【知識ゼロから分かる!】バイナリー発電とは何か

地面から湯気が上がっている

バイナリー発電は、火力発電や原子力発電と同様に、蒸気でタービンと呼ばれる回転式の原動機を動かす発電方式です。熱水や蒸気の力で、水よりも沸点の低いアンモニア水やペンタン、代替フロンなどの作動媒体を沸騰させ、その蒸気でタービンを稼働させます。バイナリー発電にはメリットが多くあります。

この記事では,今回はこのバイナリー発電について、初めて名前を聞いたという方にも分かりやすく、丁寧に解説していきます。

目次

  1. バイナリー発電の仕組みとは

  2. バイナリー発電のメリット

  3. バイナリー発電の現状

  4. バイナリー発電のポテンシャル

  5. まとめ:バイナリー発電などで,非化石エネルギーを利用しよう!

1. バイナリー発電の仕組みとは

バイナリー発電は、火力発電や原子力発電と同様に、蒸気でタービンと呼ばれる回転式の原動機を動かす発電方式です。

バイナリー発電の「バイナリー」とは、英語で「2つの」という意味を表します。ここでは2つの熱サイクルを意味します。

(1)「バイナリー」=「2つの」熱サイクルを持つ発電方式

バイナリー発電は、熱水や蒸気の力で、水よりも沸点の低いアンモニア水やペンタン、代替フロンなどの作動媒体を沸騰させ、その蒸気でタービンを稼働させます。このとき、作動媒体を加熱した熱水や蒸気はもとに戻り、沸騰した作動媒体も冷却して再利用します。つまり、バイナリー発電には、熱水や蒸気で作動媒体を沸騰させるサイクルと、作動媒体がタービンを回転させるサイクルの2つがあるということです。これが、バイナリー発電の名前の由来です。

バイナリー発電方式のイメージ

バイナリー発電方式のイメージ

出典:経済産業省「再生可能エネルギーとは」

火力発電は化石燃料を燃やして、原子力発電はウランを核分裂させ、それぞれ水を蒸気に変えます。一方バイナリー発電では、熱水や蒸気で直接タービンを回すことはしません。直にタービンを回すには熱量が十分でないこれらを発電に利用するための仕組みが、バイナリー発電だと言えます。

 (2)バイナリー発電機の設置場所

バイナリー発電機が設置される場所の1つが、地熱資源のある場所です。いわゆる、地熱発電所として、熱流体という地下の熱水や蒸気を使って、バイナリー発電機を稼働させます。なお、地熱発電には、バイナリー発電方式以外に、フラッシュ方式という、熱流体でそのままタービンを回す電源もあります。 

他にバイナリー発電が活躍する場所はというと、例えば製鉄所や清掃工場です。事業の過程で出た排水や排熱は、あまり使い道がありませんが、バイナリー発電機を設置すれば、これらを有効活用して電力代の削減を図れます。その他、船舶にバイナリー発電機を設置するケースもあります。 

(3)地熱発電のなかのバイナリー方式は新エネルギーとして

様々な場所で活躍するバイナリー発電は、それゆえに電源としての位置づけがやや複雑です。まず、地熱バイナリー発電は、再生可能エネルギーであり、新エネルギーでもあります

再生可能エネルギーは、自然界に存在する資源から、半永久的に電力を生み出せる電源を指します。その中で、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」が、「経済性の面における制約から普及が十分でない非化石エネルギーであって、その促進を図ることが非化石エネルギーの導入を図るため特に必要なもの」と定めている電源が、新エネルギーです。

出典:新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法

つまり、新エネルギーとは、日本が力を入れて普及を進めていくべき電源だと理解できるでしょう。なお、地熱発電のなかでも、フラッシュ方式は、再生可能エネルギーではありますが、新エネルギーではありません。そして地熱発電以外のバイナリー発電は、再生可能エネルギーとしても扱われません。したがって、新エネルギーでもありません。このように、一口にバイナリー発電と言っても、設置場所によって電源としての位置づけが変わるので、注意が必要です。 

2. バイナリー発電のメリット

再生可能エネルギー含め、他の電源にはないバイナリー発電ならではのメリットとはなんでしょうか。実は、電源としてのメリットは決して少なくないのです。大きく、次の4つを挙げることができます。

(1)従来利用できなかった低い温度帯の熱や温水の有効活用に

やはり、これまで未利用だった熱水や蒸気を活用できることでしょう。例えば、温泉の出る場所にバイナリー発電が設置される例があります。

仮に70℃の熱水が出るとすれば、それをフラッシュ方式で発電に生かすのであれば温度が低すぎますし、かといってそのまま温泉に利用するには熱過ぎるため、冷却して使わなければなりません。しかし、この熱水はバイナリー発電には最適である上に、発電の過程で入浴にちょうど良い温度まで熱水が冷めていくという副次効果もあるのです。

鹿児島県霧島市にある温泉に設置されたバイナリー発電機

鹿児島県霧島市にある温泉に設置されたバイナリー発電機

出典:経済産業省「再生可能エネルギーとは」 

製鉄所や清掃工場に併設するバイナリー発電に至っては、これまで捨てるしかなかった、場合によっては費用を投じて処分していた排水や排熱で電気を生み出せます。電気代の削減方法としては、非常に効率的だと言えるでしょう。

