タクティクスオウガ リボーン - レビュー

「リボーン」の名にふさわしい「タクティクスオウガ」のほぼ理想的なリメイク版

『タクティクスオウガ リボーン』レビュー 「リボーン」の名にふさわしい「タクティクスオウガ」のほぼ理想的なリメイク版
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『タクティクスオウガ リボーン』(以下、「リボーン」)は『タクティクスオウガ』の2回目のリメイク版だ。「リボーン」は1回目のリメイクとなるPSP版『タクティクスオウガ 運命の輪』をベースにしている。「リボーン」では新規収録ボイスが追加され、バトルデザインをリメイク、オーケストラ音源を追加するなどしてパワーアップした。

「リボーン」では新規収録ボイスによって、ストーリーは群像劇としての魅力が大きく増した。民族紛争や人間愛を描く普遍的なテーマのストーリーは、2022年の今でもまったく色あせていない。

「リボーン」はリマスターのように見えるかもしれないが、プレイフィールはPSP版から想像以上に変わっている。バトルシステム面ではレベリングのシステムなどが改善された。バトルバランスの調整や新たなバフカードのシステムで、旧作のように弓が最強というわけではなくなっている。

筆者はクリアまでの約50時間ほど、バトルに飽きずに熱中して「リボーン」をプレイできた。「リボーン」はフルリメイクではないが、この形式としてはほぼ理想的なリメイク版になったと言える。

旧作と同様、バトルもイベントシーンも疑似3Dマップ上でドット絵キャラクターが動く画面になっている。<br />
旧作と同様、バトルもイベントシーンも疑似3Dマップ上でドット絵キャラクターが動く画面になっている。

残念なところとして、「リボーン」ではグラフィックは高解像度化されるだけにとどまっている。グラフィックはドット絵の魅力がやや削られているため、視覚面では最高品質とは言えない。グラフィックにはすぐに慣れたのだが、ゲーム開始時には気になってしまった。

今回は発売前に「リボーン」をプレイする機会を得て、レビューをおこなっている。このレビューはいわゆる「Lルート」をクリアした時点での評価としている。物語のタイムラインをさかのぼる「W.O.R.L.D.」機能(クリア後に使用可能)や、エンドコンテンツにはまだ触れていない。レビューではストーリーの核心に迫るネタバレは避けているが、今までオリジナル版(SFC/PS1/セガサターンなど)やPSP版をプレイしたことがない人はネタバレに気をつけてほしい。

「選択」の衝撃はやや薄れたかもしれない

本作で舞台となるのはヴァレリア島と呼ばれる小さな島である。この島では人口の7割を占めるガルガスタン人、少数民族のウォルスタ人、支配者階級のバクラム人の三民族が争っている。主人公のデニムはウォルスタ人で、少数民族側から反乱をおこしていく。その過程で、さまざまな人間ドラマが描かれていくのだ。民族紛争や人間愛がテーマの作品であるため、オリジナル版は1995年のゲームだがテーマ自体は普遍的なものである。

オリジナル版『タクティクスオウガ』が今まで語り継がれてきた理由は、その衝撃的なストーリー展開にあるだろう。ゲームはマルチエンディングを採用しており、プレイヤーの選択によってストーリーが分岐する。とくに語り継がれているのは1章ラストでの選択肢だ。

 

ネタバレになるため詳細な内容は避けるが、プレイヤーの選択を問うようなストーリー展開は当時としては衝撃的だったはずだ。筆者が初めてオリジナル版(PS1移植版)をプレイしたのは2004年ごろだが、それでもかなりの驚きだった。

2022年の今になって「リボーン」で1章ラスト以降の展開を見たとき、正直に言って昔よりも選択の衝撃は薄れているように感じた。プレイヤーの選択を問い、それを咎めてくるようなストーリー展開をしてくる作品は、今では海外ゲームを中心に珍しくはない。「選択」の衝撃はかつてほどではなくなったかもしれない。

フィールドマップ。本作の話の規模は、島を舞台にした民族紛争までにとどまっている。よくあるJRPGのように、世界全体を救うわけではない。<br />
フィールドマップ。本作の話の規模は、島を舞台にした民族紛争までにとどまっている。よくあるJRPGのように、世界全体を救うわけではない。

ボイスの追加で群像劇としての魅力が増した

「リボーン」をプレイする前、筆者は衝撃的な選択や、ファンタジーながらも歴史の教科書のようなリアルな民族紛争を描く部分こそがストーリーのいちばんの魅力だと思っていたところがある。実際、「リボーン」をプレイしてみると考えが変わってきた。「リボーン」では新規収録ボイスによって、イベントシーンがフルボイスになっている。これによってストーリーの印象が変わった。

