コラム:日銀会合後は円高か円安か、鍵握る植田総裁会見のポイントを探る=山田修輔氏

コラム:日銀会合後は円高か円安か、鍵握る植田総裁会見のポイントを探る=山田修輔氏
構造的な対外投資が日本円に下落圧力をかけるなか、今年は日米金融政策の収れんによりドル/円も調整する、というのがコンセンサスとなっている。山田修輔氏のコラム。写真は2023年3月撮影(2024年 ロイター/Dado Ruvic)
[15日 ロイター] - 構造的な対外投資が日本円に下落圧力をかけるなか、今年は日米金融政策の収れんによりドル/円も調整する、というのがコンセンサスとなっている。
3月日銀金融政策決定会合を前に、為替市場は日銀の政策に焦点を合わせている。3月会合で日銀が動くのか4月会合か、という細かい議論はあるが、どちらにせよ日銀の回答期限が迫っている。円相場の観点から、3月会合の注目点を考えたい。
まず、マイナス金利撤廃の織り込みが進んでおり、もし、来週の会合で撤廃が決定されても、サプライズとはならない。
長期金利に対するアプローチとしては、日銀が長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)を撤廃し、先行きの国債買い入れ規模をあらかじめ示す、新たな量的金融政策の枠組みを検討している、と報じられている。
具体的には、当面買い入れ額について現行の月間6兆円弱の規模を軸に調整されている、という。「YCC撤廃」というとタカ派な印象があるが、果たして為替は円高に向かうだろうか。
<長期金利上昇を抑える日銀の国債買い入れ>
現状を整理したい。日銀の政策にはYCCと量の政策が混在している。日銀はYCCの枠組みの中で「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買い入れを行う」とする一方、「長期金利の上限は 1.0%をめど」として設けている。
現在、10年国債金利は0.8%を下回っているため、金利が多少上がっても、日銀はYCC防衛に動いてこないだろう。
では、なぜ金利は上昇していないのか。無論、昨年と違い海外中央銀行の政策バイアスが利下げに傾き始めているのは大きな要因だ。
それとともに国債金利上昇を抑制しているのは、日銀による国債買い入れだ。日銀は2022年後半を中心にYCC防衛のために膨らんだ国債買い入れを徐々に減らしてきているが、足元でも月額5.9兆円の国債を買い入れており、財務省による国債発行額の5割弱に上る。
そして、ここからの国債買い入れの大幅な減額は難しくなっている。なぜかと言えば、日銀が保有する国債が償還されるペースは足元で月額6兆円程度であり、日銀が買い入れを大きく減らすと日銀の国債保有残高が減少する事態となる。
これは、日銀声明文に記されている「マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する」というオーバーシュート型コミットメントに反する方向だ。要するに、量の政策が、ここからの国債買い入れ減額の余地を限定し、金利上昇を阻んでいる。
報じられている政策の方向性は、量の政策への一本化だ。もし、日銀が月額6兆円を買い続けるのであれば、現状と大きく変わらず、金利上昇は限定される蓋然性が高い。そうすると、円高調整も進まないだろう。
むしろYCCを残して、量の縛りを破棄した方が、国債減額が進み、長期金利が上昇し、円高調整が進みやすい。
ただ、これは今の相場環境だから言えることで、過去2年間のように米金利が急上昇する局面では、YCC防衛のために国債買い入れが膨らみ、円安を助長するリスクがあるため、日銀がYCCから量の政策に移行する事に違和感はない。
<ポイントは国債買入の量と利上げペース>
したがって日銀が報じられている通り、YCCを撤廃し、月間の国債買い入れ額を明示する政策に移行した場合、注目点は2つある。
まず、どの程度の期間にわたって現行の国債買い入れ規模(6兆円程度)を継続し、いつ量的縮小(QT)に入るかである。そして、マイナス金利撤廃後の利上げスピードが2つ目のポイントになる。
前者に関しては、オーバーシュート型コミットメントも、マイナス金利撤廃とともに終了する可能性があるので、日銀の国債買い入れ額が保有国債の償還額を下回る事を阻む壁はないが、ここからの大幅国債買い入れ減額=QTというシグナル効果にも配慮すると、ハードルは低くない。
来週、報じられている通りに日銀がマイナス金利、YCC、オーバーシュート型コミットメントを撤廃・終了し、国債買い入れ規模を明示する政策に移行した場合、植田和男総裁が会合後の記者会見で将来的なQTや追加利上げについて踏み込んだ発言をすれば、ドル/円は145円を割り込んで円高調整が進む可能性がある。
しかし、記者会見でのメッセージがハト派で、追加利上げや国債買い入れ減額が当面行われないと市場に解釈されると、円安が進む可能性がある。そうなると、財務省による為替介入が再度市場の焦点となり得る。
日銀が政策変更を見送った場合、4月会合まで回答は持ち越しとなるが、市場は見送り自体をハト派と断じるリスクがあり、円買いの巻き戻しで円安に振れていく展開が予想される。
編集:田巻一彦
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*山田修輔氏はBofA証券の主席日本FX金利ストラテジスト。2022年のInstitutional Investors 誌のグローバル債券アナリストランキングの日本為替及び金利部門で首位。米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事し、2013年より現職。2005年マサチューセッツ工科大学(MIT)学士課程卒、2008年スタンフォード大学修士課程卒。CFA協会認定証券アナリスト。
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