められないからでしかない。既にフルプライスを出さなくてもいいメーカーはミドルとローに注力してる。

 そんなこんなでまとめると、フルプライスはやばいよ。でもロープライスとミドルプライスはまだまだ大丈夫だよという結論に至る。あ、これも全部個人的な見解だからね。この記事を見ただけで全てを見知った気になったり、わざわざ争いの火種にするようなことは止めてね。こんなものは「元業界人が何か言ってるぜ」程度の認識でいいのよ。

なんでフルプライスは売れないのか

 フルプライスを作らなきゃいけないところもあると書いておいてアレだけど、フルプライスを作るのを止めたらいいよ。作るのを止めたらあの印象的なパッケージを用意する必要もなくなる。ディスクを焼く工程も無くなって支出も減る。そのせいで印刷会社やプレス会社はダメージを負うし、流通の仕事もいくらか減るけどね。

 それでもフルプライスを作らなきゃいけない、というところは苦しくても作るしかない。じゃあどうやってフルプライスを作ればいいのか。どうすれば売れるのか、という問題に直面しちゃうんだけど、そこで記事を書く発端となったツイートに話は戻る。そう。フルプライスを売りたければボリュームを減らすべきなんだよ。

 ただボリュームを減らすと言っても、元々5MBくらいあったシナリオを3MBくらいまで減らすとかの単純な話じゃない。そこまで一気に減らすと整合性の調整が必要になったり、キャラクターの描写が欠けたりする。つまり最初から少ないボリュームで物語を描く工夫が必要になる。……この辺の言及もあっただけにツイートの削除が惜しまれるなあ。

 話は逸れるけど、私も今のフルプライスエロゲははっきりいって苦手なんだよね。シナリオのボリュームばっかり増えて、これって必要なのかなと思う場面を見せられることが多い。2時間程度で完結する映画をドラマにしたらつまらなくなりました、って感じ。そういうかさ増しみたいなシナリオが苦手な人からしたら、フルプライスは苦痛にもなる。

 ロープライスやミドルプライスのエロゲが売れてるのは、ターゲットを絞った上でボリュームの制限もあるから。ボリュームが多めでもフルプライスほどは長くなくて、蛇足が少ない。外れ要素の多いいわゆる地雷作品を避けつつ、必要な物語を適度な時間で楽しめる。そりゃみんなフルプライスを買わなくなるよねっていうね。

 とはいえフルプライスが全く売れないかといえばそうでもない。根強い人気で売れ続けてるシリーズやブランドもある。シリーズだとKISSのカスタムメイドとか。そしてブランドだとILLUSION。どちらも理解してる人だったら言わなくても分かるだろうけど、どっちもシナリオ要素は薄い。エロゲのエロを売りにして、必要最小限の物語がある。

 フルプライスでどうしても売りたいところは、シナリオに注ぐ力をいくらか別の要素につぎ込んでみたらいいと思う。無駄を省いて必要な描写はしっかりと表現して、「このエロゲはエロいぞ!」「いいから泣け! そして抜け!」くらいの強気な姿勢でやってみて欲しい。泣きゲーもいいよ。でもエロゲはエロをメインにしてくれたらなあ……と。

結局エロゲはどうしたらいいの

 そんなもの知らないよ。一つ前の文章を読んでよ。……と投げ出してしまうのは楽だけど、ボリュームの多いシナリオ重視で売れるエロゲについて考えてみる。まず共通ルートはそれなりの長さにする。シナリオがトータルで2MBくらいとしたら、500kbくらいは共通ルートにとっちゃう。そして残りを個別ルートに割り振り。

 個別ルートが短い! 共通ルートは短くして! という場合は共通ルートに300kbはとって、余った200kbは共通ルート内に出てくる個別シナリオ分として使う。仮にヒロインが5人なら、共通ルートとは別に選択肢次第で40kb分の描写を用意できる。これだけあれば徐々に仲良くなっていく様子程度は描ける。

 40kbといえば全角512文字×40=20,480文字にもなる。400字詰め原稿用紙で51枚弱。ラノベの登竜門といえる電撃小説大賞のページ数で換算すれば14ページ弱。これだと少々頼りなく感じるかもしれない。しかし短編小説未満、掌編小説以上の範疇。しかし忘れてはならない。ここに実際は共通ルートのやりとりも追加される。

 それでもまだボリュームが足りないという方の為に共通ルート分も更に細分化してしまおう。まず絶対に必要な冒頭部分。ここは世界観やヒロインの紹介も兼ねて多めに取る。次に主人公関連のシナリオやヒロイン以外とのシナリオ。ここも少し多めに。そして残りは各ヒロインまたは一部ヒロインとの関係を深めるシナリオに使用する。適当な割合だとだいたいこんな感じ。

 冒頭(各種紹介):主人公とヒロイン以外:各ヒロインまたは一部ヒロイン
 5(150kb):3(90kb):2(60kb)

 これでヒロインに割けるシナリオは増えた。ヒロインABと親しくなる話やヒロインCだけと仲良くなる話。ヒロインDの秘密を知った話や主人公に迫るヒロインEの話……とまあ、やりすぎなければとりあえず余裕は出来てきた。それ以上の進展を描きたければ、そこは個別シナリオ(2MB想定の共通300kbだとすれば各340kb)で。

 この個別シナリオ分だけでもロープライス分の量には近くなる。これでもヒロインとの起承転結を描けないのであれば、それはもはや企画かライターの問題になる。もちろん個別シナリオを減らして共通に回す量を増やしてもいい。必要なシナリオを考えた結果としてボリュームが増えるのならそれはそれでいい。

 無駄がなくちゃんと内容を描けていて、それでいてエロいエロゲ。そういうフルプライスエロゲが増えて欲しいなあと思う今日この頃。

追記

 ちょっと用事があって最後の方は駆け足で仕上げたんだけど、エロゲはどうしたらいいのかいまいち分かるようで分からない感じになってた。そこで追記という形で補足をする。共通ルートと個別シナリオの考え方については変わらない。問題はそのやり方。個人的に共通ルートはもう各社が体験版で公開しちゃえばいいと思う。

 そして製品版はメインヒロインのルートだけ。他のヒロインは個別課金。どこかで見たような気がするというか、ちょっと前のスマホ向け恋愛ゲームって感じ。あれを主流でやっていくしかフルプライスでも生きていく道はないんじゃないかなあ。最初にユーザーが手を出すのはロープライスまたはミドルプライス分の金額だけ。

 他のヒロインも気になれば都度購入するわけで、全ヒロインが魅力的ならフルプライス分の購入金額にも相当する。もしくは少し割高になる程度。これはダウンロード版だけで販売して、全ヒロインが気になる人や安く買いたい人には最初から全部解放されてるパッケージ版を出す。それから数ヶ月後か一年後に安い完全版も出せばいいよ。

 ……実際にこういう売り方をしてるところもあるから、今更こうして書くまでもないんだけどね。ただ、フルプライスを売りたいけど利益も確保したいというところはもっと積極的に挑戦すべき。物語に必要でもない賑やかし程度の捨てヒロインを省けば、もっとそれぞれのヒロインを活かすことが出来る。そっちの方がユーザーとしても助かる。

 これ以上書いたところで結論も出やしないし、話は堂々巡りになる。だからここで私はそっと筆を折り、エロゲは現実を見ながら詐欺ではない完全版商法をやればいいよ、というお話で締めくくってみる。

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