2023.07.10

モンサンミッシェルなどの観光地で過剰観光を撲滅する運動を開始 フランス

仏北西部ノルマンディー地方にあるモンサンミッシェルを訪れる観光客の行列(Getty Images)

フランス北西部ノルマンディー地方にある絶妙な潮の満ち引きをする小さな島、モンサンミッシェルを訪れたことのある人なら誰でも知っていることだが、到着後の最大の難関の1つは、どのように移動するかということだ。モンサンミッシェルには年間約300万人が訪れるにもかかわらず、出入りする道路は1本しかなく、駐車場から乗車が義務づけられているシャトルバスに乗ろうとする人が常に押し寄せ、乗車することさえ困難なのだ。先月には、石畳の道を登って山頂の荘厳な修道院に行こうとする人が殺到し、シャトルバスは一時運休した。

同国のオリビア・グレゴワール観光相は仏紙ルフィガロに対し、モンサンミッシェルや国内の他の多くの観光地での過剰観光(オーバーツーリズム)を巡り、国を挙げて対抗措置をとるべき時だと語った。フランス政府は、モンサンミッシェルやノルマンディー地方の絶壁エトルタなど、国内の観光地のわずか2割に集中する観光客の8割に、行き先を変更してもらいたいと考えている。

これは本や映画などに出てきた場所を訪れることが流行になっていることが原因とみられている。例えば、ネットフリックスの『エミリー、パリへ行く』といったテレビドラマで紹介された場所を観光客が訪れるようになったのだ。同様に、ネットフリックスの大ヒット番組『ルパン』の放映後も、通常より多くの人々がエトルタの崖に押し寄せた。

欧州諸国の多くは、観光客をあまり知られていない観光地に誘導することを目指している。オランダは2019年、観光客が2030年までに50%増の2900万人に達するという予測が出たことをきっかけに、行き先を変更させる運動を開始した。同国の政府観光局は、自撮りのためにチューリップ畑を踏み荒らす人々に辟易(へきえき)しており「(観光客が)多ければ多いほど良いとは限らない、当然、どこでも良いわけではない」 と吐露していた。

過密状態を緩和し、地域住民の住みやすさや環境を保護するため、欧州の多くの観光地が入場料を徴収するようになった。フランス南部マルセイユの荘厳な石灰岩地帯カランクは事前予約を求めるようになり、イタリア北部のベネチアは入場料の導入を決定。マルセイユのスギトンカランクでは事前予約制の導入で、1日当たり2500人だった観光客を、わずか400人に激減させることを目指している。

フランス政府には、インフルエンサーやソーシャルメディアを活用し、これらの観光地がいかに混雑しているかを示し、人々が足を運ぶのを思いとどまらせる狙いがある。観光当局は5月、中旬の昇天祭の大型連休にモンサンミッシェルを訪れた6万人の人々が、混雑のために修道院に登るのを待つ行列で立ち往生している悲しい写真を投稿した。英紙テレグラフによると、こうした運動は2021年にマルセイユで、2022年にはコルシカ島のポルトベッキオでも実施された。

この新たな運動は、四季を通して観光を促し、特定のツアーを促進しながら、特に新型コロナウイルスの収束以来、大挙してフランスに戻ってきた英米人の観光客を対象とし、英語で行われる。今年パリを訪れるのは3700万人と予想されており、その多くはフランスの他の地域に向かうことになる。フランス政府は有名な観光地で行列に並び立ち往生している人々を映し出すことで、訪問を考えている観光客が計画を見直し、代わりに国内の別の場所に向かうことを期待している。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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