レビュー

「Xperia Ace III」レビュー、3万円台の格安Xperiaの実力は?

2022年6月10日に、NTTドコモ、au、ワイモバイルの各ブランドから発売された「Xperia Ace III(エクスペリア・エース・マークスリー)」は、価格重視の異色Xperiaだ。低価格機という制約の中でもこだわりを見せた部分や、逆に見送られた部分などを解説する。

制約の多い低価格機ながら、「Xperia Ace III」がこだわった点に迫ろう

制約の多い低価格機ながら、「Xperia Ace III」がこだわった点に迫ろう

※本記事中の価格はいずれも税込で統一している。

格安スマホ「Xperia Ace II」の後継機。コンセプトは継承するが価格は上昇

ソニーのXperiaシリーズは、国内ではAndroidスマートフォンの草分け的存在で、人気も高い。近ごろは、映像、サウンド、カメラといったソニーの強みを生かした「Xperia 1」や「Xperia 5」シリーズが好評だ。今回取り上げる「Xperia Ace III」は、そうした、高性能路線とはかなりおもむきの異なるエントリー向けシリーズとなっている。

前モデル「Xperia Ace II」は、NTTドコモ専売の2021年夏モデルとして登場した。当初はあまり注目されていなかったが、22,000円という価格もあり、エントリーモデルとしてはかなりの台数が売れたと言われている。後継機となる「Xperia Ace III」は、エントリーモデルであることは変わらないが、5G対応や、基本性能の向上、強固な強化ガラスを使うなど、高性能化している。その結果、NTTドコモ版「SO-53C」は34,408円、au版「SOG08」が33,415 円、ワイモバイル版が31,680円となっており、NTTドコモ版の前モデルと比較すると1万円以上値上がりした。

ボディサイズは、約69(幅)×140(高さ)×8.9(厚さ)mmで、重量は約162gだ。2022年に発売されるAndroidスマートフォンとしては、かなり小さく軽い。このボディは、IPX5/8等級の防水仕様、IP6X等級の防塵仕様に対応するほか、FeliCaポートを備え、おサイフケータイも利用できる。ディスプレイは1,496×720のHD+表示に対応する約5.5インチの液晶だ。このディスプレイは60Hz駆動にとどまっているほかHDRにも対応しておらず、ごく一般的な性能と言える。(2022年6月20日訂正:ディスプレイの短辺の解像度が1080と記載していましたが、正しくは720となります。以上、訂正しお詫びいたします)

ただし、ディスプレイの保護ガラスに、「Corning Gorilla Glass Victus」が使われる点に注目だ。この保護ガラスは、2020年に登場した比較的世代の新しいもので、高さ2mからの落下に耐える耐衝撃性能と、コインや鍵といった金属によるキズへの耐久性が高められている。ただし、高価でもあり、採用するのはハイエンドモデルばかりで、本機のようなエントリーモデルでの採用例はまれだ。

