『シン・エヴァンゲリオン劇場版』冒頭映像0706版を徹底分析!エヴァはどう完結へ向かうのか?

7月6日公開された約10分の冒頭映像からできる限りの情報を拾って解析

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』冒頭映像0706版を徹底分析!エヴァはどう完結へ向かうのか?
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7月6日、アニメ映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の冒頭10分40秒の映像を上映するイベント「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』0706作戦」が世界各地で行われた。2020年公開予定の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は2007年の新劇場版『序』の公開から数えて14年目の完結作とうたわれており、現在も鋭意制作中の作品の冒頭部分の公開にファンは沸き立った。今回の記事ではレビューや評価というよりは、約10分の映像から順を追ってできる限りの情報を拾い、解析していきたい。固有名詞や設定は公式未発表のものが大多数なので、正式版と異なる可能性も大きいことをお断りしておく。映像については期間限定で公開されている「LINE LIVE」のイベント映像などを参照していただければありがたい。

まずは東宝に続いて東映、カラーのロゴ。今回『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の配給は東宝、東映、カラーの3社となった(『序』と『破』はクロックワークスとカラーの、『Q』はティ・ジョイとカラーの共同配給)。国内映画配給の大手2社が手を組み、東宝と東映のロゴが並ぶのは、観客には直接関係ない興行上の話題だが、やはりサプライズだ。『序』の頃は配給・宣伝も小規模だったが、作品を重ねるごとに映画興行としての存在感を示し、東宝や東映と手を組むコンテンツにまでステージを上げてきたことがわかる(「製作」は本作もカラーのみ)。

冒頭はマリの歌から。『破』では「三百六十五歩のマーチ」、『Q』では「ひとりじゃないの」が同様に冒頭で使われ、昭和歌謡を口ずさむマリからつかみのアクションという流れは3作連続でおなじみとなった。今回の選曲は水前寺清子の「真実一路のマーチ」と佐良直美の「世界は二人のために」の2曲。前者は危機にもポジティブに立ち向かうマリの気分を示すものとして、後者は結婚式でも歌われる美しい曲だが、曲名も歌詞も深読みすると途端に不穏さが漂う。主人公の運命が世界の運命に深く関わる物語を指す「セカイ系」のはしりと言われる『エヴァ』だけに「二人のために世界はあるの」という歌詞は何を暗示するのだろうか?

映像を見ていくと、東京タワーのように赤く染まったエッフェル塔から、赤いパリ市街、赤い凱旋門へと移り、凱旋門のかたわらに巨大な黒い円柱が突き刺さっている。柱を上空から囲みながら、中央にマリの乗る「エヴァンゲリオン8号機β 臨時戦闘形態」(2018年の特報からの名称)、その周囲に8隻の戦艦(『Q』と同様のものならアイオワ級戦艦)が花を開くように展開。戦艦の船底に4枚ずつ装備されている盾状のものは『序』のヤシマ作戦で零号機が使用した「ESVシールド」に近い形で、真横から見るとシールド部分が波のように見えるのも面白い。

 
冒頭映像が公開された会場の様子

黒い円柱の頂上にエヴァ8号機βが下ろした「DSRV」はDeep Submergence Rescue Vehicleの略で、本来は潜水艦の乗員を救助する「深海救難艇」のこと。テレビシリーズや新劇場版、『シン・ゴジラ』でも実在する重機やメカが魅力的な脇役として登場していたが、本作でもそれは踏襲されている。DSRVから柱の頭頂部に降り立ったのはグリーンのプラグスーツ(と同じものかは不明)に身を包んだリツコ。ヘルメットも装着しており大気成分も通常とは異なるらしい。

720秒という作戦時間もアナウンスされて、『エヴァ』には欠かせないタイムサスペンスへとなだれ込んでいく

リツコが言う「L結界密度」は『Q』にも登場した用語で「L結界」の詳細は不明だが人類(リリン)を拒む赤い大地の特異性を示すもののようだ。それを無効化するものとして「アンチLシステム」という用語も登場する。リツコからはこのミッションが「ユーロネルフ第一号封印柱復元オペ」であると語られ、720秒という作戦時間もアナウンスされて、ここから『エヴァ』には欠かせないタイムサスペンスへとなだれ込んでいく。ヴィレの整備長を務めるマヤと『Q』から登場したオペレーターの北上ミドリ、ほか3人の若手男性オペレーターが堅牢で知られるTOUGHBOOKに似たパソコンを広げ、小気味よくキーを叩いて復元オペを進めていく。作戦のメインがエヴァパイロットではなくオペレーターたちであり、直接の敵は制限時間という状況は新劇場版には盛り込まれなかったテレビシリーズ第拾参話「使徒、侵入」にもあったシチュエーションだ。

