複雑怪奇なSDカードの規格をすっきり整理します。

サイズ(フォームファクタ)

SDカードのサイズは標準サイズ、ミニSD、マイクロSDの3種類が規格化されています。
どのサイズも電気的な互換性があり、配線を延長するだけで相互変換できます。

標準サイズ

いわゆる普通のSDカードです。フルサイズとも呼ばれます。
寸法は24x32x2.1mmです。

miniSD

ミニSDカードは携帯電話向けに小型化された規格です。
2003年に規格化され、NTTドコモの505iシリーズで初めて採用されました。
主に日本の携帯電話で採用が広がりましたが、2007年頃からマイクロSDカードに移行が進み、ミニSDカードは姿を消しました。

寸法は20×21.5×1.4mmです。
端子数は11ピンです。標準サイズの9ピンに加えて、将来的な機能拡張用に予備の2ピンが追加されました。

参考:
サンディスク、32Mバイトの「miniSDカード」を日本で先行販売
対応携帯電話の発売に先行して「miniSDカード」が初登場!
主役はminiSDへ、携帯電話需要を追い風にシェア7割に迫るSD系メモリカード – BCN
microSDがついにSDを逆転、携帯電話が握るメモリカード売れ筋の行方 – BCN
第131回:miniSDカードとは – ケータイWatch

microSD

SDカードはパナソニック、東芝、サンディスクの3社が規格化を主導していますが、マイクロSDカードはすこし変わった経緯で誕生しました。

ミニSDの規格策定から1年後の2004年、サンディスクはさらに小型化した「TransFlash(旧称:T-Flash)」を発表します。
TransFlashは携帯電話メーカーのモトローラの要望を受けてサンディスクが独自開発した規格ですが、SDカードと互換性のあるインターフェースを採用しています。

TransFlashのコンセプトは「セミリムーバブル・メディア」。
SDカードやミニSDのようにカード単体で持ち運べるリムーバブル・メディアという特徴を捨て、携帯電話に常時内蔵するメディアとして小型化が追求されました。
コンセプトの違いは、携帯電話のデザインにも現れています。
ドコモの505iでは本体側面にミニSDカードスロットがあるのに対し、モトローラ A1000ではバッテリーを取り外さないとマイクロSDを取り外せない構造になっています。

サンディスクの独自規格だったTransFlashですが、海外の携帯電話で採用が広がり、2005年にマイクロSDカードとして標準規格化されました。
中華ガジェット系など、ライセンス都合で”SD”の名称を使えない機器がマイクロSDを”TF”と表記するのはTransFlashが由来です。

マイクロSDカードの寸法は11x15x1mmです。
端子数は8ピンです。標準サイズで2ピンあったGND(Vss)が1ピン省略されました。

TransFlashが発表された2004年当時を振り返ると、SDカード陣営は携帯電話向けにミニSDを開発したばかりで、サンディスクの独自開発は好ましくなかったのだと邪推されます。
ただ、ミニSDは2ピンの空き端子が追加されるなど、小型化以外も欲張った日本的な詰め込み仕様でした。
モトローラとサンディスクが余計な機能をばっさり切り捨て、小型化を最優先したことが携帯電話でSDカード陣営が成功したキーポイントでした。

当時の携帯電話向けメモリーカードは、MMC micro(2004年12月)、メモリースティックマイクロ(2005年9月)など小型化がグローバル・トレンドでした。
SDカード陣営(パナソニック、東芝)がミニSDを早々に見切って、日本の携帯電話メーカーへの供給もマイクロSDに切り替えたことは英断だったのではないでしょうか。

参考:
SanDisk, Motorola shrink flash cards
サンディスク、世界最小のメモリカード「T-Flash」
SDカードの業界団体,米SanDiskの「TransFlash」をメモリー・カード仕様「microSD」として承認

容量規格

SDカードは容量によって規格が異なります。

1999年に発表された最初のSD規格では最大2GBでしたが、どんどん大容量化が進みました。
・2006年発表のSDHCは最大32GB
・2009年発表のSDXCは最大2TB
・2018年発表のSDUCは最大128TB

互換性

SDカードの容量規格は基本的に上位互換性があります。
少なくともホストデバイス(デジカメやスマホ、PC、カードリーダー等)側では上位互換性が保たれています。
例えばSDHCに対応したスマホはSDHCカードやSDカードを読み込めますが、SDXCカードは読み込めません。
ただしSDXCカードをSDHCカードとしてフォーマット(32GB以下、FAT32)すれば、SDHC対応スマホでも使えます

SD(SDSC)

規格上の最大容量は2GBですが、4GBまで拡張したカードも存在します。
ファイルシステムはFAT16です。
SDSC(SD Standard Capacity)とも呼ばれます。

SDHC

容量が2GB〜最大32GBの規格です。
ファイルシステムはFAT32です。
SDHCはSD High Capacityの略です。

SDXC

容量が32GB〜最大2TBの規格です。
ファイルシステムはexFATです。
SDXCはSD eXtended Capacityの略です。

SDUC

容量が2TB〜最大128TBの規格です。
ファイルシステムはexFATです。
SDUCはSD Ultra Capacityの略です。

バス速度

SDカードの読書速度に最も影響するのがバスインタフェースです。

UHS-I系

SDカード規格当初からある1列に並んだ9ピンの端子(第1ロウ)で規格化されたバスインタフェースは次の3種類です。
・ノーマルスピード(12.5MB/s)
・ハイスピード(25MB/s)
・UHS-I(104MB/s)