少しずんぐりとしたシルエットは、「Xperia Ace II」と共通のモチーフだ

少しずんぐりとしたシルエットは、「Xperia Ace II」と共通のモチーフだ

フロントカメラを収めるノッチ(切り欠き)を備える液晶ディスプレイも、「Xperia Ace II」と共通

フロントカメラを収めるノッチ(切り欠き)を備える液晶ディスプレイも、「Xperia Ace II」と共通

樹脂製の背面は、表目に深めのシボ加工が施されており、滑りにくくなっている

樹脂製の背面は、表目に深めのシボ加工が施されており、滑りにくくなっている

ボディ下面にはスピーカーとUSB Type-Cポートを配置する

ボディ下面にはスピーカーとUSB Type-Cポートを配置する

ボディ正面にヘッドホン端子を配置する

ボディ正面にヘッドホン端子を配置する

右側面にボリュームと指紋認証センサー一体の電源ボタンを配置。電源ボタンはボディの色と揃えられていない

右側面にボリュームと指紋認証センサー一体の電源ボタンを配置。電源ボタンはボディの色と揃えられていない

手にした印象だが、マット処理された背面は「Xperia Ace II」と同じ樹脂製のままだが、質感は改善されている。約5.5インチのディスプレイは、昨今のAndroidスマートフォンとしてはかなり小さい。なお、最大輝度がやや暗めで、明るい場所での視認性は今ひとつだ。サウンド機能だが、ヘッドホン端子は搭載しているものの、スピーカーはモノラル出力で、「Dolby Atom」や、ソニー独自の「DSEE」といったサウンドエンハンサーも搭載されていない。本機は、映像やサウンドの品質よりも、「Corning Gorilla Glass Victus」を採用することに象徴される耐久性、そして持ちやすさに注力されていると言えるだろう。

右が本機、左が「Xperia 1」。画面の長辺はかなり違うが、横幅についてはあまり違いがない

右が本機、左が「Xperia 1」。画面の長辺はかなり違うが、横幅についてはあまり違いがない

アイコンや文字を大きく表示する「かんたんホーム」への切り替えは、ホーム画面上にあるアイコンをタッチするだけで行える

アイコンや文字を大きく表示する「かんたんホーム」への切り替えは、ホーム画面上にあるアイコンをタッチするだけで行える

5G対応。処理性能、グラフィック性能も大幅に向上し、さまざまな用途で楽しめる

「Xperia Ace II」は5G非対応だったが、本機はSub-6帯を使った5G対応となっており、通信速度が向上している。なお、本機はいずれの販路のモデルでも、SIMロックのかかっていないSIMフリーの状態で発売されている。また、au版とワイモバイル版については、nanoSIMカードに加えてeSIMにも対応しており、デュアルSIM機として運用できる。

SoCは、「Snapdragon 480 5G」で、4GBのメモリーと64GBのストレージ、最大1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせる。OSはAndroid 12だ。

「Snapdragon 480」は、2021年頃に登場した低価格5Gスマートフォンで多く採用されていたものだが、エントリー向けSoCが苦手としていたグラフィック性能が強化されているのが特徴だ。定番のベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク」(グラフィック性能の計測にはAnTuTu 3D Liteを使用)の結果は、総合スコア298,637(内訳、CPU:98,786、GPU:65,873、MEM:62,741、UX:71,237)だった。なお、価格.comマガジンが以前計測した、同アプリによる「Xperia Ace II」のスコアは、113,765(内訳、CPU:33,252、GPU;17,512、MEM:28,334、UX:34,667)だった。これと比較すると、本機のスコアは3倍近く向上している。

本機の体感速度は価格相応で、特別にスムーズというわけではないが、グラフィック性能は大幅に向上しており、前モデルのように、ゲームアプリが重すぎる、ということはない。スマートフォンをもう少し楽しみたい、という要望も本機ならかなえられるだろう。

AnTuTuベンチマークの計測結果。左が本機「Xperia Ace III」のもの、右は前モデル「Xperia Ace II」のものだ。総合スコアで3倍近い伸びとなっている

AnTuTuベンチマークの計測結果。左が本機「Xperia Ace III」のもの、右は前モデル「Xperia Ace II」のものだ。総合スコアで3倍近い伸びとなっている

メインカメラはシングルカメラ、深度センサーは非搭載だが扱いやすくなった

メインカメラは約1,300万画素のシングルカメラだ。「Xperia Ace II」で搭載されていた深度センサーは搭載されない。

メインカメラはシングルカメラになった

メインカメラはシングルカメラになった

メインカメラを使った静止画の作例を掲載する。いずれも初期設定のまま、オートモードでカメラ任せの撮影を行っている。

曇り空のビル街を撮影。明暗差の少ないカメラに負担のかかりにくい構図ということもあり、階調の破綻は見られない。Xperiaシリーズの特徴である、肉眼の印象に近い自然な仕上がりとなっている

曇り空のビル街を撮影。明暗差の少ないカメラに負担のかかりにくい構図ということもあり、階調の破綻は見られない。Xperiaシリーズの特徴である、肉眼の印象に近い自然な仕上がりとなっている
撮影写真(4,160×3,120、4.91MB)

