大友克洋がアニメ制作に関わったきっかけ、そして『AKIRA』の革新性とは――初開催の新潟国際アニメーション映画祭にトップクリエイターが続々登場

りんたろう監督の最新作も初披露された

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新潟に国内外から長編アニメーションが集まる「新潟国際アニメーション映画祭」が3月17日から22日の日程で開催。日本の長編アニメーションが持つ斬新さを世界に見せつけた『AKIRA』(1988年)を監督した大友克洋の特集上映が行われ、本人も登壇してアニメが持つ面白さを紹介した。他にも劇場版『銀河鉄道999』の監督で、最新作となる「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」(2023年)を作り上げたりんたろう、漫画家として『ファイブスター物語』を描き続ける一方で、映画『花の詩女 ゴティックメード』(2012年)を監督した永野護らも登場して、新潟に集まったアニメファンの声援に応えた。

「『幻魔大戦』をやった後、りんさん(りんたろう監督)と丸山さん(丸山正雄プロデューサー)から1本やってみないと言われました」。大友克洋が監督やキャラクターデザインなどで携わった作品を上映する「大友克洋レトロスペクティブ」の関連イベントとして、3月21日に新潟シネ・ウインドで開かれたトークに登壇した大友克洋。漫画家として『童夢』や『AKIRA』が大人気となっていたにも関わらず、アニメーションに関わるようになったきっかけを振り返った。

大友克洋

この時に監督した作品が、『迷宮物語』(1987年)というオムニバス映画のうちの1本となる『工事中止命令』。この作品で監督としてだけでなく自ら原画も描いて、アニメ作りにどっぷりとはまっていく。「スープの中にスプーンを入れて持ち上げるとボルトが出てくるシーンですね。テレビアニメの描き方が分からなくて、とりあえず全部1コマで描いて、なかむらたかしさんにこれではダメだと省略の仕方とか動かし方、タイミングを教えてもらいました」

この後に監督として手掛けたのが、自身の漫画を原作にした『AKIRA』だ。事前に収録した音声に合わせ、アニメキャラクターの口を動かすリップシンクを取り入れたり、後のアニメ業界でトップアニメーターとなっていく井上俊之や沖浦啓之といった若手を大勢起用したりして、従来にない革新性を持った映像作品を作り上げた。

アニメ・特撮研究家の氷川竜介(左)と映画祭プログラム・ディレクターの数土直志。

「大友克洋レトロスペクティブ」で『AKIRA』が上映された3月18日に、トークゲストとして登壇したアニメ・特撮研究家の氷川竜介は、新著『日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析』(KADOKAWA)の中で取り上げた『AKIRA』の革新性として、「緻密と正確」があったことを挙げた。「服はしわを描き材質も分かるように描く。人のポーズも解剖学的な正確さを反映させる。根拠があるリアリズムを突き詰めている」。すでに漫画で実践していた表現をアニメに持ち込み、動かしてみせたところに目新しさがあった。

当時の日本のアニメ業界は主にアメリカとの合作が活発で、ベテランのアニメーターがそちらに関わっていたため空洞化が起こっていたことも解説。そういう状況でありながら、ビデオオリジナルのアニメ企画が続々と登場し、若いアニメーターがどんどんと現場に入ってきており、そうした人材を抜擢して『AKIRA』に投入。「そこで大友さんの作品作りに触れて、次の現場でも発揮するようになっていった」ことが、押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)のようにリアルな描写を持った作品を生み出し、日本のアニメーションが世界に広がっていく道を拓いた。

北久保弘之(左)と大友克洋

21日のトークで大友克洋とともに登壇した北久保弘之もそのひとり。オリジナルビデオ作品やミュージックビデオを経て『AKIRA』に参加した後、大友克洋原作・脚本の『老人Z』(1991年)を監督した。「『AKIRA』で原画をやっていたとき、2人で飲んでいて大友さんが『北久保、これ終わったら売れるアニメをやろうぜ』と言ったんです」。売れるとなるとロボットアニメだが、新機軸が必要となって「乗り込む主役が寝たきり老人というのはどうだと言われたました」と発端を振り返った。

「売れるアニメとなったら可愛いお姉ちゃんとかいないとダメですよ。介護する子を可愛い女の子にしましょう」となり、「大友さんだとあまり可愛くならないから江口寿史さんとかどうですかと言って」キャラクターデザインを江口寿史に依頼したとのこと。軽いやりとりで始まったが、30年が経って老人医療の問題が大きく取り沙汰される状況となった今、強い先見性を持った作品となった。『AKIRA』で東京オリンピックの“中止”を予言したのと同様、大友克洋のクリエイターとしての直感力が感じられたトークだった。

