コラム:東芝、半導体売却先に日米韓連合を選んだ理由

コラム:東芝、半導体売却先に日米韓連合を選んだ理由
 6月21日、東芝<6502.T>が、半導体事業を自分たちの「味方」の手にとどめておきたいと考えるには十分な理由がある。都内で2月14日撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)
Quentin Webb
[香港 21日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 東芝<6502.T>が、半導体事業を自分たちの「味方」の手にとどめておきたいと考えるには十分な理由がある。同社は21日、半導体子会社「東芝メモリ」の売却で、日米韓連合を優先交渉先に選んだ。同連合は産業革新機構と日本政策投資銀行、米プライベートエクイティ(PE)ファンドのベイン・キャピタルなどで構成されている。売却先候補だった多くの外国勢が除外された点を踏まえると、この2兆円のディールの背後で日本政府の手が動いた気配が感じられる。ただ東芝の選択は理解できる。
東芝メモリを巡る一連の動きは、同じく経営危機に陥ったシャープ<6753.T>とは好対照だ。昨年のシャープの買収合戦では、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業<2317.TW>が勝利した。しかし日本政府が東芝と子会社の命運を同じように市場原理にゆだねるかもしれないとの見方は間違いだった。東芝の企業規模や原子力事業を手掛けている点からすると、政治的な重要度はシャープよりも高いということだ。
一部報道では、日米韓連合のお膳立てをしたのは経済産業省とされる。その結果、東芝はみすみすもっと好条件の提案を受け入れる機会を逃したかもしれない。というのもロイターによると、対抗馬だった米半導体大手ブロードコムとPEファンド、シルバーレイクの連合は2兆2000億円を提示していた。
東芝としても難しい選択を迫られていた。来年3月までに取引を終えないと、債務超過が解消できずに自動的に上場廃止となり、株主にとって暗い事態を招いてしまう。だから東芝メモリ売却ではスピードと確実性が大事になる。この点で他の半導体メーカーが絡むと、独占禁止法の審査がずっと厳しくなり、取引完了までより長い時間がかかる可能性が出てくる。だからこそ韓国のSKハイニックス<000660.KS>が出資ではなく与信の形で参加するのかもしれない。
また日米韓連合以外の相手では、日本政府から横やりが入っただろう。ブロードコムの場合はコスト削減を進めることで有名な点が問題だった。一方、ホンハイは中国における事業の比率が高く、日本の安全保障上、東芝メモリ売却は難しい。逆にベインのような投資会社に持ち分の一部を売ることで、東芝は将来経営権を買い戻す余地が残されている。
大きな不確定要素として依然存在するのは、フラッシュメモリー生産の合弁相手ながら仲たがいした米ウエスタン・デジタル(WD)だ。WDは合弁契約の下では、同社の合意なく東芝がメモリー事業の権益を第三者に手渡すことは禁じられていると主張し、東芝メモリ売却差し止めを米裁判所に申し立てた。東芝はこの問題への対応を迫られている。それも一刻も早くーー。
●背景となるニュース
*東芝は21日、半導体子会社「東芝メモリ」の売却で日米韓連合を優先交渉先に選んだと発表した。同連合を構成するのは米PEファンドのベイン・キャピタルと、産業革新機構、日本政策投資銀行、韓国半導体大手SKハイニックスで、ロイターによるとSKハイニックスと三菱東京UFJ銀行が買収資金を融資する協議が行われている。
*東芝の広報担当者はロイターに、買収額は約2兆円だと語った。以前のロイターの報道では、米半導体メーカーのブロードコムとPEファンドのシルバーレイクの連合は2兆2000億円を提示していた。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業もアップルやデルの支援を受けて買収意欲を見せていた。
*東芝は、日米韓連合の提案は金額だけでなく従業員の雇用維持や先端技術を日本国内にとどめるという面で最良だったと説明した。同社は28日の株主総会までの最終合意と、来年3月までの取引完了を目指すとしている。
*ウエスタン・デジタル(WD)は米国の裁判所に東芝メモリ売却差し止めを求める訴訟を起こした。東芝とWDは、NAND型フラッシュメモリーを合弁で生産している。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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