窓越しに景色を撮影。オートHDRに対応したことで、こうした明暗差のある構図でも、カメラ任せで破綻のない撮影ができるようになった

窓越しに景色を撮影。オートHDRに対応したことで、こうした明暗差のある構図でも、カメラ任せで破綻のない撮影ができるようになった
撮影写真(4,160×3,120、4.01MB)

空中庭園の植栽。こちらも肉眼の印象に近い発色だ

空中庭園の植栽。こちらも肉眼の印象に近い発色だ
撮影写真(4,160×3,120、5.22MB)

明るめの夜景を撮影。前モデルよりはよくなったが高感度撮影の性能はあまり高くないようで、鮮やかとは言えず暗部のノイズも目立つ

明るめの夜景を撮影。前モデルよりはよくなったが高感度撮影の性能はあまり高くないようで、鮮やかとは言えず暗部のノイズも目立つ
影写真(4,160×3,120、5.48MB)

暗めの店内で料理を撮影。明るさは確保されている。ホワイトバランスがやや不安定な部分があり、暗めの構図では多めに撮影したほうがよさそうだ
撮影写真(4,160×3,120、4.73MB)

メインカメラは、広角カメラのみのシングルカメラとなっており、スペック的にはミニマムなものと言える。その影響で、背景をぼかした撮影が行えなくなっている。そのいっぽうで、オートHDRに対応したため、カメラ任せの撮影がより容易になっている点には注目したい。加えて、「Xperia Ace II」で見られた感度性能の不足もいくらか改善されているのも、撮影の敷居を下げている。スペックよりも扱いやすさを重視しているカメラと言えるだろう。

4日は持続するバッテリー。30W以上対応の充電器を用意したい

本機は4,500mAhのバッテリーを内蔵する。バッテリー持ちに関するカタログスペックを見ると、連続待受け時間(4G)は約610時間、連続通話時間(AMR-WB)は約1,780分となっている。「Xperia Ace II」では連続待受け時間(4G)が約810時間、連続通話時間(AMR-WB)は約1,670分なので、一長一短あるが、バッテリー持ちは悪いほうではない。。充電に関しては、30W以上の出力に対応するUSB PD対応充電器を使用することで、約145分でバッテリーゼロの状態からフル充電が可能だ。充電器を選ぶ場合、30W以上のUSB PDに対応しているものを選ぶのがひとつの基準となる。

電池持ちはかなり優秀で、待受け主体ならフル充電で4日以上のバッテリー持ちも期待できる。エントリーモデルでは軽視されやすい充電性能も比較的高い。こうした点から、ユーザーが必要とする機能を十分考えたうえで搭載していることが読み取れる。

キズや衝撃に強い、長く使えるエントリーモデル

本機を語るうえで、見逃せないのが価格だろう。圧倒的に安かった前モデル「Xperia Ace II」よりも1万円以上も値上がりした。5G対応や処理性能の向上などを果たしているが、安さを優先するのであれば、シャープ「AQUOS wish」および「AQUOS wish2」、FCNT「arrows We」、サムスン「Galaxy A22」など2万円台前半の製品群を選ぶほうがよい。

本機の強みは、「Corning Gorilla Glass Victus」を使ったディスプレイの耐久性、そして、シングルカメラだが比較的しっかり写るカメラ、良好な電池持ちもといった、実用本位の機能性だろう。特にディスプレイの耐久性が高く、長く使えるモデルと言える。ミニマムな性能だった「Xperia Ace II」に物足りなさを感じている場合の乗り換えとしてもよい選択になりそうだ。

注意点としては、ディスプレイやサウンドなど、ほかのXperiaシリーズに期待する性能にはさほど注力していないことだ。そうした部分にこだわりがあるなら、割高にはなるが「Xperia 1」シリーズや「Xperia 5」シリーズ、あるいは「Xperia 10」シリーズの新モデルや、値下げされたそれらの旧モデルを選ぶほうがよいだろう。

田中 巧(編集部)
Writer / Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよびその周辺機器には特に注力しており、対象となる端末はほぼすべて何らかの形で使用している。
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