『のだめカンタービレ』の上野樹里が最後のブレイク俳優?フジテレビ「月9」の栄枯盛衰

2021/3/10 22:00 龍女 龍女

第2章 黄金の90年代後半から2000年代前半まで。

ここからはもう、キムタクの時代である。

月9初の主演となった『ロングバケーション』はおそらくドラマ史上に残る名作の一つである。
名作の基準は、実際全部見たことがない人も見た気がしてしまうほど、シーンが記憶に残っていることだ。
というわけで、正直言って筆者はまともに見ていない。
重要な脇で出演した若い俳優が次々と主役を張るようになっただけでも、十分名作の資格はある。
山口智子の弟役で出た竹野内豊(1971年1月2日生)は1997年7~9月の『ビーチボーイズ』で反町隆史とW主演して、ブレイクする。

ピアニストの瀬名秀明(木村拓哉)をフる音大の後輩ピアニスト・奥沢涼子役の松たか子(1977年6月10日生)。
1997年10~12月『ラブジェネレーション』ではヒロイン役に昇格。
2001年1~3月に放送された。型破りな検事・久利生公平が主人公の

『HERO』では、検察事務官・雨宮舞子役で共演。
筆者が観た限りでは、木村拓哉の相手役として最も相性が良いのは松たか子である。
木村拓哉主演は2004年1~3月の『プライド』を経て、2005年4~6月の『エンジン』で大きな分岐点を迎える。



木村拓哉は実年齢で30代を迎え、私生活では二人の女児の父親になっていた。
新しい側面を見せる必要性があった。
独身の設定だが、たくさんの子役と共演する企画が求められていた。
盛りを過ぎたレーサー神崎次郎がチームをクビになり、実家の児童養護施設に戻って、子供達と交流していくうちに、子供のような大人だった神崎次郎が成長していく物語だ。
当コラムでは、子役としては大きくなりすぎていたが重要な役を演じた二人の女性を紹介しよう。
主人公・神崎次郎の実家、児童養護施設『風の丘ホーム』の最年長の星野美冴を演じた

上野樹里(1986年5月25日生)である。
もう一人は次女的役割の樋田春海役の

戸田恵梨香(1988年8月17日生)だ。
今と顔が違うのでびっくりするが、思春期特有のぽっちゃりだったに過ぎない。
さて、なぜこの二人に焦点を当てたのか?
実はこの両者のブレイクの過程の違いが月9衰退と次の時代のドラマへの分岐点になっているからである。
このドラマが放映されてからわずか1年半後にそれが訪れる。

第3章その後。
話は2000年に戻る。

『やまとなでしこ』の上昇志向の強いヒロイン神野桜子を演じた松嶋菜々子(1973年10月13日生)である。
彼女が大きくブレイクしたのは、朝ドラの『ひまわり』の弁護士になるヒロインからである。
筆者は『とんねるずの皆さんのおかげです』のコントのヒロイン役(1993~94)から、存在は知っていた。

月9のヒロイン役に選ばれるのは朝ドラでの実績が大きかった。
朝ドラで国民的女優とされるが、さらなる飛躍として民放のドラマの主演として多くのヒット作に関わることが求められる風潮があった。

特に顕著な例が1964年10月20日生まれの山口智子(1988年『純ちゃんの応援歌』)と松嶋菜々子だ。
またこの二人は大ヒットしたドラマの前後に私生活でも結婚したのが共通している。
そこまで共通項はないが、石田ひかりが『あすなろ白書』に主演したのは、 朝ドラ『ひらり』に主演した翌年だ。

さてこの人の場合は?


そう、上野樹里だ。朝ドラに関しては『てるてる家族』のオーディションの最終選考までいって、ヒロインの姉役を演じた。
ただし、フジテレビが関わった映画『スウィングガールズ』(2004)の主演に抜擢され、2006年は映画に数本出るなど飛躍の年になった。

『のだめカンタービレ』は、朝ドラの関係よりも、フジテレビが1980年代生まれの男性俳優を集めて作った『ウォーターボーイズ』(2001)と女性版の『スウィングガールズ』の集大成的作品という側面の方が大きかった。
実際、相手役の玉木宏(1980年1月14日生)は、『ウォーターボーイズ』の準主役(主演は妻夫木聡)であった。

さて、筆者はこの『のだめカンタービレ』は月9を終わらせた作品と位置づけている
視聴率という点ではこの作品以降もヒット作は生まれたし、放送枠も未だに存在している。
福山雅治の代表作、ガリレオは2007年の10~12月放送である。

しかし、月9が誕生した当初に存在した20代女性向けのドラマというコンセプトを破壊してしまったという点では譲れないのである。

『のだめカンタービレ』の主人公・野田恵(上野樹里)生活環境が、『ロングバケーション』の瀬名秀明(木村拓哉)と同じピアニストなのに全然違った。
グランドピアノが置かれた部屋がゴミ屋敷状態になっている絵面はかなり強烈だった。
ここで、ドラマの主人公達の生活様式に憧れる月9のコンセプトは一気に崩壊した(登場人物達の着ている服に憧れるような傾向は生き残ったが)。

もう一つの要素は
1980年代生まれの俳優、レベル高すぎる問題。
のだめが放送された翌年2007年に上野と同世代が主演した例は二人。
長澤まさみ(1987年6月3日生『プロポーズ大作戦』)と井上真央(1987年1月9日生『ファーストキス』)である。
上野樹里と同い年の杏(1986年4月14日生)が主演した『デート~恋とはどんなものかしら~』が放送されたのは2015年1~3月である。

フジテレビには30代女性向けドラマ枠である木曜の22時、略して「木10」が存在するがそれとターゲットがかぶってきた。
つまり当初フジテレビが意図していた20代女性が入れ替わるようにドラマを見る視聴習慣はなくなってしまった。
残業が増え、月9にTVの前でドラマを見る余裕のない20代女性も増えてきたかもしれない。
そして、主役級の80年代生まれの俳優を起用するには月9だけでは対応しきれなくなっていた。

さて、月9の現在である。

これは2019年の『監察医朝顔』第一シリーズの7話目の予告映像である。
歴代の月9ヒロインが3人登場している。
『あすなろ白書』の石田ひかりが、主人公の母親。
『ロングバケーション』の山口智子が、主人公の先輩医師。
そして、主役は『のだめカンタービレ』の上野樹里である。

今は20代女性が主な視聴者層ではない。中心となる視聴者は、若くても月9が誕生した80年代後半生まれの女性ではないだろうか?

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写真:タレントデータバンク
上野樹里|1986/5/25生まれ|女性|A型|兵庫県出身)

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