嘘みたいだろ、きっと38歳なんだぜ――『Travis Strikes Again: No More Heroes』が描くトラヴィスの悲哀

重くのしかかる加齢

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トラヴィス・タッチダウンを初めて見たのが2007年のWiiにてリリースされた『NO MORE HEROES』である。当時27歳、人生に取り返しが付くかどうかを気づき始める時期である。

特に社会的な立場もないし退職金もないし面倒な税金申告支払いも会社や事務所がやっておいてくれているわけではない個人事業主かつ殺し屋という謎の職業で、しかもその職業だけでは食べていけなくてサソリを捕まえるバイトもして暮らしていた人間がある日から音沙汰がなくなる。殺し屋という自由業は世間からすれば無職と同じだ。職業が職業で生活も知っていればいずれそうなるだろうとは思っていたが、それから8年近くも行方が知れなかったのに、突如として戻ってきた。

どうやらGDC 2018でその姿は見つかっていたらしく、国内にいる自分にはその話を遠くからうかがい知るくらいだったのだが5月12日の京都、みやこめっせで開催されているBitSummit Volume 6で再会することになった。

何より驚くのが8年前から歳を取ったようには見えないことだ。最後に見たのは前作から3年後、2010年リリースの『NO MORE HEROES 2 DESPERATE STRUGGLE』では現実と同じ時間で年を取り、30代になったばかりだったか。

考えてみたらいま38歳じゃないか? しかしこんなこと書くのは野暮かもしれない。ゲームキャラに歳を聞くか? 最近ビデオゲームのいろんな方面で流行なメタフィクション気分か? どきどき文学部気分か? 第四の壁気分か? マリオやパックマンが永遠の生命を得ているのに野暮な話題かもしれないが、久しぶりに戻ってきたトラヴィス(たぶん)38歳には別種のリアリティがあった。

いまどきのサブカルチャーでもオタクカルチャーでもそれどころか格闘技でもプロレスのように「職業が職業で生活も知っていればいずれそうなるだろう」主要な人間が40代から50代になっているというのに30代前半くらいからまったく歳を取っていないように見えることが少なくない。

90年代から活躍する著名男性アイドルが30代後半や40代に差し掛かってもいまだに20代後半の時のイメージを保ち続けていたり、MMA(総合格闘技)の五味隆典が今年で40代を迎えながらも、27歳の時にPRIDEでチャンピオンになったときのようなイメージを保ち続けているのに似ている。しかし歳を取るに伴い、見た目は変わらずとも見えない部分の加齢がある。実際にやることが極限までシンプルになるのである。

『Travis Strikes Again: No More Heroes』では10年前のWiiで始まったスラッシュアクションから、一見シンプルになったデザインである。コンボ攻撃はもちろんあるものの、基本はAボタンを押しっぱなしでビームカタナを振り回すオート攻撃でその手触りは、むしろ初代が暗に示していた「ビデオゲーム的な」プリミティブなアクションを拡張している。昔は上段や下段の構えもあった。しかし、トラヴィスの加齢によってやることの基本はシンプルになっている。

俯瞰視点で大量の敵がわらわらと湧いてくるのを一掃していくゲームプレイは、近年で言うなら『RUINER』での近接攻撃メインのゲームプレイを思い出したりもするし、敵の攻撃を遮るシールドやブラックホールのような技で集団を圧倒するような、クールダウン式のさまざまなスキルシステムはハック&スラッシュみたいだと思う部分もある。

2Pで操作するバッドマン。スキルはトラヴィスとは別の能力を持つ。画像は公式トレーラーより。

今作ならではの新しいフィーチャーとして2Pモードの協力ゲームプレイがある。しかしこのとき、トラヴィスの相棒は『NO MORE HEROES』で殺した相手の父親だ。すなわち、仇と見られている相手となし崩し的に協力しなければならなくなっている。

しかし禁じられた協力関係というよりも、38歳になった彼のとなりにいるのが過去に美女のシルヴィアや女子高校性剣士のシノブといった華やかな女性の連れではなくマスクマンのおっさんという現実がまた、目に見えない加齢を感じさせずにはいられない。

ステージを進めると突然ラーメン屋で体力回復。

あのとき手に入っていたかもしれないそれはずっと手の中にあるということではないのだろうか。2Pモードではトラヴィスとバッドマンが協力して放つ超必殺技があり、あまりにも強力かつカッコいいのだが、同時に寂寥感もある。かつてヘンリーやシノブのようなトラヴィスの相棒に近い人間がいたのだが、ついに同じステージで協力して闘うゲームプレイはなかったのだ。

それが唐突に現れたブラッドスポーツご意見番のオーラを持つマスクおじさんバッドマンと完璧な連携をし(というか、筆者とともに試遊した方が非常に上手だった)、一緒の席で並んでラーメンを食べているシーンは、今後人間関係が構築されるときはこういう感じの人物が人生に追加されていくのが確約されるかのような苦く、しかし穏やかなものである。

8年前の『NO MORE HEROES 2 DESPERATE STRUGGLE』のあのときはシノブがいてシルヴィアがいて、しかも三つ編みの眼鏡の殺し屋キミー・ハウエルにも告白されるようなモテキを送っていたのに、あのハーレムアニメみたいな思い出はすべて夢だったのか。なぜ今自分の隣にいるのが自分を殺そうとしながら協力しているマスクおじさんで、しかもなぜそれが悪くないのか。シンプルでプリミティブなおもしろさのある協力ゲームプレイ。しかし、そこには40代を前にしたトラヴィスのリアルがある。

筆者は今回のゲームデザインについて、今回10年ぶりにディレクターに復帰した須田剛一に現地でインタビューを行った。その内容は後日公開予定だ。

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Travis Strikes Again: No More Heroes

Grasshopper Manufacture | 2019年1月18日
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