しまい・さおり/1980年5月15日生まれ。41歳。高知県南国市出身。96年、15歳でプロ入り。2012年、女流二段昇段。14年、日本女子プロ将棋協会理事就任。趣味は音楽(photo 写真部・高野楓菜)
しまい・さおり/1980年5月15日生まれ。41歳。高知県南国市出身。96年、15歳でプロ入り。2012年、女流二段昇段。14年、日本女子プロ将棋協会理事就任。趣味は音楽(photo 写真部・高野楓菜)

 AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明名人、森内俊之九段(十八世名人資格者)、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段らに続く13人目は、「日本女子プロ将棋協会理事」の島井咲緒里女流二段です。発売中のAERA 2022年4月4日号に掲載したインタビューのテーマは「影響を受けた人」。

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「LPSAの坂本龍馬です!」

 日本女子プロ将棋協会(LPSA)代表理事の中倉宏美(43)は、島井咲緒里をそう呼ぶ。島井は龍馬の出身地、高知県で生まれ育った。現在はLPSAの業務執行理事として、宏美をサポートする立場だ。

「私も龍馬は大好きです。おこがましいですが、その気持ちを受け継いで、女流棋界をよくしなきゃと思う気持ちはあります」

 宏美と島井は公私にわたって名コンビだ。

「もともと大好きな先輩だったんです。2人とも理事になってからは仕事でも頻繁に会うようになって。性格もすごく合うんです。私が宏美さんを代表に推した理由は、ポジティブだから。やっぱり上に立つ人は、前向きで明るくなきゃダメだと思いました」

 南国生まれの島井は、多くの人から陽気な性格と思われている。でもそうではない?

「私は逆で、本当はかなり心配性なんです。まず最悪のケースを想定して、対応を考える。宏美さんが楽観的に『いいんじゃない?』って言っても『大丈夫ですか?』と細かいことが心配になって。そういう感じでバランスが取れていると自負しています」

島井咲緒里の得意戦法は振り飛車穴熊。豪快な攻めが身上のハードパンチャーだ。LPSAの事務所は東京都港区にあり、近くのおしゃれなカフェで女性対象の将棋大会も開催してきた(photo 写真部・高野楓菜)
島井咲緒里の得意戦法は振り飛車穴熊。豪快な攻めが身上のハードパンチャーだ。LPSAの事務所は東京都港区にあり、近くのおしゃれなカフェで女性対象の将棋大会も開催してきた(photo 写真部・高野楓菜)

 島井の師匠は高知県出身の名棋士、森けい二九段(75)だ。

「私はデビューした頃、定跡を全然知らなくて4連敗しました。そのとき森先生から『それなら振り飛車をやったら』と言われて。とりあえず穴に堅く囲って、目をつぶって殴る、というスタイルが合ってたみたいです」

 島井の猛烈な攻撃は「島井攻め」として恐れられている。

「臆病者なんで、先に攻められるとびびっちゃうんです。だからその前に、自分から先に攻める」

 LPSA主催の1dayトーナメントでは数多くの優勝を重ねてきた。

「短時間の将棋だと、受けるのは大変じゃないですか。だから攻めていると勝ちやすいのかもしれません。最近では渡部愛さん(元女流王位、現女流三段、28)に勝てるとうれしいです。もうベテラン枠なので、フレッシュな若手に勝てると『自分もまだがんばれるかな』と思えます」

 現在、女流棋界のトップに君臨する里見香奈女流四冠(30)は島井の妹弟子にあたる。

「里見さんはストイックで、本当に将棋一筋です」

 島井は業界の内外で交友関係が広い。

「私はプロになったときから、いろんな世界の人と交流したいと思っていました。もちろん将棋は一生懸命やります。その上で、視野を広く持ちたいと心がけていて。将棋一本にはなれなかったんですけど、それは自分の生き方として選んだもの。そのおかげで今の自分があると思っています」

(構成/ライター・松本博文)

発売中のAERA2022年4月4日号では、島井咲緒里女流二段が俳優の松田龍平に手作りクッキーを差し入れたことについても語っています。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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