あえて特撮らしいユニークな見せ方

注目したいのは空中にいる8号機βやヴィレの艦隊が自力で浮いているのではなく、糸状のもので吊られている点。ここでは明確には描写されていないが、さらに高空を飛ぶヴィレの母艦「AAA ヴンダー」(本作版の正式名称は不明)から吊り下げられて、バンジージャンプのロープが伸びた状態、またはマリオネットのように空中展開されていることがうかがえる(『Q』でも同様の描写はあった)。このあとマリが「長良(ながら)っち、操演よろぴく」と言うように、もともと特撮には、テグスやピアノ線で飛行機のミニチュアなどを吊って飛行しているように見せる技術「操演」があり、完成映像で糸は見えてはいけないものだが、デジタル修正もない時代の特撮映像では時々それが見えてしまう、というのが「特撮あるある」だ。ここではそれを逆手にとって、飛行シーンで糸をわざわざ描く必要がないアニメに操演的なギミックを追加し、あえて特撮らしいユニークな見せ方をしている。「長良っち」は映像では姿を見せていないが、上空のヴンダーにいるオペレーター「長良スミレ」だろう。

ヴィレの復元オペを阻止すべく「エヴァ44A(フォーツーエー)航空特化タイプ」の大編隊が単縦陣を組んで飛来。第4の使徒を背中合わせにしたような頭部からはロンギヌスの槍状のものが突き出し、ボディはクワッドローター(4枚翼ドローン)のような、キメラ的な異形となっている。『Q』でも「EVANGELION Mark.04」として「コード4A」「コード4B」「コード4C」という敵が登場したが、4という数字は同系統を示すのかもしれない。

復元オペ完了までの時間稼ぎのため、マリの8号機βが迎撃に向かう。慣らし運転中にマリが言う「ヨー、ロール、ピッチ」は航空機などの回転を3つの軸に分けて示したもので、ヨーは上下方向が軸の左右回転、ロールは前後方向が軸の時計&反時計回転、ピッチは左右方向が軸の前転&後転回転のこと。吊り下げられた8号機βの操縦は二足歩行の状態とはかなり異なるようで、操縦席にも左右のレバーに加えてハンドル状のコントローラーが出現し(ホログラムのように現れるが握れる模様)、マリはさながら大型トラックの運転手のような手つきで8号機βを操り、両腕に装備された機関砲で44AのA.T.フィールドを貫き撃墜していく。

順調に迎撃していく8号機βだが機関砲の砲身がもたず、敵の第4波に囲まれてしまう。マリが英語でつぶやく”Many a small bird drive away a hawk.”は「多くの小鳥は鷹を追いやる」という意味で、その前に日本語でつぶやいた「多勢に無勢」とほぼ同じだが、マリはまだ余裕の表情。一方で封印柱での復元オペは制限時間が半分を切り、時間が足りないと弱音を吐く若い男性オペレーターたちをマヤが叱咤する。『Q』にも似たシーンがあり、マヤは2作連続で「若い男」に苛立つ面が強調されている。上空では8号機βが空中ブランコのように飛び回りながら長いアームと蹴りを使った肉弾戦へと移行。最終的にはエヴァ44Aをまとめて蹴り飛ばして一蹴する。ここでもマリが「使徒もどき」と言い放つように、敵が使徒ではないことがあらためてわかる。

撃退したエヴァ44Aの群れは囮にすぎないことに気づくマリ。“Camouflage Cocoon Materializing”(カモフラージュコクーン実体化中)と表示された直後、巨大な見えない壁を破るようにして本命の地上部隊が突如出現。出現した地上部隊はオペレーターのミドリ曰く「ボスキャラ」で、さらにリツコ曰く「エヴァの軍事転用を禁じたバチカン条約違反の代物」。4機のエヴァ(?)が騎馬戦か神輿のように組み合わさった「陽電子砲装備の陸戦用4444C(フォーフォーシー)」を中心に、そのお付きとして胴体と足のみのエヴァ(?)を並べた「電力供給特化型44B(フォーツービー)」が左右にズラリと出現。イメージソースは『風の谷のナウシカ』の巨神兵よりは『新造人間キャシャーン』のアンドロ軍団が近いだろうか。4444Cは4機のエヴァ、44B(と先ほどの44A)は2機のエヴァを組み合わせた形なので「4」の数は構成するエヴァの数を示すようだ。