シネ・ウインドに飾られた大友克洋監督と北久保弘之監督の色紙。

その大友克洋が、日本映画の初期に活躍した映画監督の山中貞雄をキャラクターとしてデザインしたアニメーションが、りんたろう監督によって作られ新潟国際アニメーション映画祭でお披露目された。山中貞雄が残した脚本を基にした「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」で、3月18日の上映後に登壇したりんたろう監督は、制作した動機を、「日本のアニメーションのすべてが作り方も含めて変わった中で、そういう流れを自分なりにやるとしたら、日本の映画の大元に戻ろうということになって、山中貞雄だということになった」と説明した。

 
「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」 (C)山中貞雄 「鼠小僧次郎吉」製作委員会
りんたろう

サイレント映画時代の脚本だったため、アニメもキャラクターがセリフを喋るものではなく、活弁と呼ばれる一種のナレーションのようなものが展開に被さる形で進んでいく。担当したのは声優の小山茉美。りんたろう監督とともに登壇して、「芝居とは違うので無理ですというお話しをしたら、弁士をそのままやるんだったら小山茉美には頼まない。どうすれば良いか考えてと言われました」と話し、自分なりに映画に合う演技を探っていったことを話した。

この舞台挨拶には、サプライズゲストとして大友克洋も登壇した。りんたろう監督が「知っている限り、一番のシネフィルの人にキャラクターと頼みたい」と声をかけ、思惑どおりに「山中貞雄でりんたろうさんだからやるしかない」と、日本映画への愛情とアニメ界の先輩への敬意から引き受けたことを明かした。

左から「山中貞雄に捧げる漫画映画『鼠小僧次郎吉』」のキャラクターをデザインした大友克洋、りんたろう監督、弁士役を務めた小山茉美、プロデューサーの丸山正雄。

こうした人は珍しく、日本国内では制作への反応が鈍かった一方で、フランスでは現存する山中貞雄監督作品とともに上映が決まるくらい好反応だった。プロデューサーの丸山正雄は、「日本だとアニメーションで山中貞雄を作ると言っても誰も反応を示さない。フランスだとりんたろうとか大友克洋といったインパクトももちろんあるが、山中貞雄と聞いて参加してくれた。悔しいと思いませんか?」と言って、日本国内でも古い日本映画への関心を持ってもらいたいと訴えていた。

新潟国際アニメーション映画祭には、大友克洋のように漫画も描けばアニメーションも作るクリエイターがもうひとり登場した。『花の詩女 ゴティックメード』(2012年)の永野護監督で、映画に登場するベリンという女性を演じた声優の川村万梨阿とともに登壇。ひとりで描く漫画とは違うアニメーションの良さとして、「キャラクターの表情や動きが関わった人の数だけ豊かになる」ことを挙げた。

『花の詩女 ゴティックメード』の上映に登壇した川村万梨阿(左)と永野護。

この映画の公開当時、永野が描く漫画『ファイブスター物語』との関係性がエンディングで明らかにされ、観た人を騒然とさせた。出演者だった川村万梨阿ですら「試写会で見てひっくり返った」ほど、秘密にされていたという。この頃、『ファイブスター物語』ではモーターヘッドと名づけられていたロボット群がゴティックメードと名を変えられ、デザインも一新されて話題となった。永野は、「モーターヘッドが好きな人にはごめんなさい。でも、ロボット漫画はロボットありきで描いていて、その作者がもの凄い疑問とストレスを抱えながら描いたら、作品そのものがダメになってしまいます」と説明。クリエイターの思いを存分に発揮したところに面白さがあることへの理解を求めた。

大友克洋、北久保弘之、りんたろう、永野護といったトップクリエイターと間近に接して、話を聞き作品に触れられる機会はとても貴重。大友克洋は刊行中の「大友克洋全集」を宣伝するため、ステッカーを持参し会場でファンに手渡ししたほどだった。1回目の開催ということで様子を見ていた人も、こうした場が多くあることを知れば来年以降、新潟国際アニメーション映画祭に参加したいと思ったはずだ。

ファンに「大友克洋全集」のステッカーを手渡しする大友克洋。

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