フルボイスになった本作冒頭のイベントシーンを、動画の21:30あたりから確認できる。

個々のキャラクターにボイスが付いたことで、個人の思想が前面に出て、キャラクターが印象に残りやすくなっている。ストーリーは群像劇としての魅力がボイスによって増しているのだ。主人公のデニムはプレイヤーの分身として選択を重ねていくなかで、ウォルスタ人のリーダーとして成長していく。デニムを中心にキャラクターの成長や感情、存在感までボイスで描写できるようになったのは今回の声優陣の演技力のおかげだろう。

 

キャラクターの魅力で考えると、デニムの幼なじみでありながらも異なる思想のヴァイス、圧倒的に強い存在であるとボイスで感じられるようになったランスロット・タルタロス、自らの立場に思い悩むラヴィニスなど、挙げていくときりがない。

ストーリー全体としては、最終的に民族紛争の解決を目指すものとなる。デニムはLルートではさまざまな失敗をしながら乗り越えていくが、苦悩するのはデニムだけではない。多くの登場人物が思い悩みながら成長し、民族紛争の問題を乗り越えていくわけだ。現実にも紛争や人種差別がいまだにあるなか、ゲームのなかの彼らから学べることもあるだろう。「人間」そのものを描いている点こそが「タクティクスオウガ」のストーリーのいちばんの魅力だったと、「リボーン」のボイス追加と年月によってついに気づかされた感覚だ。

ボイスの追加でチョイ役な敵キャラの魅力も増した。騎士ディダーロは「リボーン」で特別にキャライラストが追加されている。<br />
ボイスの追加でチョイ役な敵キャラの魅力も増した。騎士ディダーロは「リボーン」で特別にキャライラストが追加されている。

最初はドット絵に違和感があったが、すぐ慣れる

グラフィックについては、高解像度化をするだけなのが残念だった。最初の家のシーンのグラフィックをゲームで見たとき、「これから数十時間もこのグラフィックでプレイするのか」と思ってしまった。

リマスター版のゲームでは、ドット絵グラフィックの輪郭線をあいまいにするようなグラフィックフィルターが入ることがある。「リボーン」も似たような感じであると思っていた。

 

ファミ通.comのインタビューによると、「リボーン」ではのっぺりした絵にならないように、もとのドット絵と比較をしながらドット感が失われないように高解像度化をしているとのことだ。そのおかげなのか、筆者は数時間のゲームプレイでグラフィックには慣れていた。単にソフトで高解像度化してフィルターをかけたような、単純な移植ではないようだ。

しかしながら、最初は違和感があったのは事実。グラフィックはそこまで悪くはないが、最高品質とは言えないだろう。ドット絵は実質的に作り直していると思われるので、ほかのリマスター作品のようにフィルターをオフにするといったことはできない。できればもっとドットの輪郭を視認できるような、昔っぽいグラフィックパターンも作っておいてほしかったところだ。

グラフィックが高解像度化にとどまっている件は、サウンド面にも影響している。本作はバトルもイベントも、見下ろしドット絵の画面で展開する。キャラクターが喋っているにもかかわらず、画面の動きは少ない。ボイスのテンポは画面演出や尺の都合があるアニメとは違い、かなりスローだ。画面の動きが少ないのもあいまって、ボイスは朗読劇の音声ファイルを流しているかのようだった。

とはいえ、ボイスのテンポはもともと声がない昔のゲームのリメイクやリマスターではありがちな問題ではある。ボイスをすべて聞くと時間がかかってしまうので、筆者はお気に入りのシーンでだけボイスを聞いていた。

サウンド面で考えると、オーケストラ音源で再録されたBGM自体も文句なしの歴代最高クオリティだった。しかしながら、序盤で流れる戦闘曲は画面に対して豪華すぎるのではないかと感じてしまった。決してクオリティが低いわけではないが、「リボーン」は2回もリメイクしたゲームであるという前提のもとプレイする必要はあるだろう。

バトルは弓が弱く、想像以上に変わった

バトルシステムはマス目のあるマップ上にて、行動順が来たユニットからアクションを決めていくタイプのターン制である。マップに高さの概念があるのが特徴であり、オリジナル版では高所から弓で矢を放つのが強かった。全ユニットに弓を持たせればいいほどの強さだったが、クラスごとに武器が制限されたので、PSP版では弓の存在感は薄くなっていた(強さは健在)。