(2)地熱バイナリー方式は、一般的な地熱発電より小規模で開発がしやすい

地熱バイナリー方式は、フラッシュ方式では使うことができなかった、比較的低温度帯の熱流体を活用できます。その際、大規模な開発は必要ありません。

そもそも熱流体は、地中の圧力のために沸点が水よりも高く、直接タービンを回すためには150℃以上でなければなりません。より高温の熱流体を得ようとすればするほど深い掘削が必要になるため、費用や工期がかさみます。そのうえ、開発が失敗する可能性も低くはありません。バイナリー発電であれば、こうした事業リスクを低減できるのです。

 (3)温室効果ガスの排出が少なく環境に優しい

バイナリー発電は、火力発電のように化石燃料を必要としませんから、その分温室効果ガスの排出量が少なくなります。そして、企業にとっては、そうしたバイナリー発電による電気を使用しているということを、対外的にアピールすることで、環境に配慮しているという姿勢を認めてもらえるようになるはずです。

 (4)時間帯や季節によって出力が変動しない

バイナリー発電は、火力発電のように細かく出力を調整することはできませんが、時間帯や季節、天候によって出力が変動しないという利点があります。つまり安定的な電力供給が可能になるのです。こうした電源のことをベースロード電源と言います。

太陽光発電は日中晴れていなければ、風力発電はある程度強い風が吹いていなければ、発電できません。

電力は、需要と供給を必ず一致させなければならないという原則がありますから、太陽光発電や風力発電のように出力が不安定な電源に対しては、火力発電に代表される、出力の調整が可能な電源でバックアップする必要があります。その分様々な追加費用が発生するのですが、ベースロード電源であれば、こうした措置は不要なのです。 

3. 日本のバイナリー発電の現状

バイナリー発電の現状はどうなっているのでしょうか。統計資料は限られますので、主に地熱バイナリー発電に関して見ていきます。

(1)日本に地熱バイナリー発電所が誕生したのは2006年

日本に初めて地熱バイナリー発電所が誕生したのは2006年で、これは九州電力が大分県玖珠郡九重町に建設しました。もともとそれ以前に地熱発電所として稼働していたところへ、バイナリー発電機を導入したのです。

(2)本格的な普及はこれから

日本初のバイナリー発電はまだ新しい技術であり、今のところ日本ではメジャーな発電方式とは言えません。

日本にどれだけのバイナリー発電機が存在するか確かめる方法はありませんが、地熱バイナリーに関しては、日本地熱協会によると、2016年6月時点で、22基、合計1万3798kWあるようです。

日本に存在する地熱発電所

日本に存在する地熱発電所

各県の発電所一覧

※2016年6月時点

出典:日本地熱協会「日本の地熱発電所」

これは、同時点で稼働していた太陽光発電設備の0.04%です。本格的な普及はまだまだこれからと言えます。

出典:経済産業省「各種データの公開」 

4. バイナリー発電のポテンシャル

バイナリー発電は、メリットが多々ありながらも、導入が進んではいない状況です。では、今後普及が拡大する可能性はあるのでしょうか。

製鉄所や清掃工場にバイナリー発電機を設置する条件を満たすのはまだしも、地熱バイナリー発電を設置するためには、地下資源がなければできません。2015年時点で、地熱発電所がある国は、26カ国に限られます。

出典:日本地熱協会「世界の地熱発電」

(1)環太平洋火山帯に属する日本は地熱バイナリー発電の適地

環太平洋火山帯に属する日本は、地熱バイナリー発電の適地だと言えるでしょう。環境省によれば、地熱発電設備に有効活用可能な分は、1439万kWに達するとのことです。

出典:環境省『地熱のポテンシャル推計について』

これは、2021年10月時点で稼働中の原子力発電所の約1.5倍に相当する規模ですから、決して少なくはありません。

出典:原子力規制委員会「原子力発電所の現在の運転状況」 

(2)バイナリー発電機のメーカーも日本に多く存在している

実際、日本にはバイナリー発電機のメーカーも数多く存在しています。川崎重工業やIHI、神戸製鋼所、富士電機、ヤンマーエネルギーシステムなど、名だたる大企業が国内外に設備を販売しているのです。バイナリー発電は、純国産のエネルギー源と言えますから、国内に発電機のメーカーが存在することは、エネルギーセキュリティの観点からも重要だと言えるでしょう。

5.  まとめ:バイナリー発電などで,非化石エネルギーを利用しよう!

今日では日本を含め世界中の国々が、カーボンニュートラルの実現に向け、非化石エネルギーの利用を進めています。ESG投資の拡大により、主に大手企業が非化石エネルギーの確保に熱を入れていますが、その波は中小企業にも及びつつあります。大手企業にとっては、非化石エネルギーを利用している中小企業と取り引きしたいからです。

こうした状況下で、再生可能エネルギー由来の電力を使いたくても確保できないという事態が起きる恐れがあります。だからこそ、広く普及しているとは言えない地熱バイナリー発電は、今後導入が拡大する可能性を秘めていると言えるでしょう。また、排水や排熱の処理に困っている中小企業にとっては、バイナリー発電機の導入は検討に値するはずです。なぜなら先述の通り、単に電気代の削減のみならず対外的に環境に配慮している姿勢を打ち出せるからです。

 非化石のエネルギーを選ぶ時代は始まっています。日々の電気が何によってできたものか、考えてみることから始めてみるのはいかがでしょうか。

※ESGとは「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の頭文字を取った言葉であり、ESG投資は、単に財務情報だけではなく、ESGに配慮している企業こそ成長性が見込めるとの考えのもと、投資先を選ぶこと。

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