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- 一瞬で魔法にかけられた岸田今日子さんとの出会い
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、女優の「岸田今日子」さん。山本さんの家族にとっても特別な存在の岸田さん。今なお山本さんの「宿題」になっている、岸田さんの言葉とは。
好きな先輩「岸田今日子(きしだ・きょうこ)」さん
1930-2006年 女優
東京都生まれ。劇作家・岸田國士を父に、童話作家・岸田衿子を姉に持つ。自由学園高等科卒業後、文学座へ。50年に初舞台を踏み、53年に映画デビュー。以後、女優として幅広く活躍。アニメ「ムーミン」の声優も務めた。
うちなる芽生え、表現の兆しに意識を向ける
母も父もそしてわたしも、女優の岸田今日子を、キシダサンと、ちょっととくべつな気持ちで呼んでいました。
岸田今日子と母とは、自由学園の同級生。学校を卒業したあとも親しく交流し、母は岸田今日子出演の舞台、映画、テレビドラマを静かに鑑賞しつづけていました。
初めてわたしがキシダサンにお会いしたのは10歳のころでした。
「あら、やっと会えたわね」とことばをかけていただいて、ドキリ。それまで見たことのないまなざしと、雰囲気に、一瞬で魔法をかけられてしまいました。
その後『ムーミン』(トーベ・ヤンソン)の日本のアニメシリーズで、主人公・ムーミンの声を担当したり、子どものための舞台「おばけリンゴ」(ヤノーシュの絵本から谷川俊太郎・脚本)を企画したり、うんとたのしませてもらいました。
たのしませてもらったばかりじゃありません。子どもごころに(「おばけリンゴ」のときは成人していました)、文化についてイメージを持つようになっていたのです。
文化はありとあらゆるもののなかに宿るものだけれども、それを文化だと気づくのにも、自分で文化をつくろうとする精神をもつのにも、軸が必要です。軸って何か。まずは、うちなる芽生え、表現の兆しに意識を向けることで、それはできてゆくのではないでしょうか。
ここらあたりの感覚を、わたしはキシダサンから嗅ぎとっていました。
印象とは「生き方の入口」
随筆家、童話作家でもあったキシダサンの作品のなかで、わたしがとくに好きなのは『子供にしてあげたお話してあげなかったお話』(大和書房刊)と『妄想の森』(文藝春秋刊)かな。おすすめしたい本です。
こんな思い出があります。
舞台「隠れる女」(2000年12月/岩松了・作演出/竹中直人の会)を観たあと、浅草でキシダサンとどじょう鍋をつついたのです。
「ふみこちゃんあなた、会うたびに印象が変わるわね」
と云(い)われました。
これは、いまもってわたしの宿題です。褒めていただいたようにも、そうでないようにも受けとめ、印象って何だろうかな、と考えるのです。
印象というのは、ひとにとって案外大事なもので、生き方の入口でもあるように思います。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2020年3月号を再編集し、掲載しています。
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