「リボーン」ではPSP版のシステムを採用しつつも、弓は弱体化された。「リボーン」全体の所感として、それぞれの武器やユニットの役割分担がはっきりした印象がある。弓は前衛ユニットに対してはほとんどダメージが通らず、後衛ユニットを狙撃するのに特化した性能になった。魔法攻撃はどんなユニットにも強いが、MPの管理が難しい。明確な3すくみではないが、ナイトはアーチャーに強く、アーチャーはウィザードに強い、ウィザードの攻撃自体は万能だがアーチャーに狙撃されるといった感じだ。

PSP版からはスキルのシステムが導入され、オリジナル版よりも複雑なシステムになっていた。「リボーン」ではセットできる消耗品、魔法、スキルが4つまでに制限された。PSP版で煩雑になっていたところがよりシンプルになり、こうした部分でもユニットの役割の明確化がなされたのだろう。

杖やハートマークなどのアイコンの「バフカード」がマップ上にランダムで出現する。<br />
杖やハートマークなどのアイコンの「バフカード」がマップ上にランダムで出現する。

バトルでの意外なプレイフィールの変化としては、戦闘中にランダムでマップ上に散らばる「バフカード」の存在が挙げられる。カードはオリジナル版からステータスが恒久的に上がるものが存在したが、「リボーン」ではその戦闘中のみ攻撃力やクリティカル率が上昇するバフカードが追加された。このバフカードは効果を重ねられるようで、取得すると目に見えて強くなる。

バフカードがかなり強いため、敵を待ちながら弓で狙撃するのではなく、アグレッシブに攻めてカードを取りにいかなければならなくなった。バフカードは敵のAIも積極的に取りにいくし、カードを取られると効果が高いため明らかに不利になる。効果がわかりやすい攻撃力アップのカードは絶対に取りたいレベルだが、これのためにユニットが孤立してしまうと集中砲火されるので注意が必要だ。バフカードの存在によって、敵を攻撃するか、カードを取りにいくかといった選択の深みまで生まれている。

また、カードはランダム配置のため運も関わる。運をコントロールしつつ戦うのは昨今のローグライクのようであり、常に頭を使いながら戦う展開になりやすい。カードのシステムは、これまでの「待ち」が強いバランスを修正しつつも新鮮なゲームプレイを提供できている。

攻撃力上昇のバフカードを重ねると、弓で後衛ユニットを一瞬で倒せるようになる。カードを取りやすいため、機動力が高いカノープスはかなり強かった。<br />
攻撃力上昇のバフカードを重ねると、弓で後衛ユニットを一瞬で倒せるようになる。カードを取りやすいため、機動力が高いカノープスはかなり強かった。

「リボーン」でプレイしやすくなった部分については、プレビュー記事に書いたとおりである。キャラのレベリングはユニットごとのものになり、レベリング機能の「演習」が導入された。ポイントは、ストーリー段階ごとのレベルキャップシステム「ユニオンレベル」が導入された点である。ゲームの途中まではレベルキャップまで上げれば簡単になると思っていたが、ストーリーの山場ではレベルキャップよりも敵のレベルのほうが高いケースが多い。

難易度設定が開発者の手のひらの上にあるのは好みが分かれるかもしれないが、筆者にとっては「リボーン」はちょうどいい難易度になっていた。ユニオンレベルの調整が絶妙で、ストーリーの山場ではなんとか突破できるバトル難易度になっている。山場でもバトルが簡単に終わってしまっては感情移入がしにくいが、本作ではそんな場面はなかった。

実際に全滅したのはクリアまでに数回だが、かなり怪しい場面も多かった。全体的に、バトルについては筆者は「タクティクスオウガ」史上最高に熱中できている。PSP版と同様にアンドゥ機能「C.H.A.R.I.O.T.」が使えるので、難しいと感じる人はアンドゥを駆使してのプレイもできるだろう。

出撃前にマップ構造や敵ユニットの配置、編成をチェックできる「偵察」モードも追加。セーブ&ロードで確認する必要がないので、プレイのしやすさが向上した。<br />
出撃前にマップ構造や敵ユニットの配置、編成をチェックできる「偵察」モードも追加。セーブ&ロードで確認する必要がないので、プレイのしやすさが向上した。
編成画面でユニットに使える消費アイテムの「チャーム」も追加に。経験値獲得、属性変更のほか、ステータスを恒久的に上昇させるチャームもある(ステータスのチャームは通常のプレイではほとんど手に入らない)。<br />
編成画面でユニットに使える消費アイテムの「チャーム」も追加に。経験値獲得、属性変更のほか、ステータスを恒久的に上昇させるチャームもある(ステータスのチャームは通常のプレイではほとんど手に入らない)。