UHS-II系

さらに高速化するために、2列目の端子(第2ロウ)が増設され、次の3種類が規格化されました。
・UHS-II(156MB/s)
・UHS-III(312MB/s)
・SD Express(985MB/s)

UHS-I以降はバスインタフェースごとに専用のロゴマークができたので、見分けやすくなりました。

SDカード規格のバスインタフェースは上位互換が保たれています。
ただし同じUHS-I対応カードだとしても実際のスピードはメーカーやブランドによってまちまちです。
コントローラICやメモリーの性能がボトルネックとなるからです。

スピードクラス

SDカードの性能を判断する指標のひとつがスピードクラスです。
スピードクラスは最低書き込み速度(シーケンシャルライト)の保証値による分類です。
動画撮影など大容量のストリーミングデータを記録する用途で特に重要な指標です。

判定基準

最低書き込み速度によって7種類の判定基準があり、規格は11種類も規定されています。
(なぜこうなった……)
・90MB/s以上:V90
・60MB/s以上:V60
・30MB/s以上:V30、U3
・10MB/s以上:V10、U1、C10
・6MB/s以上:V6、C6
・4MB/s以上:C4
・2MB/s以上:C2

動画圧縮方式にもよりますが、フルHDなら10MB/s以上、4kなら30MB/s以上、8kなら60MB/s以上が安定動作の目安です。

写真を連射する用途でもスピードクラスが参考になります。
最低書き込み速度が早いほど平均書き込み速度も早い傾向にあるからです。
とはいえ、連射時間はカメラ本体のバッファーメモリーも大きく影響します。

UHS系、ビデオ系

スピードクラスは最低書き込み速度以外にも、細かい条件があり、スピードクラス(C2,C4,C6,C10)、UHSスピードクラス(U1,U3)、ビデオスピードクラス(V6,V10,V30,V60,V90)という3つの分類が分かれています。

例えばUHSスピードクラスのU3とビデオスピードクラスのV30は、どちらも30MB/s以上の書き込み速度が保証されていますが、測定条件が微妙に異なります。
どこがどう違うのかは公開されていません。

性能の目安に過ぎないので規格を分ける意味はないと思いますが、
スピードクラス、UHSスピードクラス、ビデオスピードクラスの3種類が混在しており、最近のSDカードはパッケージが色々なロゴだらけになっています。

アプリケーションパフォーマンスクラス

スピードクラスはシーケンシャル・ライトだけが条件でしたが、ランダムのリード/ライト性能も測定条件に加わった性能指標が「アプリケーションパフォーマンスクラス」です。

現在は2種類のクラスが規格化されています。

  • クラス1(A1):ランダムリード最低1500IOPS、ランダムライト最低500IOPS、シーケンシャルライト最低10MB/s
  • クラス2(A2):ランダムリード最低4000IOPS、ランダムライト最低2000IOPS、シーケンシャルライト最低10MB/s

アプリケーションパフォーマンスクラスは、スマートフォンでアプリのデータをSDカードに保存する用途を主に想定した規格です。

ランダムアクセスとシーケンシャルアクセスの両方の性能が保証されているので、スマートフォン以外でも役立つ実用的な指標に思えますが、色々と大人の事情があるようです。
アプリケーションパフォーマンスクラスに対応したSDカードはマイクロSDカードしか発売されていません。
いずれにせよ、規格で決められた方法で測定した性能の目安に過ぎないので過信は禁物です。

A2規格

アプリケーションパフォーマンスクラス2(A2)だけは性能指標だけでなく、ハードウェアにも違いがあります。
A2規格対応のSDカードでは、コマンドキューイング(Command Queue)、キャッシュ(Cache)、メンテナンス(Self Maintenance)といった機能が追加されています。
アプリケーションパフォーマンスクラスはSDカードのレジスタで識別でき、A2規格対応のホストデバイスとの組み合わせた場合にパフォーマンスが向上します。

じつは「A2規格対応のホストデバイス」というのが落とし穴です。
最新のスマートフォンはA2対応しているのかもしれませんが、ほとんどの機器はA2非対応です。
ラズバリーパイでベンチマークしたところ、A2とA1で差がなかったというブログ記事も話題になりました。

参考:
microSDカードの「A2規格対応」にパフォーマンス向上の意味はないとエンジニアが主張 – GIGAZINE
Raspberry Pi microSD follow-up, SD Association fools me twice?

まとめ

小型大容量化という時代の要求にあわせてSDカードの規格はタイムリーに進化してきました。
その反面、規格やスピードクラスが増えすぎてしまい、どのSDカードを選べばよいのか、分かりづらくなっています。
選び方のコツはスピードクラスや読み書き速度を無視することです。
必要な容量とバスインタフェースだけ決めたら、最上位ブランドの並行輸入品を選んでおけば間違いありません。
SDカードは最上位ブランドの並行輸入品を選ぶべき3つの理由