以前ようなネルフ対使徒の構図ではなく、『Q』からヴィレ対ネルフの戦いが続いている

さらに続くリツコの「冬月副司令に試されているわね」というセリフから、以前ようなネルフ対使徒の構図ではなく、『Q』からヴィレ対ネルフの戦いが続いていることがわかる。冬月と言えば、今回の冒頭は『ふしぎの海のナディア』のクライマックス、パリ上空決戦のセルフオマージュという文脈はよく語られるが、『ナディア』で敵首領ガーゴイルの声を演じていたのは冬月役の清川元夢。さらに冒頭では登場しなかったが、『Q』と同様ヴンダーに「高雄コウジ」が乗っていれば、声は大塚明夫(『ふしぎの海のナディア』のネモ船長)であり、ビジュアル以外にも様々な部分でパリ上空決戦の再演が行われているのがわかる。このあと真っ二つに破壊されるエッフェル塔は『ナディア』でも折れこそしなかったが大破したので、やはり作り手にとっては壊しがいのある建造物らしい。

居並ぶ44Bはエネルギーチャージを開始。4444Cから放たれる陽電子砲に耐えるべく、リツコはシールドを装備した8隻の戦艦を「米」の字のようにして束ねた「地対地防御シフト」を敷き、『序』のヤシマ作戦を敵味方逆転させた攻防戦となる。ほどなく4444Cの陽電子砲が放たれ、吹き飛ばされた戦艦が直撃して、エッフェル塔は第一展望台と第二展望台の真ん中あたりから真っ二つに。シールドもあと一枚になってしまうが、間一髪で8号機βが割って入り、復元作業を急ぐマヤたちへの直撃は辛くも避ける。

第1射は防いだものの、予想以上の速さで第2射の充電と発射体制に移行する4444C。第2射を防ぐ手段はもはやなく「激ヤバ」な状況だが、折れたエッフェル塔の上半分を抱えた8号機βが突貫。マリの要請を受けたヴンダーの長良は陽動として地上に落下した戦艦の一隻を引き上げ4444Cに向けて投擲。その一瞬の隙を逃さず突っ込んだ8号機βはあとわずかのところで4444Cの触手に絡め取られるが、ブースターで再加速し、4444CのA.T.フィールドを貫いてエッフェル塔の先端を陽電子砲にねじり込むことに成功する。フランス語の”Excusez-moi, Eiffel!”(「ごめんね、エッフェル塔!」)というセリフとともに、4444Cと44Bの集団は爆発し完全に沈黙。一連の元ネタはやはり『宇宙戦艦ヤマト』でガミラスが波動砲封じとして使った「ドリルミサイル」だろう。ここでも敵味方を逆転させるアレンジが効いている。

残り時間の「11.03」秒は11月3日の公開を指すのではと予測する人もいるが、逆に読めば「3.11」

マリと8号機βの身を呈した活躍で復元オペは成功。凱旋門を中心に半径数キロに渡ってパリ旧市街地区が元の鮮やかな姿を取り戻し、凍結されていたユーロネルフのシステムが再起動することで武装要塞都市が出現していく。残り時間の「11.03」秒は11月3日の公開を指すのではと予測する人もいるが、逆に読めば「3.11」は『Q』の展開にも影響を与えたとされる東日本大震災の日付でもあり、どういう思惑があっての数字なのかは考察しがいのある部分だ。 

大気が通常に戻ったことを示すように、ヘルメットのバイザーを上げたリツコが「かちこみ」の完了をミサトに報告。上空からヴンダーが降下し、ユーロネルフが残したエヴァの予備パーツや武器弾薬の補給に取り掛かる。気づいた人も多いが、パリの兵装ビルのひとつには「JA-02 MAIN BODY & UPPER LIMBS COMPONENTS」との表記がある。テレビシリーズで登場した「ジェットアローン」の2号機的なものが本作で登場するのか、このシーンだけのサービスかはわからないが、想像を刺激してくれるサプライズだ。 