バトルシステムの不満点は、PSP版で導入された武器の熟練度システムが残っているぐらいだ。PSP版では違うクラスを試すのが難しいシステムだったのだが、「リボーン」ではレベリングシステムを改善しており、これはクラス変更をやりやすくする意図があると思われる。そのはずなのだが、武器を使い込むことで上がっていく熟練度システムは残っている。クラスは変えやすいものの、使用武器を変えるのは手間がかかるのだ(熟練度のパワーレベリング自体は可能)。筆者はとあるイベント戦闘とラスボスでデニムのクラスを変えなければならなかったが、どうやってもその戦闘ではデニムが弱くなってしまった(これのおかげで、ラスボスで詰みかけた)。

スキルは4つまでセットできるが、そのなかに武器の熟練度のスキルが入っている。<br />
スキルは4つまでセットできるが、そのなかに武器の熟練度のスキルが入っている。

もうひとつ不満があるとするならば、バトルの倍速モードは演出に無理がない範囲でのスピードにとどまっている点だろう。リマスター版ゲームであれば、もっと高速なモードがあってもよかったのではないか。筆者は常に倍速モードでプレイして、クリアまでにすこし寄り道もした。それでもPSP版と比較してクリア時間は短縮できたが、短縮できたのは数時間ぐらいなのではないだろうか。できればアップデートでもっと高速なモードに対応してほしい。

そのほかにも味方AIについては改善されてはいるが、敵ユニットの各個撃破を狙ってくれないことが多く、ダメージが出ない杖で殴るなどの不満があった。AIはダンジョン攻略などで便利ではあるが、筆者はストーリー上の戦闘ではほぼ使っていない。回復役をAIにすることがあったくらいだ。細かいが、演習用にAIがアイテムを使わない設定もほしいと思ってしまった。

この形式のリメイクとしては、ほぼ理想的

「リボーン」について振り返ってみると、グラフィックに関しての不満があるため、フルリメイク版が見たかったというのが本音である。だが、先述したファミ通のインタビューによると、本作の監修を務める松野泰己が「グラフィックを含めてフルリメイクできたらよかったかもしれませんが、それなら新作の製作を選んだはず」と発言している。

その発言を考慮すると、「リボーン」はこの形式のリメイクとしては、ほぼ理想的なものになったと筆者は評価する。細かい不満点はあっても、それほど熱中してプレイできたのだ。「リボーン」がオリジナル版と同じように語り継がれていくかはユーザー全体の評価によるだろうが、すくなくとも私は10年後になってもまた「リボーン」で遊んだことを思い出しているはずだ。松野の発言どおり、今後の新作にも期待したいと思わせられるリメイクだった。

「リボーン」ではカチュアのシーンが印象深い。カチュアのシーンでは新規BGMが追加された。<br />
「リボーン」ではカチュアのシーンが印象深い。カチュアのシーンでは新規BGMが追加された。

長所

  • 民族紛争や人間愛をテーマにした、今でもたのしめる群像劇なストーリー
  • キャラの成長や感情、存在感まで伝わる新規収録ボイス
  • オーケストラ演奏で再収録されたBGM
  • 「タクティクスオウガ」史上最高に熱中できたバトルシステム

短所

  • ドット絵の魅力がやや薄れた高解像度化グラフィック
  • 熟練度システムが残っているなど、バトルの細かい不満点

総評

「リボーン」の名にふさわしい、「タクティクスオウガ」のほぼ理想的なリメイク版。グラフィックは高解像度化されたのみで、視覚面のクオリティは最高とは言えない。バトルは熟練度システムが残っているなどの不満はあるが、「タクティクスオウガ」史上最高に熱中できた。ボイスや新規収録BGMによって人間愛を描く群像劇としての魅力が上がったストーリーは、2022年の今でもたのしめる。

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『タクティクスオウガ リボーン』レビュー 「リボーン」の名にふさわしい「タクティクスオウガ」のほぼ理想的なリメイク版

9
Amazing
『タクティクスオウガ リボーン』はPSP版をベースに、ほぼ理想的なリメイク版となった。グラフィックは最高品質とは言えないが、バトルやストーリーは既存ファンも新規ファンも満足させるだろう。
タクティクスオウガ リボーン
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