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マズローの欲求5段階説とは?

 マズローは、人間は自己成長を求める動物であるという考えのもと、人間の欲求を5段階に分類し、低次元の欲求が満たされれば、さらに高次の欲求を求めて行動すると考えました。

 モチベーション理論としては比較的古典的な理論で、かつ批判もありますが、普遍性が高いことから今でも多くの人がさまざまな場面で活用しています。

マズローの欲求5段階説

 5段階の分類の詳細は以下の通りです。

生理的欲求:生命を維持するための根源的な欲求。人間の最も原始的な欲求である、食欲や睡眠欲などが含まれます。

安全欲求:経済的な安定や健康の維持、治安の良さや事故リスクの低さなど、安全で豊かな生活を求める欲求です。日本をはじめとする先進国では、この欲求までは満たされていることが多いため、企業の担当者が施策を考える上ではあまり重要ではないとされています。

所属と愛の欲求:社会的欲求とも呼ばれます。自分が社会に求められていると感じることや、良き組織やコミュニティに属して心の安定を得たい、人とつながって孤独感を忌避したいという欲求です。近年、SNSなど「人とのつながり」を促進するサービスが増えていますが、これはまさにこの欲求に応えるものです。

承認欲求:他者から尊敬されたいという欲求です。承認欲求には2種類のものがあり、低次な承認欲求は、名声や注目といった表面的なものにとどまります。マズローは、より高次の承認欲求である、自己肯定感や自律性、自分自身の評価の高さが重要と考えました。

自己実現欲求:自己の存在意義を実現する欲求です。自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、なすべきことを成し遂げたいという欲求です。マズローは欲求5段階説の中でもこの欲求を最高次に位置づけ、この欲求を満たすことこそが人間を幸せに導くと考えました。

 この欲求の5段階は、図表33-1に示したように大きく物質的欲求と精神的欲求に区分することもできます。

 一般に先進国の企業では精神的欲求が従業員のモチベーションを高める上で重要と考えられており、実際に企業側もそれを意識して人事施策を考えます。

事例で確認

 図表33-2にビジネスパーソンAさんの欲求が満たされている度合いを示しました。Aさんの上司は何をなすべきでしょうか?

マズローの欲求5段階説

 まず考えられる方策としては、人間関係のトラブルを上司が介入して解決するとともに、周りの人々に彼/彼女をもっと評価するように働きかける、というものがあります。

 ただし、これは往々にして対症療法的に終わってしまう可能性もあります。

 もしAさんの方に根源的な問題があるのであれば、部署を変え、Aさんが働きやすい場所を提供してあげるのがいいかもしれません。

 もう1つ気になるのは、Aさんの自己実現欲求が不明というところです。「コツ・留意点」のところでも触れるように、あらゆる人間の自己実現欲求を満たすことは難しいですが、かと言って、当人が何をしたいのか、何を実現したいのかを全く知らないというのは問題です。一度しっかりコミュニケーションをとることが必要でしょう。

用いる場面
・部下の動機付けのヒントにする
・自分の動機付けが何によってなされているかを確認し、キャリア構築のヒントにする
・企業や人事部が、従業員の満足度を上げるための施策を検討する
・マーケティング担当者が顧客の満足度を上げるヒントとする
コツ・留意点
1.
よくある誤解は、低次の欲求が満たされないと、人はより高次の欲求に至らないというものです。この点についてはマズロー自身も否定していますし、実証研究でもそうでないことが示唆されています。たとえば生理的欲求や安全欲求が完全には満たされてはいなくても、人は所属と愛の欲求を求めたり、承認欲求を求めたりするのです。もちろん、低次の欲求があまりに満たされていない状況で高次の欲求を満たそうとしてもなかなか効果は出ませんが、100%満たす必要はないという割り切りを持つことも重要です。

2.
マズローは自己実現欲求を他の4つとは異なる別格のものとも主張しました。また、近年、人々の「自分探し」がブームになったこともあり、「部下の自己実現欲求を満たしたいが、なかなかそうも行かない」と悩まれる管理職が散見されます。しかし、現実に、あらゆる従業員の自己実現欲求を満たすことは不可能ですし、費用対効果も見あいません。自己実現欲求は意識しながらも、所属と愛の欲求をしっかり満たしてあげたり、承認欲求を満たしてあげるだけでも、従業員のモチベーションは十分に上がるという点を意識したいものです。