「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」

サイエンスZERO プロフィール

どうしてどの方向にもビッグバンが観測されないのか?

―20年前に何があったんでしょうか?

20年前にビッグバンの名残(残照)を直接観測するための人工衛星WMAP(※1)が上がって、解像度の高い、宇宙誕生初期の写真が撮れるようになりました。その写真には情報がたくさん詰まっていて、宇宙全体の物質のうちダークマターが約8割を占めているというこの宇宙の詳細が明らかになったのです。

そこで初めて、ダークマターと普通の物質は明らかに違うものだということがはっきりしてきました。それまでは、ブラックホールやニュートリノなど、すでに知られているものがダークマターの正体ではないかと考えられていたので、本当に衝撃を受けました。

WMAPのデータ。それまでに撮られた中で最も複雑な「宇宙の赤ちゃん時代の写真」と言われているⒸNASA / LAMBDA Archive Team
 

※1 ビッグバンを直接観測する人工衛星…2001年にNASA(米航空宇宙局)が打ち上げた「Wilkinson Microwave Anisotropy Probe(通称WMAP)」と呼ばれる宇宙探査機。ビッグバンの名残である「宇宙マイクロ波背景放射」を精密に観測するために打ち上げられた。

―ダークマターの存在がはっきりわかったのは、ビッグバンの観測からなんですね?

はい。宇宙が始まって138億年と言われていますから、138億光年向こうを頑張って観測すると、「あっ、ビッグバンだ」というふうに今でも見えるはずなんです。「あっちを向いてもビッグバンが見える」し、「こっちを向いてもビッグバンが見える」。そういう状況ですね。ですがビッグバンの写真を見るとほとんどのっぺらぼうで、温度の違いは10万分の1しかありません。

ダークマターが存在しない宇宙を考えたとすると、そんなのっぺらぼうみたいな状態だったら、今あるような銀河の塊はできないので、どうしてなのかという問題があったんです。宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです。

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