たぶん熾天使(してんし:Seraphim セラフィム)と智天使(ちてんし:Cherubim ケルビム)ですね。天使の世界にも軍隊みたいに位があって、セラフィム、ケルビムはそれぞれ最上位と上位から2番目の役職名です。セラフィムは神の玉座を守るのが仕事、ケルビムはアダムとエバが追放された後のエデンの園の門番が仕事です。
神に近いところで神に直接仕えるこれら高位の天使は、もともと古代バビロニアの多神教の自然神をモチーフに考え出されたという歴史的な背景もあって、我々がよく知っているミカエルだとかガブリエルだとか言った下級の天使と違い、人間の形・人格を持たない非人格神的な存在です。ただ、それだと絵にする場合に表現しにくいし、見る方も分かりにくいので、絵画の世界においてはもう少し一般的な天使に近い形で表現されます。セラフィムは3対6枚、ケルビムは4対2枚の羽を持ち、そのうち1対を体の前で交差させて体を隠し、顔と足の先だけが見える形で表現されます。場合によっては顔も隠されたり、顔の部分が菊の紋みたいな記号に置き換えられることで非人格神的な存在であることが強調されることもあります。人間の形をとらないことで、それだけ人間とはほど遠い、神に近い上位の存在であることを表現しているのでしょう。また、セラフィムは神性や権威を意味する火や雷の赤、ケルビムは知性を意味する大空の青のカラーリングで表現されるのが一般的です。
ただ、その後時代が下がるに従って絵画表現ではもっと様式化され、中心に幼児の顔を置き、その周りに放射状に3対6枚もしくは4対2枚の羽が配置されるだけの記号のような感じの表現になっていきます。また、それにつれてセラフィムとケルビムの区別も曖昧になっていき、単に赤と青の色違いだけで表現されているケースも増えていきます。
セラフィム、ケルビムは聖書においても言及される箇所が少ないため独立したモチーフとして絵画に描かれることがほとんどなく、その非人格的な性格を表現するためもあってか、天国からの光や天国の雲の中に溶け込んでしまうように、絵画の背景の模様として描かれることが多いです。そのため、絵に描かれていても、知らずに見ていると見過ごしてしまいます。今度宗教画、特に天国の場面が描かれている作品を見る機会があったら、絵の背景や絵の周囲の装飾の意匠にも注目して見てください。気がつきにくいだけで結構あちこちで見られますよ。
それにしてもザビエルさんの肖像画にも描かれてたんですね。気がつかなかったなあ。