マリによればユーロネルフから回収されたパーツで「ニコイチ型2号機の新造とオーバーラッピング対応型8号機への改造」が可能となるらしく『Q』の予告で暴れまわっていた「8+2号機」が本作で登場する公算も高そうだ。「どこにいても必ず迎えに行くから待ってなよ、ワンコ君」というマリのセリフでひとまず幕となる。『Q』のラストでアスカ、レイともに赤い大地に置き去りになったシンジはどうなるのか、ヴィレとネルフの戦いに決着がつくのか、予告で触れられた「ファイナルインパクト」は描かれるのか、ひとまずは2020年の公開を待つとしたい。

かなりストレートな『Q』の続編だったのは逆に意外かもしれない。

全体を通して見ると、2012年に日本テレビ系の「金曜ロードSHOW!」で『破』のあと『Q』の冒頭約6分が放送された時と同様、幕開けのアクションシーンがいち早く公開された形だ。大きなストーリー上の進展はないので、このあとを想像するヒントも少ないが、パリという実在の場所を舞台が描かれた点は興味深い。とくに新劇場版では第3新東京市の外側の世界がどうなっているかは(北極や月などの例外を除いて)テレビシリーズ以上に注意深く伏せられていただけに、パリ以外の場所も登場するのかは気になる。また世界の状況や時間も『Q』のラストからさほど変化していないようで、かなりストレートな『Q』の続編だったのは逆に意外かもしれない。

 

長年待っていたファンと作り手の両方が納得できる幕引きとはどんなものか?

『破』から『Q』にかけて大きく変化したことを踏まえると、シリーズと長年付き合いよく訓練されたファンにとっては『シン・エヴァンゲリオン劇場版』がまったく違う世界観だったり、あるいは突然実写パートから始まってもおかしくない、というぐらい幅のある妄想はしていたわけで、そうした変化球に比べるときっちり物語を畳みにかかっている印象を受ける。もしそうならすでに世界が崩壊した後の物語をどこまで畳めるのか。世界は冒頭のパリのように「復元」できるものなのか。テレビシリーズと旧劇場版では外側の世界は維持されず、シンジの内面の救済という方向に流れたわけだが、今回の新劇場版がもう「サブカルチャー」という呼ばれ方には収まらない、幅広い年齢層や全世界から注目されている状況を考えると、旧劇場版のようにグロテスクかつ露悪的な、ひりつく青臭い展開はやはり難しいのではないか。そもそも同じ結末を目指すなら、わざわざ新劇場版をやってきた意味もなくなってしまうだろう。

だとすれば長年待っていたファンと作り手の両方が納得できる幕引きとはどんなものか? 個人的に気にかかっているのは「使徒」や「父親」や「他者」といったシンジを取り巻く不安が以前ほど強烈なプレッシャーを放っていないように見えることだ。周囲の女性たちも冷たい面を見せはするが「死んでも嫌」、「気持ち悪い」という拒絶ではない。時代の移り変わりや作り手の気持ちの変化もあるかもしれない。そうした状況で何が「敵」や「危機」となって現れ、少年がそれをどう乗り越えれば終われるのか。そこが盛り込まれなければ、映像的には派手なアクションになるかもしれないが、流れでなんとなく出てきた障害を排除してとりあえずの結論で時間切れ、となるかもしれないわけで(それはそれで名作になるかもしれないが)、物語がどう畳まれるかへの興味は尽きない。庵野秀明総監督は『序』のスタートにあたり所信表明文のなかで、

「エヴァ」はくり返しの物語です。

主人公が何度も同じ目に遭いながら、ひたすら立ち上がっていく話です。

僅かでも前に進もうとする、意思の話です。

曖昧な孤独に耐え他者に触れるのが怖くても一緒にいたいと思う、覚悟の話です。

とつづった。テレビシリーズの頃から庵野秀明総監督=シンジという見方がされ、作り手もそれを否定することはなかったが、『Q』のラストから続くシンジと、(前ほど孤独でないように見える)いまの庵野秀明総監督に共通する心情があるとすれば「自分で始めたことにケリをつける」ではないか。拍子抜けするほどありきたりな結論だが、どんな物語になってもそこは実現してほしいし、それを目指して作られていることを、いち観客としても信じていまは待ちたい。

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