ヤマンの「らはめん」は一杯770円。また食べたくなるホッとする一杯(筆者撮影)
ヤマンの「らはめん」は一杯770円。また食べたくなるホッとする一杯(筆者撮影)

 日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。練馬で大好きなレゲエを聴きながらこだわりのラーメンを作る店主の愛する一杯は、秋田出身の店主が地元の食材でまとめ上げる昔ながらのラーメンだった。

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■学生街だが、「学生を相手に商売をしていたら潰れる」ワケ

 西武池袋線江古田駅から徒歩5分。北口の商店街を抜けるとジャマイカンな外観のお店が見えてくる。レゲエ好きの店主・町田好幸さん(47)が営む「ラハメン ヤマン」だ。その外観からはおよそラーメン店とは気づかないが、淡麗でじんわりしみるスープとこだわりの自家製麺で口コミが広がり、創業17年、地域を代表する人気店となった。

ラハメン ヤマン/〒176-0006 東京都練馬区栄町22-1/11:30~16:00、19:00~22:00、木曜定休日/筆者撮影
ラハメン ヤマン/〒176-0006 東京都練馬区栄町22-1/11:30~16:00、19:00~22:00、木曜定休日/筆者撮影

 町田さんの自家製麺は、弾力と喉越しがウリだ。その食感は町田さんの言葉を借りれば“グミグミ感”。柔らかく茹でているが、麺の存在感がしっかりある。夏と冬で小麦粉と水の比率を変え、毎日微調整しながらスープにバシッと合わせる。レシピはなく、感覚で合わせるその作業が好きだという。スープは無化調でやさしい味わいだが、奥行きがあり、後味までしっかり美味しい。クセになるのとは違う、また食べたくなるホッとする一杯だ。

「複合的な味が好きなんです。『また食べたい』の正体は、味わいの強いものよりも、後ろで支えている昆布などの食材なんですよね。いろいろな食材をバランスよく合わせることで『また食べたい』感が出てきます。一口目のインパクトは大切ですが、それよりも帰り道や家に帰ってから感じるじわじわ感を大事にしています。そんなに衝撃を感じる味ではないんですが、なぜかまた食べたくなる一杯を目指しています」(町田さん)

店内のコンセプトは「ジャマイカ×和」(筆者撮影)
店内のコンセプトは「ジャマイカ×和」(筆者撮影)

 江古田は日本大学芸術学部、武蔵野音楽大学などの大学が集まる学生街として知られているが、町田さんが狙ったのは、あくまで大人やファミリー客だ。

「近所の焼肉屋さんに『学生を相手に商売をしていたら潰れるぞ』と忠告されたんです。学生は授業の休みがあるので、一年の半分は江古田にいない。だから、学生向けにこってりしたラーメンを作るのではなく、地元のお客さんを相手にあっさりとした和風のラーメンを作ったんです」(町田さん)

「ヤマン」店主の町田好幸さん。レゲエと練馬、そしてラーメンへの強い愛を持つ(筆者撮影)
「ヤマン」店主の町田好幸さん。レゲエと練馬、そしてラーメンへの強い愛を持つ(筆者撮影)

 平日は常連客がメインで、土日には各地からラーメンファンが集まる。日頃から地元客を意識していたこともあり、コロナ禍でも売り上げは安定しているという。17年間でラーメンの流行は変われど、「ヤマン」は変わらずシンプルなラーメンで勝負する。大好きなレゲエをゆったり聞きながら、町田さんは今日もラーメンを作り続ける。

 そんな町田さんが愛する一杯は、自分を兄と慕う青年が独立して作った中華そば。秋田出身の店主が地元の食材で作った、昔ながらのラーメンだ。

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井手隊長

井手隊長

井手隊長(いでたいちょう)/全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。Yahoo!ニュース、東洋経済オンライン、AERA dot.など年間100本以上の記事を執筆。その他、テレビ番組出演・監修、イベントMCなどで活躍中。ミュージシャンとしてはサザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」などで活動中。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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