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「悪貨は良貨を駆逐する」のグレシャムの法則がリーマン・ショックを引き起こしたとの指摘


グレシャムの法則とは、「良質な貨幣と粗悪な貨幣が同じ額面で流通していると、良質な貨幣が保管されたり輸出されたりして市場から消えてしまい、粗悪な貨幣だけが残る」という法則です。金や銀が貨幣として使われなくなって久しい現代社会においてもこの法則は息づいていると、教養をテーマにするブログFarnam Streetがその事例を挙げています。

Gresham's Law: The Bad Drives Out the Good As Time Passes
https://fs.blog/2009/12/mental-model-greshams-law/

グレシャムの法則は、16世紀のイギリス国王財政顧問トーマス・グレシャムが「イギリスの良貨が外国に流出する原因は貨幣改悪のため」と唱えたことに由来する法則で、直接の提唱者は19世紀イギリスの経済学者ヘンリー・マクロードです。


しかし、天文学者のニコラウス・コペルニクスが1528年に著した「貨幣鋳造の方法」で既に同様の現象に言及していたように、グレシャムの法則はマクロードが提唱する前から経験則としてよく知られていました。

日本でも、金の採掘量の減少などに困った江戸幕府が粗悪な元禄小判を発行した結果、良質な慶長小判が出回らなくなったことがありますが、これもグレシャムの法則の一例だとされています。


金貨や銀貨が貨幣として使われない現代では、グレシャムの法則は時代にそぐわない過去の法則にも思えます。しかし、Farnam Streetによるとグレシャムの法則は現代にもしっかりと息づいているとのこと。

例えば、ある製薬会社に営業担当者が2人いたとします。もし、贈収賄を取り締まる仕組みが機能していないとすると、医師に賄賂を贈って自社製品を売り込む営業担当者は成功しますが、賄賂を贈らない営業担当者は成績不良で解雇されてしまい、最終的に不正を行う営業担当者のみが幅を利かせることになります。これが、グレシャムの法則に従い「悪貨が良貨を駆逐するいい例」であるとのこと。

また、2008年のリーマン・ショックの原因となったサブプライム住宅ローン危機でも同様の現象が発生しました。リーマン・ショックが発生する前のアメリカでは、信用が低い人に高い金利で住宅資金を貸し付けるサブプライムローンが盛んに行われていました。サブプライムローンは非常に高い利益をもたらす仕組みだったので、多くの金融機関がろくに査定も行わないまま我先にと借り手にローンを貸し付けるようになったといわれています。

サブプライムローンの問題点については、以下の記事に詳しく書かれています。

急速な円高や全世界同時株安の原因、「サブプライム問題」とは? - GIGAZINE


サブプライムローンを乱発する金融機関とは異なり、きちんと借り手の返済能力を調べる一部の金融機関はサブプライムローンに消極的だったので、次第に投資家から見向きもされなくなっていきました。住宅バブルがはじける前は、借り手がローンを返済できなくなっても、金融機関が代わりに家を売り払えば利益がでたので、サブプライムローンは非常に好調でしたが、住宅バブルが崩壊すると金融機関は膨大な損失を抱えるようになります。

こうして、アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズが倒産し、事態は世界同時不況や経済危機へと発展していきました。

Farnam Streetは「人間の利己的な行動、つまり悪が他の行動に対して有利なら、自然と悪が善を駆逐してしまうことになります。法律が人間社会に必要とされる最大の理由のひとつがこのグレシャムの法則です」と記しています。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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